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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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72話 過去


『朱月』の暗殺者連中と決着をつけ、ルートの5年間にも及ぶ復讐の歳月が終わった。


そうしてギルドマスターのアレンシアや群青騎士団の団長のショルツと少しばかり話をして、王がルートとエリュを呼んでいるということで王城へと向かい、王と宰相、そして宮廷魔道士長のリリーシア、そしてルートの父を知っているという王の弟、マーディライト公爵が待っていた部屋に案内され、それぞれから話があるということだった。


そうして最初に王からの説明ということで、


「それでは今後のお主の扱いであるが、もちろんセルファ辺境伯として正式に就任しても良い。それに今回のホルン侯爵の悪事を暴いた件と『朱月』の壊滅の件でセルファ家とは違った形で爵位を授与することも出来るが…望まぬようだな」


ルートは王の言葉に爵位を望まないということで首を横に振り、それを受け取った王は続けて、


「そうなるとお主は特権階級として扱うことは出来ない。すなわち正式に辺境伯の爵位を返還してもらうことになる。よいな?」

「問題ありません。」

「うむ。今後のセルファ領の扱いについては後に宰相に説明させるが故、少し待て。それでは王国としてはお主のことを今後どう扱うかというと、身分は貴族位を返還したことでいわゆる平民として扱うものとする。しかしそうなると先ほどの会議のときのホルン侯爵の戯言に惑わされた者たちがお主に理由をつけて処刑しようと考えるやもしれん。そこで万が一そういった事態が起こらないようにするためにもお主を余が庇護しよう。もちろんこちらから見返りを求めることはないが、何か面倒ごとに巻き込まれたのであれば余が対処しよう。どうだ、受けてくれるか?」


そう心配そうに告げる王にルートは少し考えると、


「何も私に求めることが無いというのであれば受け入れましょう」


そう言って肯定した。


すると王は安心したような表情で、執務机から取り出した一枚のカードをリリーシアに渡してルートに渡すと、


「そうか。それでは"セルファ"の名を持ってゆけ。その名とそのカードを見せれば王国の兵士はもちろん、この王城への入城も許可しよう。ここまでがお主の扱いと償いだ。それでは次に今回のホルン侯爵の件と『朱月』の件に関しての報酬についての話をしよう。と、その前にルートの隣にいる女性に話を聞きたい。そなたはホルン侯爵の指示に従っていたのだが、結局ルートと一緒に行動しているということで関係性が良く分からないのだが、説明して貰えるか?」


王はルートの持ってきた情報と成果に対しての話を始める前に、よく分からない立ち位置にいるエリュに自分の立ち位置を尋ねる。


それに対してエリュは、


「…エリュテイア・ユースト、それが私の本名です。これだけでご理解頂けるかと」


その言葉にルート以外の者が一様にビクリと体を動かして反応を示し、驚きの声を上げる。


そうして王はポツリと、


「…"神の寵児"」


王はその言葉に対して何の反応もなく、真剣な目をしているという様子からその証言は信じるより他ないと判断すると、どういう訳でホルン侯爵にたどり着いたのかは分からないものの、その原因と雇われていた条件というものが自然と見えてきた。


しかし王はそれよりも、


「生きておったのだな」


彼女の生存に驚いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


これは過去の話、エリュがまだエリュテイア・ユーストであった時の話。


彼女の使う光魔法の回復力はマインが気がついていた通り、普通の光魔法とは掛け離れていた。


そのことは彼女の出身国が『セルディア』の中で一番信仰されている宗教が作り上げた国、ピスティス聖国ということもあり、それに加えてピスティス聖国の中でも有数の名家に生まれたということもあり、"神の寵児"という呼び名と共にその力は世界中に知れ渡っていた。


その中にはピスティス聖国が神の御業としか思えないような魔法を使うという者が生まれたということで、我らの信仰の神の力はここにありと公言したいがためのプロパガンダもあったが、その名が世界中に知られる切っ掛けになったのは、当時の聖国のトップの教皇の不治の病を見事に完治させたという一件以来であり、それから聖国には様々な病を患った者達やその使者たちが次々と訪れ、水面下では何が進行していたのかは分からないが、その求めに応じて彼女は齢10歳にして各国を飛び回り、その力を行使し続けてきた。


