75話 熱
またまた遅くなりました!
それでは王都編の最終話、どうぞ!
ルートとエリュが着替えて食事をし、ルートは復讐を果した結果の心情を同じ復讐者であるエリュに対して吐露し、泊まる場所が無いというエリュを連れてルートは"悠遠亭"に戻り、同じ部屋で泊まることになった。
そうして翌日の朝、チュンチュンという鳥の囀りにルートの意識が現実世界へと帰還すると、まずはじめにぼんやりと感じたのはどうしてなのかは分からないが久しく感じていなかった懐かしさや温かさに身を包んでいるということ。
次にふつふつと感じたのは、顔に当たる日差しが暖かく、普段なら日の出前に起きていたのにも関わらず、日が出る時間になっても起きていなかったという自分の体から緊張感が完全に抜けてしまっているということ。
そして最後にハッキリと感じたのは身を包んでいる温かみは決して精神的な要因から来るものではなく、外的要因があるということ。
ルートは意識が完全にはっきりとしたことを確認すると、脳裏で既視感が訴えかけてきていることを感じながらその温かみの元を探るべく自分の体にかかってる毛布をペラっと捲る。
そこには案の定と言うべきか、既視感の原因がおり、
「…はあ」
ルートはため息を付くしかなく、とりあえず問題を後回しにするために毛布をかけ直す。
「…はあ」
再びため息を付きながら隣のベッドを見てみるとやはりそこには寝ていた者はおらず、ルートは先ほど見た既視感の原因がそれだということは理解したくはないが理解出来た。
「…はあ」
三度ため息を付くと、さすがにそれについて触れないといけないだろうと、再び毛布を捲る。
そこにはルートに胸に手を添える形でスースーと寝息を立てているエリュがいて、ルートは彼女に起きてもらわなければ話も始まらないということで肩を揺すろうとするが、
「??」
自分の体が自分の命令を聞かず、彼女を起こそうとするよりもその姿を眺めていたいという気持ちが沸き起こってきて伸ばした手がすんでのところで止まり、代わりに彼女の頭に触れる。
ルートの手が彼女の頭に触れた瞬間、「んんっ」と擽ったそうなくぐもり声をあげ体をきゅっと丸め、ルートはその声を聞いた瞬間にビクッとして手を止める。
そして彼は彼女の動きをしばらく観察して動きのない事を確認すると、今度は優しく翡翠色の綺麗な髪に触れ、しばらく撫でる。
触れただけでも分かるサラサラとした髪、髪の生えている方向に逆らうことなく指と指の間を通すと一切引っかかることなくスルスルと合間を抜けていく。
それを下からすくい上げるように持ち上げるとその手から零れる髪は1本1本重力に逆らうこと無くシーツの上にふわっと落ちる。
ルートはそれがなんとも楽しくなってしばらくその感覚に浸っていると、
ジー
エリュが自分を見上げていることに気が付き、
「うわっ!!」
大慌てで彼女の髪から手を離してベッドから飛び退こうとするが、彼女が抱き着くような形で動きを止めたことでそれを阻む。
抱き留めたことで自然とエリュと密着することになったルートは、今までに感じたことのない程の羞恥心と緊張で体がカチコチに固まり、顔を真っ赤にしてエリュの顔を見る。
エリュのジト目の上目遣いに以前のルートなら少しくらいは照れただろうが、今のルートは彼女の整った顔を見てに心がざわつくのを感じ、照れよりもなによりも彼女の体に触れたいという情動に驚き、その情動を必死に抑える。
ルートが何かを我慢しているような様子にエリュは、ルートに向けていた不信の目を心配の目に変えて、
「ちょっと、大丈夫?」
その鈴の鳴るような声にルートはまた心がざわめくのを感じながら、緩んだ拘束から強引に逃れてベッドから飛び出ると、
「あはは、ちょっとおかしいみたい。少しシャワーでも浴びてくるよ!」
そう言い残してすぐさま廊下に出て扉の向こうに逃げ込んだ。
扉をトントンと叩き、エリュの心配すような声が聞こえてくるものの、ルートは「大丈夫」とだけ返すと、シャワーを浴びるために服を脱いでいくと、
