痕跡集め⑤
「……すまん、もう一度説明してくれるか」
ここは冒険者ギルドオワリ本部のギルド長の部屋。
特注サイズの巨大な椅子に座り、両肘をついた状態で話を聞いていたギルド長のジンが困り顔で聞き返した。
頭で理解できないのも仕方がないとアークは思いながら、今度はさらにわかりやすく些細を話すことにした。
「今回の大侵攻の首謀者及びにそれを撃退したと思われる冒険者の調査の結果。大侵攻を率いたと思われるモンスターの魔石を第四階層の途中にて発見。鑑定の結果、討伐難度五十相当のモンスターの魔石と断定。戦闘跡から深淵級の魔導師の成れ果てだろうという検証結果が出ました。その冒険者は単騎にて当該リッチの討伐、及びにデスナイト、デスイーター、デュラハンなどを計三十二体討伐していたようです。その他特定に繋がる痕跡を探した結果、そのパーティーは味方に大量の弱体化魔法を使用していたことが判明。それと大量の酒瓶が合計五十本ほどが、道標のように置いてありました。足跡は途中でピタリと消えていたためそれ以上は追えませんでした。報告は以上です。どこから質問なさいますかギルドマスター、私にも理解できない部分は多々ありますけど」
ここまで言い淀むことも噛むこともなく言い切ったアークは、言い終えると大きく息を吸って吐く。
それはほとんどため息と言って良さそうなものだった。
しかしジンは頭を抱えてはっきりとわかるため息を吐き出していた。
「成程、成程。こいつは意味がわからん。全くもって意味が不明だな。味方にデバフ?たった一人で大立ち回り?果てはダンジョンで酒盛りだと?お前達が調べたんだから正確なのだろうが俺は一体どうやって市民に発表したら良い?見ず知らずの冒険者が全部倒してくれましたと言えば良いのか?そう言えたら随分と楽だ。それで?その冒険者はどこですかと聞かれたら、どこかに消えましたと答えれば良いのか?おーそりゃあ良い。そうするとしよう」
なんとなく雰囲気は重苦しい。
しかしこの雰囲気を変えるための言葉をアークは知っている。
それはジンの竹を割ったような性格では言いづらいであろうことも理解していて、それでも躊躇って出ない言葉だ。
僅かばかりの沈黙が何分何十分にも長く感じられた。
「報告ご苦労だった。もう一度他の都市の冒険者ギルドに特徴を伝えてみよう。黒の甲冑、味方にデバフ、大量の酒瓶。これだけ特徴的なものがあれば見つかるはずだからな」
そう言ってジンは話を終わらせた。
しかしどこのギルドからも冒険者が来ていないことは既に何度も確認済みである。
つまりどこにも登録されていない謎の冒険者がふらっと現れて全て解決したということになる。
それでは誰の顔も立たずオワリの冒険者ギルド全体の面目が潰れるわけだ。
「アーク殿帰らないのですか?」
帰ろうとする他のパーティーメンバーを尻目にアークは覚悟を決めていた。
そしてアーノルド達に一言謝った。
とある提案をするために。
「ごめんみんな。なぁジンさん。一つ提案してもいいか」
「ダメだ。何でもかんでも背負い込むな」
ジンだけが理解していてその言葉を遮った。
しかしアークは静かに首を横に張るとこう言った。
「今回の大侵攻は俺達神樹の祝福がたったの一パーティーで食い止めた。これら全ての功績は俺たちのものにする。そう発表してくれジンさん」
アークの睨み付ける勢いで真っ直ぐと見据える。
その眼差しは鋭く並のものでは腰が引けて尻餅をつくほどのもの。
それでもぴくりとも動かず寧ろ睨み返すその瞳を見てジンは小さく息を吐いた。
「すまん、苦労をかける」
「いえ、お気になさらず」
短い労いの言葉を受けて二人の会話は終わった。
仲間には後で説明する。
そう言い残して、静かに部屋を後にした。
その瞳には強い信念が宿り、仲間の誰もそれを止めることはできずただ黙ってその背中を追う形で部屋から去る。
この決断がどれだけ多くの苦難をもたらすか、それはこの中の誰にも予測できないほど大きいものとなるのだった。