そして2年が経過したある時、彼女の元に寄せられた1件の依頼が彼女の運命を狂わせた。

その依頼の内容は簡単で、ある小国の王女が病を患ったからその神の御業を見せてくれというものであった。


しかしその小国へと移動している途中、彼女とその護衛たち一行は何者かに襲われてその生死が不明になった。


その知らせはあっという間に世界中に知れ渡り、過去に彼女に命を救われた者、これから彼女に命を救ってもらえるように色々と手配をしていた者たちといった誰もが驚き、速やかにそれぞれの者が密偵を放ち、その知らせの真偽、彼女の生死についてあっという間に調べあげられた。


その情報によると、その彼女の一行を狙ったのはその小国の国王であって、彼女の命を狙う者達から颯爽と王子率いる軍団が助けて、彼女にいい所を見せて惚れさせてから婚姻関係を結ぶことで彼女を身内に引き込み、彼女の力を求めてやって来る者達から色々なものを巻き上げようという自作自演であるということが分かった。


その事を知った者たちは怒り狂い、各国から兵が派遣されて連合軍となった軍団はその小国に攻め入り、その国の王族の首をすべて討ち取った。


そうしてその戦いが終わったあと、彼女の生存を信じて結成された連合軍の全てを以てしても見つけることが出来ず、驚異的なことにその連合軍は半年にも渡って国中、そして近隣諸国にまで範囲を広げて彼女の捜索を続けたが、彼女の影すら見つけられずに捜索は打ち切られた。


生死が不明となっている今でも彼女の生存は多く信じられており、彼女の姿を見たという情報は時々流れるものの、その全ては嘘の情報だと判断されている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「…余らに正体を明かしてよいのか?」


王はエリュに対してそう問いかけると、


「"神の寵児"としての私は三年前に死んだ。今の私は目的を果たすために動くだけのもの。誰かを治せなんて言われても気が乗らない」

「…そうか。そなたの正体は内に秘めておこう」

「お好きにどうぞ」


エリュは興味が無さげにそう言った。


王はその連合軍に自国の貴族もいた事を思い出し、ホルン侯爵の暴走も止めることが出来なかった経験から彼女の存在を知らせるのにはメリットよりもデメリットのほうが勝ると判断して内に秘めることにした。


そして他の三人も王と同じくエリュの正体については黙することにし、唯一なんの反応も示さなかったルートはというと一人で、


「"神の寵児"…聞いたことも無いね」


そんなことを呟いていた。


そのルートの反応はともかくとして王は疑問が解決したということで、


「それではそなたのホルン侯爵に掛けた魔法に対する報酬はホルン侯爵が持っていると思われる何らかの情報ということでよいか?」

「お願いするわ」

「分かった。それでは次にルートに対する報酬であるが、柘榴石の情報に対しては宰相が提案したとおりのセルファ領に対してのものということでいいだろう。ホルン侯爵を後々尋問がしやすくなったということに対してはそのセルファ領に対してのものに上乗せさせて貰おう。問題は『朱月』の暗殺者たちの確保についての報酬であるが…何か希望はあるか?」


