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真実は迷宮の中  作者: Luce
第4章 セルファ
77/84

77話 捜査線

これからは毎週金曜日投稿になります!


ゾクッ


「にゃっ!?」

「にゃ?どうしたのルート?」

「何だか背筋がゾクッとした」

「にゃにがあったの?」

「…ごめん、ちょっとイジるの止めてくれない?恥ずかしいから!」

「あはは」

「返事してもらっていいかな?!」


良く分からない悪寒を感じたルートは変な声を出し、それをエリュにイジられるという一幕があったが、


「うわぁ、悪寒が退かないんだけど。これはやな感じだね」

「んん?私は何も感じないけど?」

「じゃあ僕だけか。レストに入った途端にこれとなると…。最悪かも知れない」

「どうして?」

「変人集団が多分僕に気が付いた」

「さっきの門番の人から漏れたの?」

「それは無い。あの変人たちの良く分からない直感に引っ掛かったんじゃないかな?」

「そんな事ある?」

「変人集団には"黒"が3人いる。しかもそれも5年前の話。多分ほかにも何人かは新しく"黒"にでもなってるんじゃないかな?」


人格面についてはともかく、実力面に関しては信頼しているからこそ出た言葉で、実際にこの5年で"黒"になった者もいる。


ただ、


「"黒"の昇格条件って特級危険指定種の討伐だったはずよね?そんなの出たら大きな噂になってるはずじゃないの?」


特級危険指定種が出現すると余裕で国家の危機なため、出現しただけでも国内外問わず噂になるはずなのだが、ある程度は俗世との関わりを持っていたエリュの耳には一切入ってこなかった。


「ああ、それはそうだよ。特級なんか2~3年に1度は出てくるからね。"黒"の1人でも死なない限り噂なんか流れないよ」

「え?」

「…ははっ、それに特級が出た瞬間に喜んで向かっていくんだよ?しかも全員生きて帰還とか意味わからないでしょ?」

「は?」

「そして最後に面倒な事にその変人集団…」


「いた」


「面白いことには目がないんだよねぇ」


ルートとエリュの目の前に最初からそこにいたのかと錯覚するほど自然に立って発見したと言う物静かな金髪の女性がいた。


その女性は楽しそうな笑顔でルートに手を向けると、


「確保」


ルートに向かって激しい風が吹き込み、身動き一つ取れなくする。


その風の中心でルートはその女性の姿を見ると、


(やっぱり最初はシシリーさんか!)


"風姫"という異名を持つ正真正銘の由緒正しいエルフ族の姫の彼女は風魔法のスペシャリスト、この魔境レストの中でも最高位の"黒"ランクに属している彼女。


風の通るところは自分の知覚範囲と豪語する彼女がその能力を思う存分に発揮された結果がこの一番乗りというもので、しかし、


「やっぱりシシリーに付いてきて大正解っ!」

「だな!」


その知覚能力を知られている故に、漁夫の利をかすめ取ろうとする連中が彼女の後ろには続々と付いてきており、


(ああもうめんどくさい!)


その一言に尽きるわけである。


ルートも漁夫の利をかすめ取ろうとする連中が凡百な者たちならこの状況を抜け出す事も可能なのだが、どいつもこいつも見覚えのある"紫"や"藍"ランクであるため、簡単には抜け出せない。


という訳で、


「エリュ!」

「『ウツロウセカイ』」


早々に自分の力で脱出することを諦め、"身体強化"で強引に風の檻を抜け出してエリュの力に頼った。


エリュの力によって転移した先は門の近くで、急に転移してきた2人に周りにいた者たちは驚いた様子を見せるものもいたが、殆どはまたかというような顔で見ているだけであり、


