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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
74/84

74話 心

遅くなりました!


その代わり良いものになったと思います!


宰相からのセルファ領に関しての話、リリーシアからは闇魔法を使えるという確認、マーディライト公爵からはルートの父母の話といった王城での話が終わり、城下町へと出てきたルートとエリュは食事をする店を決定したあと、着替えをしなければならないということになって薄暗い路地裏にルートがエリュを連れ込み、エリュの足元の影に手を触れ、『影部屋シャドウルーム』と繋いでその中に落とした。


ルートの作り上げた空間に連れ込まれたエリュはルートの突然の行動に驚いたが、エリュとは違うところから『影部屋シャドウルーム』に入ってきたルートが、


「ここで着替えてね。それじゃあまた後で」

「え?ちょっと!?」


ルートはそう言って一方的に言葉を投げると、エリュの疑問の声に反応することなくそこらへんに置いてあった服を手に持って外へと出て行った。


一人残されたエリュはルートに向けて伸ばしていた右手から力を抜いて一つため息をつくと、


「…着替えよ。『ウツロウセカイ』」


エリュがそう言うと目の前の地面にホルン侯爵邸に置いていた荷物の全てが現れ、その中から普段着を取り出すと着ているルートから渡されたジャケットをゆっくりと脱いで、下のボロボロのドレスをさっさと脱ぎ捨てると、普段着を身に纏ってゆく。

高級品である鏡("神の寵児"時代に貰ったもの)で今の自分の姿を確認して髪型を少し弄ると、女性の戦闘者にとっては必須といっても良い香水を首元に振りかける。


そうして最後に鏡に向かってニコッと笑って見せ、準備も完了したところで、


「そろそろ良いかな?」


丁度良いタイミングでルートの声が聞こえてきて、


「うん。いいよ」

「そう、なら繋ぐよ」


ルートのその言葉のすぐ後にエリュのすぐ近くに繋がりが生まれ、エリュは最後に自分の姿を首を動かして確認すると、その繋がりに飛び込む。


エリュが再び薄暗い路地に出るとそのすぐ傍にはルートがいて、エリュが出てきたことを確認すると手に持った脱いだ軍服一式を自分の影に落として『影部屋シャドウルーム』に送る。


そうして普段着に着替えた二人はお互いに相手の姿を見て、エリュは少し笑い、ルートは少し頬を染めた。


というのもエリュは、ルートの服装が街を歩いている青年が着ているような白のシャツと黒のパンツの組み合わせという無難な仕上がりになっているものの、ルートの身長が身長なため、どこか大人ぶっている少年という印象を受ける格好にまとまっていたために少し笑った。

一方のルートは、エリュの服装がその髪の色と同じ翡翠色のシャツに黒の細身のパンツという組み合わせでルートと似たものではあるが、女性にしては高めの身長とそのスレンダーな体型が上手い具合に組み合わさり、更に彼女のクールな顔立ちが彼女の美しさというものを見事に引き出していたために少し頬を染めた。


そして、


「似合ってるね」「フフ、似合ってる」

「バカにしてない!?」「あら、ありがとう」


ルートはエリュに食って掛かり、エリュはルートに余裕の笑みで返し、少しの間二人のじゃれ合いが終わると、ルートが少し落ち込んだ様子で、


「…それでは気を取り直して"櫓"まで参りましょー」

「ごめんね。そこまでテンションが落ちるとは思っていなかった」

「いやいや、エリュさんが気にすることでもねーです。僕の身長が低いのが悪いんですよー」

「いやほんとごめんって!じゃあ行こ?ほらほら」


謝りながらエリュはルートの手を引いて"櫓"という店へと向かってゆく。


道中、手を引かれてルートがおろおろとしている姿を見られ、マダムたちから初々しいものを見る生暖かい目を向けられていたが二人はそんな視線に気がつくこともなくどんどんと"櫓"への道を進んでゆく。


そうして3分ほどで店の前までたどり着くと、ルートはむず痒くなって手を離そうとするが、エリュはその逃れようとする手をガッチリと掴んでそのまま入店する。


店内には"悠遠亭"の食堂と同じようにカウンター席とテーブル席があるような造りになっていて、温かみを感じる木と光の魔道具が安らぎをもたらしているのか、戦闘者と思われる格好の者たちも必要以上に騒ぐこと無く談笑をしながら食事を取っていた。


