003
「フウも早く離れ――」
ふにっ。
「あぅ……、ぜくす、そこ、おっぱい……」
「す、すまん……じゃなくて!」
「ん?」
ダメだ……、フウと居ると調子が狂う……。
「フウは部屋で待ってろ」
「……」
お、素直に下りてくれた。
「フウもいっしょにいくー」
大人しくするかと思っていたフウ。だが、次の瞬間には背中に飛びついていた
「ちょ、その恰好で背中に張り付くなって……!」
「フウ、ぜくすてつだう」
「……手伝ってくれるのか?」
「うん」
「……」
手と足を使って自力でしがみ付いているフウ。その姿はへそ出しシャツに白パン……。置いて行った方が良い気がする……。
「フウ、一人で行くから下りてくれ」
「やだ」
「頼む」
「やだもん……ぜくすといくー」
「うっ……」
フウの腕が締まる……。
「わ、分かった……分かったから……」
「やたー」
死ぬかと思った……。
仕方ない、このまま追いかけよう。
フウの部屋を飛び出してライの部屋を開けてみる。
「ライちゃん! 私と一緒に二人で暮らそう?」
ベッドに座るライの前、しゃがんだアリシアが説得していた。
「魔王様とかみんなは?」
「私はライちゃんが居ればそれでいいの」
魔王は……。ベッドで寝ている魔王は要らないのか……。
「ライはみんなと一緒がいいー!」
「でも、ゼクスは私を捨てたのよ……緑髪の子と夜を過ごすなんて……」
「――おいおい、話が飛びすぎだろ」
さすがに聞いてられないので話に割り込ませてもらう。
「ゼ、ゼクス……」
「あのなアリシア、実は――」
朝方、魔法使いと戦ったあと、フウにミスリルの杖を持たせたら大きくなった。服を着てもらおうと部屋に戻ったが、大きくなったせいで合う服がない――と、アリシアにここまでの流れを説明する。王様が仕組んだことというのは内緒で。
話を聞いたアリシアが難しい顔で背中にしがみつくフウを見つめる。
「ほんとにそれがフウちゃんなの?」
「フウはフウだよ?」
「……。本当にフウちゃんなんだね……」
「分かってもらえてよかったよ……」
「でも……それでも……」
「どうした?」
立ち上がって目の前に迫るアリシア。
「ど、どうしたんだ?」
――ちゅっ。
「んんっ!?」
急なキスに焦って目を見開く。
「……っと、えへへ♪」
「アリシア……いきなりなにを……」
「朝のおはようだもん……」
頬を膨らませて、後ろで手を組むアリシア。その可愛さと突き出された胸の破壊力に、頬が熱くなってしまう。
「そ、そうか……」
「うん……」
……。
恥ずかしい……。
「ありしあ、ずるーい」
フウが後ろから呟く。
「……ん?」
フウの手が俺の頬に当てられて横に向けられる。
「ちゅ~~~♪」
「んん~!?」
長い! フウのキスが長い!
「ぁあああああああああ! フウちゃん! 私のゼクスー!」
「ん~! んん~!?」
「~~~……ぷはぁ♪」
ようやく解放されて空気を吸う。アリシアはあわあわと泣きそうになっている……。
「フウ、なにをするんだ……」
「フウもぜくすしゅき」
「……」
頬をくっつけるフウと泣きそうなアリシアが睨み合う。まだここに来て二日目なんだが、この先どうなるのか不安だ……。
「フウちゃん!」
「なに?」
「私と勝負して!」
「ア、アリシア、急になにを――」
「いいよ?」
「フウまでそんな――」
「審判はゼクスに任せる! 勝負の内容は――」
「おい、そんな物騒なこと――」
「ゼクスは黙ってて!」
「はい……」
怒ったアリシアは王城の召使いのミーシャですら止められない……。触らぬ神になんとやら……。
「勝負の内容は、ゼクスを満足させた方が勝ちよ!」
え、それってどういう意味で――
「わかったー」
ひょこっと背中から下りたフウがアリシアの前に立つ。
「アリシア、俺はアリシアとしか、その……そういうことはしないというか……」
フウたちが居る前で言っていいのか……?
チラッとライが座る方へと目を向ける。興味がないのかベッドで寝ている!
「ゼクス、なにを言ってるの?」
「いや、その、俺はアリシアとしかヤらないというか……」
「ん? 私はただフウちゃんと料理対決しようと思ってるだけなんだけど」
胸の谷間にフウを抱き寄せたアリシアと目が合う。
「え?」
「……ゼクス、もしかして――」
「いや、なんでもない。なんでもないぞ」
ジト目で見つめるアリシア。その胸の中で不思議そうにこちらを見つめるフウ。
「ゼクスのえっち……」
「そ、そんな言い方されたら勘違いするだろ……!」
「フウはべつにいいよ?」
「え、フウちゃん!? どういう意味か分かってる!?」
「こうび?」
ド直球な言葉に俺とアリシアは一瞬石化していた。
「いやいや! ダメ! ぜったいダメ!」
「なんでだめなの?」
「大きくなったら――って少しは大きくなってるけど、ゼクスは私のゼクスだもん!」
「でも、フウぜくすしゅき」
「ダメなものはダメ――――――!」
目尻に涙を浮かべながら上を向いて叫ぶアリシア。
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