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真実は迷宮の中  作者: Luce
第1章『無限』
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9話 決着


彼はいまだかつて無い衝撃をその身に受けて壁に埋まり朦朧とする意識の中で、この状況下でも冷静に思考を続ける部分の出した結論について考える。


(・・・ああそうか。僕は尻尾で思いっきり叩かれて壁に激突したということね。・・・なんとも情けない話だよね、一時の感情に流されてこうして瀕死になるだなんて・・・ね。一体僕は・・・クレイジー・ヒューマノイドとの戦いの中で何を学んだつもりにな・・・ろうね。油断なんて贅沢が・・・許されている訳無いのに)


彼は自分の現状を理解すると、その現状になった原因が驕りを捨てきれなかったということにいかんともしがたい感情がボロボロの胸の中で吹き荒れる。


そんな激情を知る由も無い虹蛇がゆっくり口元をなんとも嬉しそうに歪めながら近づいてきて挑発するかのように長い舌をチロチロさせてゆっくりと顔を近づけてくる。

彼はその虹蛇の様子に苛立ちが募るがどうにも体が動かず、過激なジェスチャーの一つもできやしない。


そういうわけで彼は残り少ない魔力を練り上げ、腰辺りの右手で触れている部分の土に手を触れて「『土人形アースゴーレム』」と唱えて作り出した『土人形アースゴーレム』に変わりに親指を地に向けるようなジェスチャーをとらせた。

虹蛇にとっては意味が分からない行為だろうがそれに込められた意図を悟ったのかその顔をゆっくりと近づけてきて彼の左腕に鋭い牙を突きたて貫通させた。


「ァァァァアアアアアアアアッッアアアアアア!!!」


彼は左腕に深々と突き刺さった牙が痛みで身じろぎするとただでさえ焼きごてを当てられたような痛みに加えて切り裂かれたような鋭い痛みが走る。

ただでさえ全身が壁に激突したせいで鈍い痛みが走っているというのに、まだ彼の体は痛みを感じるという鋭敏な感覚を切るつもりは無いらしい。

虹蛇は痛みに悶えている彼の様子を見て嬉々として口を開閉させて牙を抜き差しすると、そのたびに彼の体が痛みに震える。

痛みで体が震え、口からは絶叫の声が上がるがそれでもなお彼の顔は絶望の色に染まることなく、鋭い眼光で虹蛇をにらみつけている。

目が潰れされた虹蛇にはその彼の鋭い眼光に気づくはず無く、口を開閉させることを続ける。


そして虹蛇の一方的な蹂躙が始まった。


左手に充分に噛み付いた後、次は右の太ももに噛み付き同じように牙を抜き差しして、左脚、右手と四肢のすべてをその鋭い牙で刺し抜きして穴を開けると一度顔を離す。

彼の周囲にはおびただしいほどの血液が飛び散り、もはや身じろぎ一つしない彼はもはや死んでしまっているかのように見えた。

しかし、虹蛇は体温の低下が見られるもののまだ生きているというサーモグラフィーのような視界による確証があり、次はどの部分に噛み付いてやろうかと全身を嘗め回すように観察している。


すると突然虹蛇の体がガクンと傾く。

何事かと辺りを見渡すが何も無く、ただ自分の体温が下がっていることに気がついた。


虹蛇は先程の彼の一撃、『円環から逃れるものクセフェヴゴ・ウロボロス』によって間接的に尻尾を落とさなければならなくなり、そこからの出血はその胴体部分の筋肉によって抑えていたのだが、彼を甚振ることに夢中になったせいでその筋肉が弛緩し出血が止まらなくなり、多くの血が流れ出たことによって体勢を崩した。


虹蛇は体が傾いたことで出血を止めることをいつの間にか忘れていたことに気がつき、再び筋肉に力を入れることでこれ以上の出血を防ぐことにしてその原因を作った彼をさっさと殺して回復に努めようと、次の一撃で仕留めることを決め、彼の方に向き直る。


すると先程まで四肢に穴を開けていた彼の体には穴が開いておらず、その体内魔力も充分に回復していた。

そのあまりな光景に虹蛇は驚いたもののすぐさま仕留めるために胴体を目掛けて噛み付きにかかる。

彼はその迫り来る虹蛇に対して冷静に、


「『岩壁ロックウォール』」


と唱えるとそのまま虹蛇はその『岩壁ロックウォール』にぶつかり大きな衝撃を与えるが、それでもなお万全とは言いがたい状態では崩すことは叶わず阻まれ止まる。


彼がいま倒れながらも体の穴が塞がっていたり、魔力が回復していたりとする理由は例の腰袋の中に入ってあったガラス管に入ったカラフルな液体のお陰だ。

その中身はファンタジー世界でお馴染みのポーションで、傷口を防ぐ高級ポーションを数本に魔力回復ポーションの数本に、造血ポーションを数本、強心剤のような効果を持ったポーションを1本という品々で、それを彼はジェスチャーをした『土人形アースゴーレム』の手を借りて腰袋からそれらを取り出させて自分に服用させた。