料理を運んで厨房に帰っていこうとしている店員が店内に入ってた2人に気が付き、


「いらっしゃいませ。"櫓"へようこそ。先ほどのお客様ですね、席はお取りしておりますのでご案内いたします。こちらへどうぞ」


と優しい口調で挨拶をし、頭を軽く下げて一礼してから二人を先導し始める。


店員の案内に従って店内にある階段を上って、宿のように扉の数々が面している廊下を歩いて行くと、ある扉の前で立ち止まってそれを開いて二人を室内へと招き入れる。


その部屋まで案内した店員は部屋の真ん中に置かれたテーブルまで歩いて行って二人に着席を促すと、テーブルの上に置かれたハンドベルのようなものを指差して、


「ご注文や御用がお有りでしたらこちらを鳴らしてください。鳴らしてから3分程度で店員が伺わせて頂きます。メニューはこちらです。それではごゆっくりどうぞ」


そう言って扉をゆっくりと閉めて出ていった。


そうして室内に残された2人はメニューを適当に選んで色々と頼み、一緒に頼んでいたグラスに注がれたワインが一足先に運ばれてくると、軽くチンッとぶつけて笑いあったりとして楽しんで飲んでいると、出来上がった料理が少しずつ運ばれてくる。


そうして次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、たらふく食べてお腹もいっぱいになり、何もなくなった皿も全て引き上げられて、会計を済ませて、ただワインを飲んで食事の余韻に浸ってゆったりとしていたところで、ルートは少し赤くなった顔をテーブルに向け、指先でグラスの淵をなぞってゆっくりと口を開くと、


「…前にエリュが聞いたことがあったよね。「私達は果たして生きている?」って」

「うん」

「その問いに今答えるよ。より一層分からなくなった。僕は生きているということはなにかに囚われたりすることなく日々を過ごしていくということだと思っていた。だから復讐というものから解放されたら自分は生きていると言えると思ってたけど、そうじゃないみたい。いつの間にか僕の中で復讐が生きる意味になっていた。本当に皮肉だよね、いっそ滑稽だよ」

「…」


ルートはそう言って自嘲気味に話し、エリュはそれを聞いて自分と同じ目的を持っているルートがそれを果した途端にそんなことを言っているのを聞いて、自分が目的を果した後に何が残っているのかを考えていた。


そうしてルートは更に続けて、


「空っぽ、それが今の僕なのかもしれない。それに目的を果したからこそ今すぐに死んでも良いとさえ思ってる。さっきの王城で爵位を返還したのには、セルファ領を治めるのに僕の能力じゃ足りないというのを言い訳に、死んでも問題ないようにという気持ちの表れなのかも知れないね」

「それは…」


エリュが返答に困っていると、ルートは顔を上げてエリュの目をしっかりと見つめて、


「…二度目の喪失感、だね。一度目は家族とみんなを失った、次は生きる目的を失った。…エリュ、僕は復讐を止めないし止めるつもりも無い。けど覚悟はしておいたほうが良いよ。少なくとも僕にとってのここは行き止まりだね」

「…そっかあ」


恐ろしく実感の篭った声でそう言うと視線をテーブルに落とし、エリュは天井を見上げて何かを考えていた。


しばらくすると、ルートは顔を上げてグラスに残ったワインを一息に飲み干して、


「…そろそろ出ようか」

「…うん」


エリュを連れて個室から出て、働いている店員から「またおこしくださいませ」という言葉を受け取って店を出る。


二人が外に出た時にはすでに日も沈みきっていて、空に弧月が真上で白銀に輝き安らかに静かな光を地上に放っており、それらの後ろに小さな光の粒が己の存在を主張していて冬の到来が近いこともあって肌寒い風が吹いて酒で火照った顔を撫でる。


二人は白い息を吐き出しながら並んでそんな空の下を歩いてゆく。


あらゆるところから聞こえてきているような喧騒の街の中を歩いているルートは、なぜか手の届く範囲なはずなのにそれが何処か遠く、まるで演劇のように舞台の上で演じられている物語のように感じ、猛烈に孤独感に襲われた。

