妖精と戦闘美少女
斉藤環先生の「戦闘美少女について」という本がある。
いろいろと300ページほど書いているのだが、概念的には、まさに表題にあるとおり戦闘美少女とは何かということを明らかにした本だ。
戦闘美少女とは何か。
この答えを、斉藤先生は『ファリック・ガール』だとした。
ファリック・ガールとは、なんぞやという話になるのだが、要するにファルス的な機制が強い少女ということになる。
少女という概念と真っ向から対立するファルスという概念。それをとりいれたのがファリックガール。
いわばファルスと同一化した存在。
それこそが戦闘美少女であるというのが、この本の結論である。
そう考えると戦闘美少女はたぶんTSに近い感覚がある。
TSとは、まあこんなところまでわざわざ筆者のエッセイを読みにきている読者諸氏ならわかっていると思うが、あえて書くと性転換のことで、主に主人公(男)が少女に変身ないし入れ替わり、性別が変化するような作品群のことを指す。
ファリックガールは、というより、戦闘美少女が活躍する作品を見直してもらえればわかるが、例えば『灼眼のシャナ』にしろ、『緋弾のアリア』にしろ、主人公は一応男である。
読者としては、この場合、主人公男に自己を投影しつつ、戦闘面については戦闘美少女に投射する。
つまり、美少女かわええなと思いつつ、戦闘的にはその女の子に投射するというかそんな感じだ。
そうすると、TSというのは、まさにこの構造をぴったりと接着した概念のように思わないだろうか。
言ってみれば、主人公男は、そういった戦闘美少女そのものを武器として使っているのであるが、TSによって、その武器がまさに接着するというか。そんな感じ。
いやしかし……、どうなんだろう。
いくら空虚な存在であるとはいえ、TSしてしまったら、キャラもクソもないような。
例えば、自分がプレイしていたゲームのキャラにTSという作品がわりと多く見受けられるが、その場合、その美少女キャラにキャラ性があるのかといわれると、微妙な気がする。
完璧な空虚さという意味では、ある種のファリック・ガールのような気もするが……うーん。
【最新の戦闘美少女ってなーに?】
有名どころで言えば、東方プロジェクトと艦これですかね。
東方プロジェクトとは、基本的に巫女さんがプレイヤーとなって妖怪を調伏するというストーリーだ。そこでは、まさに妖精と同義ともいえる妖怪少女たちが敵となって襲い掛かってくる。正確にはごっこ遊びだが。
ともかく、巫女さんはお払い棒やらお札やらを武器に、戦うわけである(避けてるだけともいうが)
そんなわけで、東方プロジェクトは間違いなく戦闘美少女系ではあるのだが、だいぶんファルスの力が弱いのは、周りが妖怪やら妖精だらけなせいだろうな。
とりあえず、巫女さんと同化してプレイしていると思います。
艦これ。
艦隊これくしょんね。
こっちのほうが構造的にはわかりやすいかな。
プレイヤーは自身はなんの戦闘能力も持たない「提督」になって、人類の敵、よくわからない謎の深海棲艦に唯一たちむかえる「艦娘」を指揮して戦うという内容だ。言うまでも無いが、旧日本帝国海軍の艦船をキャラ化したものなので「艦娘」には砲弾をうったり、魚雷をうったりと、戦闘能力がある。
これが現世代の戦闘美少女系の系譜だろうな。
要するに、主人公男はなんら力を持たないのだが、(提督になぜなれたのかは謎のままである)提督という地位からか、あるいは前提として、艦娘たちには好かれ、ケッコンカッコカリなんてこともできてしまうわけである。そして、艦娘に好かれ、意のままに操れるということが、「提督」のレベルアップにつながっている。
提督が特権的な地位を得るということになる。
戦闘美少女の系譜からすれば、これぞまさしくという感じですね。
【妖精と戦闘美少女について】
妖精はそもそも「人間」ではない。人間ではないという意味は、ファルスの機制が弱く、象徴界がうまく機能していないという意味だ。
戦闘美少女も「人間」ではない。
したがって、その精神構造は地に足がついていない。
正常な精神からすれば、現実界に片足つっこんでいるせいで、「何を考えているかわからない」し「なぜ戦っているのか明確な動機が存在しない」ということになるだろう。
ただし、戦闘美少女というのは、ある種の蠱惑的な魅力を有している。
それは、無垢さからくるものだったり、ある種の聖性からくるものだったりするのだが、そういったものばかりで構成されていると、綺麗すぎてリアリティが感じられないのだ。
そこで、セクシャルな対象になるためにリアリティを付加する。そのための戦闘能力なのだと思う。
空虚でからっぽな存在に、戦う力を付与することで現実感を与える。
戦う力を失えば、戦闘美少女は妖精になるのか?
なるかもしれない。
筆者が書きたいのは、このエッセイの7でも述べたのだが、妖精が人間になりかわる瞬間である。
とすれば、妖精が武器を手にしたときが、その瞬間なのかもしれない。