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夢を紡ぐ手  作者: たき
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(7)

 一刻を争っていた。タウは瀕死の状態だし、教官たちも苦戦している。何より、自らを犠牲にして助けてくれたファイをイフェイオンに渡すわけにはいかなかった。ミューは意を決すると、イオタに耳打ちして家に入った。

「ミュー・レポリス。急いで体に戻ってくれないか? 水の法を使える者が必要なんだ」

 イフェイオンから放たれる闇の砂嵐を風の壁ではね返しながら、学院長が声をかけてくる。その頬には無数の切り傷が刻まれていた。たくさんの術力と魂を吸収したイフェイオンは、教官たちがたばになってかかっても倒せないほど強くなっていたのだ。

『そのことでお願いがあるんです、学院長。体を取りにリーバの町まで行きたいんです。でもすぐここへ戻るには、飛翔術を使える先生に一緒に行ってもらわないと』

「リーバの町までの往復くらいなら何とか抑えられるだろう。ロードン先生、彼女と一緒に行ってもらえますか?」

「承知した」

 風の刃をイフェイオンにたたきつけながらロードンが答える。ミューはまだ気絶したままのファイを一瞥すると、エルライ湖へ行ったときの道のりをロードンとともにたどった。

 早く、早く――体はないのに息切れがする。急ぎすぎて何度もロードンにとめられては立ちどまりを繰り返しながら、目指す家を探す。あのときラムダが見ていた家がきっと……やがて赤い屋根の家が見えてきた。ミューは二階の開いている窓から部屋に入ると、求めていた体に滑り込んだ。

「ネリア!?」

 ミューが体を起こすと、そばでうつむいて座っていたラキスが顔を上げた。

「目が覚めたのかっ」

 抱きつこうとしたラキスを押し返して、ミューは寝台を下りた。さっと周囲を見回し、壁に立てかけられていた杖をつかむ。窓に手をかけたミューにラキスが蒼白した。

「ネリア? 何をする気だ!?」

「ごめんなさい。私はネリアじゃないの」

 ラキスにつかまれるより先に、ミューは窓の外へ身を乗り出した。そして宙に浮かんだまま待っていたロードンの手をとり、再び上空へ飛んだ。



 ラムダと一緒にタウの出血をとめようと必死になっていたシータは、空をあおいだ。誰かが近づいてくる。一人はロードンだ。だがもう一人は――?

 ラムダは呆然としたさまで二人を凝視していた。隣でぼんやり座っていただけのネリアも大きく瞳を見開いている。

 庭に着地するなりロードンはイフェイオンの家に走り、少女はシータたちのほうへ駆けてきた。頬が幾分こけているが美しい少女だ。少女は青白い顔のタウを見下ろすと、しっとりとした焦げ茶色の髪をはらい、『治癒の法』を口にした。刺激を感じたように少女が一瞬眉をひそめる。

