プロローグ0
ここは、とある国の外れにある名も無き村。
四方を森に囲まれ、活気もなければ、特産もなく、総人工はたったの50人。その五割方を老人夫婦が占める。
後、二百年もすれば自然消滅するだろう、国からも、未来からも見放された小さな村だ。
僕は処刑台で死を宣告されながら、どうしてこうなったのかと考えていた。
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数日前、
僕は大都市オルカナで一つの依頼書を見つけた。
あまりよくない依頼書だ。
依頼内容は村に出るモンスターの討伐。
でも、数不明。内容も不明。
これではどれくらいの危険度かも分からないその上、依頼金が低すぎる。
案の定、その依頼は誰も受けず、翌日も残っていた。
依頼金を上げれば、誰かが受けるかもしれないが、恐らくそれは無理だろう。
小さい村ではよくあることなのだ。依頼金が集まらず、受けてくれる冒険者も出ず、国に要請を送り、いつ来るかも分からぬ助けを待ちながら、化け物に食い荒らされる。
それでいくつもの村が実際に滅んでいる。
だから、僕はその依頼書に手を伸ばした。
同業者に、勘違いした偽善者だって笑われた。
アドバイザーに、止めとけって、止められた。
それでも、僕は受けた。
僕の夢だったから
苦しんでる弱い人の前に颯爽と現れて、その危機を救う。英雄談のようなカッコイイ冒険者。あの人の様な強い戦士。
そうなるのが自分の夢で、そうなりたいから冒険者になって、だから、自分がしたことに後悔なんて無いけど、間違ってたなんて思いたくないけど・・・・・・・
村人達からの容赦情け無い言葉か胸に刺さった。
「ほんと、どうしてあんな奴が生きてんのよ」
「キモチワルイ、早く死ねばいいのに」
「絶対ヤバイ奴だって思ってたんだ。」
「ほんとラガン様が来てくれてよかったわ」
涙が出た。
悔しくて、苦しくて。
胸を削り取られるような息苦しさと、剣で抉られるような痛みと、吐き気がする。
「・・・・・・・どうしてっ!」
「どうしてだと?」
白い騎士服を着た男、ラガンが鼻で笑った。
「逆に聞くが、貴様はどうして生きている?
どうして生きたいなどと思えるんだ?
なあ、おい?なんだその涙は。自分のために流した涙と言うなら軽蔑するよ。
だがもし、貴様に少しでも他者を慈しむ心があるのなら、生まれてきてごめんなさいと皆に謝ったらどうだ?はっ、少しは気も晴れると言うものだろう」
「僕は悪いことなんてしてない!この村だって守ったのは僕だ!なのに!どうして!」
「キモチワルイ」
「ほんとムリ!村守ったって何勘違いしてんのアイツ」
「キモいキモいキモいキモい、マジ早く死んで!」
「あー、マジ鳥肌立ったわー!」
「死んだ方がいい人間ってホントにいるんですね」
勝手なことばかりを村人は言う。
安い金で、売れ残った依頼を取ったのは誰だと思ってる?
たくさん傷ついた、死にそうにもなって、あんな化け物と戦ったのは?
村を襲う怪物を退治したのは?
全部僕だ!僕がいなっかったら、今もまだ怪物は生きてる、皆を殺してる!
それなのに、どうしてっ!
僕が歯を噛んで、耐えていると、ラガンは僕の耳元まで顔を近づけ、残虐な笑みを浮かべた。
「そういや、お前が倒したあの猛獣な、俺が連れてきたんだよ。これでも結構苦労したんだぜ?適度に村人殺されるなんて中々出来るもんじゃねえだろ?」
自慢するようなラガンの告白に思わず口が詰まる。
「その顔、その顔だよ。偽善ぶったバカがそういう顔すんのがおもしれえんだよ。
だから、この遊びは止められねえ!く、ははーー
あ~、安心しろ。この非情な村人達もお前を殺したら、同じ場所に送ってやるからよ。くく、こんなクズにも情けかけるなんてあ~、俺ってチョー優しい」
頭の血管がぶちギレるかと思った。
僕は手足を縛る縄を何とかほどこうと力を入れる。
でも、縄は解けなくて、ただ、ラガンに殴る口実を与えただけだった。
何度も何度も殴られて、血が出るほど殴られて、歯も折れて、顔を膨れ上がった。
「み、皆!逃げて!こいつ、ラガンが化け物を操ってたんだ!だから、ーーー」
「サイッテー!どこまで自己チューなの、ゴミムシ! ラガン様がそんなことするわけ無いだろ!」
「どこまで醜いんでしょうか、この生き物は。人の形をしてることが許せませんね」
「あはは、でも仕方ないでしょ。頭腐っちゃったんだから」
「ああ、顔殴られ過ぎて?」
「ウケルー。」
「でも、元々腐ってるから変わんなくね?」
「そりゃ、ヒドイ。錆が可哀想だ」
ラガンは必死で笑みを堪え、その顔を隠すように深々と頭を下げた。左手を腹に、右手を虚空へ伸ばし、ダンスパーティーで見せるかのような仰々しい礼だ。
「皆様方!この度は我々の不手際により、多大なる恐怖と心配をお掛けしてしまったこと心よりお詫びします。 ですが!どうか安心してください!皆様を狡猾にも騙し、陥れようとした悪魔憑きは、見ての通り虫の息にございます。さあ、この愚かな悪魔の最後。どうぞご賞味あれ!」
ショーでも始めるように処刑宣言をする男に村人から割れんばかりの歓声が送られる。
男の横に侍る二人の美女も、男を称えるようにホウゼンと拍手を送った。