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真実は迷宮の中  作者: Luce
第4章 セルファ
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81話 "大山脈" 1

先週は申し訳ないです。


大体今話を含めて3話ほどルートの空白の5年を書きます。

導入は短めです。

というか過去編は章を立ててやるつもりは無いので短くまとめるため場面遷移が激しいです。


「ごめんねみんな。だけど僕は……」


大きくうなりを上げて大海原へとゆっくりと進んでいく船の上から徐々に離れていく陸地、詳しく表すのならばセルファ領唯一にして最大の港、トライの町並みを目に焼き付けるようにして甲板から見ながらボソッと呟くようにそう言い、少し名残惜しそうな素振りを見せながらも拳を強く握り締めて船内へと足を運んでいった。


一般的な成人男性同士がすれ違うことに少し手間取りそうなほどに狭く長い、壁に掛けられた蝋燭の火がちらちらと辺りを照らす薄暗い廊下をキシキシと木製の床を鳴らしながら向かい合うように設置されている扉に刻まれた数字を参考にしながら自分の部屋へと進んでゆく。


そうして狭く長い廊下の折り返し地点まで歩いたとこで目的の数字の刻まれた部屋を見つけ、一人部屋を頼んだが育ちのせいなのかコンコンコンとノックをし、当然のことながら返事の無い室内へとドアノブを捻って入っていく。


その室内は六畳一間といった程度の広さで正面には直径30cmほどの丸い窓があり、置かれている物といえば木の板を三枚組み合わせた一番簡単な形の何かのシミが点々と定着している机とこれまた簡単な形の少し傾いた椅子、そして丸い窓の手前には宙ぶらりんのハンモックがそれぞれ固定されており、それ以外には持ち込んだ荷物を固定するための太く頑丈そうな革のベルトが壁から漏れ出しているように設置されていた。


扉をパタンと閉め、背負っていた大きく軽い(・・)リュックサックを革のベルトでしっかりと固定するとハンモックへと倒れこむように仰向けで乗り、妙に近い天井を仰ぎ見ながら男というには少し幼い少年、ルート・セルファは小さく息を吐き出すと、


「……復讐、今の僕にはそれしかない」


薄く口角を持ち上げてそう儚げに言い、ゆっくりと目を閉じた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


最新の船という訳では無いが、それなりに新しい船であるということもあり使われている技術が高く魔法使いも協力しているということもあって帆船であれば3ヶ月は掛かる所を1ヶ月で目的地へと辿り着いたルートの乗る船。


「ああ陸だ……」

「地面揺れてねぇか?」

「肉、新鮮な肉が食べたい!!」


不安定な船で生活していたせいか感覚が麻痺している様子の武器と防具を見に纏った戦闘者らしき者ものたちは1ヶ月ぶりの陸地でそんなことを言って地面に寝転がっている。

流石にそこまで派手な行動をしているのは戦闘者連中だけのようだが、一般的な装いで架け橋を渡って陸地へと降り立った者たちも少しゆっくり目に1歩1歩足元を確かめるように歩き、ある程度のところまで行くとしばらくその場に留まって感覚を取り戻している者が大勢だった。


そんな中、


「着いた」


そう端的に呟いたルートは深く被った黒い外套の奥で蒼い双眸を忙しく動かしながら辺りを観察しながら他の者たちとは違ってしっかりとした足取りで架け橋を渡って陸へと降り立つとスタスタと同じ船に乗っていた者たちが作っている密度の高い空間から一足先に離れていく。


向かう先は港の一角に設けられたグローリア帝国の兵士が詰めている入国審査場。

船を使って他国の地の土を踏む場合にはそこを通る必要があり、そこで調べられるものというと、


「おい、顔を見せろ」

「はい」

「なんだ子供か。貴様は何が目的でこの偉大なる国、グローリアへとやって来た?疾く答えよ」

「"大山脈"へと。そこで生計を立てようとしております」

「貴様みたいな子供にそんなことが出来るのか?」

「これでも魔法の腕には自信があります」

「ふん、信用ならないな」


ルートの腕に懐疑的な態度を示してはばからない兵士に、気付かれないように小さくため息を吐くとキッと表情を引き締め、懐に手を入れ、空いた方の手で武器を構える兵士を手で心配はないと示しながら目的のものを取り出すとそれを見せ、