 傷口はふさがったが、タウはまだぐったりしたままだった。間に合わなかったのか。息をつめて見守るシータの前で、少女は膝を折ってタウの胸に手を置いた。

「大丈夫。かなり血が流れたせいで回復に時間がかかっているだけ」

 少女はほっとした表情で目に涙を浮かべた。

「……ミュー、なのか?」

 立ち上がった少女の手をラムダがつかむ。少女はラムダと視線をあわせた。

「ええ。イオタは中ね? 急がないと」

「ちょっと待ってよ。私の体で戦う気? けがをしたらどうするつもりなの!?」

 少女はネリアを非難がましく見やった。

「あなたがそこから出ないから借りたのよ。この体がどうなろうと、私はファイを助けるわ」

「私は『クラーテーリスの水晶』なのよ!? そんなこと許さないわ。もし顔に小さな傷一つでもつけてごらんなさい。この体もずたずたに引き裂いてやるからっ」

「好きにすればいいわ。ファイを取り戻せないなら、そんな体いらないもの」

 ミューがイフェイオンの家へと走ったため、シータも後を追った。ラムダはタウを抱き上げると荷馬車に乗せ、ネリアをふり返った。

「お前はここにいろ」

「やめてよ、ラムダは行かないで! 死ぬかもしれないのよっ」

 しがみつこうとしたネリアの手をラムダははじいた。

「ミューがあの中にいるかぎり俺はお前の体を守る。だからお前もその体を守れ。もし先に手を出せば、ただではおかない」

「ラムダ、どうして!?」

 叫ぶネリアを放ってラムダが駆け出す。ネリアがその場に泣き崩れたところで、タウが短いうめき声をあげて目を覚ました。

「つ……ミュー、戻ったのか。みんなはどこだ?」

 まだ完治していないのか、タウは体の左側をかばいながらゆっくりと身を起こした。血に染まった自分の左手を見て眉をひそめる。

「みんなはまだ中か。イオタは無事だったのか?」

「知らないわよ! 自分で確認してくればいいでしょう!?」

 しゃくりあげながら怒鳴るネリアに、タウは首をかしげた。

「ミューが俺の傷を治してくれたんだろう? もう大丈夫だからみんなの援護に行ってくれ。『治癒の法』を使える人間がいないと――」

「他の人なんかどうでもいいわよ! ラムダを連れ戻してよっ」

 タウはのろのろと荷馬車を下りた。思うように動けないことが腹立たしいのか、舌打ちする。

「行かないのか?」

「だから私には関係ないって言ってるでしょう!?」

「……お前、誰だ?」

 ネリアはびくっと肩をはねあげた。タウは冷やかにネリアをねめつけていた。

「ミューではないな。魔物か?」

 剣に手をかけるタウにネリアは悲鳴をのみ込んだ。

「この体はあの女のものよ。傷つけたらラムダが……!!」

 自分で体を抱きしめるネリアをタウはしばし見つめ、剣から手を離した。

「器はともなく中身は偽者か。そうだろうな」

「何よ、みんなして偽者って。体が本物なら誰でもいいじゃない。何がだめなのよ? どうしてあの女がいいのよ!?」

 きびすを返したタウは肩ごしにネリアを見やった。

「いいとか悪いとかの問題ではない。仲間が戦っているときに自分のことしか考えないような人間は、俺たちの集団にはいない。それだけの話だ」

 泣きはらした目でタウをにらみつけるネリアを置いて、タウは体を引きずりながらイフェイオンの家に向かった。



 ミューとラムダ、シータが家に駆け込んだとき、学院長とイフェイオンの術が衝突し、屋根が完全に塵と化した。息切れしながらヒドリー教官とともに炎の術を放っていたイオタは、三人に気づいて目をみはった。

「ミューなの?」

 ケローネー教官は壁にもたれたままぴくりともせず、その隣にいるシャモアは爆風で顔を汚しながらも必死の形相で防御の法術を維持している。術を連発する学院長たちも服が破れ、全身傷だらけだ。ミューは唇をかむと杖を構えた。

「ミュー、元の体に戻っておらんのか? いかん、他人の体で術を使ってはならんっ」

 広範囲の『治癒の法』を口にしはじめたミューに、ロードン教官が声を荒げた。

「話が違うぞ。やめんか、ミュー!」

 ミューは忠告を聞かずに詠唱した。宙に描いた円は銀色に輝きながら全員の頭上で大きく広がり、癒しの力を振りまいた。

「ミュー!?」

 悲鳴をあげて倒れるミューをラムダが抱きとめる。そこへ闇のつぶてが襲いかかった。学院長が起こした守りの風が二人を包み込む。闇の力が霧散するのを待たずにイフェイオンは学院長を狙い、それをロードン教官が防いだ。入れ違いにヒドリー教官とイオタが『剣の法』を唱える。ミューの回復を受けたケローネー教官も意識が戻ったらしく、頭を押さえながら立ち上がろうとしていた。