「驚かれない?」

「もちろん、突然人が現れるくらいで驚いていたら心臓がいくらあっても仕方がないよ」

「…やっぱりここっておかしい」

「否定はしないよ。それよりもさっさと対策を取らなきゃまた追っかけてくるからね」

「どうするの?」

「単純だよ」


そういうルートの顔は先ほどのシシリーたちに負けないくらい楽しそうなもので、


「全力で逃げる!"身体強化"!ほら、エリュも!来るよ!」

「え?と、取り敢えず『活性化アクティベーション』」


「見つけた」


「ほらきた!付いてきて!」

「わ、分かった!」


「逃がさない」


彼女が展開する風を避けて進んでゆくルートとエリュ、その合間合間を縫うように漁夫の利をかすめ取ろうとする者たちが襲い掛かってくるのに対処してゆき、


「ああもう!誰も彼もが相変わらずめんどくさい!」

「嘘っ!?『活性化アクティベーション』じゃ足りない!?」


普通に追い込まれている。


「諦めなさい」

「諦めたらめんどくさい事になるのは目に見えてるよ…」

「…やっぱり聞き覚えのある声?」


(失敗した!そういえばあの人音も集めれるの忘れてた!)


ルートの声を聞いてなにか記憶の端に引っかかるような感覚を覚え、そう呟くのを聞いたルートはそんなことを思い出し、体をヒヤッとさせる。


そして、


「そろそろ鬱陶しくなってきた」


彼女がそう呟くと、漁夫の利をかすめ取ろうとしていた者たちは一目散にその場から走って逃げてゆくが、ルートは、


「まずっ!エリュ!全力でこの場を離脱!」

「『異常活性化ブレイクアクティベーション』!」


ルートは虹蛇の全身筋肉という性質から得た筋力を最大限に活用し、一瞬立ち止まって力を溜めると一気に跳躍してその場を飛び退き、エリュは声に込められた危機感から『異常活性化ブレイクアクティベーション』を使ってルートの後ろを追って飛び退く。


すると、彼女を中心に魔力が吹き荒れ、


「『風の支配権エアリアルオーソリティ』」


周囲の風の流れが止まる。

更に、


「吹け」


宙を飛ぶルートとエリュを追うように一直線に鋭い突風が吹き、その牙はルートのロングコートの裾を切り裂く。


ルートは裾が鋭利に切り裂かれた事に避けきれなかったかと自分の読みの甘さを悔い、シシリーは対峙している2人の動きを読み切った上に更に余裕を持たせた攻撃範囲だったのにも関わらず当たらなかったということに素直に驚いていた。


そして、


「突っ切る!付いてきて!」


ルートはエリュに一方的に声を掛けると、ある方向に向かって地面を自分が走りやすいように変形させながら最高速度で駆け出してゆき、エリュも素直にルートの後ろを追ってゆく。


2人が先ほどまでとは違って直線的に駆け出してゆく姿を見ながら、シシリーは最早捕獲目的とは思えないほどに攻撃的に風を操ってその行く手を阻むが、しばらくするとその先にあるものを思い出すと、


「マズい!」


初めて焦りの声を出すと、


「『風の舞踏(エアリアルダンサー)』!」


自分の体を空中に浮かべて、風を操り放たれた矢の如きスピードで二人の行く手を阻もうと高速で飛翔する。


「逃がさない!」


そうして大規模な風の塊が2人に襲い掛かるその瞬間、ルートはクルッと体をシシリーの方に向けると、口を大きく開け、


「GAAAA!!」


まるで火竜の火炎ブレスのように口から膨大な量の無色透明な揺らめきのような魔力を口から指向性を持たせて放出、その緑味を帯びた風の塊と衝突させると、両者ともに相殺、ルートのブレスは大気中に溶けて消え、シシリーの風の塊は煌びやかに細々とした欠片となって周囲にそよ風を吹かす。