王はルートに何か希望する報酬は何か無いかと尋ねるが、


「希望するものはないですね。お金に関してはアテがありますし。…あ、そうだ。物品の鑑定などは頼めますか?迷宮で手に入れたいくつかのものの正体を知りたくて」


ルートはそう言うと、自分の腰袋から『無限』の隠し部屋で見つけた古ぼけた本の二冊と同じく古ぼけた懐中時計をテーブルの上においた。


ちなみにルートの言うアテとは虹蛇の素材であったり、隠し部屋で見つけた宝石箱であった。


それらにルート以外の者の視線が集まり、王と宰相とマーディライト公爵は懐中時計の意匠を見つめ、リリーシアとエリュは古ぼけた本に集まる。


そして静かにそれらを見つめ、何かを小声で話し合っていた一同だが、しばらくすると王が、


「その懐中時計だがその意匠は何処かで似たようなものを見たことがあるな。そっちの本についてはどうだ?」


そう言ってリリーシアに水を向けると、


「…」

「リリーシア?」

「…この本は私に任せてくれないかな~?」

「何か分かったのか?」

「ん~、この本に使われている素材は分かったよ~」

「それは?」

「世界樹。それも最古のものだと思うよ~」


「「「!?」」」


最古の世界樹といえば、認められた者以外にはその姿すら見えないという半ば伝説じみたものであり、それが使われている本となれば内容も相当なものだと思われる。


そしてリリーシアは本の持ち主であるルートに近づいてヘラァとした表情で、


「私にこの本は任せてくれないかなあ?あぁ、これでも私はフォル、エルフの中でも賢者の一族として知られている一族の出身だから~。私だけじゃ信用できないならアレンちゃんも連れてくるから~。ね?お願い」


脱力系美人という印象があるリリーシアなのだが、今の彼女の妙な迫力とやる気に満ちた顔に、ルートは少し気圧されながら、


「ま、任せます」


そう言うとリリーシアが座っているルートにもう一歩近寄り、


「ありがと~」


ルートの顔を抱き寄せる。


抱き寄せられたルートの頭に一般的なエルフとは違って豊かなそれがあたる感触と、彼女からほんのりと香る甘い匂いがルートの何かを強烈に刺激し、急いで離れようとするが一向にその力が弱まる気配が無く、しばらくその拘束から逃れようと暴れていると、


「…ルート」


隣から非常に不機嫌そうな声で名前を呼ばれ、ルートは背筋をピンと伸ばす。


そして、


「…リリーシアさん、そろそろルートから離れてください。苦しがっています」

「あれ?気が付かなかったよ~、ごめんね~。まあ本については私に任せて~」


そう言ってルートの頭から手を離して王の後ろに戻る。


真っ赤な顔のルートは少し暴れたことで乱した息を整えていると、その耳元に、


「変態」


そうエリュが囁いた。


ルートは耳にかかったその息によって先ほどとは違った意味合いで背筋がピンと伸びた。


そうしてじゃれあいのような時間が終わると、


「それではリリーシアが本について、その懐中時計に関しては口の堅い信用できる鑑定士に任せることにしたいがよいか?」

「ふう。はい、それでお願いします」


王のその言葉にルートは息を整えてから了承の返事を返した。


こうして、


「以上で余からの話は終わりだ。次は宰相のセルファ領についての話だ。余も宰相の提案には了承している。宰相が言ったことがそのままセルファ領に対する配慮と理解してくれ。宰相、頼む」


王がルートにする話は終わり、次は宰相のセルファ領に対する今後の配慮についてで、今のルートにとっては何よりも大切な話であった。


「承知しました。それでは儂からは今後のセルファ領に対する話じゃな。暫定的に自治を任せていた今のセルファ領はお前が先ほど辺境伯の爵位を返還したことで完全に我々王国の手から離れた。そこで以前も聞いたじゃろうが、新たに選んだ者を貴族にして領地として治めるという方法と、今度は完全に自治領として扱うという方法の二つがあるが、それについては一度セルファ領に戻ってから決め、何らかの形で伝えて欲しい。そこは変わらん」


一度話を区切ってルートの顔を見て付いてきていることを確認すると続けて、


「そこじゃ。まず、セルファ領に関してはどちらの方法を選んだとしても、その統治が悪いものではないと思われる間は王族が後ろ盾になる。次に万が一、王族が理不尽に統治に難癖を付けた場合などに王国に対して王国臣下統一会議を開く権限を与え、それについては王であっても変えることのできない絶対の法として明記しおく。その結果、王族の暴走だと判断されればその者からは王族から追放することも同じく記述しておく」


宰相はその後もセルファ領にとって重要な話を続けていった。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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