 飛んできた炎をはね返したイフェイオンが自分の足元のファイをちらりと見た。

「そろそろ戯れも終わりにしよう」

 イフェイオンが特大の闇の渦を作り上げた。学院長とロードン教官がそろって『砦の法』を発動させる。

 激突したイフェイオンと学院長たちの力はせめぎあい、壁という壁をすべて破壊していった。柱の残骸や土ぼこりが舞う中、片目でイフェイオンの姿をとらえたシータははっとした。イフェイオンの足元で法陣が光っている。

「いけない! ファイ!!」

「シャモア先生っ」

 走りかけたシャモアをヒドリー教官がとめる。ファイを抱いたイフェイオンの足が床に沈みはじめた。

「やめて! 誰かファイを――!」

 ヒドリーとシャモアがもみあっている間にもイフェイオンの体は沈んでいく。学院長とロードン教官もイフェイオンの術を押し返すのに精一杯だ。

「ファイ! ファイ!!」

 迷いはなかった。シャモアの涙声を背に、シータは駆けていた。

 部屋の中央でぶつかりあっていた力が肌を切る。シータは血を噴き散らしながら、めくれあがる床板を勘でよけて渡り、閉じかけていた穴へ飛び込んだ。

 真っ暗だった。闇以外は何もない、無風の世界。

 頭がガンガンする。目を開けているのがつらくて涙があふれた。だがイフェイオンとファイを見失うわけにはいかない。シータは歯を食いしばって、先に落ちていく二人を追った。

「な……馬鹿な!?」

 シータをあおいだイフェイオンが驚惑の容相を浮かべた。

「ここでは暗黒神との絆を持たぬものは命を落とすはず……なぜ生きている!?」

 はるか下のほうで何かがうごめいている。落ちていく三人を受けとめようとしているのは、いくつもの手という手。あれに捕まったら終わりだとシータの本能が警告した。

「ファイ!」

 お願い、目を覚まして――シータのあせりが頂点に達したそのとき、ファイの胸元で明滅するものがあった。首飾りからほとばしった虹色の光はファイとイフェイオンをのみ込んだ。

 イフェイオンが苦しみもがいてファイを放し、あおむけに落ちていく。落下のとまったファイの体をシータが捕まえると、二人の足元に虹色に輝く星型の台座が現れた。これ以上落ちないとわかりシータはほっとしたが、浮上もしないらしい。自力では帰れないのかと見上げると、光の筋が波打ちながら下りてきた。シータがその縄のような光をにぎると、シャモアの声が聞こえてきた。

『ファイ……ではないわね。あなたはシータ・ガゼル?』

「そうです、先生」

『首飾りがうまく発動したようね。ファイは無事なの?』

「大丈夫です。まだ気を失っているけど」

『そう。地上まで引き上げますから、放さないでちょうだいね』

 ぐんと引っ張られ、シータは慌てて縄を強くにぎりなおした。手がしびれるようにうずいたが、片方の手はファイを抱いているため使えない。台座の重みもすべて自分の腕一本で支えるのはつらく、骨がはずれそうだった。

 やがて明かりが見えてきた。しかし出口の穴はとても小さい。自分もファイも通れないのではないかと心配したが、すぽっと抜けることができた。

「ああ、ファイ、よかった」

 シャモアが泣きながらファイを抱きしめ、頬ずりする。シータも走り寄ってきたタウの手を借りて立ち上がった。

「よくやった、シータ」

「タウ、もう動けるの?」

「何とかな。お前こそ大丈夫なのか? 血まみれじゃないか」

 指摘されてそういえばと思い出したとたん、傷口がうずきだした。痛い痛いと騒ぐシータに、ケローネー教官が「はいはい、待ってくださいねー」と寄ってきて『治癒の法』をかける。イオタたちも集まってきた。