「こちらが証明となります」


そう言って青色のギルドカードを顔の横で軽く振ってみせる。


「なっ、"青"!?本物か?」

「ええ、検めていただいても結構です。これでもご不満であれば魔法の腕も披露いたしましょうか?」


そう言ってニッコリと笑いながら意識的に周囲に放出する魔力の量を徐々に増やしてゆき、ルートの応対していない兵士たちもそれに気が付き、自身の持つ武器に手を伸ばして建物の中に緊張感が漂ってきたところで、


「……分かった、入国を認めよう。それだけの腕があれば簡単には死ぬまい。しかしそういった真似は他のところでは止しておけ。ここでは入国の理由に貴様と同じように自分の腕を見せ付けるという方法をとる奴も多いが、他ではそういった耐性がないから問答無用で実力行使で貴様を拘束することになる」

「そうですか。気を付けておきます」

「ああ、行っていいぞ」


偉そうな口調こそ変わらないが、兵士の言葉の中には先程とった手段についての戒めるように警告するものも含まれており、ルートはそれを受け入れ、応対していた兵士に一礼して入国審査場を出て港町へと足を踏み入れていった。


客を運ぶ運送馬車を探しつつ、ルートは先ほどの入国審査場で自分が行った行動に対して嫌悪感を覚え、かぶり直した外套のフードの奥で苦々しい表情を浮かべて、


(いくら身元がバレるのを避けるためとはいえ闇魔法を暗示のために使ってしまった。それにトライで船に乗る時にも同じことを……。これが普通の手段になっちゃうといつか僕が闇魔法を使うってことがバレてしまう)


ルートが行った暗示は人の認識を惑わせる外法、これを使ってルートは自分のギルドカードを詳しく見せてセルファという家名から身元を特定されることを避けるために、ギルドカードの色と大量の魔力の放出をより強く印象付けるように魔法で誘導して、ギルドカードに書かれた情報に意識が向かないようにした。


しかしこの方法は意識を逸らさせるだけで、ルートの暗示に耐えれるだけの使命感や強い意志を持っていた場合には効果を示さないため、冷静に観察されれば闇魔法を使っているということもバレてしまう。


となると、


(代わりになる身分を証明するものが必要。それもすぐに)


この結論に落ち着くわけで、それのアテは、


(特に身元を明かさずに登録できるギルドで二枚目のギルドカードを作るのが無難かな)


一応ギルドカードを二枚持ってはならないという規則はないが、二枚持っても功績が累計されるわけでもなくギルド公式の利点はない。

しかしギルドカードを2枚持っているということは何かしらの理由があって身分を隠しているということを示しており、往々にしてそれは後暗い連中の身分証明に使われていることが多い。


しかしそのことを知っていても出身国ではないこの国で身分を証明するものを作ろうとする場合にはそれくらいしか方法がないというのも事実。


(やむを得ないね。もし闇魔法を使えるということが知られてしまったら復讐どころの問題じゃないからね)


そう自分の中で結論を導くとルートは運送馬車を探すのを後回しにして先にギルドを探すことにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「魔物の支配域たる"大山脈"と人類の支配域の境界の都市ボーダーだったっけ?謳い文句は。どっちも大きいね」


険峻な"大山脈"とボーダーを取り囲むように聳え立つ石壁を揺れる車内から眺め、いつか聞いたボーダーの謳い文句を気がつけば口に出していた。


ルートは二枚目のギルドカードをグローリア帝国の港町にあるギルドで発行し、それを持って今目の前にあるボーダー行きの馬車に乗って、道中微妙に舗装された道をガタガタと1週間も掛けて揺られて今こうして辿り着いていた。


「おっ、よく知ってるじゃねーか坊主」

「一応調べてきたからね」

「ははは!それはいい心がけだな!!」


バシバシ


そう豪快な笑い声をあげながらルートの背中を叩き、それに合わせてルートの小さな体もガクガクと揺れ、


「痛ったいよ!!坊主って言っても年変わんないでしょ!!」

「お前はチンマイからな。仕方ねぇ仕方ねぇ」

「いつか絶対後悔させる!この筋肉ダルマ!」

「期待しないで待ってるぜ、ハッハッハッハー」


たまたまルートと同じく"大山脈"へと魔物を狩りに入っていこうとする命知らず志望の同い年の男、ルビンとルートはこのようにじゃれ合うような会話を港町からしていた。

一緒の馬車に乗っていた他の者たちは最初の方は名を挙げたいと調子に乗って"大山脈"を目指している馬鹿だと判断して鬱陶しそうな目で見ていたが、道中馬車を見て襲いかかってくる魔物との戦闘でルートとルビンの戦いを見てからというもの、十分に"大山脈"でも通用する実力を持っていると判断すると変な目を向けることもなく、むしろ微笑ましそうな目を向けるようになっていた。