無理矢理体に空いた穴を塞ぎ、魔力を回復させ、血を造り出し、落ちた血圧を戻すために自ら強心剤を服用し強引に動けるようにした。

塞がったばかりの四肢に強引に作り出された血が通るだけで激痛が走るがここで気絶をするということは死ぬということだとよく分かっているので根性で意識を保つ。


いつ意識が飛ぶかわからない状況ながら彼は『磁力の手(マグネットハンド)』で手元にまだ虹蛇に刺さっていない残り5本のナイフを戻すと、最後の魔力を使ってナイフに魔力を込める。


先程の槍に込めた魔力に比べると余りにちっぽけなものであるがそれでも十分な威力が出る。

そして『岩壁ロックウォール』を解除して、


「『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』」


と投擲すると磁場の力を受け充分な力を蓄えたナイフが一直線に虹蛇の頭部へ向けて発射される。


しかし、虹蛇の強固な鱗はそのナイフが貫通することは許さず、それでもなお全てのナイフが頭部に突き刺さる程度の力を持っていたことによって突き刺さる。


「GRYAAAAAAA!!」と突き刺さったナイフの痛みに大きく仰け反るが絶命には至らないようで、彼はそれを見てこみ上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。


「ハハッ、さっきまで刺さってたのにもう対策をとったんだね。‥‥‥ほんとに物語に出てくる通りの正真正銘の化け物だね、君は。手元にはもう槍もナイフもない、魔力もほとんど尽きた。立ち上がる体力すら残ってない。万策尽きたって所かな。‥‥‥ほんとどうして驕りを捨てられなかったかなぁ。あの一撃さえ喰らわなければ取れる方法だってあったのにね」


彼は痛みに暴れる虹蛇を見上げながらそう言った。

しかし、


「けどね、僕は目的を果たすまでは死ねないから、こんな状況でも最後まで足掻くよ」


そう言って痛みなどの思考に悪影響を及ぼすものを全て排除して、ただただ逆転の目を脳内で組み上げる。


虹蛇は何故かこうして動かない彼に対して攻撃を加えない。

いや、そもそも彼の居場所が分からなくなっていたために攻撃を加えることが出来なくなっているというほうが正しい。


先程の『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』のナイフのうち2本が虹蛇が形成した識別器官を破壊、再び暗闇の世界へと叩き込んだ。


彼は虹蛇にそんなことが起こっているなど知る由もないが、その結果が引き起こした行動を見て自分を有利に持って行くことが出来るということを感じ取ると、


「よく分からないけど僕に攻撃を加えることが出来なさそうなことは分かったよ。‥‥‥僕の正真正銘最後の手、是非とも食らって欲しいな」


そういうと彼は腰袋から球状の物体を『土人形アースゴーレム』に三つほど持たせ所定の位置に移動させる。

そして、最後の一滴まで魔力を振り絞って『影部屋シャドウルーム』を開いて手を突っ込み引っこ抜くと、この『無限』に入ってずっと使い続けてきた愛用のナイフを取り出した。

そして、


「僕はこっちだよ、虹蛇さん」


といって弱々しく投げられたナイフが虹蛇の体に当たる。

すると、虹蛇は素早く何かが当たった方へと向き直り赤い舌をチロチロとさせて、その先に彼がいることを嗅覚によって確認すると大きな口を開けて迫ってくる。


そしてその大きな口を開けた虹蛇の口の中に飛び込んだ『土人形アースゴーレム』が、持っていた球状の物体を殴りつけるとその球状物体が爆発し、残り二つの物体も連鎖的に爆発し、口内を、そして高温の熱が喉を通り体内を蹂躙すした。


虹蛇は体内から爆散しバラバラの肉片と血が雨となってこの大部屋に降り注ぎ、その赤い雨を浴びながら彼は、


「君が最初に僕を攻撃した時のように広範囲に対して魔法を放っていれば僕にはなす術もなかったのにね。頭に血が上った君のお陰で僕は生き延びたよ、ありがとう」


とさまざま大きさの破片となった虹蛇に対してそう告げると、彼は意識をふっと手放した。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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