「ん?」
下着に白い液体が付着していた。
ルートは白い液体に見覚えも心当たりもなく、不思議に思って首をひねるがそれで答えが見つかるはずも無く、体が虹蛇に近いものになったのではないかと結論付け、それでも不気味に思ったルートはその下着は近くにあったゴミ箱に捨て、それを含めて起きてから自分の身に起きている異変というものに悩みながらシャワーを浴びる。
そうしてさっぱりとしたところでルートは服を身に纏って扉の外へと出ると、そこにはエリュが心配そうな顔で立っており、ルートは思わず後ずさる。
エリュはそれを見るとまた心配そうな顔をして、
「本当に大丈夫なの?」
その視線を受けたルートはグッとくるものを感じ、思わず飛びつきそうになるが何とか堪えると、
「多分復讐が終わったから気が抜けているんじゃないかな?情けない話だけど」
最もらしいことを言ってお茶を濁す。
そのルートの言葉をエリュが確かに長年蝕んできたものが無くなればそんなことにもなるかと納得すると、
「まあ王都にいる内はそれでもいいんじゃない?さすがにセルファ領に戻るというのにそこまで気が抜けていたら帰れるものも帰れないでしょうから元に戻さないといけないでしょうけど」
「確かにそうだね」
そう言って話をまとめる。
そしてエリュが誘う形で朝食を食べに行くことになり、ルートは簡単に身支度を整えると部屋をエリュと共に出ていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしてルートの身に今までに無かった変化が起こってから2日、前もって決めていた王都逗留の最終期限の日、ルートはまた日の出前に起きて『影部屋』の中で毎朝の日課をこなしていた。
その『影部屋』にはエリュもおり、普段は体内に留めているという魔力を放出しながら体の柔軟をしている。
この2日間でルートはある程度エリュを見た瞬間に情動が沸き上がってくる気持ちをコントロール出来るようになってきたが、エリュの姿を見て心がざわめくという感覚はどうにもコントロール出来そうに無かった。
気がつけば今のようにエリュの柔軟している姿に目を奪われているということが良い証拠だろう。
この2日間でルートが行ったことといえば鍛冶屋のダダンに使った短剣の整備を頼み、エリュと簡単な模擬戦をしたり、ギルドで近辺の依頼を受けたりとしていた。
そのギルドの依頼を達成して帰ってきた時に、ルートとエリュは"青"への昇格試験が受けれるようになったというがランクはどうであれ魔物の素材を持ち込めば買い取ってくれるため、さほど魅力は感じなかった。
閑話休題
ルートはもうすぐ日が出る時間ということで、自分の"身体強化"の鍛錬を打ち切ると、
「そろそろ終わりにしようか」
とエリュに声をかける。
するとエリュは前屈を止めてルートに近寄ると、
「時間ね」
「うん。というわけで繋げるよ」
ルートは"悠遠亭"の部屋と『影部屋』を繋げると、それを潜って部屋へと姿を現し、続いてエリュが出てきたのを確認すると繋がりを断ち切る。
出てきた2人は交代でシャワーを浴びてサッパリとして戦闘服に着替えると、忘れ物がないかどうか確認して1週間程度滞在した部屋を出て鍵を掛ける。
2人が受付に行くとそこには毎度お馴染みの老紳士がいて、こちらの姿を見つけると見事な一礼をする。
そして2人はその老紳士の元まで行くと、
「世話になりました」「お世話になりました」
「いえいえ、長い間お泊り頂き有難うございました」
そう言ってお互いに礼をするとルートは腰袋から金貨を取り出して老紳士に渡して、
「お釣りはいらない。残りは感謝の印として貰って欲しい」
「左様でございますか。それではありがたく受け取らせていただきます」
老紳士はルートから差し出された金貨を受け取ると一礼し、カウンターの下から取り出した木製のバッジを二つ取り出して差し出して、