閑話休題


ガタゴトと揺れながら進んできた馬車はボーダーの門番たちの検査を待つ者たちの列の傍に止まり、御者の言葉に従って同乗していた者たちは馬車を降りると同時に料金を支払うと次々と検査待ちの列に並んでゆく。


その際に入れ替わるようにボーダーから出てきた馬車に乗り込もうとする者たち、手や足を失っている愉快ではない状況にある者たちを見て、ルートは何処か似通った光景を幻視し、懐かしさのせいか少し視界が滲む。


「そんなに涙目になるくらいなら家に帰ったらどうだ?え、坊主」

「うるさいよ!そっちこそ足が震えているけど大丈夫かい?」

「ちげぇよ!これは武者震いだっつーの!」

「ははは、どうだか!」

「何をぉ!!」


両者ともにお互いの弱い所をつつくように言い合い、門の前で取っ組み合いの喧嘩を始めた。

そして暫くそうしていると、両者ともに手を引っ込め、


「ごめんね、ちょっと恥ずかしかったから……」

「すまん、ちょっとカッとなった」


お互いに頭を下げる。


そして頭をあげると笑って、兵士の検査を待つ列に並び、大して時間も掛からないうちに順番が回ってきた検査を受けるとボーダーの中へと入る。


そうして重厚な金属製の大きな扉を抜けた先には一直線に伸びた広い道、人通りがなければ反対側の門も見えるだろう事は容易に想像できた。

しかし何よりも気になるのは反対側のボーダーの都市を守る石の壁の色が微妙に違う所だろう。

それも1箇所のみに限らずところところ虫食いのように色が違う。


「……あれは俺たちグローリア帝国の兵士、そして戦闘者の敗北の証なんだよ」


そうポツリと隣に居るルートがギリギリ聞き取れるほどの小さな声でルビンはそう呟いた。


「……」

「多くの人があの壁に空いた穴から入ってきた魔物に殺された。その時にこの街のヤツらはあの人たちを犠牲にっ!!」


拳が白くなるほど強く握りしめたルビンの様子からルートは何かしらの因縁があるのだろうと当たりをつけたものの、それを言及するには付き合いが短く信頼関係も築けていないためにそれを指摘することは叶わず、小さく「そう」とだけ呟く。


そのルートの声に今の現状に理解が及んだのか、ルビンは握り締めた拳を開いてプラプラと振りながら、どこか薄っぺらい笑みを浮かべながら、


「まあこの俺が来たからにはもうあの壁に穴が開くことは無いがな!ハッハッハッハ!」

「……筋肉ダルマの手には余るんじゃない?」

「何を!?」

「せめて頭の中の筋肉を脳みそに変えてからの話じゃない?」

「喧嘩か?喧嘩を売ってるのか?買うぞ?」

「さっきので品切れ。また今度ね」

「入荷したら言えよ。そのチンマイ体を更にチンマクしてやる」


そういって黙って差し出した拳をコツンとぶつけ合わせると、その場に留まって何かを考えている様子のルビンを置いてボーダーの街を賑わせる人たちの中に紛れて消えていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「"探知"」


ルビンと別れて数日後、早速"大山脈"に入っているルートはそう呟いて魔力を薄く広げていくと、頭の中に組み上げられた地図上に魔物の居場所が浮かび上がる。

そしてその範囲内の魔物たちは一瞬動きを止めるとそれぞれがなにかに急ぐようにバッと駆け出す。

その中心にいるのは、


「あっ失敗した」


魔物からすれば下手な"探知"は元気な獲物がここに居ると叫んでいるようなもので我先にと血走った目の魔物達が元気な獲物、ルートの元へと走り出す。


「ははっ、不味い……」


ルートはそう渇いた笑い声を漏らすと迎撃体制を整え始めた。


ちなみに言葉は特別なもので通じることになっています。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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