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パーティー解散①

 一つ足を進めるごとに全身の骨が軋む音がした。

 あちこちが凹んだ甲冑は今回でお役御免だろう。

 ダンジョンに潜る度に修繕していたせいで、金属自体がかなりへこたれている。

 一度丸めた紙をどれだけ伸ばしても真っ直ぐにならないように、金属を鍛え直す度にその強度は落ち柔らかくなっていくからだ。

 大抵のものはそうだ、壊れては直して、壊れては直して、段々と脆く弱くなっていく。


 しかし冒険者はそれとは真逆。

 何度打ちのめされても立ち上がりその度に倒れる前より強くなる。

 そんなことを数え切れないほど繰り返して、最後まで立ち上がった者だけがSランク冒険者へと至るのだ。

 十年前に幼馴染の二人と立ち上げた冒険者パーティー、"黄金の祝福"。

 それも今ではこの都市に五つしかないAランクパーティーにまで登り詰めた。

 今回の遠征では最深部の手前、第七層の最奥まで行き最高到達地点を伸ばしている。

 最深部手前で待ち受ける階層主を倒し、最深部に行ければ晴れてこの都市唯一のSランクパーティーとなるわけだ。

 勿論そこは黄金の祝福にとって通過点に過ぎない、このパーティーの目標はあくまでもダンジョンの制覇。

 そして最奥にあるダンジョンのボスを倒し核を破壊できれば、ダンジョンは機能を停止する。

 そうすればモンスターはニ度と現れなくなり、この都市に平和をもたらすことができる。

 自分達と同じような目に誰かが遭わないように、あの日三人で誓った約束を果たす日はそう遠くない未来だと、俺は信じていた。



 俺が今回の遠征をもってパーティーを抜け冒険者を引退するよう言われる前までは。



 誰が悪いとか致し方ない事情があるからというわけではない。

 ただ単に俺のユニークスキルが弱過ぎるからクビになるのだ。

 これを誰かのせいにするのはさらに自分を惨めにするのでやめておく。

 誰かに愚痴でもぶち撒ければいいが、そんな相手はいない。

 いるとすれば幼馴染でパーティーメンバーのアークとヒーリアくらいだ。

 つまり愚痴れる相手はゼロ。

 それに愚痴るならば同じ境遇の相手がいい。

 別に同情されたいわけではないからだ、今はただこの傷を舐めて癒してくれる相手が欲しいのだ。

 だから同じ境遇の人がいればいい。


 ちなみにアークとヒーリアの実力は俺なんか足元にも及ばない。

 あらゆるデバフをユニークスキルで無効化しほとんどの強化魔法を使いこなすこのパーティーのリーダーでもあるアーク。

 しかし彼が味方にかけた強化魔法も俺には効いているかわからないほどの効果しか得られない。

 回復量ではこの都市でも随一と言われるヒーリアの回復魔法はどれだけ深い傷でも瞬く間に治すほど。

 しかし俺の傷だけは擦り傷ですら治すのがやっとのこと。


 この世界の人々は誰しも独自のユニークスキルを持つ。

 アークはデバフの無効化、ヒーリアは回復魔法の回復量増加といったふうに。

 しかしそのユニークスキルを鑑定することは誰にもできない。

 はるか昔の大賢者はユニークスキルを鑑定する魔法を編み出したが、使用後脳味噌が焼き切れ阿呆になってしまったらしい。

 現在の大賢者曰く、ユニークスキルは世界の理を覗く行為に等しく、人の身では決して不可能な御業とのこと。

 だから俺達冒険者や、それ以外のすべての人々は己のユニークスキルはなんなのかその人生をもって探すのだ。


 今まで生きてきた二十六年間で分かった俺のユニークスキルといえば回復魔法と強化魔法を受け付けないというもの。

 回復量を増やし自然治癒力も高めるヒーリアや、毒や混乱などあらゆるデバフを無効化しアンデッドを弱体させるアーク。

 二人の幼馴染とは天と地の差程の差もあり、というより圧倒的に噛み合っていない無能スキルだ。


 取り柄といえば鍛え続けたこの肉体のみ。

 しかしそれではこの先の最深部には連れて行けない、足手纏いだと言われた。

 闇雲に剣術や魔法を磨き抜くだけでSランクには届くほど冒険者の世界は甘くない。

 それに合ったユニークスキルがあって噛み合って始めてその高みに手が届くからだ。

 実際ここ一、二年はパーティーの成長についていけてない自覚もあった。

 だから今も俺だけ傷だらけでみっともない姿をしているのだ。


 俺はそこから目を背けて身体と鎧を鍛え続けて、それでもついていこうした。

 よく考えれば随分と身勝手な我儘だったことだろう。

 未練がましく仲間としていたことで味方にも迷惑を掛けた。

 だからこの遠征を最後に俺はこのパーティーを抜ける。

 それは仕方のないことで、仲間に恨みなんてものはない。

 それどころか申し訳ないとすら思っている。


 ただパーティーを抜けた後のことは考えていない。

 このまま引退するのもいいかもしれないな、とも思う。

 装備だけは良いものをと思い都度更新していたのでA級冒険者と思えないほど貯金は少ない。

 何か商才があるとも思えないし、働き口のあてもない。


 でも今だけは無事に帰っていつもの酒場で酒を飲むこと、それだけを楽しみに生きていてもいいのではないだろうか。

 次の日の予定も考えず、節制など忘れてたらふく飲む妄想をしよう。

 心と違い身体は呑気なもので、みるみる口内に唾液は溜まる。俺は思わず音をそれを飲み込んだ。


名前:カルマ・ノルン

年齢:26歳

種族:ヒューマン

性別:男

職業:戦士

LV.58

体力:5800

魔力:1000

攻撃:2250

防御:4500

敏捷:1200


ユニークスキル"最狂戦士"

回復魔法、強化魔法の効果を99%カット

味方パーティーの弱体効果を代わりに受ける

弱体効果の数と効果量に比例して全ステータス大幅上昇

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