選抜されし者 幸高 増也の日常
珍しく空には雲もなく満天の星空と白銀に染まる月が道路を仄かに照らす。
終電も終バスも逃し気力を振り絞って家路に急いでいる男がいる。
その男は幸高 増也26歳。
午前一時にコンビニで割引弁当と発泡酒を買ってアパートに帰る日々が続き、心も体もボロボロになっていた。
帰りを待っている同居人がいないアパートの部屋は暗く寒い。
「ようやく着いた」
自分に言聞かせるように呟く。
一人暮らしをしはじめてから独り言が増えた。
そろそろ独り言のレベルも上がり次のステージである一人ボケ一人突っ込みが出来そうだ。
何時もの様に部屋の明かりを灯しカーテンを閉めリーマンスーツを脱いでジャージに着替えテレビを付けた。
テレビからコミカルな曲と魔法や剣が飛び交うアニメが流れる。
「これ転生ものか……。異世界って楽しそうだな」
発泡酒を開け一気に半分を飲み机にガツンと荒々しく置いた。
「あぁぁ、この生活から抜け出せるなら転生でも何でもしたいわ〜」
盛大な独り言が彼の口から漏れる。
彼はテレビに何度も話しかけ微笑を浮かべ弁当を頬張った。
テレビのアニメが終わると同時に弁当を食べ終わり、明日の準備をして泥のように寝た。
『ピピピィッピピピィッピピピィッピピピィッ』
遠くから聞こえるアラーム。
ベッドからのそのそと出てアラームを消す。
「もうこんな時間か⁉︎」
何故かアラームの時間設定が狂っていた。
カーテンの閉まった暗い室内で素早く着替え、手に携帯とカバンを持ってドアノブを回す。
ドアを開くと外は仄暗くまるで夜のようだ。
「なんて暗さだ、今日は嵐でもくるのか……」
男はひとりごちると鍵を閉めた。
不意に手に持っていた鍵が消え、ドアノブも消えた。
そしてドアもアパートの壁も消え仄暗い闇が覆った。
「よく来てくれた、我が神殿へ」
不意に男性が背後から声をかけた。
振り返るとそこには見たことの無い大柄な男が佇んでいた。