70話 死
グロ注意
ルートとエリュは『朱月』の本拠地に強襲を掛けようとしていたところをギルドマスターに阻止され、戦闘者に騎士団と宮廷魔道士の準備が終わったところで二人が一番やりとなって強襲を仕掛け、そのまま暴れたことによって本拠地の建物をボロボロにした。
そして今はというと、
ザクッ、ザクッ、ザクッ
何を感じることも無く、次々とルートの死角を狙ってやってくる暗殺者たちを刺突でしとめていく。
すでにルートが仕留めた暗殺者の数は30近くに上っており、建物の広さと出現頻度を単純に計算して推測すればおおよそ3割程度は仕留めた計算になる。
しかしルートは、
「…まだ出てこないか」
とポツリと呟いた。
というのもルートが仕留めてきた暗殺者程度の腕なら、セルファ家の屋敷で働いていた者たちはともかく、ルートの家族を殺すことが到底出来るはずがない。
そういうこともあって、ルートは今自分に向かってきているのは所詮前座にしか過ぎず、家族を殺した相手に使うのも癪な話であるが腕利きの暗殺者はまた別にいるということが理解できた。
そんなことを考えながらまた一人と襲い掛かってきた者に絶対零度の目を向け、その首に向かって大きく回転させて勢いを乗せた槍の柄で打ち、その首の骨を砕く。
そうしてまた一つの骸を作り出したルートはそれを再び視界に収めることもなく"探知"を使って建物内の様子を探ってゆく。
ルートが膨大な魔力に物を言わせて暴れたことによって、その建物は大きく穴を開けたりと、ほとんどの部屋がどこかしらに被害があったはずなのだが、なぜかそのルートの魔法にも耐え切れるだけの頑丈さを持った部屋が存在しており、ルートは先ほどからその部屋を目指して邪魔な羽虫を潰しながら歩を進めていたのだ。
その部屋は立地条件からしてもなかなか怪しく、地下の最下層に位置している上に地下通路もその辺りに繋がっており、その部屋にたどり着くためにはいくつかの部屋に隠された通路を経由していかないとたどり着けないような凝ったつくりになっているということもルートがその部屋を怪しいと断ずる根拠の一つとなっていた。
ルートの力を持ってすればわざわざ面倒な経路を辿る必要も無く、頑丈といってもたかが知れており、破壊して進むことも出来たのだが、それをしていかずに順路を追っていっているというのは、単にルートのあらぶった感情がそうすること強制していたからであった。
そういうわけで順路を進み、襲ってくる者たちを等しく骸と変えて進んできたルート、そして離れた位置に待機しているエリュはついにその件の部屋の前までたどり着いた。
部屋の前までたどり着いたルートはその部屋の金属製の扉を"身体強化"を使って蹴り破ろうと足を上げたところで、
「エリュ、任せるよ」
そう言うと『変形』を発動して立て付けを悪くすると、思いっきりその扉を蹴り破る。
バタンという重いものが倒れる音がなり、ルートは扉の外れた入り口から入室し、その倒れた扉の上に乗ると、
ギンッ!
