追放者酒場①
気が付いた時には会議室から飛び出していた。
パーティー名の由来にもなった祝福をもたらすアークのようなユニークスキルも、いるだけでパーティーに恩恵をもたらすヒーリアのようなユニークスキルも、あらゆる魔法を最短で取得し扱えるエリオラのようなユニークスキルもない。
使えないどころか邪魔なだけのユニークスキルの俺は、身体を鍛え鎧を着込み最も危険な前衛で身体を張るだけ。
しかしそれすら満足に出来ず足を引っ張っていた。
嗚呼、そんなことはとっくの昔から知っていたさ。
そうだ、全部知っていて俺はここまで冒険を続けてきたのだ。
でも気付かないふりを知らないふりを続けてきたのは、幼馴染に置いていかれたくないという俺の我儘。
完全なるエゴである。
そんな子供みたいなことを今までずっと続けていたんだから、エリオラがあそこまで言うのは仕方がない。
もう大人になる時が来たということだ。
後から入ってきたエリオラに対して俺に足手纏いと言わないように注意していたアークの心遣いが余計に心に刺さる。
惨めだ、惨めだ、惨めだ。
悔しい、悔しい、悔しい。
途中でギルドマスターのジンさんとすれ違う。
何やら大声で呼び止めるような言葉を言っていた気がするが、もうその声も耳に入らない。
ギルドの扉を吹き飛ばす勢いで開け放って飛び出した。
大きな音で振り返った周囲の視線を背中に感じながら走り去る。
今はとにかく遠くへ行きたい。
そう思って行く宛もなく走り続けた。
一年で最も暑い季節の真っ昼間から走って滝のように流れる汗をかく。
頭はぼやけ喉がカラカラになり次第に息も切れ始めた。
「はぁはぁはぁ。所詮はこの程度の体力だよ俺は。弱過ぎるよ。だから俺は……冒険者をやめる、やめてやるさこんなもん!どうせこのままいけば死んでたさ。今やめるのがちょうどよかった。そういうことなんだろアーク。くそっくそっくそっ!くそがぁああああ!!!」
人気のない路地裏で叫んだ。
こんな時でさえ俺は人目を気にしてこんな路地裏で叫んでいる。
一人でダンジョンに突っ込んで最後に大暴れでもしてやればいいのに、ギルドを出て走り出したのはダンジョンとは真逆の方向。
ダンジョンに一人で行くのは危険だから絶対にダメという、新人の頃に言われた教えを今も律儀に守るなんて馬鹿馬鹿しい。
「やっぱり今から行くかダンジョン。どうせならあそこで死んでやろうか……なーんて、意味のない事してどうすんだ。バカだな俺は……」
自暴自棄になろうにも理性の枷が邪魔をする。
命を粗末にしてはいけないなんて当たり前のこと。
結局はそういう奴はAランク止まりだ、上に行く奴はもっと頭のネジが外れている。
ダンジョンの戦いの中でまともでは無くなったやつだけがSランクに辿り着けるのだ。
「あらあらあらぁ、どうしたのお兄さんこんなところでぇ。一人でお酒呑むつもり?」
路地裏のさらに奥の暗がりから女性の声がした。
顔は見えないが随分色気のある、男を惑わせるような声である。
声がする方を凝視するとそこはボロい建物で、どうやら酒場だったようだ。
「え?いや俺は別に」
「そうなのぉ?せっかくだから一緒に飲みたかったわぁ」
屋根の日陰から出てきた修道服女性を見て息を呑む。
美しい金髪をたなびかせる豊満なボディの持ち主が声の主だったからだ。
本来地味であるはずの修道服も、彼女にかかればいかがわしいものに早変わり。
「そ、そうだな。一杯だけ飲もうかな。ちょうどたくさん走って喉も渇いたし」
炎天下に鎧を着けたまま走って滝のような汗をかいている。
キンキンに冷えたビールを一気に飲み干したら……。
そんなことを考えただけで自然と喉が鳴っていた。
「あら、青春ねぇ。それじゃあ行きましょ!私ここツケが溜まってるから一人じゃ入れないの」
「はい!……はいぃ?」
どうやら雲行きが怪しくなったと思いながらも、これだけの美人の誘いを断るわけにはいかないと最後の言葉は聞かなかったことにする。
どうせ明日からダンジョンには行かないわけだし、多少の不摂生くらいしてもいいよな。
そんな言葉を自分に投げかけ、半年ぶりぐらいの酒を煽ることを決めた。
そこからの修道女の動きは早かった。
およそ妖艶さとは程遠い鋭いターンである。
くるっとターンすると、俺がギルドから出てきたや時より勢いよくバーンと扉を開け放ち。
大股で一歩、酒場の敷居を跨いで指を二本立てて奥へと向かって突き出した。
「ママ!とりあえず生二つ!」
名前:シスター・アンジェリーナ
年齢:24
種族:妖狐族
性別:女
職業:シスター
LV.28
体力:850
魔力:2500
攻撃:550
防御:600
敏捷:450
ユニークスキル"最大限の祝福とほんの少しの悪戯心"
回復魔法の効果量が3倍になるが、ランダムでデバフが付与される