「あんた、暗黒神の領域に落ちたんでしょ? よく無事だったわね」

「うん。私、前に乗り移られそうになったことがあったでしょ? あれのおかげで暗黒神とちょっとつながりができてたみたいで。イフェイオン先生にもびっくりされたけど」

「先生は?」

「ファイの首飾りが光ったら、苦しんで先に落ちていった」

「ひとまず移動しよう。詳しい話も聞かなければならないし、手当ての必要な者が多すぎる」

 学院長の提案を受けて、一番近いシャモアの家に全員で向かうことにした。外へ出たところで、ローが市の警兵を連れてやってきた。捕まえるべき人間は闇の底へ消えてしまったことを学院長が簡単に説明し、市長への報告はヒドリー教官が請け負った。ネリアはロードン教官が声をかけて一緒に行くことになり、ローは道すがらシータたちに事情を聞いた。



 家に着いてまもなく、ファイは目を覚ました。まだぼんやりしているファイに水を飲ませ、シャモアはもう一度抱きしめた。

「関わらないでとあれほど言ったのに、よりによって暗黒の法術を唱えるなんて。どうしてそんな馬鹿なまねをしたの」

 自分は助かったのか。ファイはこぶしを二度三度にぎったり開いたりして感覚を確かめた。

 ファイの頬を両手ではさみ、シャモアは目に涙を浮かべた。

「危ないまねはしないと約束したでしょう? もう二度と冒険へ出てはいけません。彼らと行動することも禁止します」

「それはできないよ」

「あなたの命がかかっているのよ。お願いだからおとなしくしていてちょうだい」

「でも……」

「ファイ、いいかげんにして。あなたにもしものことがあったら、姉さんになんて言えばいいの? 絶対に許しませんからね」

「無理だよ。もう動きだしてしまったんだ」

 シャモアの手をそっとほどき、ファイは胸元の首飾りをつかんだ。

 あのとき、足元からはいのぼってきた闇の気配に、魂が体から引きはがされそうになった。肉体にしがみつくのが精一杯だったから、イフェイオンと皆の戦いにも手を貸せなかった。

 イフェイオンと一緒に落ちていく途中で聞こえてきた声に気づいたとき、首飾りが反応した。離れたイフェイオンと入れ代わりに自分を捕まえた手は、今年集団に加わったばかりの仲間だった。

