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黄昏の精霊たち  作者: 松谷若草色
精霊の出奔と出会い
5/17

ノアとエレオノール_新婚生活②

 二人で風呂に入った帰り途。

 おろしたての下着に身を包み、身体がほかほかしている。

 無性に浮足立つ。

 

 満天の星空が広がっていた。まるでこちらに向かってこぼれ落ちてくるかと思うほどだ。アルブの里から遥かに南に下ったと思ったのに、同じ空が見えるんだな。月も同じだしな。

 エレオノールは思う。


 今夜は月が明るい。あたり一面、青白い燐光を放っているようだ。

  

 家の裏手にきた。

 暗い中ノアが足で地面を探って、急にしゃがんで何かをひき抜いた。

 「今日は豆と根モノのスープでいいか?」

 と言って、白っぽい太い根のついた草をぶら下げている。

 「なんだそれ、食えるのか」

 「ああ。見たことないか」

 「あるけど、食べたことないな」と応える「もしかしてここは畑か?」

 「そうだ、アルブも畑は作るのか」

 ノアは根についた土を軽くふるって落としている。よく見ると、似たような恰好の草がたくさん生えていた。

 「暗いから分からなかった。畑は作るぞ、日当たりのよしあしに合わせて薬草や香草を植えたりな」

 言いながら、しげしげとノアの手にしているものを眺める。

 「野菜もたまに種を分けてもらって、このあたりに植えているんだ。何世代も継いでいる種もある。この根も甘くて香りが良い」

 「そうなのか、なるほどな。この辺じゃ実のなる木も、森に棲む動物も少なそうなのに、ノアがあんなにうまいものばかり食っているから驚いたんだ」

 ふふふとノアは笑って「そうだろう?百年棲めば色々工夫はするさ。でも動物は()れるぞ。エルの森より獲れるかどうかは知らないが」と付け加えてクリークの方へ戻った。

 じゃぼん、と音がする。ノアは採った野菜を洗っていた。

 

 「そうだ、エル。家の裏手に、ちょうどあの木がある。新しいのを()ってくか」

 「あ、あの木もあるのか」

 月明りの中、案内されてついて行く。「ほら」指さした先には白い樹皮のすらりと美しい木があった。

 そばまで歩いていって、二人でパンパンと木をたたく。

 「ほらな、これだろ」

 ノアが枝を断ってエレオノールに渡してくる。

 「おおお。本当だ」



 今朝がた。台所でエレオノールが歯を磨いているとノアが声をかけてきた。

 「アルブもそうやって歯の手入れするのか」

 手に持っている枝をさしてそういうノアは、あごに手をあてて興味津々にこちらを見ている。

 仕組みは簡単。

 まず、細い枝の皮をむいて干す。乾燥してから先端を叩きつぶすと繊維がぼろぼろと抜け落ちる。残った繊維を歯でしがんで柔らかくしていくと、ちょうどいい塩梅にブラシ状になるのだ。

 歯の手入れ――

 長命種族にとっては致命的な技術だ。歯がダメになったらあっという間に寿命が来る。

 エレオノールのそれを見てノアが反応したのだ。

 しげしげと眺めた後「その木、コイブか」と聞いた。

 「コイブ?ビョークだ」差し出すと、ノアは「多分コイブだ」と言った。

 「アルブでは、この木に歯の健康を守る精霊が宿ると言われていた」

 「そうなのか…俺もこの木を使う。名前は違うけど、同じなんだな…」

 というやり取りをしたばかりだった。

 二人で変な感心をしてしまい、面白かった。

 ビョークは南下するにしたがって少しずつ見かけなくなったからどうしようと思っていたのだ。

 枝を持って帰りながら、ここでも暮らしていけそうだ、とエレオノールは無意識のうちに考えていた。


 「ただいまあ」小屋の戸をあけて、小さな声で言ってみた。

 すると「おかえり」言いながら、ノアが後ろから入ってきた。

 エレオノールはひそかに微笑みながら燭台に明かりを灯す。ノアは暖炉に火を入れつつ、鍋の中身を確認していた。こうして少しずつ、ふたりの生活のリズムが出来ていくのだろう。そのことがエレオノールは嬉しかった。

