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ⅩⅥ 魔眼2












 エムレに下ろしてもらい、二人はセレンに駆け寄った。駆け寄ってくる二人を見て、セレンはうなずいた。


「うむ。最終手段はアイシェの魔眼じゃな」

「えっ」


 そう来る? 確かに、アイシェの恐怖と混沌の魔眼は強力だが。ロクサーヌは少しあきれる。

「頭が五つあるのよ。取りこぼしが出るでしょう」

「お前が魔法を使えばいいだけの話じゃろう」

「私の魔法に直接的な攻撃力はほとんどないわ」

 ロクサーヌがそう答えたことで、彼女が最悪、魔法を使うことを視野に入れていることが分かった。半世紀以上も魔法を使わないと言ってきた、その信念を曲げるほどの相手なのだ。

「そうじゃな。ひとまず、首を落とそうかの。わたくしとレイリで二つずつ。お前たちは一つを頼む」

「えっと……」

 こともなげに言われたが、魔法なしでロクサーヌは二つの首を落とせるのだろうか。弓矢しか持ってないけど。

「こちらは気にしないで、確実に一つ落として」

「わかった。アイシェ」

「う、うん」

 図ったように同時に魔法を放つ。ロクサーヌはぎりぎりと弓を引き絞っている。限界まで引き絞り、放たれた矢はラミャの首を一つ落とした。セレンの魔法がラミャの足を止めていたのもあるけど。人間やめてない、などと言っているが、十分やめている。


「追え!」


 小動物の形をした炎がラミャに襲い掛かる。火力は十分。アイシェの魔法だ。それを追うようにエムレがラミャに襲い掛かる。彼は魔法剣士だ。接近しないことにはどうにもならない。

「!」

 一気に距離を詰めたエムレだが、ラミャが口から冷気を噴出したために回避せざるを得なかった。アイシェの魔法も凍る。


「え、何あれ」


 しかも、ロクサーヌが撃ち抜いた頭も再生しかけている。え、どんな能力なの。別の頭が炎を吐き出した。ロクサーヌがセレンを抱えて後ろに下がる。

「それぞれの頭が違う属性なのかしら」

「四元素として、一つ余るのぅ」

「雷でも吐くんじゃないの」

 ロクサーヌが適当に応じながらセレンを下ろす。そのころには、ロクサーヌが撃ち抜いた頭が再生していた。雷を吐き出す。

「……あながち、お前の言うことも否定できんな。作戦変更じゃ。わたくしが攻撃をすべて引き受ける……おーい、シナン!」

「まだ終わってないぞ!」

「いや、いったん切り上げじゃ。お前とエムレで首をなんとかせよ。レイリ、アイシェ、おぬしらは援護じゃ」

「そんなセレンに残念なお知らせです」

「なんじゃ!」

「矢がありません」

 ほら、とロクサーヌが矢筒を見せる。確かに、一本しか入っていなかった……。


「だから! お前は! 詰めが甘いのじゃ!」

「あたっ」


 セレンが杖でロクサーヌを叩く。アイシェが悲鳴を上げる。

「校長! 無理です無理無理! 一人じゃ牽制にもなりません!」

 アイシェが魔法でラミャを一人で押しとどめるのは無理だ。シナンが術を切り上げてこっちに向かってきているのが見える。

「お前も何を言っておるのじゃ。お前は強い。心せよ!」

 強いって、魔眼が? 魔眼使ってみる? しかし、シナンが向かってきているので、彼にも影響が出てしまう気がする。たぶん、アイシェの魔眼はセレンとロクサーヌには効かないだろうけど。

 その時、攻めあぐねていたエムレがふと顔を動かし、シナンの方を見た。


「シナンさん! 後ろ!」


 シナンは素晴らしい反射神経でその魔法攻撃をよけた。エムレが叫んだ通り、背後からの攻撃だったのに。シナンを攻撃したのは。

「……人間?」

「ボケっとするな!」

 エムレがアイシェの襟首を引っ張り、ラミャの攻撃を回避させる。今度は風の刃だった。そして、ラミャ自体が突撃してくる。体当たりだ。受けたらひとたまりもない。

「愚かなり」

 何が起こったのかわからないが、セレンの魔法がラミャの動きを止めた。ロクサーヌが首の一つを抱えるようにつかむ。

「う……ぐっ!」

「え、嘘!」

 その華奢な体格のどこからそんな力が出てくるのか、ロクサーヌがラミャの体を持ち上げた。何度も言うが、素手だ。そして、魔法を使っていないので、自前の腕力ということになる。


「シナン! よけなさい!」


 先ほどからよけろと言われまくっているシナンは、やっぱりよけた。ロクサーヌがシナン……というより彼と向き合っていた魔法使いに向かってラミャを投げたので。

 マジで、投げた。

「マジか……」

「マジじゃ」

 アイシェの呆然としたつぶやきに、セレンから肯定の言葉が返される。ラミャは途中で分解され、代わりに魔法が飛んできた。セレンが魔法を使うが、やはりよくわからない魔法だった。その場が固定されているような、不思議な感覚。

