005
右手をライに掴まれ、膝の上にはフウが座る。面と向かって抱きつかれたまま馬車に揺られていく……。
「フウ、胸を顔に押し付けたら息が出来ない……」
「さーびす?」
「……。はぁ……」
くそ……ワンピースにノーパンで「さーびす?」とか、どこの露出魔だよ……。
「ライもフウみたいに大きくなりたいなぁ!」
「だめー」
「えー、フウだけなんてずるいよ!」
「……」
――お、ようやく離れてく――――
「ぼいんは、フウだけー」
薄っぺらい胸板から少しだけ膨らんだ胸を寄せるフウ。 「……」
ボインとは一体……。
「ライもやりたーい!」
フウの胸寄せを見たライが真似をするが――――
「……」
ぺたぺたと絶壁を確認して――――
「ない! ないよ!」
「ふんすっ」
ライの悲しい小さな叫びに対して、フウは自信ありげに鼻を鳴らした。
……。なにか子どもらしい遊びを教えてやらないと、このままではダメな大人になってしまう……。いや、年齢で言えば年上にはなるんだが。
「私もおっきくなりたーい!」
ライは手足をバタバタと振ってお願いしてくるが――――
「それは少し厳しいな」
「えー……」
フウが大きくなった原因がミスリルの武器だからなぁ……。値段が高い上にあまり売られていないんだよな……。
「ライもーライも大きくなりたいぃい!」
「いや、それどころじゃな――――」
小さく膨らんだ胸を寄せるフウがライへと放った一言は――――
「ないすばでぃ」
「ずーるーいー!」
「はぁ……フウはもう喋らないでくれ…………」
「やだー」
「――――さあさあ! 魔王ゼクス様のお通りだぁ!」
馬車の前方から声が響く。さっきまで聞こえてこなかった人々の声。
フウとライがまだ子どもみたいに睨み合っているが――――
「なにはともかく、久しぶりの町だな……」
王様のせいで町には帰ってこれなかったし、荷物も持って帰りた……いや、魔王城に荷物を持って行ってしまえば本当に我が家みたいになってしまう……。
「おーい、魔王さんよー」
馬車の速度がゆっくりになり、前の方から呼びかけられた。
「いや、名前で呼んでくれないか? 魔王って器でも見た目でも魔物でもないぞ」
「あいあいー、それでなんだが――」
人の話を聞いてない奴の返事だな……。
「王様が新しい魔王が誕生したからって、世界中に助けを求めてるって話だぞ」
「あー、はいはい」
どうせ人の話をきかない奴の話なんて大したことな――――
「世界中……?」
馬車の前の方からはおっさんの笑い声がする。
「世界中って、世界中ってなんだ!?」
焦ったせいで声が上ずってしまったが、そんなことを気にしている余裕はない。
馬車の小窓にかかっている布をずらしておっさん
「ん? 魔王さんは何も聞いてないのかい?」
「王様が俺に教えるわけないだろ……そもそも、町にも居ないんだぞ……」
「がっはっは! それもそうか!」
「笑いごとじゃないんだが……」
「まぁまぁ、そう言うなって。ついたら教えてやるよ」
「はぁ…………」
少しはゆっくりできると思ったが、先が思いやられる……。




