第2話 好感度を数値化したモノです
……やらかした。
いや、もう手遅れだが。
「ちょっと……着替えの事、完全に忘れてたんだけど! どうしよう……」
そう言いながら彼女は、タオルと元々着ていたスカートと半袖のシャツを上手に使って、大事な部分を隠しながらリビングにやって来た。
その姿を見た俺は、反射的に顔を机に伏せる。
「……マジすまん」
「いいけど! えっと……どうすればいいの?」
「俺ので良ければ取ってくるので、とりあせずお風呂か脱衣所に戻ってください」
「……はーい」
足音が完全に聞こえなくなってから、俺は二階の自分の部屋へ向かった。
彼女の服として、タンスからシンプルな柄の紺色のパーカーと、一番上にあったズボンを取り出す。
セットとして合っているかと言われれば微妙だが、着れればそれで問題無いのだ。そう考えて、俺は迷う事無く決めた。
脱衣所の前に服を置いてから、声を掛けてリビングに戻ってきた。立っているのは嫌なので、とりあえずソファーに座る。
それからしばらくして、彼女も少し恥ずかしがりながらやって来た。
「……服、ありがとね」
「どういたしまして。それじゃあ帰れ」
「えぇ!? ヤダよ。もうちょっといたいもんっ!」
そう言って他人の家なのに何も気にしていない様子で、もう少しズレたら俺とぶつかるぐらいの距離に飛び込んできた。
「うわっ! このソファー、ふかふかじゃん」
「……元気だな。起きた時はビクビクしてたのに」
「そりゃ、朝起きたら何故か他人の家に居ました! ってなったら誰で怖くなるでしょ!? 知ってる相手だったから良かったけど」
確かに怖いだろうが、警察に声を掛けられて目を覚ますのも怖いと思う。
「お前が倒れてるのが悪いだろ」
と、俺は呆れたようにため息を付きながら言う。
「いや、そうだけども!」
「……だろ」
「……まぁ、とにかくありがとうね」
「感謝してるなら帰れ」
「なんで!?」
彼女はわけが分からないといった表情で、もう少しで引っ付きそうなぐらいの距離に顔を近づけて訊いてくる。
……近い。距離感バグってるだろ。
「ちょっとだけ! お願い!」
「……はぁー……。分かったよ。その代わり、昼には絶対に帰れ」
「ん、分かった。ありがとね! お礼にプラス1点しといてあげるよ」
嬉しそうに右手の人差し指をピンと立てて、彼女は言った。
「1点? 何が?」
「私からの好感度を数値化したモノです。ちなみに上限は100ね」
……なんか、面倒臭そうなモノが出てきたぞ。
そんな事を思いながら、適当に相づちを打つ。
「……そうか。それは100になったらどうなるんだ?」
「異性として大好きになってるって事かな」
「マイナス100点しといてくれ」
「別に今、結翔くんの好感度が100とは言ってないじゃん」
「……じゃあ俺は今どれぐらいなんだよ」
そう尋ねると、ニヤッと笑って少し顔を赤らめながら、俺の耳まで口を運んできて言葉を発した。
「ひゃく、で~す」
耳元で優しく囁かれ、正直ちょっとドキッとした。でも、意味が分からない。話したのも多分これが初めてなのに、普通そんな一瞬で惚れるだろうか。そんなハズ無い。多分。
「……嘘だろ」
「いぇす」
「やっぱり帰れ」
「嫌だぁぁぁ!」
「…………」
こんなしょうもないやり取りを、お互いが疲れるまで何度も続けた。