 スープが温まり大根がやわらかくなるまで、はしゃぎながら他愛ない話をした。

 好きな食べ物の話……

 昔した恋の話……(エレオノールが語ることはなかったが、ノアは「かつての自分を振り返ると、同情や庇護欲求が高じてそういう気になることがあるな……」と言った。わたしに対してもそう感じたということだ。辻褄の合う話だと感じる)

 どんなことを話しても新鮮で楽しかった。大森林を抜けている間は、こんな風に人と話す幸せがなかったからな。

 二人でソファに腰かけて食べ始めるころにはすっかり部屋が温まっていた。

 エレオノールは気になっていることを聞いてみることにした。

 「なあノア。ノアはどうしてここにひとりで棲んでいるんだ」

 大根は独特の出汁(だし)がでるようだ、なかなか美味いな……そう思いながらノアを見やると、眉間にしわを寄せている。言葉を選んでいるようだ。

 「……どうしてってこともない。ただ流れに流れて人里の果てに来てしまったと分かった時、ここに棲もうと決めたんだ。

 水の流れと同じ――ぶつかれば涵養地(かんようち)となるように、ここに留まってしまった」

 言葉を切っていう。

 「なんとなく気に入ったんだ」

 エレオノールは黙って聞いていた。

 「タリオの連中は気だてがいい。最果ての村だからか領主――ノーザンメイア伯爵家というんだ――領主の覚えもめでたく、関係も良い」

 そう言って、ズッと茶をすすった。エレオノールは暖炉の薪がはじけるのを見つめていた。さっきから話に出てくるタリオと言うのは、ここから歩いて半日かからない程度の距離にある村のことで、今度連れて行ってもらえることになっている。

 ノアが核心を話そうとしないのはあえてのことだろう、分かる。

 エレオノールは口をつぐんでいた。ふと目が合う。

 「なぜ東方大陸からここにきた、だろ」

 声なくうなずいた。

 「――俺は……前にも言ったけど……失われた十支族の生き残りだ。ローム家の次男坊だった……東方の地では、かつて広大な地域を十二支族会議が支配していたんだ……エル、聞いたことあるか」

 「いや、東方の大陸のことは知らなかった」とこたえる。

 しばらく沈黙があった。

 火にかけていたやかんの(ふた)がカタカタとなりはじめる。ノアはしばらく無言でその様子を見ていたが考えがまとまったのだろう……やがて重たい口を開いた。

 「領主と領民のすれ違いがずっと続いていた……」

 ノアは黙って立ちあがり、やかんを火から遠ざける。

 「結局、俺の国では領民の蜂起(ほうき)が起きた……俺は全部いやになってしまったんだ。領民の都合も、領主の都合も全部……」

 言い淀んだ後、一息に言った。

 「正直に言って領民が十二支族に対して蜂起するのはもっともだとは思ったよ。あれだけの重税を課して、無理もない。民には不満と不安が渦巻いていた」

 ゆっくり言って、重たい息を吐く。

 「しかし支族会議の内部事情を見ていた俺には、ローム家や他の支族の都合も分かる。

 隣国や他の支族に攻め入られないように多方面に金を使っていた……渉外、防諜、諜報、工作、武力維持、経済政策……金はいくらあっても足りやしなかった」

 休みやすみそう言うノアは、眉間にしわを寄せる。

 沈痛な面持ちだ。

 ノアはいったん口を結んだ。エレオノールも何か言おうと思ったが、言葉が出てこなかった。 

 「十二支族会議が怖れていたことは、実際に起きた。それも全部いっぺんに。

 隣国――サマルシリアが攻め込んできたんだ。領民蜂起とあいまって、とてもじゃないが対応ができなかった。

 身内の中で、誰を信じられるのもわからないような状況だ。十二の支族のうち、十は失われた。俺はその混乱に乗じて……」

 