魔力のブレスを吐き出したことで焼けた喉の痛みを堪えながらルートは、一気に消耗した体内魔力を再び循環させて"身体強化"を発動させて駆け出す。


ルートは自分の手札をさらすことを嫌って先ほどまでは派手な行動は控えていたのだが、さすがに先ほどの一撃を防ぐには切り札の一枚は切らざるを得ず、それを切って窮地を逃れたわけであるが、


「…へえ」


それは愚策、シシリーの一時の無聊を慰めるためだけのモノとしての認識は一変し、ルートをお気に入りのおもちゃにすることを心に決め、彼女の生まれ育った環境に起因する望めば手に入るという所有欲が表面上に出て来ると、


「ふふふ」


無数の風の刃がルートに迫り、そのどれか一つでも当たれば大怪我は待ったなし、何の抵抗も無く胴体から切り離せるだけの鋭さを持ったそれらがルートの元へと殺到し、


「それはいけない」


ルートの体を切り裂こうとしていた無数の風の刃の群れは、その斜線上に割って入ったその声の主によって一つ残らず手に持った槍で霧散させられる。


その槍の持ち主は空中で一つ残らず霧散させるとルートとシシリーの中間あたりに音も無く着地すると、シシリーの方を向いて、


「気持ちは分かるけど、さすがに街に迷惑をかけるような魔法はいけないよ」


妙に苦笑いが似合うその槍の持ち主は青色の髪の長身の優男で、額から生えた2本の短く黒い角が特徴的で、それに何よりも


(あぁ、やっぱり師匠まで…)


ルートにとっては槍の師匠であり、頭の上がらない相手のうちの一人であった。


どこか天然の入っているシシリーとは違って、家族や屋敷で働いていた者たちに次いで長く付き合ってきた彼には声は疎か、その体捌きだけでも十分にバレる可能性もある相手の登場に、ルートはフードの奥で顔を引きつらせ、ゆっくりとこの場を去ろうとすると、


「待ちなさい」


その丁寧な口調とは裏腹に荒々しい魔力を放出するという半強制的な言葉に、その身に刻まれた過去の記憶がよみがえり、反射的に足を止めてしまう。


彼は荒々しい魔力を放出したまま、ゆっくりと振り返ってルートの姿を捉えると、にっこりと笑って、


「こんにちは。私はソウと言います。どうぞよしなに」


そう言って一礼して見せるソウにルートは声を出すわけにもいかず、ただその場で棒立ちになりながらも何とか隙を探す。


そして、


「あなたからはなかなか強そうな雰囲気を感じます。どうでしょう、私と1戦試合をして頂けませんか?それでは参ります!」


そして返答を聞くことなく一直線に突っ込んでくるソウ。


ルートは腕が立ちそうな者を見つけると、その相手の都合も聞かずに行動に移るその様子を見て、懐かしさを覚えると同時に自分の番ともなると迷惑極まりない行動だなと思いながら腰袋に手を伸ばす。


そして、


(戦ってられるか!)


腰袋に仕舞っておいたゴルフボール大の球をソウに向けて投げつけ、ソウはそれを槍で貫いて迎撃する。


その瞬間、槍の貫いた部分から白い煙が一気に広がって視界を白一色に染め上げる。


ルートはその瞬間には既に動き出していて、怒涛の展開に付いてこれてなさそうなエリュの手を引き、その煙に乗じて路地裏に駆け込み目的地に向かう。

ついでに少しくらいは効果があるだろうということで無意識のうちに漏れでる魔力を消し、更に磨き抜かれた気配を絶つ技術を最大限に使う。


ルートとエリュが走り去り、その場に残された煙はシシリーの風魔法によって一瞬にしてレストのはるか上空まで運ばれ視界が明瞭になったところで、


「ふ、ふふふ。面白い!」

「は、ははは。いいね!」


シシリーとソウの2人の"黒"ランクの戦闘者は笑い声を上げて、まんまと自分たちから逃げおおせた正体不明の人物に対する評価を最大限に上げる。


そして、


「逃がさない」「逃がさないよ」


シシリーは空へと飛び上がり、ソウは直感に従って駆けてゆき、逃げた2人、特にルートを追ってゆく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


