痕跡集め②
アークほどの一流の冒険者にもなれば戦場を見ただけでどんな風に冒険者が戦ったのかがわかるものだ。
例えば三階層の中層付近、くるぶしの辺りまで泥に浸かる沼地が点在する湿地帯。
ここの泥は物理的にというだけでなく、速度ダウン痺れHP減少などのデバフの付与される。
しかもここでは高い魔法適性を持つリッチの出現率が高いため、遠距離からの魔法攻撃にも備えなければいけない。
対策としてはまず泥のデバフを軽減もしくは無効化するため、魔法の使用もしくは魔法の付与されたブーツなどの防具を着用すること。
それにより普段と変わらない足取りで進むことができる。
もし仮にデバフの効果を受けるのであれば、動きが鈍ることで足取りが乱れる。
例えば滑ったり歩幅が狭くなったりしてわかる。
ほとんどは沼地で足跡が消えているが、湿地帯特有の木々が生えている場所は一応は足場がある。
その付近の足跡を見てアークは首を傾げて立ち止まった。
「どうしましたアークさん。何か気になるもので落ちてましたか?」
「気になるものは見つけた。この足跡を見てどう思う?」
「かなり重い物でも持って歩いていたのでしょうか?随分と土が抉れているように見えますね。一ヶ月が経過してなお足跡が深く残るほどに」
アーノルドはこのパーティーの中で最も重量級の冒険者だ。
それに重い鎧と盾に戦斧まで担いで戦っている。
そのアーノルドですらここまでの足跡が残ることはない。
まるで巨大な生物の足跡のように地面が深々と抉れて捲れ上がっている。
しかし足の大きさはアーノルドより小さいくらいで、平均的な成人男性よりやや大きい程度。
それが如何に異様なことか、六人の中で気付いているのはアークとアーノルドくらいだろう。
「あの時すれ違った黒い鎧の男の足跡だとは思うが、まさか重化のデバフを受けたまま戦いでもしてたというのか?いや、ありえないだろ」
「大陸一嫌われていると有名なこのダンジョンに、毒や麻痺などの対策を持たずに来たというのであれば無知以外の何ものでもないですよ。無謀を超えて自殺行為にさえ思います」
「西から来たばかりで知らなかったという可能性はあるか?」
「でも他の人は足跡がほぼ消えてますから、一人だけデバフを受けたまま歩いていたように思いますけどねえ」
ありえない、と言い掛けたアークはその言葉を飲み込んだ。
冒険とはありえないことの連続である。
これまでいくつもそんな出来事に遭って、あらゆる非常識が常識に変わった。
だからこそ、ありえないことをありえることとして考え、徹底的に調べることにした。
「エリオラ、魔法の痕跡は辿れそうか?」
「うーん、なんか微妙っぽい。流石に時間経ち過ぎてるかも。まあ、事後処理でダンジョン来るのが遅くなったから仕方ないんだけどさ。一応やってみるね"マナダイブ"」
首から下げていた青い宝石の付いたネックレスを手に持った。
それをぶらぶらとさせて周囲にかざす。
一定のリズムで揺れる中、僅かに不規則な動きをしたところでエリオラの手は止まった。
「ここ、魔法の反応が残ってる」
「詳しく探れるか?」
「うん、やってみる」
エリオラはさらに近付いて、反応のあった場所の真上まで来る。
エリオラは訝しむような表情で首を傾げ、一言呟いた。
「……嘘でしょ。ありえない」




