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006




「ケンジは早くも魔法使いになったのか!」


 定時会議の際、こちらの状況報告にロバートが真っ先に反応した。


「まさか。魔術とやらを体験しただけだ。今はシールドを展開しているし、経験はあれ一度きりだ」

「そうか残念だな。でも、まあ、……可能性があるというわけだろう?」

「どうだか。攻撃を受けるだけなら以前の使節団も同じだっただろうな」


 軽く否定するが、ロバートの推測を誤りとは断言できない。


 帝国は”仮称”魔術に対して無知ではない。


 魔術というものを初めて認識してから解析は続けられており、現在では彼らの技術の多くを再現できている。およそ、彼らの実生活に関わる魔術は利用と対策ができた。その実例が対魔術シールドである。


 現象の元となる要素や媒介はもちろん、特に操る現象や規模には個体差があるらしく、対象個体の脅威度の事前推定も可能となっている。

 使節団を送っていた時期には現地民との交流があった。当時の文化的資料も収集されており、そのために自分の身に起きた出来事についても、ある程度の推測ができる。


 遠くない予想として、現地で語られる大いなる意思や古き神々といった存在との接触がある。


 上位存在は、彼ら先住民に広く尊ばれている。

 およそ実現不可能な現象を引き起こし、恩恵と厄災を届ける。単一ではなく複数の個体がいるらしく、生活に身近なものでは豊穣がある。

 彼らの歴史によると、過去、彼らの神は死の寒気と呼ばれる現象を三度発生させているらしい。


 いわゆる奇跡を行使するとされる存在だ。未だ実態は確認されていないが、存在の否定はできない。


 実験的に神呼びの魔術を試したところ、帝国の領域では効果を示さなかったそうだ。惑星の外を知る帝国も上位存在の実在を認めている。一部の魔術の発動条件には、本惑星の近辺を漂う何かしらの存在が影響しているのは確定的らしい。


 つまり自分は、巫女や預言者として、現地の主要宗教において手厚い保護を預かれるような立場にある。


 現段階では決して役立つ経験をしたわけではない。

 現地の権力者からの保護もなければ、主張したところで狂人の妄言として切って捨てられるものだ。


「ケンジ。体は大丈夫なの?」

「直後に検査もしたが、まったくの健康だ」


 ミアンに向けて一言、ロバートに向けて二言目。


「もし魔術を使えるようになったら、単独で空でも飛んでみるよ」

「いいぞ! ケンジィ。ヒーローだ」

「目から光線でも出せれば完璧だな」


 実際に行使するには魔素とやらを操作できなければならないが、今のところ実現できていない。とはいえ、別に魔術の使用者が人間である必要もなく、惑星探査船においても完全に機械単体で運用できている。


 魔術を扱いたいと言っているロバートも、既に利用しているのだ。


 帝国様様である。

 ここ、宗教の支柱となるような情報を回収しているあたり、帝国の使節団も清廉潔白とは言えない。


 使節団の撤退後に行われた実験記録だが、全く手段を選んでいない。

 道端で見かける羽虫が監視機能を備えるような国なので、同じ技術水準でなければ情報秘匿などできようもない。

 知ってしまったからには便利に使おう、だなんて悪い癖が見えている。


 帝国の法も、敵にまでは適応されないらしい。

 本当の第三勢力が現れた時、対処に送った人材が敵の技術を得て反逆してきた時を心配してしまうが、派遣部隊には適切な閲覧制限が課されている。


 差し向ける味方は適度に弱く、拾得した敵の技術はそのまま流用する。当たり前だが大差がなければ敗北しそうにない。


 ちなみに飛空するヒト種は観測されていない。

 空飛ぶ生物は、やはり空を飛ぶ種族ばかりだ。


 そんなやり取りの報告を済ませて自分の業務に戻る。


 共通した目的こそあれ担当する仕事は別々だ。

 地域に合わせた行動、目先の目標が違うことで仕事内容で共通した話はできない。悪口を言おうにも、”原住民が~”などという抽象的なものになるだろう。


「センチエコー、練習のために三日は野営するつもりだが、一緒に降りるか?」

「いえ、このボディは艦内に残します。必要があれば装着型の端末からやり取りできますから」

「まるきり実地演習だな。それが求められるのは事実だけど」


 現地の風土に見合った生活に身に着けなければ、潜伏活動も満足に行えない。そのためのサバイバル術も習った。


 現地の今を知るには、惑星探査機を引き連れていくのは無理だ。

 光学迷彩を働かせようと、巨大な質量を動かすのは目立つ。移動用の拠点構築をしたいところだが現段階では許されていない。真っ先に認められるのはロバートの方だろう。

 

 どのみち支給品に封入されていた現地風の衣服にも、現地の土の臭いを付ける。ついでに自分も現地の洗礼を受けておくべきだ。

 防刃性の中着を着ていこうと、外見さえ整えば何とか理由も付くだろう。


 防疫も対策済み。

 何も問題ない。


「お帰りの際には、昇降口でお出迎えしますね」

「古今、故郷ではそういった場合の、言い回しがあってだな」

「おお、故郷の話ですか?」

「ああ。家で待つ者が、帰ってきた者を……な」

「それは、どういった言葉でしょう?」

「あ。……いや、何でもない」


 機械知性の好奇心は強い。


 それが保護観察の段階にある惑星からの出身であり、対話関係の構築のために意図して情報規制がかけられている可能性もある、そんな相手から持ち出された話題を機械知性が聞き逃すはずもない。


 些細な話題にすら関心を寄せて、それは話す側の承認欲求を強く満たす。世俗的な冗談にも付き合ってくれるため、話し手はますます依存度を高める。


 場違いな話題も受け流してくれるだろう、と警戒を忘れる。


 あからさまな動揺は、高性能な機械に対して隠しきれるものでもなく……。

 少々の問答により追い詰められた末、近い将来が約束された。




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