路地裏、大通り、時には屋内を通って目的地に近付きつつあるルートとエリュの2人は、最大限に警戒をして進んで行っているために精神的疲労が蓄積されつつあるが、


「もうすぐだよ。この路地を抜けたらひたすらに真っ直ぐ走って。目的地に着いたら追ってこなくなるから」

「分かったけど、そもそも私って狙われてないんじゃないの?」

「エリュ、あの人たちを舐めない方がいい。いくら変人集団とはいえ、全員が高ランクの戦闘者。強者に対する嗅覚は誤魔化せないよ」

「…私も標的か」

「間違いなく」

「はぁ」

「なんかごめん…」


決してルートに責任がある訳では無いのだが、この町の戦闘者のぶっ飛び具合に呆れるエリュについ謝ってしまう。


そして2人とも一つため息を吐くと真剣な顔付きになって、


「行こうか」

「うん」


ルートは"身体強化"、エリュは『活性化アクティベーション』で身体能力を上げていくと路地から飛び出し、


「ガハハハハ!やっぱり俺の勘は冴えてんだろうよ!」


乱暴な言葉遣いに似合うガタイの良い筋肉の塊のような男が腰に手を当てて口を大きく開けて笑っているのを見て、内心で「ビンゴ!」と叫んでいた。


というのも彼はガランドールという名で、先ほどのシシリー、ソウと合わせれば五年前から現役の"黒"ランクの戦闘者でルートもよく知っている相手であったからだ。


そのガランドールは、


「ん?」


そう声を上げて首を捻り、路地から出てきた2人、正確にはフードを被ったルートをジッと灼熱の業火のような瞳の色を深い知性が感じられる紫の瞳に変えて見詰める。


そして何度も目を瞬かせ、目を擦ると、その巨体から出たとは思えないほど貧弱で震える声で、


「ま、まさか…ル「見つけた!」「いた!」「「「居たぞ!こっちだ!」」」」


何か確信に迫るような言葉を遮るようにシシリー、ソウを始めとした変人集団が2人を取り囲んで騒ぎを起こす。


そして、


「もう逃がさない!」

「戦ってもらう!」

「…グスッ。よく、よく!」

「「「大人しくおもちゃになりやがれ!」」」


何かに震え、涙を流すガランドールを他所に、盛り上がりを見せる変人集団に包囲された2人というと、


「どうする?」

「お手上げ」

「もうちょっとなにか無いわけ!?」

「あるにはあるけど…」

「なに!」

「片方が生贄になるとか」

「なら行ってらっしゃい!」

「だから嫌だったんだよ!」


何やら小声で揉めていた。


そして、


「行く!」「参ります!」「「「全員で掛かるぞ!」」」

「エリュ!殺すつもりでやっていいよ!どうせ死なないから!」

「それって倫理的にどうよ!」


変人集団と2人の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた時、


カンカンカンカン!カンカンカンカン!カンカンカンカン!


鐘の音がレスト中に響き渡り、全ての者の動きが止まる。


そして、


「獲物」「鍛錬相手」「…グスッ」「「「昇格のチャンスが来たぞ!」」」


一瞬で包囲が解け、全員が東に向かって向かって飛んだり走ったりと消えてゆく。


エリュはその状況が分からずに頭に疑問符を浮かべていると、


「緊急事態を知らせる鐘の音。今の鳴り方は特級危険指定種の出現だね。よし、包囲も解けたことだし目的地へと行こうか」

「随分悠長なこと言ってるけど大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。この程度でレストが落ちるようなら既に30回は落ちてるよ」

「え、ええ…」


そしてルートは歩き出し、唯一この場に残っていた涙目のガランドールの脇を通り抜け、


「ただいま」

「っ!!」


目的地へと向かっていった。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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