001
ゼクスが前にフウとライを町に連れて行こうとしていたので、落ち着いたゼクスが二人を町までご案内!
王様との決闘にもならない勝負から一週間、セバスチャンからの連絡もないまま、俺は充実した日々を過ごしていた。
セバスチャンが本当に圧力をかけているのか、刺客が来ることもない。こんなにゆっくり過ごしているのは久しぶりだ。
念のため、毎日午前中は広場を見渡せる塀の壁にもたれて、アリシアやフウたちと時間を過ごしていた。
エンもスイと仲良くデキてるみたいだし、俺が手助けする必要もなさそうだ。
「はぁ、今日も特になにも無しか……」
「ぜくすー」
「ん?」
広場と城を隔てる塀の陰からひょこっと顔だけ覗かせたフウがぱたぱたと走り寄ってくる。白いワンピース姿で現れたフウは、足を伸ばしていた俺の上に向かい合うようにして座った。
「こういう時は逆だと思うんだが……」
「はんたいむいたら、ぜくすのこと、みれないよ?」
胸元にスリスリしながらいつものように甘えてくるフウ。
「結局、抱きつくなら顔見れないだろ」
「んん……あったかー♪」
「……」
フウの彼氏か旦那になる奴はきっと苦労するんだろうなと思いつつ、晴れた空を眺める。
そういえばフウがミスリルの武器を吸収して成長したなら、他の四天王たちも成長するんだろうか。
「ゼクスお兄ちゃーん!」
「ん?」
明るい声に横を向くと、ライが笑顔で手を振っていた。はにかむライに自然と頬が緩んでしまう。
「むぅ……ぜくすはフウの」
「んぐっ……んん!?」
腰を浮かせたフウに胸元で抱きしめられ、ほんのりと膨らんだ胸に顔が埋ま――
「フウばっかりズルい! ライもやるー!」
「お、おい――」
横から勢いよく飛び込んできたライがジャンプし、シャツの裾をひらひらとはためかせ――
「ちょ、ま、まて――」
右手で待ての合図を送るも間に合わず、上から覆いかぶさるように突撃してきたライによって、俺とフウは横に倒された。
「いてて……フウ、大丈夫か?」
「だいじょーぶ」
片腕を枕にしてなんとかフウの頭を守ったが――――どの態勢でもスリスリは止めないらしい。
ん……? 妙に生温かい手触りと妙な突起のようなものが――
「あんっ……お兄ちゃんくすぐったいよぉ……」
仰向けになった俺の上には楽しそうに笑うライ。そして、そのシャツの下から俺の手が滑りこんでライの柔肌に触れていた。
「す、すまん……」
急いで手を引いて地面に下ろす。こんな絶壁のような胸でも、意外と柔らかいものなんだな……。
「えー、もっとやってやってー!」
「いや、これ以上は色々とマズいから……」
「えー……もっとやってほしいなぁ」
落ち込むライが胸元に手を置いて腰を動かし始める。服の上からでは分かりにくいが、俺の下半身の真上でその動きはマズい。
「ねーねー」
「お、おい……男に馬乗りで腰を振るんじゃない」
「えー、なんでダメなのー?」
前後に振られ続ける腰。
ライの純粋な眼差しが痛い……。
「はぁ、とにかくやめてくれ……」
あぁ……、二人が四天王の龍だったなんて未だに信じられない……。無邪気にじゃれてくるペットというか子どもというか――――
「んじゃ、ライも抱きつくもーん!」
「む……ぜくすはフウの……」
「ちょ、お前ら……」
フウとライに顔を挟まれ視界がまな板に包まれる。
柔らかいのか硬いのか分からない胸が顔に押し付けられていく……。
「らい、はなれて……」
「やだもーん!」
「むぅぅ……」
頭上では平和な争いが始まろうとしていた。
「……二人とも、離れないと撫でてやらないぞ」
「なっ……」
「えっ……」
元四天王でもある二人を止める一番手っ取り早いのがこんなセリフだなんて……。町の人たちが聞いたらどう思うだろうか……。
「……」
ピクッと動きを止めた二人がよそよそと左右にぺたんと座りこむ。
いつものように撫でてやると、二人とも幸せそうな顔をしながらすり寄ってくる。
ずっと大人しくしてくれればいいんだがな……。
「なでなでー」
「そんなに気持ちいいのか?」
「しあわせー……」
目を瞑りながら呟くフウ。その反対側の手にはライが居る。
「あっ――」
ライが何かを思い出したかのようにハッとした。
「どうした?」
「う、ううん! なんでもないよ!」
顔を横に振って必死に否定する感じがなんとも怪しい。
「何かあったのか?」
「だ、大丈夫だよ!」
「――――ライねー、おでかけしたいってー」
「お出かけ?」
「フ、フウ! 言わないでって言ったのに!」
困り顔のライがフウをジト目で見つめ、むぅっと頬を膨らませた。いつも笑顔のライが拗ねるのは意外と珍しい光景だな。
……そういえば町に連れて行ってやるって言ってたな。
「すまない。町に行く約束をしていたんだった……」
セバスチャンも刺客も来ないから安心してすっかり忘れてしまっていた。
「ち、違うよ! ライは別に楽しみになんかしてないよ!」
あたふたしながら服にしがみつくライの目は……そうは言っていなかった。
今にも立ち上がろうと両足を揃えてしゃがみこむライ。その目は輝き、珍しく鼻息をフンスと立てている。
「すまなかったな……」
「う、ううん! だいじょ――――――んん~♪」
心からの謝罪とナデナデによって、なんとかライの顔に笑顔が戻った。
まぁ、特にやる事も無くて暇だし。
「よし、今から行こうか」




