パーティー解散②
「五年か、長いようで短いような。でもやっと最深部の手前まで来れたな。次は階層主、まだ誰も倒したことがない不死龍クシャーンか。装備とアイテムはきっちり修理と補充をするとして、正直あと一人攻め手が足りないって感じか。それに俺の代わ……いやなんでもない。そういえば西の都市にあるダンジョンが一つ攻略されたらしいから、こっちに流れて来てるはず。帰ったらギルドに寄って受付のミレディに聞いてみるのがいい。いや、もしかしたらもう既に到着して酒場で呑んでるかもしれないから、酒場でスカウトした方が早いかもな、ハハハ」
第七層の奥まで行き、不死龍の姿を確認したところで今回の遠征は終了した。
装備とアイテムには多少の余裕があるが、討伐までは難しいという予定通りの判断である。
ダンジョンは帰るまでが遠征というのが決まり文句だ、帰りの分を考えるとむしろ心許ないくらいである。
素潜りする時に酸素を使い切るまで潜る奴はいないだろう、戻る分も考えて潜るのはダンジョンも素潜りも変わらない。
「……みんな。ダンジョンから戻ったら大事な話がある」
先程までは俺だけが話をしていて気まずい雰囲気だったわけだが、アークがようやく重い口を開いたかと思えばこれだ。
より気まずい雰囲気になっている。
女の気が全くと言っていいほどないのに無駄に甘いマスクのイケメンが、神妙な面持ちで申し訳なさそうに俺を見るせいだ。
子供の頃からの付き合いなのに随分とよそよそしいのがかなり気に入らない。
パーティーを抜けるというか、冒険者をやめるべきと勧めてきたのはアークだ。
だからってそんな気の使われ方をしたくはない。
ちなみに俺が辞めることを知っているのはアークだけ、ヒーリアとエリオラはまだそのことを知らない。
とはいえ、勘のいいヒーリアのことだ薄々勘付いてはいるのだろう。
エリオラは俺のことがあまり好きではないのか俺の前では無口なので、気付いているかは不明。
知っていたとしてどんな反応するかはちょっと想像がつかない。
ふーん、とか言われたら傷付く自信だけはある。
ヒーリアはさっきからずっといつもより明るく振る舞う俺を見て悲しげな視線を送ってくるのでまあ気付いているだろう。
憐れみを抱かれるのが嫌で空元気を擦り絞っているのに、これじゃあ余計に惨めに感じるので是非やめてほしいものだ。
でも俺は負けない、ここで残りカス程しかない空元気を最後の一絞りする。
「ちょうどいい、俺からも色々と話したいことがあるんだ。今夜は付き合ってくれよ。アークの奢りでな」
「あぁ。今日くらいは出そう」
表情筋が弱っているせいであまり表情の動かないアークは少しだけはにかんだような気もするがもしかしたら気のせいかもしれない。
それより今夜はみんなに話したいことが山程ある。
例えるなら書類仕事が苦手なギルドマスターの机の上くらいの山だ。
アークにはヒーリアとエリオラをちゃんと守れと、ヒーリアには過保護なまでのオーバーヒールな回復魔法を少し抑えろと、エリオラにはもう少しやる気を出して遅刻しないようにと。
他にもあり過ぎて一晩で語り尽くせるかわからない。
とにかくこれまでの感謝と今後のエールを送れれば御の字だろう。
ともあれ、死亡フラグっぽい会話があちこちで乱立してしまったわけだから、帰りはいつも以上に周囲を警戒する必要ができた。
強化種ではないスケルトンの急所である頭部を剣で殴り飛ばし、同じく頭部が急所のゾンビは遠距離からエリオラが火球で始末する。
アークのユニークスキルで弱体化したアンデッド達はダンジョンの外に近付くにつれてさらに弱くなるのでほとんど無害でしかない。
進むより戻るほうが簡単というのがダンジョンの基本である。
だからといって気を抜いていいわけではもちろんないが。
さらに歩いて上の階層にまで来れば中堅や若手の冒険者も増え、俺達がモンスターに手を出す必要も無くなった。
それから数時間後、ダンジョンを出る頃には太陽は丁度沈みかけだった。
実に一ヶ月ぶりの太陽を拝み、全員の無事にホッと胸を撫で下ろし俺達は都市へと戻る。
直接酒場に行きたい気分だが、その前に冒険者ギルドに顔を出す必要がある。
面倒だがこういうことを後回しにしないのが我らがリーダーの真面目人間たる所以だろう。
そんなところが俺は嫌いじゃなかった。
そのせいで数え切れないほど衝突を繰り返したのは、言うまでもなかったが。
名前:アーク・バンキッシュ
年齢:26
種族:ヒューマン
性別:男
職業:付与術師&剣術士
LV.68
体力:3500
魔力:4000
攻撃:4000
防御:2800
敏捷:3500
ユニークスキル"1/100の祝福"
パーティー全体の受けるデバフを1/100に減少
アンデッド族モンスターの全ステータス微減少
聖属性の攻撃のダメージ微増加