幕開け
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大魔導師ファルコンの救世記。剣帝ルカリオの千二百戦記。魔王を討伐した勇者の英雄談。治癒魔法の先駆者であり救国の聖母マリアの悪魔病物語・・・。
この世界にはたくさんの伝説がある。
勇者。英雄。大魔導師。剣帝。ドラゴンスレーヤー。デモンキラー。などなど・・・
たくさんの称号がある。
剣と魔法の世界ーーマーズでは今日もそんな英雄を目指して、若き命が凌ぎを削る。
世は正に大冒険時代!
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000-プロローグ
突然だが、強くなりたいと思ったことはあるだろうか?
どんな平和な世界でも、男なら必ず持っている欲求。力への憧れ。
マーズにはそれを引き立てる餌が無数に転がっていた。
輝かしい英雄談。明確なる強敵と称号。戦うことを生業とする冒険者という職業。先輩冒険者の夢のような美談。
そんな世界に生きていれば、誰だって一度は思うはずだ。
自分もああなりたい!有名になりたい!力が欲しい、試したい!
だって僕も、そう思ったから!
親兄弟、友達は語るんだ。
冒険先でモンスターに襲われる少女と助ける自分。そこから芽生える甘い恋。
冒険の後、時おり入る酒場で看板娘と冒険談義。
助けたあの娘と初デート。
剣一本での仕上がり、夢のハーレム生活さ!
もちろん本気で言ってる人間は少ないよ。大成する冒険者なんて、ほんの一握り。
ほとんどの者は名も残さず、死体も無くし、闇へと消える。
つまりは、マーズジョークてやつさ!
それでも僕は憧れちゃった!
親兄弟には止められたけど、僕の決心は揺るがない!
未来の自分を英雄と重ね、いざ冒険者登録だ!
そんな当たり前な妄想を抱き、村を飛び出た若き少年。ロン・アンドラス。
無謀で、勇敢で、愚かで、無知なロンは果たして冒険で何を得るのか?
これはいつか英雄になるかもしれないロンの、成長期である。
001-ロン・アンドラス
冒険都市オルデンーーレーム帝国"西の首都"と呼ばれる巨大な街。
ホントの首都は東にあるペンドラゴンだが、それに劣らぬほどの賑わいと発展を見せている。概観はペンドラゴンとよく似ており、と言うか似せて作られており、中央に高級住宅街、その回りに中級住宅街、一番外に低級住宅街が同心円上に並ぶ。
帝都と違う点と言えば、冒険者の人数とそのニーズに合わせた施設の豊富さだ。
例えば、冒険者の止まる宿泊施設。疲れを癒す友楽施設。武器や防具の整備、販売を担う鍛冶施設など、と言うのが有名か。
まあ、そのせいで帝都の連中からは"二流都市"などと言われているため、関係は最悪だったりする。
そんな街の低級住宅街に冒険者ギルドはあった。
王国歴 二十八年 睦月 二十日 九時 十五分
僕、ロン・アンドラスは一際大きな建物の前で足を止めた。
三階建ての木造建築物だ。
縦横50×40m以上の広々とした下地に、透き通るようなガラス窓。押し扉式の鐘状の扉の上には冒険者ギルドの象徴である盾と剣の交錯した看板がある。
生まれて始めてみる巨大なそれに、ロンの開いた口が止まるところを知らない。
(ここが冒険者ギルド!噂で聞いてたよりずっと凄い!てか、デカい!)
(ロンの出身村の)村長の家も大きいと思っていたが、
これを見た後では犬小屋にしか見えない。
不思議だ。
でも、こんなことで驚いていたら田舎者丸出しだ!と思いいたり、感動そこそこに足を踏み出した。
ーーーがチャリ!
思ったより大きな音をたてた扉にビビりながら中を覗くと、すでに何十人の人で賑わっていた。
冒険者らしい格好をした人が依頼板の前で眉を寄せていたり、丸机を囲みながらエールをガブガブと飲んだくれていたり、正しく冒険者という感じで、ロンの心が踊り出す。
早く登録しよ!
入ってすぐ真っ正面にある受け付けカウンターに急行した。
カウンターは五ヶ所あり、それぞれに同じ制服を着た女性職員が待っている。
さすがギルドの顔だけあって皆恐ろしいほど顔がいい!
