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おかしな妖怪たち

「これを見て、絶対にただの変態よね」

 図書館のPCコーナーで妖怪紹介サイトを閲覧していた谷川美咲が、ディスプレイを指さしながら笑っている。

 つられて同じゼミの三上理がディスプレイに目をやった。

 表示されているページに画像つきで紹介されているのは尻目という妖怪。

 前期試験も終わり夏休み直前、PCコーナーには美咲と理以外に人はいなかった。


「人に会うと服を脱いで全裸になり尻を向けるんだって」

 全裸の男が四つん這いになって尻を突き出している絵は、妖怪というには滑稽すぎて、美咲は笑いを止めることができない。

「何だそれ、露出狂なのか? 尻に目があって光る? 小さな鏡でも付けていて、提灯の灯りを反射しているんじゃないか?」

「今なら、おまわりさんこの人です案件だよね」


「三上君、見て。こっちは『踊り坊主』だって。坊主がただ踊るだけ。坊主が踊っていれば驚くからって」

 次のページにも怖いとはとても思えない妖怪が紹介されていた。『笑える妖怪図鑑』というサイトなので美咲の予想通りだ。

「坊主のコスプレしたパフォーマー? 当時から色んな人がいたんだな」

 理は妙に感心していた。


「『肉吸』、これ、浮気の言い訳だと思う。キスマークを付けられたので、妖怪のせいにした不実な男がいたのよ」

「十八、九の美女か。ちょっと逢ってみたい気がするな」

「三上君、ちょっとやらしい」

 美咲は頬を膨らませて顔を顰めてみせた。

「見てみたいだけであって、肉を吸われるのはゴメンだからな。それに、美咲の方が絶対に綺麗だから」

「またぁ。そんなんで騙されないからね」

 二人は顔を見合わせて笑った。


「そうだ。山へ行ってみないか? 夜になれば星は綺麗だろうし、妖怪にだって出会えるかもしれない」

 理が自動車の免許を取って一年が経ち、無事初心者マークが外れた。それを機に日帰り旅行を楽しもうと、行く場所を探している最中に『笑える妖怪図鑑』に行き当たったのだった。

 理が近隣の山を検索すると、二時間も車を走らせると着く山奥のダムが観光スポットになっていた。山々に囲まれた緑の水をたたえるダムの縁に立つと、綺麗なこだまを返すことでも有名だ。今年は思った以上に猛暑になりそうなので、涼しい山に行くのも悪くないと理は思った。


「肉吸、出るかもしれないよ」

「そんなものが出たなら、俺が美咲を守ってやるよ」

 右の肘を曲げて力こぶを作ってみせる理。

「うれしい。じゃあ、決まりね」

 美咲はサムズアップで返した。



 前期試験の結果は悪くなかったので、美咲は両親から日帰り旅行の許可をもらえた。ただし、日付が変わる前には家に帰ることが条件だった。

「二時間で帰れるから、十時前に向こうを出れば楽勝だな。夜は道も混んでいないだろうし」

 美咲がそう伝えると、理は時間を逆算して、十分星空を堪能できると予想していた。


 盆が過ぎて帰省やキャンプの客がいなくなる頃、二人は寂れた山間に向かうことにした。

 今日の美咲のファッションはショート丈のパンツにカラフルなタイツ。上は無地のTシャツに鮮やかな青の薄手パーカーを羽織っている。山ガールの服装を参考にコーディネートしてみた。帽子も忘れていない。空気が澄んでいる山は紫外線がきついらしい。

「可愛いよ。美咲」

 父から借りた車で迎えに来た理は、美咲を見るなりそう言った。

 大学では地味な色の服を着ていることが多い美咲なので、理は彼女のショート丈のパンツ姿は初めて見た。

 理と美咲は正式に付き合いだしてまだ一ヶ月。初々しさを残している二人は、仲良く理の父の車へと乗り込んだ。

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