ルートは何かを堪えるようにギュッと拳を握り締め、内心から起こる震えを抑える。


そうしてしばらく何の目的も無く歩いていると不意に眠気が襲ってきて、「ふわ~」と欠伸をしてしまい、少し涙目になったルートはエリュに、


「そろそろ解散かな。僕は宿に帰るけどエリュは?」

「寝る場所は無くなったよ。先の一件で」

「ああ、泊まってたんだ」

「そう」

「じゃあ僕の泊まっている宿にでも来る?まだ部屋なら開いてるかもしれないよ?」

「まあ良くアテも無いからそうするしかないよね」

「それじゃあ早いところ宿に戻ろう。今日は色々あって疲れたから早く帰って寝たい。ふわ~」

「そうね、私も少し疲れたから休みたい」


寝る場所がホルン侯爵が捕まったことでなくなってしまったエリュを連れて、ルートは"悠遠亭"へと帰っていった。


そうして今いる大通りから見える王城の姿と"悠遠亭"のある大通りから見えた王城を見比べて大体の現在地に見当をつけてから移動して行き、一度も迷うことなく"悠遠亭"までたどり着き、その扉を開いて中に入る。


"悠遠亭"の中に入って自分の部屋の鍵を貰う必要もあって受付に向かうと、そこには受付に備え付けられているのではないかと勘違いしてしまうほどにいつもいる老紳士が立っており、彼がルートの姿に気が付くとニコリと微笑んで、


「お帰りなさいませ、ルート様。ご無事で何よりでございます」


一礼してそう言う老紳士にルートは、


「ありがとう。ところで今開いている部屋はあるか?この女性の泊まる部屋を探している」


そう言ってエリュを指し示すと、老紳士は、


「お一人でお泊りになれるような大きさの部屋はすべて埋まっておりまして、開いている部屋となると4人部屋からとなっていて宿泊料も高くなってしまいます」

「だそうだけど、どう?」

「どれくらいの値段になるのでしょうか?」

「4人部屋で一泊金貨1枚となっております」

「…そうですか」

「…もしルート様とそちらの方がよろしければ同室で宿泊いただいても構いません。宿泊料金は部屋に対して発生しておりますので心配なさらずともよろしいです」


老紳士はルートとエリュに対してそう告げた。


二人はその老紳士の言葉にお互いに顔を見合わせて、


「私は構わないが、そちらは?」

「構いません」

「そうか。それではそういうことで頼む」

「かしこまりました。それでは鍵とこちらを」


老紳士はルートの使っている部屋の鍵と金属製のプレートを二枚を受付のカウンターの上に置いた。


ルートはそのプレートを見たことが無かったため、


「これは?」


それについて尋ねると、


「見たところお疲れのご様子ですので、体や精神から緊張を解きほぐす作用を持っているハーブを使ったお茶を提供させていただこうかと。そのプレートを食堂で提示していただければご用意させていただきます」


老紳士の気遣いにルートとエリュは顔を見合わせると、二人そろって「「ありがとう」」と言って頭を下げ、カウンターの上に置いてある鍵とプレートを手にとってルートがエリュを先導する形で食堂へと移動していく。


宿泊客と思われるものたちが静かに酒盛りをしている中、二人は空いていたテーブルに座って、近づいてきた店員にプレートを渡すと、すぐに湯気が踊るカップを二人分持ってきて前におくと、「ごゆっくり」と言って去っていった。


ルートはその湯気の踊るカップを口元まで持ってゆくと、ほのかに香る春の新緑のような匂いが心を落ち着かせ、口に含むと独特の風味が無性に懐かしく、そうして少しの清涼感がすっきりとする。


そうしてゆっくりとそれを味わいながら、体と心が思ってもいなかった場所の緊張を解いていくのが分かり、カップに残る全てを飲み干したところで自然と欠伸が出てしまう。


それはルートだけでなくエリュも同じだったようで、二人して欠伸をするとお互いに小さく微笑んで、


「…そろそろ寝ようか」

「…そうね」


ゆっくりと席を立って食堂を出て行て、受付の老紳士に会釈をして階段を上って自分の部屋へと長い廊下を進んでたどり着くと、鍵を開けてエリュを招き入れる。


そうしてパタンという音がなって扉が閉まり、接触パネルに触れて明かりをつけてリビング兼ベッドルームへとそこそこ重く感じてきた体を運んでゆくと、ルートが使用した痕跡などは一切無く、綺麗に片付けられていた。


