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魔女と天使と悪魔憑き!  作者: 祇川
3/5

二話だ!

002:アマネ・モモ・ルシーリア・ルナルーテ


 彼女は息を荒げて僕の前まで来ると、ガシッと両肩を掴み、力一杯僕の体を前後に振りだし・・・・って、ぇ。えぇーー!


「ちょ、何ですか、貴女。痛っ!てか、力強っ!」

「え、あ!ごめん!つい我を忘れて」


 彼女は「アハハハ!」と男勝りな笑いを浮かべ、謝った。

 全く謝られてる気がしないけど・・・・


「悪ぃ、悪ぃ!そんなことよりお前宿屋探してんのか?」


 少女はバシバシとロンの背中を叩く。


 こんな状況で言うことではないと思うが、恐ろしいほど整った顔立ちの少女だ。

 流れるように艶やかなロングヘヤーに、桜を思わせるピンクの髪と紫の瞳。すらりとした体型で、(胸以外は)肉付きもよく、男勝りで活発な娘なのだと予想される。

 着ている服はオレンジのタンクトップにショートパンツと少年のような出で立ちだった。


「それは探してるけど・・・所持金銀貨四枚しかないですよ?」


「四枚?!結構あんじゃねえか?一ヶ月は泊まれるぜ」


「え?は?一ヶ月!一二日しか泊まれないって聞いたんですけど」


「ああ、そりゃ、ここら辺の宿は高いからな。でも俺んところはそれで一ヶ月なんだよ。興味があるなら付いてきな?ちょーど帰るところだ」


 顎をクイッと上げ、背中で語る女、《名前不明》

 ロンは流れで付いていきそうになるが、理性がそれを制止した。


 だって、おかしいだろ。

 二日の宿泊料金で一ヶ月OKなんて。

 ドッキリ大成功とか質の悪い悪戯だったり?

 いかんば本当にあったとしても、絶対ヤバイとこだ!


「まあ、気持ちはわかるけどな、物は試しだ。行って、気に入らなければ辞めればいいし。それにお前金ないんだろ?」


「う、確かに・・・。」


 それは紛れもない事実だった。

 このままでは野宿コースは避けられない!


(ぐっ、背に腹は代えられぬか!)


 ロンは覚悟を決め、少女についてくことを決める。


 それを見たリリアさんが慌てて止めに来た、

「絶対行かない方がいいわ!今日は私が止めて上げるから!」

 と、ロンの肩を掴んで。

 しかし、そこまで甘える訳にはいかないとロンは拒否。

 少女は我が意を得たりと、ひっぺがす。


 そのまま少女に腕を捕まれてロンはギルドを出ていった。



帝国歴 二十八年 睦月 二十日 十時 八分


 あの後僕たちは互いに自己紹介を終えて、雑談を交わしつつ、街道を西へと進んでいた。


 彼女の名は"アマネ・モモ・ルシーリア・ルナルーテ"。

 皆にはルナと呼ばれてるみたいだ。

 僕もそう呼べと言われたので、そう呼ぶことにする。

 そして、僕たちが向かっているのはアマネ荘と言う民宿だとか。


「あ、あのルナさん、今さらですけどアマネ荘ってどんな場所なんですか?」


「行けばわかるよ! 心配しなくても、それなりにデカイし、食事もちゃんとでる。いいとこだよ」


 ルナさんの話を信じるなら、アマネ荘という宿は部屋も大きく、食事も出て、その食事も健康的で美味しく、美男美女が泊まる最高の宿・・・らしい。


 さすがに丸のみにするほど僕もバカじゃない。

 でも、でもでもでも、ルナさんを見る限り"美男美女"って部分は嘘じゃないと思うんだ!

 かわいい女の子との共同生活!

 距離を縮める彼女と僕。

 寝起きのキスなんてしてもらっちゃって、愛妻弁当でお腹を満たす。

 まさに冒険者の醍醐味だ!