「もし他の場所の"悠遠亭"にお泊りの際にはこちらをご提示ください。その意味は申せませんが、私たちにとってお二人は良いお客様であったということを示すものです。どうかお受け取りください」
二人はその木製のバッジを受け取ると、老紳士にもう一度お礼を言うと"悠遠亭"を出て行った。
そうして宿を出たところでルートとエリュは適当に露店で売っているものを食べて腹を満たし、保存の利く野菜や干し肉の類を大量に買い込んで、人通りが多くなり、街が活気立ち始めてイイ時間になったところで、
「じゃあ行こうか」
「ええ」
二人は大通りの果てにある王城へと足を進めていく。
二人は王城の前までたどり着き、辺りを見張っている兵士にセルファの家紋の入ったバッジを見せると、前に見せたときとは違って止められることも無く、堀から橋が上がってきて通行を許された。
セルファ家の家紋が確かによく知られているようになっているということに王や宰相といった面々の努力が垣間見え、ルートは確かに約束も守られそうだと安心しながら橋を進み、そして城の中に入ると、やはりいつもの執事服の男が立ってこちらに一礼すると、
「ご案内します」
そう言って二人を王の執務室まで案内する。
そうして案内された部屋の中に入るとそこには王、宰相、リリーシアがおり、二人が入室してきたのを見ると、
「よく来た」
「来たの」
「いらっしゃい~」
と口々に言った。
二人は「どうも」とだけ言い、王が手で指し示した通りにソファーに腰を下ろした。
王は二人が着席したのを見ると、テーブルの上に置いてあった古びた懐中時計と二冊の本、そしてその隣に置かれた皮紙を筒状に丸めたものを手で指し示すと、
「ギルドマスターから聞いた話によるとあまりルートの方は長居できないだろう。したがって挨拶は抜きにさせてもらう。さて、今テーブルの上にある品々だが、色々と分かったことがある。詳しい内容はその皮紙の中に書いてあるが、簡単に言うと本の方は一冊が光魔法、それも高位魔法について書かれたものであり、もう一冊には余もその内容を聞いて驚いたのだが神の存在について書かれた本であるらしい」
「神?」
「然り。とは言ってもその神の存在について書かれた本のほうはリリーシアには読む為の権限が無かったようだ。リリーシア」
「は~い、その本は二つで一つのようで~、私が読めるほうの本にはもう一つの本に書かれている情報が書いてあると書いてありました~」
なんとも気の抜けるような話し方をするせいもあって情報の信憑性が疑われてしまうが、宮廷魔道士長という役職がリリーシアの言葉を補強しており、ルートとエリュはその言葉を信じざるを得ない。
そうして二人がその言葉を消化したことを王は感じ取ると、
「というわけでその二冊の本については以上だ。おそらく"神の寵児"と呼ばれていたエリュテイア殿ならその本を読むことも出来るかもしれないが、その本の内容についてはそちらで判断して欲しい。もし教えても問題ないような内容であれば余らにも教えては欲しいが、その辺りは主らの判断次第。それでは続いてその懐中時計だが、時を知る道具としての時計の機能の他にも魔道具としての能力もあるらしいが、その詳細は一部を除いて不明らしい」
「不明?」
「鑑定を担当した者が、それを全て知るには王国の設備では足りず、世界最高峰の腕を持つ者に頼むしかないと報告してきた。現状で分かった能力についてはまたその皮紙に書いてあるが、国宝級のアイテムボックスの機能があるらしい」
「国宝級…時間が止まるというアレですか」
ルートは内心で『影部屋』の使い道が一つ減ったことと考えていながらも、便利なものが手に入ったということで素直に喜んでおいた。
王はそうして全ての鑑定を依頼していたものの説明を端的に終えると、
「というわけでルート、お主への報酬はこれで果した。次にエリュテイア殿に関してだが、ホルン侯爵から聞き取った内容を、宰相」
「任されました」