ロンは違う意味で胸をドキドキさせながら、一番空いていた左端のカウンターへ並んだ。
順番はすぐに来て、「次の方」と明るい声が響く。
「冒険者ギルド、オルデン支部、受付嬢のリリアです。本日のご用件を伺っても宜しいですか?」
リリアさんは太陽を思わせる気さくな女性だ。
柔らかい栗色の髪に、黄色い瞳。豊満な胸をベストで覆い、よく化粧の行き届いた綺麗な肌をしている。
頬にあるソバカスがチャームポイントで、年上のお姉さんのようだった。
「あ、はい!冒険者登録に来ました!」
「え、冒険者登録!?」
「な、何か問題でも?」
「いえ、失礼ですが御年齢は?オルデン支部では12歳未満の子供には登録不可、14歳未満の子供は親の同意がなければなれない決まりになっております」
つまりそれはロンを14歳未満ですよね?と言っているのだが、大変失礼な話だ。
「僕は14歳です!」
親からの同意が貰えなかったか今日まで待ったのに!ひどい仕打ちだ!
確かにロンは童顔で、身長も小さいと自覚している。
親兄弟含め村の皆にもチビ認定され、冒険者などもっての他だ!と言われる毎日。夜逃げをするように家を飛び出してきた上に、道中の通行人にも「お使いかい?」とか言われたのだ。
本当のことだからこそ、傷つくこともあるのだと声を大にして言いたい!
「じゅ、十四歳!そ、それは大変失礼いたした。」
謝罪で傷をえぐられたのは初めてではない。よくあることだ。
リリアさんは頭を低くしながら、一枚の紙を僕の前に出した。
「これが冒険者登録申請書になります。必要事項を記述して提出してください」
「き、記述!?」
思わぬとこに落とし穴。何を隠そう僕は字が書けないのだ。読むことはできるけど。
「あの、代筆ってしてもらえますか?実は僕、文字が書けなくて・・・・」
「もちろんです!本来なら代筆料と言うのが掛かるんですが、今回は先程の失礼のお詫びと初回サービスとしてお金はとりません!次回からはしっかり戴くので覚悟してください!」
エッヘン、と胸を反らすリリアにロンは苦笑いで答える。
実を言うと今のロンはほぼ無一文で、代筆料とか取られたら野宿を真剣に考えなければいけなかった。だから、
「リリアさんは女神です!」
目をキラキラさせて、そう言ってしまうのも仕方のないこと。
「や、やですねー。誉めても次回は有料ですよ」
満更ではなさそうに手をヒラヒラとさせ、恥ずかしがるリリア。
目をキラキラさせる僕。
そして、そんな僕を睨む先輩冒険者達。
(俺らのリリアちゃんに色目使いやがって!羨まし・・・じゃなくて殺す!)
ここにいる殆どの冒険者の心が一致した瞬間だった。
こう言う時、鉄の結束を誇るのがオルデン流だ。
まあ、先輩達の熱い思いはともかく、二人の会話は続く。
「ーーでは、登録に移ります。まずお名前を教えてください」
「ロン・アンドラスです」
「魔法は使えますか?」
「いえ、一つも」
「希望する職業は?」
「戦士です!」
「最後に、これは任意ですが、志望理由等があれば教えてください」
「えっと、ぼ、冒険者になるためです!」
「ほほー、冒険者の中の冒険者、と」
「いえ、そこまでは・・・」
「フフフ、私はいいと思いますよ?冒険者」
さっきのお返しだ!と言うように意地悪く笑うリリアさん。
僕はタジタジ。
その様子を面白そうに見たリリアは少し待っててくださいと席を立ち、登録申請書を持って、カウンターの奥へと消えていった。
数分後。
白いプレートを持って彼女は帰ってくる。
「お待たせいたしました。これは第十級冒険者用のプレートです。」
彼女が出したのは白磁で出来たネームプレート。『RON ANNDLAS』と刻まれている。
「冒険者の身分証明書ですので冒険時は必ず携帯してください。これを持っていないと不都合な点も多いですし、行方不明時の捜索や死体の確認などの難航しますので。
あと大丈夫だとは思いますが、魔術認識機能があるので他の冒険者のカードは使えません。
もし、詐欺などの何らかの犯罪に使用した場合、厳しい罰則が下りますのでご注意ください。なくした場合につきましては、銀貨一枚で買っていただくことになりますので悪しからず。」