 不安もあるけど、やや期待の勝ったロンの足取りは軽い。

 そんなロンを意味深な笑みで眺めるルナは、更に足を速くする。


 ロンは気づかない。

 すでに二人は低級住宅街を抜けて、貧民街を通りすぎ、更に奥へと進んでいることに。

 回りに人の気配がしなくなっていることに。


「後五分くらいかな?」


 ロンの腕を引くルナは、ニコニコと笑っていた。


五分後。


「ようこそ!ここがアマネ荘だ!」


 僕の目の前では、ルナさんが小さい胸を反らし、自慢げに前方を指差している。


 彼女の指差す先には奇々怪々な建築物。

 お屋敷というに相応しい大きさを持ちながら老朽化が進み今にも崩れ落ちそうな廃墟。

 壁面には無数の蔦が勢力図を広げ、何やら怪しげな花まで咲かせていた。


 栄枯盛衰、盛者必衰、孤立無援、天涯孤独

 いくつもの四字熟語が浮かんでは消えていく。


「じゃ、じゃあ、一目見ましたし、僕はこれで帰らせてもらいますね」


「ちょ、ちょ、ちょっと待った!確かに外はこんなんだけど、中は凄いんだって! ね、ね!一度でいいから見てきなよ!」


 さらっと流れで撤退作戦は見事失敗

 腕を捕まれ、てか、関節を極められ悲鳴を上げる醜態だ。


「痛っ!イタタタタタタッ! ギブギブギブ! 見る!見る!見る! 見ます!見ます! いえ、見させてください! 中見させてください、今すぐに!」


「よ、よかったー!また逃げられちゃうかと思ったよ」


 ルナははぁぅ、と無駄に色っぽい息を吐く。

 その後、「ごめん!つい!」と謝りながら関節をはずしてくれて、しかし、腕はガッチリ掴んだままで連行するように僕を屋敷へ連れていった。


ーーーーー

ーーー


 アマネ荘の内装はいい意味で期待を裏切るものだった。


 入ってすぐに見えるのは螺旋階段と左右に続く広大な通路。ピカピカとまではいかないが、綺麗に保たれた廊下は毎日の苦労が伺える。

 廊下の左右には等間隔に同じ扉があり、貴族の御屋敷のようで、ルームシェアとは思えないほど静かで居心地がいい。

 窓外に広がる怪異な光景に目を瞑れれば、十分な・・・・いや、最高の物件と言えるだろう。


 おまけに、ルナさんみたいなカワイイ娘と同棲なんて!(※少し違います。)


「どう?見た目と全然違うだろ?」


「え、は、はい!」


 男友達のように気軽に接するルナに、自分のよこしまな考えが見透かされたようで、たじろぐロン。


「と、とても素敵な宿だと思います!」


「それじゃ、ここに住むってことでいいよな?取りあえずは、五年契約で! ああ、心配すんな。ここは浸けも利くからな!」


「えっ、と。はい。それでお願いします」


 ずいぶん急かすな?と思ったが素直に頷く。


「よしよし!そんじゃ、早速ここに名前を記入してくれ。 あ、そういや、書けないんだったか。俺が代わるから言ってくれ。」


「ロ、ロン・アンドラス」


「ふんふん。ロン・アンドラスだね。オーケー!じゃ、契約の証しとして此処に血印を押しーーーー」


 ペラペラと流れるような彼女のトークは異様な爆発音に打ち消された。


ーーードゴン、バリンバリン!!!トゴゴゴーン!!!!


 思わず、手を止める僕。

 事態の説明を求めてルナさんを見ると、アッチャーと額に手を当て、二階を仰ぎ見ていた。


「えっと、あのー。ルナさん?これは・・・・」


「あ、ああ、気にすんな。爆発なんて都会の宿じゃあよくあることだ」


100%嘘だと分かるフォローを入れ、笑顔を浮かべるルナさん。

僕はその影に黒いオーラを幻視。

背中に冷や汗が流れ、お尻の奥がキュンとしまる。


(に、逃げよう!)


僕がそう結論付け、足を引いた瞬間、ルナさんの体が三重にぶれた。

音の速度で僕の背後に回り込んだルナさんは、僕の左手を掴み、関節を極める。続いて、僕の首に右手を伸ばし、グッと胸元に押し付けた。


ヤバイ、息が・・・・でも、ちょっと役得かも?


