3話!
目を開けると、僕はベッドの上で寝かされていた。
干したての良い香りのする、大きく、弾力のあるベッドだ。
通常のシングルベッドの二倍以上の広さに、綿飴を思わせるフカフカの毛布と枕。
王様が使いそうな半透明のベージュのカーテン。
天井を見上げると、見覚えの無いシャンデリアが複数ぶら下げられており、全てに煌々と光が点っていた。
「え、なに・・・・ここ・・・・。」
無駄すぎる贅沢仕様だ。
あまりの豪華さに、一瞬理解が追い付かず唖然となるが、元来の寝起きのよさが幸をそうし、すぐに事態を把握する。
そう。僕はルナって子にアマネ荘に連れてこられて、逃げ出そうと思ったら、意識を落とされたんだ。
(ん、てことは、ここアマネ荘なのか?だとしたら、この無駄な豪華さにも納得がいくけど・・・)
僕が現状把握に頭を動かしていると、僕が起きたのに気づいたのだろう。三つの足跡が近づいてくる。
一つは重く、相当な大男だと予想され、残り二つは軽い女子供のもの。
僕がもそっと毛布を退かし、音の方を振り向くと、先頭の男が手を挙げて答えた。
「やあ、起きたか、ロン君。無事でなりよりだ。」
ずいぶんフレンドリーなボディビルだ。
「えっと、貴方は?どうして、僕の名を?」
「これは失礼、名前は娘から聞いたんだ。私の名前はアマネ・ロック・ボトム。一応このアマネ壮のオーナーをしているものだ」
アマネてことは、ルナのお父さんか。似てないけど。
僕はペコリと頭を下げる。
(第一印象は、)外見に似合わず、ずいぶんと物腰柔らかい人だ。
容姿は光に輝くスキンヘッドに、黒色の肌。山を思わせる筋骨粒々とした肉体を惜しげもなく曝し、サングラスが異常に似合う悪人面をしていた。
初めにロックの丁寧な挨拶を聞いてなかったら、間違いなく逃げ出していたに違いない。
僕は、謝罪の意も込めて再び頭を下げた。
「これは丁寧に。僕はロン・アンドラスです。アマネ荘には泊まりません」
「まあまあ、そう連れないことを言うな。これから同じ釜の飯を食う仲だ。」
「食べません!」
「まあ、それはおいおい納得してもらうとして・・・。おい、お前らも挨拶しろ。ルナは一度やったみたいだが、ついでだ。もう一度やっとけ。」
僕の拒否権ガン無視で話を続けるロック・ボトム。
ロンは、ロックの話の聞かなさぶりに、やはり親子だなと納得。
残りの二人も当然と言うように、その流れに乗る。
「私の名前はローズ・マリア。一応、科学者の端くれだ。」
そう言って礼をしたのは、目を疑うような格好をした痴女だ。
彼女は引き込まれるような黒紫色の長髪に、同色の瞳をした長身の女性だ。
顔立ちは整い、Sっけを感じる気の強そうなモデル顔。
さらに、下着の上に白衣だけと言うスーパークールビズを披露し。ロンの性欲を鷲掴み。
「え、ぇぇ!!あ、あの、その、ふ、ふ服を着てください」
「ん?ああ、気にするな。隠していない」
「いや、隠してください!」
全く恥じらいを見せない女と耳まで顔を赤くする男。
通常とは立場の逆転している二人に、アマネ父娘は笑いを溢す。
「な、なに笑ってるんですか!皆さんも同じアマネ荘の住人なら止めてください!」
「く、アハハハハ!いや、く、仕方ないよ、ロン君。よく言うだろ?天才と変態は紙一重って」
「言いません!変な造語作んないでください!」
「まあまあ、落ち着けよ。ローズの露出癖は今更だし、時期なれる」
「なれたくありませんよ!」
「まったくお前は面白い。ますます、この宿に入れたくなった。
ああ、もう知ってると思うが、俺の名前はアマネ・モモ・ルシーリア・ルナルーテ。オーナーの娘だ」
ルナはにこにこ笑いながら自己紹介をした。
着ている服は今朝会ったときと同じ、オレンジのタンクトップに、紺のショートパンツ。
ローズさんと比べると、さらにその貧乳ぶりが際立つ・・・とか言ったら殺される。
失礼極まることを考えながらも、ロンの頭はここをどう抜け出るかを考えていた。
(もう、ここがヤバいとこってのは分かってる。ルナもそうだけど、ローズさんはそれ以上。
この分じゃぁ、他にどんな変人がいるか分からない。)
ロンの常識と言うサイレンが、ここで流されたら終わる!と、訴え続け、しかしやはり、口八丁で抜けれるほど口は達者ではないので、強行突破でここを脱出するしか道はないと結論!
僕はおもむろに立って、ベッドを降りると、三人に改めて表明する。
「色々お世話になりましたが、僕はこれで失礼します。入居者なら他の人を探してください」
勢いで、うやむやにする作戦!
「ま、待て、ロン。金がないんだろ?」
「う、の、野宿でもなんでもします!」
「そ、そんなにいや!」
「いやです!」
僕がキッパリそう言うと、ルリは一瞬硬直し、ヨロヨロと倒れ付した。
え、なにこの反応ーーーー
ローズもロックも同様に唖然と倒れ伏す。
僕もさすがに言い過ぎたかな、と足を止め、後ろを振り返り、
「て、演技かよ!」
チラチラと慰めてくれと言わんばかりに、僕の顔をうかがってくる。
ーーー演技が臭すぎて、怒りしかわいてこない。
僕はガン無視して、扉を勢いよく開け、駆け出すように部屋をでーー、
「ーーーーうお!」
「きゃ!」
何かにぶつかった。
逃げ場を失った勢いを殺せぬまま、僕は無様に転倒。
ぐらんと視界が揺れ、痛みと衝撃で目眩がする。
ホント、今日は災難だ。
「イ、テテ!ッ!!」
「痛っ!」
滅茶苦茶痛い!
身体中が悲鳴を上げている。
しかも、何かこの床凸凹して、・・・・
それに、ムニュムニュ・・・・
(ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムニュムニュ?)
右手と頬の辺りに感じる至福の正体に気づき、僕の顔から血が引いた。
皆にも分かりやすく説明するなら、僕は今恐らくこのアマネ壮の女性住人の何者かの上に倒れ付し、谷間に顔を埋め、右手で右乳を揉みしだいていた。
これがもしローズさんみたいな変人だったらよかったけど、どうもそうではないみたいで、
「く、ん、ぁっ、・・・痛い・・・・どいて・・」
「す、すみません!こ、こここここれは、決してわざとでは・・・・」
僕は跳び跳ねるように、立ち上がった。腕は後ろで交差し、休めのポーズ。
気分は女性社員へのセクハラがバレた中間管理職だ。
僕はどんな罰が来るのかと、戦々恐々。
しかし、予想に反し、何の咎めもなく、ただ顔を真っ赤にして僕の横を走りすぎていき、
「ルリっち!変態が出たよ!」
と、泣きつくのだった。