そしてルートは自分がいつも使っているベッドに座ると、


「エリュ、先にお風呂どうぞ。場所は廊下にある扉の向こう」


エリュは普段ならこの部屋を借りているのはルートなのですからなどと言ってなかなか話も纏まらないだろうが、今は疲れていることもあり、そんな問答を展開することもなく、


「それではお先に使わせていただきますね」


そう言って廊下へと戻ってゆく。


しばらくするとシャワーから出た水が浴槽に打ち付けられる音が響き始め、ルートは『影部屋シャドウルーム』と繋ぐとさっさと入って、エリュのものと思われるものからは視線を外して自分の寝巻きや替えの下着などを色々と集めながら、物理的な意味合いでも一人になったということで自然と湧き上がってくる不安に思考が埋め尽くされていた。


ルートはそれを振り払うようにさっさと自分の服を集めると、『影部屋シャドウルーム』から出て行く。


そうして部屋へと戻ると、丁度エリュも風呂から出てきたところのようで服を着ていないということはないが、ほのかに上気した顔が色気を感じさせ、ルートはさっさとお風呂に入って自分の汚れを落として、改めて復讐の対価である自分の変貌してしまった体を見て苦笑いをこぼしてしまった。


ルートはそんな気持ちも一緒にシャワーで洗い流すと、体を拭いて先ほど用意した服を身に纏って寝るためにリビングまで歩いていくと、エリュが月に照らされて窓の外を眺めているところを見て、ルートは思わず呼吸をすることを忘れ、その姿に釘付けになっていた。


エリュはルートが風呂から上がってきたことに気が付くとくるっとルートのほうを向き、月光を浴びていないから表情が暗くてよく見えないまま、


「…今のルートはどこか消えてしまいそうな儚いもののように見える」

「…」


ルートはエリュの言葉の続きを静かに待つと、


「それが復讐を果した結果なのだとしたら私もそうなるかもしれない。正直に言ってそうなってしまうのが今はどうしてかすごく怖い」

「…」

「だから…、だから私の復讐が成ったときには私を引き止めてくれる人がいて欲しい」

「…」


エリュはそう言ってルートの傍まで近寄るとルートの服の袖を摘んで、


「…私があなたを引き止める。だから、あなたは私を引き止めて、ルート」


薄暗くてよく見えないが、うっすらと見えるエリュの目はルートに対して懇願するような色が込められており、その視線を受けたルートは自分でも驚くほど、


「分かった」

「!!本当に?!」

「うん。だから僕のことはお願いね」

「うん、うん!任せて!嘘じゃない?!」


エリュはルートを抱き寄せ、何度も何度もルートの回答を確認し、ルートはその言葉に肯定を返し続ける。


そうして興奮状態にあったエリュはしばらくすると我に返ったようで、ルートからバッと離れて距離を取ると、


「そ、それじゃあそういうことで!おやすみ!」


慌ててルートの使っているベッドに逃げ込んで毛布を深く被って顔を隠した。


ルートはそれを見て、自分が使っていたベッドなんだけどなあなどと考えながらもう一個のベッドに寝転んで毛布を被って、エリュのほうを見ると、


「…おやすみ、エリュテイア・ユースト」


そう言うとエリュは顔まで被った毛布から少し顔を出して、


「…おやすみ、ルート・セルファ」


笑顔でそう言うと、また毛布を深く被って顔を隠してしまった。


ルートはそのエリュを見て少し笑った。


そうして寝やすいように体勢を変えていると、不意に窓の外に見える月が目に入り、その月を見てルートは"櫓"を出たときと同じ月のはずなのに、なんとなく今の月は弧月と呼ぶには抵抗のあった。


ルートは月にそんな印象を持つと、丁度良い体勢を見つけてそのまま目を閉じ、その瞬間にルートは夢の世界へと旅立って行った。


その夢の先にはなんとなく5人の姿と多くの人たちが待っていてくれているような気がして、ルートは大きく感情を揺らしながら、その場所へと急いで行った。


そしてルートは、


「ずっと、ずっと聞いて欲しかったことがあるんだ!エリュっていう女の子がいてね!その子が~」


本心からの笑みをその者たちに向けて話し始めた。



ああ、砂糖万歳


あと、なんとなく最終回感出てますけど完結ではないです。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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