 と言って、ストンと肩の力を抜いた。


 「国を後にした。敵はサマルシリアだけじゃない、領民もそうだった。

 何もできなかった、戦うことすら。その気になれば、武装蜂起した連中は俺一人でも壊滅できたかもしれない……けど、相手がな――」

 遠い目をしている。

 「争いの発端はいつも不安と恐怖だ、それをとめる術を知らない」

 暖炉の火が明々と燃えている。薪がまたパチリとはぜた。

 エレオノールは、当時のノアの心境に思いを馳せて、身を寄せ肩に手をかけた。ノアも優しくエレオノールの肩を抱いた。

 「あとで分かったことだが、領民の武装蜂起は全てサマルシリアが裏で糸を引いていた。

 ――敵わないと思ったね。俺一人があがいたところで」

 一つ大きなため息をついて「あとは流れに流れて――」と肩をすくめて言う。

 お互いのことをぜんぜん知らない。わたしは彼のことを知らないし、彼もわたしのことを知らない。ただ心ひかれるままに一緒になったのだ。でもそれでいい。その衝動が人の縁を作るんだろう。そういうものだ。

 ちょっとずつ知るしかない。

 けれど――エレオノールは心配だった。

 ――私の事情を知ってなお、ノアはわたしをここに置いてくれるだろうか。

 「……一族を失って、ノアは寂しくないのか?」

 「いや、寂しいというよりも、あれでひとつの物語を終えたという実感が強かったな」

 と言って考えこんでいる。

 「確かに最初は悲しみもあった。けれどな……ここで素朴に暮らしているうちに俺の中で何か変わったんだ」

 「何かって?」

 「分からない。ただ単にこの地に癒されたのかもしれない。

 生命の営みには争いも内包されているものだ。争いもある……それから、それ以外のものもある」

 と言って茶をすすった。

 「あれは大きな流れの中で、起こるべくした起きた出来事だった……

 そういう風に考えられるようになったんだ。争いが悪いんじゃない。争いはただの結果だ。

 原因は、争いのずっと前に起きているもの……俺のいうことが分かるか」

 

 ノアはふっきれた顔をしてエレオノールの方を見た。


 「分かるぞ」とエレオノールは応えた。

 「そうか……もう百三十二の精霊で、乙女だもんな」とノアが笑ったので、叩いた。

 

 エレオノールにだって分かる。争いのずっと前にはじまっている不和があると。自分一人の力ではどうしようもない大きな流れがある、と。

 「なあ、わたしの話もしていいか」

 ノアに自分の全て聞いて欲しいという、この気持ちはなんだろうか。

 「ああ」

 エレオノールは無言で手を差し出した。ノアはそれを優しく握る。


 ――話せばここにはいられなくだろうか……

 

 互いに惹かれあっている。

 それは分かる。

 ノアの視線、ノアの態度、ノアの持つ空気がエレオノールにシグナルを出している。

 エレオノールと結ばれたい、と。

 自分もそうだ。すべてを聞いて欲しいという衝動は、何か自分の根源的なところから湧き出ているようで抗えそうもない。

 だから話そう。

 「春の終わり頃、アルブの長老会議があった」

 エレオノールは意を決して話を始めた。

 

