追放者酒場③
「おっ酒〜おっ酒〜♪今日はたっくさ〜んおっ酒が呑っめるぞ〜♪」
楽器の音色のように美しい声なのに、壊れたかのように音程の外れまくったシスターの歌声が店内に響く。
それがいつもの風景なのか、周囲ではそれに合わせて何度目かわからない乾杯をしている。
その内の数人が俺を見て頑張れよ兄ちゃんとか、兄ちゃんが勝つに掛けたぜ。
などと声をかけてきた。
「酒を飲むのに何の勝負をするってんだ」
「ねぇねぇお兄さん。初めまして、僕はグリーよろしくね。ご注文は何にする?」
そう話しかけてきたのは給仕服を着た少女のような少年のような子供。
髪は黒くショートカットで前髪は目が隠れそうなくらいに長く、肌は透き通るように白くてとても華奢な体付きをしている。
その手に持ったお盆には四人分のグラスが乗っていた。
「あっ、よろしく。ところでみんなが言ってる勝負ってのはなんだ?俺は本気でわかんないんだけど。一体何の勝負の賭けの対象になってるんだ」
「だってお兄さん、このえっちなシスターと飲めるからお酒を奢る約束したんでしょ。男の人が女の人にお酒を奢るといえば、やっぱりえっちな目的で来てると思うんだけど違った?」
えっちなシスターとはこれまた酷い言われようだ。
まあ真実だが。
それはさておき、別にそういう目的で付いてきたわけではないことを念の為説明しておく。
「いや、俺は別にそういうつもりじゃないけど。ちょうど汗をかいて喉が渇いてたからお酒でも貰おうかなってここに来ただけで」
「ふーん。そういうことにしておいてもいいけどぉ……。あっ、それじゃあいいこと教えあげよっか。このお姉さん、もし酔い潰せたらお持ち帰りできるよ。って言ったらどうする?」
下からぐいっと給仕の子の顔が近付く。
まつ毛が長くて、それにちょっと甘い匂いがしてドキっとした。
いややっぱり男の子ではなく女の子かもしれない。
「おい、グリー!早くお酒をくれ!指先の震えが止まらないぞ」
「もう手遅れだよこのアル中シスター。僕、こんな大人にはなりたくないなー。本当にこの人でいいの?」
一人称が僕ってことは男の子?
でも自分を僕って呼ぶ女の子の知り合いもいるから何ともいえない。
でもそれを聞くのも失礼な気がして躊躇った。
まじまじと顔を見つめていたら、不審そうな顔で見つめ返されたので慌てて質問の答えを返すことにした。
「……おう!正直言って、こんだけ美人と呑めるならそれだけで十分だ!」
そう言ってグリーと呼ばれた子のグラスをお盆から受け取り、一気に傾けて酒を流し込む。
それに呼応するように、シスターとドワーフ二人もグラスを持ってそれを飲み干した。
「カーッ!いい飲みっぷりじゃねぇか兄ちゃん」
「俺らも負けてらんねえな。おかわりだぜ、ちっこいの」
「ちっこいのっていうのやめてよねー。グリー君、もしくはグリーちゃんって呼んでよね」
やっぱりどっちかわからない。
男の子なのか、女の子なのか。
見た感じは男の子よりのような気はするが、言動は女の子っぽい気もする。
またしてもまじまじと見つめていたのがわかったのか、今度はこっちを見ると口元に手を当てて悪戯っぽくクスッと笑う。
「お兄さん。おかわりは?」
「も、貰うよ、おんなじのを」
「シスター・アンジェリーナは……って聞くまでもないか」
口元を泡だらけにしてご満悦のシスターは、グラスを持った手を高く掲げて言う。
「ぷはーっ!!同じのをくれ、二杯だ!」
やれやれと苦笑いしているグリーと目が合って二人して呆れたように笑う。
こんな風に酒を飲むのは初めてだ。
なんというかいつも飲む時はそこまで酔わなかったし、意識が高いせいで節制も心掛けていた。
アークとヒーリアなんかは乾杯の一杯だけしか付き合ってくれないし。
エリオラに関しては酒を一切飲まなかった。
だから今日は凄く楽しい。
凄く凄く楽しい。
凄く凄く凄く楽しい。
名前:グリー・クロノワール
年齢:14歳
種族:不明
性別:不明
職業:給仕
LV.58
体力:1000
魔力:9000
攻撃:5000
防御:1000
敏捷:5000
ユニークスキル"全体化"
発動した魔法の効果を敵味方問わず全体に効果を及ぼす
通常より非常に多くの魔力を消費する