そう言って宰相に話の主導権を渡し、その宰相は、
「んん、それではホルン侯爵から聞き取った話じゃが、どうやらエリュテイア殿が探しているという人物は今はアガレア連邦にいるそうじゃ。後、これは我が国の情報網には入ってきていないのだが、ピスティス聖国から各国へと旅立てゆく聖職者がここ最近増えているようで、特にアガレア連邦に向かっていく者たちが多いとのことじゃ」
「アガレア連邦…ですか」
「エリュテイア殿が何をしようとしているのかは分かりませんが、どうか気をつけなされ」
宰相はそう言って何かを思い悩んでいるエリュにそう心配そうに声を掛けるが、彼女はその言葉に反応することなかった。
そうして静かになった部屋の主は今の雰囲気の打破を試みたわけではないだろうが、椅子から立ち上がって二人の方に近づき、目の前に立つと、
「長く引き止めても意味がない。この辺りで話を終わらせよう。ルート、エリュテイア殿。此度は余の監督不行き届きで迷惑を掛けた。しかし、もう二度とこんなことが起きないような国にしてゆく故、見守っていて欲しい」
そう言って頭を下げた。
ルートはその王を見ながら隣の何かに悩んでいるようなエリュの腕を掴んで強引に立ち上がらせて扉のところまで歩いて行って扉を開けると、王たちの方を向いて、
「…期待しています」
そう言うとルートはその部屋を出てゆき、王や宰相は人生を狂わす原因を作った自分たちに期待してくれている言われたという事実に静かに涙し続けていた。
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執事服の男の案内に従って王城を出てきたルートはとりあえず何かを考えている様子のエリュを近くにあった公園のベンチに座らせ、自分も隣に座った。
そして、
「…アガレア連邦、セルファ領から船で直行便が出ているよ」
「!?ほんと!?」
ルートはエリュのおそらくの悩みであろう他大陸にあるアガレア連邦に行く手段をエリュに提示すると、エリュは見事に食いついた。
エリュはそうして一つ呼吸を整え、ルートの目をまっすぐに見て、
「私も連れて行って、セルファ領に」
そう言うと、ルートは、
「もちろん喜んで!僕の色々な意味での原点、それを他の誰でもないエリュにも見て欲しいから!」
花の咲くような笑顔をエリュに向け、彼女の手を取ると、エリュの顔が真っ赤に染まり、
「ああ、ええっと、その…、行こ!」
その顔の朱を隠すようにエリュはルートの手を強く握り返してベンチから立ち上がって走り出い、道行く人と人の間を走り抜けていきながらエリュは小さく、
「あの笑顔は…ずるい」
そう呟いてルートの手を少し強く握り締める。
空は快晴、空気は澄んでいるものの少し寒く、もうすぐ冬がやってくるんだろうと容易に想像できる。
しかしルートとエリュの間で繋がれた手は暖かく、その熱は共有しているのではなく、新たに二人の間で生み出しているような感覚さえ覚える。
ルートの5年にも及ぶ復讐に囚われた日々は終わり、そして同じく復讐を誓ったエリュの標的の情報も手に入れた。
繋いだ手から伝わってくる熱がエリュに万能感を与え、体には羽が生えたように軽く感じて風を切って走る。
この一瞬だけは復讐を忘れ、手に伝わってくる熱とその熱源だけがエリュの今のセカイであった。
そしてその熱源の心地の良い声が、
「エリュ!そっちは逆方向!セルファ領はあっち!!」
エリュの熱を急上昇させた。
これにて王都編閉幕ということで次はセルファ領編に入っていきますが、これからは今のような投稿時間が遅れたとしても毎日更新が出来るような状況ではなくなり、またもう一作の方の連載を再開したいということもあって、こちらの方の更新は遅くはなると思いますが、それでも週に一回は更新していきたいと思いますので、引き続きお楽しみいただけたらと思います。
それでは今後もルートとエリュの物語をお楽しみください。