 「その会議で南方大陸のラトランド大公を(しい)して、公国を滅ぼすという案が協議された」

 「ほう」とノアが目を細める「ラトランドはアルブと関係していたのか」

 「ああ、実は何十年も交易を重ねている。ラトランドは秘密裡(ひみつり)に進めていたようだ」

 そこまで言って、エレオノールはやかんから湯呑みに茶を注ぎ足した。

 ノアが自分の湯呑みを差し出してきたので、ついでに足してやると「ありがとう」と礼を言う。

 「連中が欲しがったのは特殊な魔物の皮や鉱物だが……何と言っても、一番は魔晶石だった。魔晶石って知っているか」

 聞くとノアは眉をひそめて言う。

 「ああ、みたことある……」

 「魔力をたたえた(あお)い石、山で採れる。魔晶石鉱脈があるんだ。アルブの里の中枢――マナハトウというところだ――マナハトウでは生活の中でも魔晶石が使われている」

 ほぉ、とノアが興味を持っている。

 「例えば灯りに使ったり、モノや人を運ぶときに使われたり……本当にちょっとしたことに便利なんだ」

 「いいな、確かに便利そうだ。あれがそんな風に使われているのは見たことがない」

 「知っているかもしれないが、使うごとに消耗もしていく。そうだな、ちょうど薪みたいにな。だからすぐ近くで採れなければ、暮らしに取り入れるようなものじゃない。だから当初……ラトランドが魔晶石を欲しがることについてアルブでは、ラトランドの連中がちょっとした興味本位の贅沢をしている、くらいにしか考えなかったらしい」

 そこまで話して、エレオノールもノアの真似をして茶をすすった。

 ニグスリノの淡泊で香ばしい香りが広がる。エレオノールはすっかりこの茶が気に入った。


 「だから連中が魔晶石を武器にしているとは思いもよらなかったんだ。長年かけて開発したらしい。ラトランドの特使が、ある日いつものようにやってきて、それを使ってアルブの人を脅したんだ――鉱山の場所を教えなければ命はない、と」

 ノアの表情はよく分からない。目を(つむ)って上を向いていた。

 「どんな武器だ」

 「かざされると焼き尽くされる……脅しを受けた時の長老の怒りもすさまじかったが、それよりもアルブの戦士たちの動きの方がはやかった。あっという間にラトランドの連中をとりかこみ、一気に争いになった」

 ふうむ、なるほどな――とノアは口の中で小さく呟いている。

 おもむろに立って明々(あかあか)と燃えた暖炉に薪を一本くべ「それで」と続きを促す。

 「うん、それで――わたしも戦ったよ。目の前で何人かやられた。

 誇り高い戦死とはほど遠い死にざまだった。身体が黒く焦げて縮こまり……開いた口が……なんだ、その……魔力も持たない連中に跡形もなく焼き尽くされたんだ……

 ラトランドの特使の連中は戦士ではなかったと思う。なのに、アルブの手練れを何人も葬った。

 わたしも夢中で応戦しているうちに、連中はみな屍になっていた」

 いったん言葉を切ったエレオノールにノアは「なるほど――」と相槌をうつ。

 相変らず目を瞑って上を向いているが、眉をひそめている。

 「その後、アルブの枢軸会議が設けられた。主題はもちろん、ラトランド特使を全滅させてしまったが、今後どうすればいいのか、だ。

 あれはものすごい武器だった。聞けばラトランドの軍勢には、あの武器があますところなく支給されているという。連中の言い草が本当なら、だが……

 そんな軍勢に攻め入られたらひとたまりもない。わたしはラトランドと揉めるのは反対だったんだ――なんか分からんが、なんといえばいいか……わたしには何か裏があると思った」

 「それはそうだろう。わざわざ他国に侵攻するには理由がある」

 「ノアもそう思うか。私はラトランドとことを構える前に、その内情を掴まなければいけないと思ったんだ。しかし――」

 何といえばいいだろう…

 「それを主張した時の……その時の怒号は忘れられん……」


 『攻め込んできた賊徒のねぐらを叩こうという時に……』

 震えながら長老の一人がエレオノールに向かってわなないた。

 『言うに事を欠いて事情を聞こうとは何事ぞ!!!』


 「だろうな……けれど俺は――エルが賢いと思う」

 「ありがとう。しかし、その後に開催された長老会議で、話は信じられん方向に転んだ。

 実はわたしはアルブの主戦力のひとつに数えられているんだ……ノアも分かると思うが……精霊召喚ができる者は特別だ。

 長老会議ではわたしがラトランド侵攻に反対する件で、揉めに揉めたらしい。結局偉い爺さまや婆さま達の前にわたしも召喚されてな、色々と聞かれた。

 なんというか…うまく受け答えが出来なかったんだ」

 「自分に猜疑心を抱いた者の前に立たされた時、まともに受け答えなんて出来ない……」

 ノアは、表情のよめない顔でそう言う。

 「本当にその通りだ……会議の最後、長老が言った――」


 『雷公カンナが宿る肉体を天地に(かえ)(たてまつ)り、あらためて精霊召喚してラトランド公国を滅ぼすか…?』


 「つまりわたしを――」

 ――今でも信じられない。

 「(しい)して、精霊に還そうとした」

 

