妖精と吸血姫の親和性
さて、吸血鬼である。
貴君らは吸血鬼についてどれだけのことを知っているだろうか。
多くの方はその不死性に着目するだろう。吸血鬼は老いず、ずっと見目麗しい姿をしている。
すなわち、少女のカタチをしていれば、それはもはや妖精と同義である。
彼女たちのことを、特にプリンセスという特権性を与えて"吸血姫"と呼ぶこともある。
言うまでも無いことであるが、一応言っておくと、筆者の知る限り吸血姫という呼称がはじめて用いられたのは、漫画の「吸血姫美夕」が最初であろう。
小説では、難しい。
ウェブ小説も雲をつかむような話。
さて、それはよいとして、吸血姫である。
吸血姫は姫様という特権性を与えられつつも、その特性は吸血鬼のそれである。
したがって、まず『少女』と『吸血鬼』の比較対照からはじめなければなるまい。
まず『少女』についてであるが、これは女性性においては去勢がグラデーションのように起こることで、ある一定の期間だけ、ファルスの機制が弱い時期があり、そのことを『妖精』ないし『少女』と呼称した。
吸血鬼はどうであろうか。
吸血鬼の特性は不死性にある。また、眷属を血によって増やす。
他にもある特性といえば、その多様な弱点だ。
すなわち、日光に弱い。光に弱いということから鏡に映らない。にんにくに弱い。豆とか小さなものが落ちているとつい数えてしまう。招かれなければ人の家に行けない。十字架に弱い。
有名な弱点だけ数えていっても、これだけある。
ひとつひとつ検証していこう。
一、不死性について。
これは、妖精の属性と重なるところがあろう。
妖精とは去勢段階が未完成であることをもって妖精とするのであるから、妖精は去勢が永遠に完成しない。すなわち、不死である。
これは前回も書いたことだが、妖精が死や老いを考えたら、それはもはや妖精ではなくただの人間である。
二、眷属の増やし方について
吸血鬼とはノスフェラトゥのことを指すことを知っている者は少なからずいるだろう。
ノスフェラトゥとは不死者のことを指す。有名どころでは、ベルセルクという漫画でやたらタフな敵方がいて、そいつがノスフェラトゥ《不死者》と呼ばれていた。そいつは吸血鬼ではないけれど。
ただ、このノスフェラトゥが元はノスホロスが語源だと知っているものは少ないだろう。
ノスホロスとは、病原体ということである。
すなわち、吸血鬼とは病原体が語源としてあるため、よくあるように噛まれたら、感染し、広まっていくという特性を持つのである。
ここでいう『噛む』という行為は、セックスのメタファーであり、甘美的に書かれることが多い。
妖精はどうであろうか。
妖精は性的な事柄からは無縁であると考えがちである。なにしろ少女であるのだから。
ただ、彼女達は性的には成熟している。
社会的には未成熟であるが、子を成せないわけではない。
しかし、妖精が子を成したところで、妖精が生まれるわけではない。
妖精とは概念であって、肉体的には人間なので、べつに妖精が生まれるわけではないのだ。
ただここでひとつ。
精神分析では有名なエピソードがある。
フロイトとユングがアメリカにわたったとき、みんなに歓声をもって迎えられた。
そのとき、ユングがフロイトに言った言葉が『我々がペストを持ってきたことをみんな知らないらしいw』
である。草は筆者がはやした。
まあそういうことだ。
おそらくは『妖精』は感染すると思われる。
たとえば、これを漫画的に表現するならば、極普通の主人公(リアル少女)が、妖精のような女の子にあって、その女の子の思想に触れて、恋に落ちる的な、そんな話だ。
恋に落ちると書いたが、べつに恋愛でなくてもいいかもしれない。
ここでは、妖精に感染するという、そういう意味合いだ。
おそらく妖精さんはキスで増えるという話である。
三、弱点について
吸血鬼の弱点が多いのは、先に述べたような感染症の特性によるものも多い。日光に弱いというのは、まさに感染症の特性だ。にんにくも同じく。
十字架に弱いというのは、少し来歴が異なり、おそらくは吸血鬼というよりドラキュラの性質であろう。
ブラム・ストーカーが書いた吸血鬼は、キリスト教的な文化を下敷きにしている。したがって、教会の権威におもねった結果。吸血鬼は悪魔と同種のように描かれ、十字架に弱いとなったのだ。
したがって、十字架に弱いというのは、いわば『吸血鬼』というシェアワールドに後付け設定を足したようなものであり、キリスト教圏では、神TUEEEEEEということで受けたというわけである。
なお、日本ではこういった宗教的権力について懐疑的な考えが強いため、吸血鬼が十字架に弱いという弱点をつけていない例も多い。
このように、吸血鬼と妖精の親和性は驚くほど高いことがわかった。
つぎに、吸血鬼に少女という属性を付加した『吸血姫』である。
四、デイウォーカー
もっとも最初期の漫画「吸血姫美夕」は、ウェブ小説でいま流行りの吸血姫とはだいぶん概念的に異なるように思う。おそらくなろう系の吸血姫として、一番ありがちな属性としては、そう『デイ(ライト)ウォーカー』である。なろうに限らず、漫画であれば、たとえば有名なネコミミモード、あとはネギまのエヴァンジェリンもそれだ。
吸血姫であることが、デイウォーカーであることを付加しているようにも思える。
なぜだろうか。
もちろん、物語の都合上というのもある。
吸血姫となれば、おそらく物語的には仲間ないし主人公ということが多く、物語に積極的にかかわらなければならない。いちいち日の光を気にしていたら、物語にならないという都合もあろう。
しかし、それ以上に、姫属性を付加することによって、吸血鬼はより妖精に近づいたと考えるべきである。
これは筆者の考えであるが、吸血鬼の病原体という来歴を、『妖精』ないし『少女』という属性で上書きした結果、『吸血姫』というふうに呼称することにしたというのはどうだろうか。
つまり、
美少女は綺麗。
したがって、吸血姫が病原体なわけがない。
これが、無意識に流れる思考であり、吸血姫が流行った理由である。