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第1話 女の子が倒れてる

 一瞬、これは現実では無いのかもしれない、と思ってしまった。

 ちょっと大げさな表現かもしれないが、本当にそれぐらい驚いた。

 軽く頬をつねってみると普通に痛みを感じたので、今見ているモノは夢では無いのだと確信する。


――――道路で倒れている女の子がいるのだ。


 日は完全に落ちていて、明かりになるものといえば少し離れた場所にある街灯ぐらいなので、ハッキリと顔は見えないが、長い髪の毛が垂れているので女の子で間違い無いだろう。

 今は1月の真ん中あたり。厚着しても寒いぐらいなのに倒れている女の子は半袖とスカートという、変わった格好をしている。

 だからなんだ、という話だが。


 俺は彼女を見なかった事にして、散歩を切り上げて家に向かおうと足を進めた。

 その時、ふとこんな考えが浮かんできた。


 ……車が来たら、轢かれるのではないのだろうか。


 このあたりは過疎地域なので車の通りは少ないものの、絶対に通らないわけではない。

 起こした方が良いだろう。


「おーい、起きろー」


 起こそうと試みるが、応答はナシ。


 今度は優しく体を揺すりながら声を掛けてみる。

 が、結果は同じ。

 

「……はぁ」


 俺はため息を付いてから女の子をおんぶするように背負うと、家に向かってゆっくりと来た道を戻り始めた。

 車の来ない安全な場所に移動させても、警察に見つかったら女の子も嫌だろうと考えたからだ。


 幸い、家からそこまで距離は開いていなかったので、ほんの数十秒で帰ってこれた。

 

「誘拐してるみたいだな。やっぱり返してきた方が良いかな……」


 腕を組んでしばらく迷った末に、結局家に泊める事にした。

 目が覚めたらすくに帰ってもらえば良いし。


 そんな事を考えながら女の子をベッドに寝かして、俺は床に布団を敷いて彼女の近くで寝た。




◇ ◇ ◇




 朝になって目を覚ますと、ベッドで女の子が寝ていて驚いたが、すぐに寝る前にあった事を思い出して冷静になった。

 昨日は良く見てなくて気付かなかったが、整った容姿に綺麗な艶のある髪を持っている、普通に美少女だった。


「……誘拐じゃない。誘拐じゃないからな」


 そう自分に言い聞かせるように言ってから、朝ごはんを作り始めた。一応二人分。

 作るといっても、卵かけご飯とお味噌汁ぐらいだが。

 準備が終わり、自分の部屋に戻って彼女の様子を確認しに行った。


「……あ、おはよ。ようやく起きたか」


 起きた女の子は、状況が理解出来ないといった表情でこちらを見ている。


「……変態?」

「違う」

「…………」

「お前、昨日あった事覚えてるか?」


 そう尋ねると、彼女は恐る恐るといった感じで首を横に振る。


「……とりあえずご飯食べろ。それから出て行け。俺が誘拐犯扱いされないうちにな」


 女の子はビクビクしながら立ち上がって返事をした。


「は、はい……」





◇ ◇ ◇





「お前、本当に昨日何してたか覚えて無いんだな?」


 味噌汁を口に流し込みながら訊くと、彼女は勢い良く首を縦に振る。

 何度訊いても答えは同じ。本当に分からないのだろう。


「家は?」

「……公園の近く」

「公園って、最近新しい遊具出来た北公園か?」

「……うん」


 なんと、女の子の家はウチからそこまで遠く無いらしい。それなら自力で帰ってもらった方が良いだろう。


「この家はその公園のすぐ隣だから、自分で帰ってくれる?」

「……やだ」

「はぁ!?」


 まさかの回答に、思わず大きな声を出して立ち上がってしまう。誤魔化すように咳払いしてから椅子に座り直した。


「あの……面倒臭い事は避けたいんだけど……」

「……えぇ……。もうちょっと《《結翔くん》》のお家でいたいな」


 そう、彼女は言った。俺の名前を口にした。聞き間違いなどではなく、ハッキリと言った。


「え……? なんで俺の名前知ってるんだ?」


 彼女の顔を真っ直ぐ見つめながら、純粋に疑問に思った事を訊いてみる。


「だ、だって……、《《同じクラス》》じゃん……?」


 同じクラス。という事は、彼女は同い年ということになる。

 ……こんな子、同じクラスにいたか? いや、俺が周りを見なさすぎるだけか。


「もしかして覚えられてなかった……? それ、ちょっと悲しいかも……」

「いや、すまん。俺、人の名前と顔覚えるの苦手なんだよな」

「陰キャだもんね」


 同じクラスらしい女の子は口元に手を当てて、笑いながら言う。

 緊張が解けてきたのだろうか。先ほどまでのビクビクした雰囲気が無くなってきた。


「うるせぇ。ほら、とっとと飯食って出てけ」


 少しイラッときた俺は、追い払うように片手を振りながらそう言った。


「だから、嫌だって」

「なんでだよ。早く帰らないと親も心配するだろ? それに、さっきも言ったけど面倒事は避けたい。頼むから帰ってくれ」


 お願いするように言うと、彼女は何故かニヤッと笑ってこちらを見つめてきた。


「親は仕事でいないから大丈夫なのです」

「大丈夫じゃねえ。帰れ」

「えぇ~。ちょっとぐらい居たっていいじゃん……」


 そう言いながら、可愛らしく口を尖らせる。


「……絶対に大丈夫なんだな?」

「うん。絶対」


 彼女の目からは、何があっても絶対に帰らないぞ、という意志が感じられる。

 仕方無く、不本意ながらも家にもう少し残る事を許可した。


「……じゃあ、ご飯食べたらお風呂でも入ってこいよ」

「めんどくさぁ~い」

「行け」

「えっちだねぇ」

「二度とお前は助けないからな」


 そう言うと、彼女は焦ったように両手を振って言った事を否定した。……なんというか、仕草が小動物みたいでいちいち可愛い。

 

「まぁいいや。とりあえず行ってきな」

「はいっ!」


 ビシッと右手を伸ばして、敬礼するように頭に付けてから、彼女はご機嫌でお風呂へ向かってリビングを出て行った。

 それから少しすると、廊下から叫び声が聞こえてきた。


「お風呂どこだぁー!?」

 

 ……そういえば教えてなかったな。

 なんて思いながら、あたふたしている彼女を見て俺は一人で笑った。

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