 ノアは眉をひそめたまま「それはアルブではよくあることか?」と聞いた。

 「前例が全くないわけではない。しかし何千年も語りつがれるような珍しい話だ」

 鼻の奥がいたい。


 涙が出てきた。


 「ラトランドへの侵攻には強烈な違和感があった。長老がどういおうと、私には納得がいかなかったんだ。その場でアルブの里を離れる決意をした。お母様にすら挨拶できなかった」

 エレオノールの涙を、ノアが指でぬぐう。

 「多分、すぐに追手がかかった。けれどわたしに追いつける者はアルブにはいない。夢中で逃げたが、それでもおそらく一か月くらいは尾けられていたと思う」 

 「もしかしたら、今もまだ狙われているんじゃないか?」

 感情のよめない声音でノアが聞いた。

 「多分そうだ。今まで黙っていたのは――ずるかったかもしれない。ノアの身に危険が及ぶかもしれないことだから……」

 理性では分かっていた。けれどエレオノールはノアと一緒にいたかった。ここ数日、ずっと言いあぐねていたのだ。

 「ノア、わたしも百年以上生きているんだ。いまさら腹の探り合いをするような年齢でもない。ノアと私……お互い心が繋がり始めてしまっているよな?」

 聞くと「そうだな」と言った。握っている手に力がこもる。

 「わたしは――ただ、本当に身体が結ばれる前にきちんと話しておかなければいけないと思ったんだ。もしも私がここにいられないのならば……」


 はっ――エレオノールは小さなため息を吐いた。

 「今、離れる方がお互いのためだから」


 声をひそめてノアはいった。

 「もし追手が来たら、俺が何とかしよう」

 エレオノールは、ノアがそんなことを言うのだと分かっていたような気がした。

 「ふふふ、ありがとう。頼もしいな」もう片方の手で涙をぬぐった。

 「アルブの戦士がどれだけ使えるか知らんが、結構使えるんだぞ、俺も」

 と言って、両手を掲げた。

 「だろうな、その時は一緒に戦ってくれるか……精霊召喚の使い手が二人いたら、実際かなりやれるだろうしな」

 「ああ、もちろん」

 二人で忍び笑いをした。

 

 エレオノールが身を寄せると、ノアは肩を抱いてくれる。

 「エル……エレオノール」

 「なんだ?」

 「よくここに来てくれたな」

 「ふふふ、おかげでノアに会えた。逃げてきれてよかった」

 「ノア……」

 「なんだ」

 「わたしは、その――厄介ごとを背負った女だ」

 「そんな風に自分を卑下するな」

 ぴしゃりと遮られる。

 「こんなにいい女をそんな風に扱うなんて、俺には信じられない。俺から言いだしたことだ。もう一度言おう」

 そう言って言葉を切った。

 ノアはたっぷりと間を持たせた。エレオノールは黙って待った。

 おもむろに茶をすすり、そして言った。


 「ずっとここにいなよ、もしもの時はアルブにもラトランドにも、魔人の力を思い知らせてやるさ」


 そう言ってノアは優しく口づけをしてくれた。

 「なんでだろうな」

 なんで、こんなに惹かれあうんだろう。

 「ああ、なんでだろうな……」とノアもいう。

 腹の底が熱い。エレオノールは思う。

 「不思議だ」

 「なにが?」とノア。

 あんなに重たい話をした後なのに――

 「ノア、さっきのお風呂の続きをしてくれるか」

 言うとノアは微笑んで「もちろん」と応えた。

 

 わたしはきっと、今夜、ここで、ノアと、肉体的にも結ばれるんだ。

 堰を切って流れだす水のように、それは止められないことなんだ――

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