006
「どうした」
「……四天王も魔王も倒したのに褒美一つやらずに王様が、俺に対してなんて言ったか知ってるか?」
「ん、なんだその話は……」
あの野郎、大事なことはなにも言ってないのか。
「あのクソジジイは俺を『追放する』って言いやがった」
「なんだと? それはなにかの間違いだろう?」
「いや、ハッキリと、この耳で聞いた。必死に戦って国のために頑張ったのに、あのクソジジイは追放するって言ったんだぞ……。これが黙っていられるか?」
「ふむ……そのようなことが……」
「そういうことだから、クソジジイに伝えておいてくれ『アリシアを取り戻したければ魔王よりも強い奴を連れてこい』ってな」
「……」
大男の落としていた斧を拾い上げて城の中に向かう。
「あ、おい、それは――」
「どうせ王様がよこしたミスリル製の武器だろ?」
「あ、ああ……」
「んじゃ、貰っていくわ」
「え、それは困――」
「王様になにかされたら、その時は俺の所に来ればいい」
「……」
「んじゃ」
追いかけてくる素振りも見せず、大男はそのまま俯いていた。
「……っと」
城の中に到着っ。
「ゼクス!」
「ああ、魔王か」
扉の陰に隠れていた魔王が俺を見上げていた。
「ああ、じゃないわよ!」
「ほら、これ持ってくれるか?」
「な、なによ……!」
あ、そうか。こいつ寝てたからフウが大きくなったの知らないのか……。
「ミスリル製の武器だから力を吸収できるのかなって思ってさ」
「ふんっ! そんなもんじゃ力なんて溜まらないわよ!」
「まぁまぁ、そう言わずに」
床に置いた斧がドシン……と音を立てる。
上の方で斧の持ち手を支える。が、魔王は持てそうになかった。
「こんなの……持てないわよ……!」
諦めた魔王は、斧の棒の部分に手足を巻きつけ始める。
「なにも、起こらないな……」
「もー! なにがしたいのよ!」
「いや、力が取り戻せるかもと――――ッ!」
フウの時と同じように斧が輝きだした!
「え、なにこれ! なにこれ!?」
涙目で慌てだす魔王。
「そのまま引っ付いてろ」
「そ、そんなぁああああああ!」
強い光が視界を奪ったあと――
「……魔王、大丈夫か?」
「え、ええ……なんなのよまったく……!」
……、ぼやけた視界の目の前に居たのは――
「あれ、なんで成長していないんだ?」
「成長? なによそれ! 眩しくて目が……」
斧は消えている。でも、魔王の姿は子どものままだった。
「ちょ、斧どこ行ったの……」
ふらふらと手を前に出しながらこっちに向かってくる魔王。
「お、おい」
「な、なによ、どこに居るのよ……って」
「ちょ、まっ――っ……!」
「なにこれ……」
クソッ……。俺の息子が――
「に、握らずに放せアホ……!」
「アホってなによ! あんたのせいでしょ!」
「分かった! 分かったから放せ! 放してくれ!」
「服の向こうになにこれ……」
「いいから! 確かめようとせずに放してくれ!」
「放せって……そんなに……放し、て……ほ……」
ああ、掴んでいるものを魔王が見てしまった……。
「は、はわわ……!」
だから放せと言ったのに……。
「変態! アホ! 斧を掴ませておいて、そんなものまで握らせるなんて!」
「お前から掴んできたんだろうが……」
「もー! 絶対に許さない!」
ポカポカと、振り上げた両手で可愛く殴りつけてくる魔王。
「はいはい、悪かったって……」
「なっ! 撫でてもダメ……なんだから……」
「よしよし」
「むぅ……! ズルい! このタイミングで撫でるなんてズルいわよ!」
「はいはい、もうズルくてもなんでもいいから……」
静かにしてくれ……。
「ふんっ! 仕方ないわね、今回だけは特別に許してあげるわ!」
「はいはい」
「はいはいってなによ!」
「……」
ああ、口を開けばなんでも突っ込まれそうだな……。
「なに無視してんのよ!」
「……」
「無視すんな! ねえ、ちょっと! 聞いてんの!?」
黙ってもダメだったか……。
「ぜくすー」
「ん……?」
後ろからフウの声。撫でたまま振り返るとアリシアとフウがこちらに駆け寄ってきた。
「ゼクス、もう大丈夫なの?」
「ああ、終わったよ」
「ぜくす、だっこー」
「いや、それはちょっと……」
アリシアの目が怖いからできない……。
「ちょっと! 手が止まってるわよ!」
「え、ああ、すまん」
……なんで俺は謝ったんだろうか。
「ぜくすー、なでてー」
「お、おい、フウ……」
「手を動かしなさいよ!」
「え、ちょっと待て――」
「ゼクスー! 私もー!」
「ア、アリシア! 待て――うぁっ……!」
「きゃっ……!」
「わー」
抱きついてきたアリシアによって全員が倒れ――
「んぐっ! んんん!?」
顔がアリシアの胸で覆われ、右手にふにふにと柔らかい感触が――
「ぜくす、そこ、おっぱい……」
「んんっ!? んぐっ!」
左手の指がなにか濡れたものに包まれて――なんだこれ――
「……んぁっ――――ちょっと! 口に手を突っ込まないでよね!」
魔王の口かよ……。
「ゼクスは私のだもん!」
それどころじゃない……。
「…………」
アリシアに抱きつかれ、顔はたわわな胸に包まれ、フウの慎ましい胸を片手で触り、魔王の小さい口に手を突っ込み……。
……あれ、もしかしてこれってハーレムじゃないか?
俺はアリシアと二人きりの生活を望んでいたのに……。まだ二日目だぞ、これから先どうなるんだ……。




