002
立ち上がってうんと背伸びをしていると、
「え、いいの?」
ライが俺の服をちょこんと摘まみながら見上げる。
「ああ、いいぞ」
って言っても俺が忘れていたのが悪いんだが……。
「わーい。ぜくすとおでかけー」
「――っておい、フウ……」
いつの間にかフウが背中によじ登っていた。決して、背中に柔らかいものが当たったから気づいたというわけではない。
「ゼクスお兄ちゃん、本当に連れてってくれるの?」
「ああ――――うん?」
ライが金色の綺麗な尻尾をフリフリと背中の後ろで振って――――――ん、尻尾?
「ライ、それは?」
「ん?」
ライは気付いてないのか、首を傾げてみせた。龍の姿で戦っていたときに見た尻尾と同じく、しなやかで金色に輝いている。だが、大きさは今のライに丁度いい具合になっている。
「ライ、しっぽでてるー」
「え――」
バッと勢いよく振り返ったライが「はわわ!」と――その横顔は真っ赤になっていた。どこから、どの辺りからあんなものが生えたのかが気になるが……。
しゅるしゅると服とズボンの間に収納されていく尻尾。それを見送っていると、赤面したライがもじもじと唇を動かした。
「み、見えた……?」
「あ、ああ」
「うん」
「うぅ……」
あわわと真っ赤な顔を両手で覆い俯くライ。それよりも――
「尻尾って出したりしまえたりするのか?」
「う、うん……」
「フウもできるよー」
「そうなのか。でも、どうしてライは照れているんだ?」
「え、えっと……その……」
ライに問いかけるが俯いたまま答えてくれない。
「あのね、うれしいとしっぽでるー」
なんだその新情報は……。
「ライ、そうなのか?」
「う、うん……まぁ、そういう感じ……です……」
しゅんと俯くライがぎこちない言葉でフウの説明を肯定する。
「なんでそこまで恥ずかしがるんだ?」
「えっと、こっちの姿に慣れてるから、なんか恥ずかしくて……」
なんだその可愛い理由は――じゃなくて龍らしからぬ理由は……。
「でもまぁ、そんなに行きたかったのか。すまなかったな」
「ち、ちがうんだよ!? 別に楽しみにしてたとかそういうんじゃなく――んひゃ!?」
ライを持ち上げてっと――――やっぱり軽いなぁ。
「わーい! 抱っこだー!」
腕の中で満面の笑みを浮かべるライがバタバタと嬉しそうに暴れる。
「ライ、ずるいー」
フウはいつも通り、いつの間にか背中にくっついていた。だが、ライが羨ましいのか、ひょっこりと俺の顔の横から頬ずりしながら文句を言う。
「フウは背中があるから良いでしょー!」
「フウも、ほんとはまえがいい」
「今はライの番だもん!」
「むぅ……ゼクスはフウの」
「お兄ちゃんはみんなのだもん!」
「やだー」
「頼むから耳元で言い合いをしないでくれ……」
子どもが一人ならまだ世話できるかもしれないが、子どもが二人というのは少し疲れるな……。
親というのは大変な生き物なんだなと思いつつ。
「とりあえず他のみんなに伝えとこうか」
「はーい!」
「ごーごー」
「……」
二人に抱きつかれながら塀をくぐって城の方へ。
上半身をフウとライに押しつぶされそうになりながらも、なんとか城の扉を開けて中に入った。
「おーい、誰か居ないかー」
周りを見渡しながら声を張ってみるが、特に返ってくる気配もない。
そういえば、アリシアと一緒に訪れた時もこんな感じだったな。抱っこしているのは四天王だが……。
「みんな部屋にでもいるのか?」
「かなー?」
俺の顔の目の前でも、ライが一生懸命に辺りを見渡してくれた。
「……ん?」
左側の扉、フウ達の部屋がある廊下に繋がる扉が少しだけ動いたように見える。
「……あれ、ゼクス?!」
扉の隙間から顔を覗かせたのはアリシアだった。
「アリシア、丁度いいところに」
三人一組でアリシアに近寄ろうとする。
「あ、ちょっと! い、今は近付かないでほしいかな!」
扉の向こうからは焦るアリシアが必死になっている。
「そう言われても、この距離だと話しにくいんだが」
言いながらアリシアの方に近付いていく。だが――
「こ、来ないで、お願いだから!」
頬を赤くするアリシアに俺とライは見つめ合って「うん?」と首を傾げた。ライもいつもと違うアリシアの様子に「ほへ?」と頭の上に疑問符を浮かべている。
「どうしたんだ?」
「いや、あの、その……い、色々あるの! とと、とにかく、それ以上はダメ!」
あと数歩で扉に手が届きそうだが、止まった方がよさそうだな。
「ねえねえ! お姉ちゃんも一緒に行こうよ!」
「え? どこに?」
「ぜくすがね、まちにつれてってくれるのー」
アリシアの問いかけに答えたのはフウだった。ライの言葉にフウが返すあたり、なんだかんだ言って二人は仲が良いんだろう。
「え、町に行くの?」
「ああ、フウとライに約束してたんだ。アリシアも行くか?」
「行きたいけど今はちょっと……三人で行ってくればいいんじゃないかな?」
なんだか落ち着かないアリシアの様子に違和感を感じる。
「えー、お姉ちゃんも一緒がいいなぁ」
「ご、ごめんね! ライちゃんとはまた今度行こうかな!」
「えー……」
一瞬、ドロッとしたような感触がして、項垂れたライの体が柔らかかったからなのか、溶けるように地面に着地したライ。
手持ち無沙汰なのか、フウが俺の顔に頬ずりしてくる……。
「お姉ちゃーん」
「ラ、ライちゃん?」
アリシアの前に立つライが扉を掴んでアリシアを引っ張りだそうと試みている。
「ねーねー、行こうよぉー」
「ちょ、ちょっとライちゃん!」
頑なに顔だけしか出そうとしないアリシアを見て――
「そういえば……」
ふと、ここに来た時にビキニアーマーを着ていたことを思い出した。
「アリシア、お前また変な服でも着てるのか?」
「そ、そんなことないよ!」
「んじゃ、なんで――」
――バンッ!
「えっ……」
アリシアよりもライの方が力が強いことが分かったと同時に――裸のアリシアが現れた。
ライのせいで――じゃなく、ライの体でアリシアの大事な部分が見事に隠れている。
「きゃ、きゃぁっ!」
「お姉ちゃんなんで裸なの?」
「ラ、ライちゃん閉めてよぉ……」
「でも、一緒におでかけしたいもん!」
しゃがんだアリシアがライの股の間から見え――そうになるが、ライもしゃがんだせいで――じゃなく、しゃがんだことで防がれた。