リリアさんは更に、プレートには各冒険者の討伐記録や犯罪歴、クエストの成功率、回数などが、ギルドにより刻まれると説明した。
ちなみにプレート料銀貨一枚は付けにしてくれるらしい。
次に説明されたのが冒険者のランクだ。
これは第零級から第十級まであり、第十級が駆け出し冒険者。第九級~第八級が下級冒険者。第七級~第六級が中級ーーつまり、ベテラン冒険者。第四級~第三級が上級冒険者。第二級~が特級冒険者だ。
もっとも第二級冒険者以上の冒険者はそうそう現れるものではなく、実質的な最上位冒険者は第三級だという。
「それでは最後に、この冒険者ギルドの利用上の注意点について三点。
一つは、時間。ギルドの営業時間は朝7時から夜20時までとなっております。
二つ目は、フロア構成。一階がギルド受付および居酒屋。二階が宿泊所。三階が立ち入り禁止区域となっております。」
「立ち入り禁止?それはまた随分と物騒な。何か危険なものでもおいてあるんですか?」
「いえ、そう言うわけではなく。・・・・三階にある依頼板ーーーーあっ!三階にも依頼板があるんです! で、その依頼板にあるのが凄い危険で高難易度な依頼なんですよ。昔は同じ場所に貼られていたんですが興味本意でいったり、一花咲かせようと意気込んだりする人が現れまして、危険と言うことでギルドが認めた者以外見れないようにしたんです」
いろいろギルドも大変だなー、と僕は思う。
まあ、今の自分には全くもって雲の上のことなんだけどね。
三階には興味をそそられるけど、それはそれ。今は我慢。
頭の端に追いやり、話を進めることにした。
「それじゃ、三個目は?」
「三個目は、地下一回にある訓練場です。このギルドには様々な設備が整えられており、冒険者なら誰でも利用できるので、お気軽に利用してください。
以上を持って説明を終わらせたいと思いますが、何かご不明な点、聞いておきたいことなどはございませんか?」
「えーと・・・。あ、はい 。一つだけ。
今日泊まる宿がまだ決まってないんだけど、どこかお勧めってありますか?出来れば、駆け出しにも優しい安い宿がいいだけど」
「そうですねー・・・・。」
リリアさんは首をコテンと傾け、暫し考える。
すぐにそれも終わり、カウンターの引き出しから一枚の地図を取り出し、机の上に広げた。
「安い、となると、やはり低級住宅街になりますが、ご予算はどれ程ありますか?」
「銀貨四枚」
「え、申し訳ございませんがもう一度仰ってください。銀貨何枚ですか?」
「4枚です」
僕がハッキリそう答えると、リリアさんは急に頭を抑えだした。
尋常ではない様子だ。
大丈夫だろうか?
痛み止の薬なんて持ってないけど、痛みを止めるお呪いなら知ってるよ?
痛いの痛いの飛んでけー!
「いえ、結構です。ーーーそれにしても銀貨四枚ですか。ギルド宿泊施設が空いてればよかったんですが、あいにくと満席ですし・・・・。てゆか、四枚ぽっちで何をどうするつもりだったんですか!都会ナメすぎです!」
「ご、ごめんなさい。」
しょぼーんとうな垂れるロンにリリアも良心が傷ついたのか。
ゴホンと咳払いをし、優しくロンの頭を撫でた。
くすぐったい!
「子供扱いしないでください!」
「ごめん、ごめん。ーーーーただ現実的に銀貨四枚となると泊まれる宿がないんですよ。一日二日ならあるかもですが・・・・」
リリアさんの話を聞くと、ここら辺の最低相場は一泊銀貨三枚半で昼飯付き。銀貨四枚では一日しか泊まれないみたいだ。
都会だから物価が高いんだって。
もしかして、僕って大ピンチ!?
ようやく状況を理解した僕は顔を青くする。
元々理解していたリリアさんは既に青い!
そんな二人の青い顔が出来上がったところで、
ーーーードタドタドタ
と、喧しい足音が上から響いた。
((何事だ!))
二人の、というより一階にいた全ての者の視線が音の方へと引き込まれる。
その先では、
「お前!宿屋を探してるんだって! 俺いい宿知ってるぞ!」
貧乳の少女が髪を揺らしながら、階段を駆け降りてくるところだった。