 闇には近づかないよう忠告しておいたのに、向こう見ずな彼女はそれを無視して飛び込んできたのだ。

「虹の森への道が開きかけてる。今ここで抜けるわけにはいかないんだ」

「何ですって?」

 困惑顔でシャモアが後ろの学院長をかえりみる。学院長も顔色を変えた。

「確かなのかね?」

 ファイがうなずくと、学院長はけわしい表情で黙り込んだ。

「学院長、どうしましょう。この子たちは課題に失敗したというのに……」

 シャモアは明らかにうろたえている。いぶかしむファイに学院長が言った。

「君たちに玉が集まりはじめていることを、誰にも口外しないように。タウたちにも私から話しておこう。いいね、誰に何を聞かれても、知らないふりをするんだよ」

 玉のことをなぜ学院長が知っているのか。何を警戒しているのか。疑問が次々にわいてきたが、念を押されたファイはとりあえず他言しないことを約束した。



 別室で、ネリアの体に入ったミューはいまだ眠りから覚めずにいた。脇の椅子に腰かけたラムダは、その額にはりついた髪をかきあげ、汗の粒を布でぬぐった。

「何とかならないんですか、先生?」

「うーん、こればかりはー、私にもー、難しいですねー」

「もう、先生! こういうときくらいシャキシャキしゃべってくださいっ」

「すみませんねー、これでもー、急いでいるんですがー。ああ、イオタ、乱暴はー、いけませんよー」

「イオタ、やめるんだ」

 ケローネー教官の肩を揺さぶり責めるイオタを、タウが制止する。ロードン教官がラムダの隣に並び、ミューをのぞき込んだ。

「すまんな。他人の体で法術を使うなととめたんじゃが」

「ミューはどうなるんですか?」

「法術を使ったせいでミューの魂がこの体と融合しかかっておるんじゃ。それを魂が拒んで熱が出ておる。このままの状態が続けば、魂も体も力をすり減らしてしまう」

「死ぬ……ということですか?」

 ロードン教官が口ごもる。ラムダは唇をかんでミューの手をにぎり、自分の頬に押し当てた。

「そちらのー、お嬢さんがー、自分のー、体にー、戻ってくれればー、おそらくー、ミューもー、解放されるとー、思うんですがー」

「何ですって? そういうことは最初に言ってください、先生っ」

「ああ、ですからー、乱暴はー、やめてくださいとー、さっきからー、何度もー」

 ケローネー教官の胸ぐらをつかんで怒鳴ってから突き飛ばし、イオタはミューの体に入っているネリアをふり返った。

「今の聞いたでしょ? さっさと自分の体に戻りなさいよ。それはミューの体なのよ」

「勝手に入って法術を使って出られなくなるなんて、自業自得でしょ」

「あんたねえっ」

「よせ、イオタ」

 鼻を鳴らしてよそを向くネリアにつかみかかろうとしたイオタは、自分を押さえ込んだタウをにらんだ。

「もとはといえば、この女がミューの体に先に入ったのが悪いんじゃない。体がミューになったからってラムダが好きになってくれるなんて思うほうがおかしいわよ。なんでそれがわからないのよ? なんで認めないの? あんたのせいでミューは……!!」

 言葉は最後まで続かなかった。そのまま嗚咽を漏らして泣きはじめたイオタの肩を抱き、タウはネリアを見た。

「ミューに体を返してやってくれ。ミューは俺たちの大事な仲間なんだ」

「抵抗なんかせずに融合すればいいのよ」

「それでいいのか? 俺たちは君の体に入ったミューと、これからも仲間として一緒に過ごすことになる。ミューの体に入った君を迎えることはないんだ。そのまま居座ることに何の意味がある?」

「どうしてだめなのよ? なんでその女しか受け入れないのよ? 冒険なんて誰としたっていいじゃない。一緒に行きたい人間がいれば連れていったっていいはずでしょ!?」

「それは違う。そんな簡単に仲間を入れ替えることはできないんだ」

「どうしてよ!?」

 タウはシータたちに視線を投げた。玉のことを話すべきか迷っているのだろう。シータもローと顔を見合わせたが、うまい言い訳は浮かんでこなかった。

「納得できるように説明しなさいよ。それができないかぎり私はここから出ないわよ」

「……俺たちは、もう」

「ミュー?」

 タウが言いかけたところで、ラムダの声が割り込んだ。イオタもはっとしたさまで顔を上げる。

「ミュー、聞こえるか? 目を開けてくれ。ミュー」

 ラムダの呼びかけにミューは眉間にしわを寄せて口を動かしたが、うめくばかりで言葉にならない。びしょ濡れになっているミューの耳の後ろから首にかけてを、ラムダは何度もなでた。

 イオタはタウから離れて寝台に近づいた。ラムダの隣で膝をつき、ミューの顔を見つめる。

「もういいわよ。無理に抵抗しなくたって……あんたはその体が嫌かもしれないけど、あんたが死んでしまうほうが私たちは嫌なんだからね。聞いてるの、ミュー? ねえ、早く起きてよ。お願いだから目を覚ましてよ」

 寝台に顔を伏せてすすり泣くイオタの後ろにシータとローも立つ。タウも動きかけたところで、ネリアがぼそりとつぶやいた。

「やめてよ」

 こぶしを震わせ、ネリアは自分の体に集まる人間をねめつけた。

「それは私なのよ……私の体に、そんな名前で呼ばないでっ」

 ネリアは部屋を出ると、そのまま明け方の町へと駆け出した。


 



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