小さい胸の膨らみを感じ、首を絞められた僕は、そんなことを思った。


次の瞬間ロン・アンドラスは意識を失った。





002裏話:とある受付嬢の心配


「ハァーーー・・・・・・・」


 冒険者ギルド一階、受付、第五窓口の机で、その女は溜め息を吐いた。


 時刻はすでに二十時を半刻ほど回り、ギルドはすでに閉館している。

 一階に彼女以外の人はおらず、電気も必要最低限を残し、全て消されていた。

 二階の宿屋から入る光でほんのりと明るさはあったが。


 女の名はリリア・アレンシュタイン。今朝早くロンの担当をした受付嬢だ。


「結局、今日は来なかったですね」


 リリアは溜め息の理由を吐露する。


 脳裏に浮かぶのはロンと名乗った新米冒険者だ。

 見るからに都会慣れしていない、純朴すぎる少年。

 都会の怖さも、厳しさも、少年は知らないのだろう。

 その少年の瞳には冒険への憧れと未知への期待しか映っていなかった。


 だが、それは少年に限った話ではなく、田舎出の者なら大抵がそうだ。

 皆、都会に来て、その荒波に揉まれて逞しくなっていくのだから、心配するのはお門違い。むしろ、平等を是とするギルド職員としては、贔屓と言われかねない際どい行為だった。


「でもなぁーーーー」


 それでも心配だから、リリアは就業時間を過ぎてなお此処にいた。


(あれから一度もギルドに戻ってこないなんて・・・・・)


 やはり、何か事件に巻き込まれたのだろうか?

 宿屋を見に行くだけなら一日も掛かる筈がないし、お金がないなら尚更仕事を受けに来るはずだ。

 しかし、蓋を開けてみれば、仕事を受けるどころかギルドにすら来ない始末。


(何やってるんでしょうか?まあ、ルナが一緒なら悪漢に襲われる、なんてことはないと思いますが)


 そのルナに襲われていたのだが、リリアが知るよしもない。


(明日、ルナに会ったら聞いてみましょう)


 そう結論付けて、リリアはようやく重い腰を上げた。

 その顔は晴れず、心配さが押して知れる。

 時間が許すなら、待っていたいと思っているに違いない。


「時間は時間ですし、これ以上はギルマスに怒らーーーー」


 リリアの重い独り言を打ち消したのは、涼やかな鐘の音だった。

 ギルドへの来店を示す合図だ。


 こんな時間に?だれです?礼儀の無い。

 眉を潜めて、扉を見る。


 瞳に映るのは月明かりに照らされた黒い影。

 軽装備に身を包んだ影は、かなりの低身だ。


「ごめん。ギルドってもう終わっちゃった?」


 重々しい登場と反し、すっとんきょな高い声。

 その後、ギギーと扉の閉まる音がして、ガチャガチナと鎧が擦れる音を遠慮なく鳴らしながら影は近づいてくる。


「仕事の完遂を伝えに来た」


 悪気なく言う影に、リリアの眉が更に狭まった。


「時間をみてください。時間を。受付時間は終了ですよ?」


「ごめん」


「はあ、ま、いいです。今回は特別ですからね?いくらギルド公認冒険者って言っても規則は規則なんですから!もう少し、自覚を持ってください!」


「む、心外!規則は守ってる・・・」


 黄金のプレートをリリアに渡しながら、影はぷQooと頬を膨らませた。

 リリアはそれにやれやれと溜め息。こりゃダメだ、と苦い顔。

 しかし、フトあることを思いだし、顔を気色に変える。


「そう言えば****さんってアマネ荘の人でしたよね?」

「ん、そうだよ。」

「じゃ、じゃあ、代わりって訳じゃないけど、ロンって子のこと聞いてきてほしいの?おねがい!」

「ロン? よく分かんないけど、分かった。任せる!」


 バンと胸を叩く影にリリアはようやく重荷が降りたのを自覚した。

(これで今日もゆっくり寝れそうだ!)

 そう思うと、時間外の仕事にも、腕が軽くなる。



******************


 しかし、この時リリアは大切なことを忘れていた。

 半月ほど前ルナが、食事中。「新しい入居者見つけて給料アップだ!」と息巻いていて宣言していたことをーーーー

 それを思い出していれば、リリアが悩み心配することも無かったに違いない。

 その事に気付いたリリアが自己嫌悪に落ち込むのは、これより数時間後の出来事だ。

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