 目に映ったそいつは、成人男性に見えた。背丈はそれほど高くはない。せいぜい、ロクサーヌよりも少し高い程度だろう。異様なのはその半身だ。

 何といえばいいのだろう。何かが融合しかけている気がする。見かけは普通なのだが、気配がまがまがしい。

「エムレ、アイシェ。逃げよ。わたくしたちが足止めできる間に」

「え?」

 セレンの言葉に、アイシェとエムレは驚く。彼女が焦っている気がした。思わずセレンの方を見る。

「いい目を持っているな、娘」

 すぐそばで声が聞こえた。先ほどの男が、ロクサーヌすら置き去りにしてアイシェに肉薄していた。


「アイシェ!」


 声はエムレのものだったが、アイシェをかばったのはシナンだった。アイシェの肩をつかみ、強く引っ張った。地面に倒れこみながら見たのは、シナンの体を触手のようなものが多数貫くところだ。しかも、彼は自分を貫く触手をつかんだ。こっちも脳筋か!

 エムレに抱きかかえられながら、アイシェはシナンがとらえた男の背後からロクサーヌが剣を振り下ろすのを見た。

「放せ!」

 男がシナンを突き放そうと暴れる。そんな男を一度切り捨てたロクサーヌは、シナンごと男を剣で貫いた。


「レイリ!」


 セレンの声に、ロクサーヌはシナンと男を切り離し、シナンだけを回収してその場を離れた。ここまで一秒にも満たない。そして、セレンが放った攻撃魔法が男を襲った。

「やった!?」

「いや、ダメじゃな」

 エムレがアイシェを抱きかかえたまま後ろに下がり、距離をとる。ロクサーヌが気を失っているシナンを地面に下ろす。大丈夫だろうか、と思ったが口にできる雰囲気ではない。

「お前たち、六十年前も二人で取り逃がした俺を、お荷物を抱えて仕留められると思うのか」

「そうさな。悪魔に身を売ったおぬしを、我々は『旧き友』の盟約により、放置することはできぬ」

 悪魔、とアイシェは口の中でつぶやいた。アイシェの恐怖と混沌の魔眼に反応したのはそのせいか。

「……私の魔眼、あいつには逆効果かな」

「お前、参戦しようとか考えるな」

「そこまで考えてないけど。逃げられなさそうだから、魔眼でけん制できればいいなって」

 この中にアイシェの魔眼に巻き込まれそうな人はいない。しいて言えばエムレが怪しいが、大丈夫だろう。たぶん。

 そっとアイシェは眼鏡をとる。久々に解放された魔眼が、力を振るいたそうにうずく。

「アイシェ! 魔眼そのまま!」

 背を向けていてもアイシェが魔眼を解放したことに気づいたらしいロクサーヌが叫んだ。


 と、男の体が腐り始めた。臭気が襲うが、アイシェは視線を男に向けたままでいた。

「毒……!?」

「薬を調合できるということは、毒も作れるということだ」

 エムレがアイシェに答えをくれた。それはそうか。

「……ちっ」

 男が一時撤退を決めたらしく、その場から離れた。緊張感から解放され、アイシェは崩れ落ちそうになるのをエムレの腕をつかんで耐えた。

「あ、シナン先生」

 エムレとともに駆けつけると、すでにロクサーヌがシナンの容態を見ていた。

「だい……」

 丈夫なんですか、と聞こうとした瞬間、シナンががばりと身を起こした。ひっ、とアイシェがおののく。

「……師範。一つ言いたい」

「何かしら」

「治るからと言ってむやみに刺さないでくれ。俺にも痛覚はあるんだぞ」

 しかも俺にも毒が効いていた、と言ったことから、ロクサーヌが剣に毒を縫っていたことがわかる。容態を見ていたのは、解毒剤を飲ませていたのだろう。

「内臓を避けたし、そんなに痛くなかったでしょ。ああ、セレン、大丈夫?」

「鼻血が出た。優しくしてくれ」

「何を言っているの」

 セレンは本当に鼻血を流していた。ロクサーヌがそれを無理やり止めて薬を飲ませているところに、学校の方から人が来た。


 そこに至って初めて、アイシェは自分たちが現世と隔絶されたところにいたのだ、ということに気づいた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


水の〇吸 捌ノ型〇壷!からの、漆ノ型雫〇紋突き!(違う)

ロクサーヌは怪力です。たぶん象をぶん投げられる。矢一本でラミャの首を落としたのは、魔法を使っているからではなく、単純にその膂力で限界まで弦を引き絞って放っているから。速度がえげつない。


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