入り口の上に待機していた暗殺者が入ってきたルートの首へとナイフを突き刺そうと落下したのだが、それをルートは手に持った槍で防ぐ。
その暗殺者は防がれたナイフにググッと力を込めて、それを利用してその場からクルクルと縦に回転しながら離脱し、ルートとは反対側の壁際に音も無く着地する。
反対側の壁際にはその暗殺者以外にも何人かの者たちが並んで立っており、その者たちは目だけが出るように加工された顔全体を覆う目以外の顔のパーツの無い不気味な白いお面をつけていた。
ルートはその者たちの所作を見ると、
「ああ、あなたたちが僕の仇だね」
その者たちの戦闘能力を見て取りそう言った。
その言葉にお面をつけた者たちは何の反応を示すことなく、そのお面の唯一覗く双眸がルートを観察するような目を向ける。
ルートはそのお面の者たちに、
「さすがに僕が出てきたくらいで動揺してしまうような者たちはいないか。まあ別にいいけどね。とりあえず、全員死ね」
自分の周囲に浮かせていた短剣を『貫き通すもの』でその者たちに向かって10本射出する。
その短剣は姿を見せていたお面の者たちだけではなく、姿を隠していたものたちに向かっても飛んで行く。
しかしそれ如きで仕留められるほど『朱月』というこの王国の闇を象徴する暗殺集団が甘いはずも無く、悠々とというほど余裕ではないものの服の一部が引っかかるというほどに愚鈍な動きをしている者もいなかった。
そうしてルートの短剣を避けた暗殺者たちは毒塗りナイフや吹き矢、暗器の類などを十全に活用し、更に連携を取って波状攻撃を仕掛けてルートの命を完全に絶ちにかかる。
ルートはそれを槍や周りの短剣で対処しているが、エリュが治せる範囲の損傷に留める必要があるという条件下では"身体強化"を発動して手数を増やそうとも、暗殺者たちの人数と手数を上回ることは難しく苦戦を強いられてしまっていた。
セルファのことと地上に住む人々のことさえ考えなければこの場で地震を起こして動きを止めたところで殺してしまうという方法も取れるのにと内心でイラつきながらも次々と襲い掛かってくる暗殺者に適切な対処をしていく。
そうして連携を取ってルートの殺害を狙っている暗殺者たちは、その辺の事情も戦い方からから読み取ると、その動きが制限されているうちに仕留めてしまうのが吉と結論付ける。
さらに目の前の少年から自分たちに対する強い憎悪の感情と狂気を感じ取り、顔を覚えられる危険性よりも少年のほうが危険性が高いと判断すると、確実な勝利を引き寄せる為に顔を覆っていた不気味なお面を外して投げ捨てると、
「『風操作』」
「ッ?!音が!?」
暗殺者の内の一人が立ち止まってその魔法を発動して部屋中一帯の風を操り、音を消したり、大きくしたり、いらない音を増幅させたり遅れて聞こえるようにしたりと言葉を意味が取れない音に分解して雑音にし、ルートの五感の内の一つの聴覚を混乱させた。
正しい音が認識できなくなった空間で、暗殺者たちは魔法名を口に出し、それを周りの暗殺者たちが読唇術で読み取ることによって連携を取り、『風刃』『火球』『水弾』などの魔法を織り交ぜて攻撃を始め、ルートだけに不利に働く空間を作り出した。
更に襲い掛かってくる暗殺者の内の一人が『閃光』を合間合間に発動してルートの視覚を奪う。
しかもルートの『無限』の最奥にいた虹蛇の能力を取り込んだことで目が、暗いところは得意になったが、明るいところは逆に不得意になってしまったからこそ、その方策はルートに有効なものであった。
ルートは常に聴覚を惑わされ続け、更に合間合間に視覚を潰されしまう状況下に少しづつ体に負う傷が多くなってきた。
その傷自体は虹蛇由来の自己修復力で治るものではあるが、しかし暗殺者たちが用いている薬品の影響でその自己修復力も少しずつ効果が落ちてきているということも体感していた。
というわけでルートが現在当てに出来るものは嗅覚と効果が少々落ちてきているがまだ使える自己修復能力、それと無尽蔵ともいえるほどの魔力と魔法、あとは意識させないように使用を控えている腰にぶら下げた道具を瞬時に取り出せる腰袋くらいであった。
自分の持てる力の全てをぶつけ合った戦いであるエリュとの一戦とは違い、自分の持つ手札がさまざまな理由から制限されていて、さらに使える手札が次々と制限されていく暗殺者集団との戦いは疲労が溜まってゆくものであり、ついに、
「ぁぁぁああああ!!」
暗殺者が使った刺激性のある臭いを放つ薬品がルートの鋭敏な嗅覚を潰し、あまりの激痛にルートが涙を浮かべ、動きが止まる。
その隙を暗殺者集団が逃すはずも無く、ルートの顔や首、心臓といった人体の急所にナイフなどの武器を突き刺してゆく。
暗殺者集団が使った武器の中には普通のナイフもあれば、血が流れ出るように中空になっているストローのようなものや引っこ抜けないように返しが付いた銛のようなものといった金属製の武器の数々や、更に暗殺者集団にとっても奥の手である第一級危険指定種をも仕留めることが出来るほどの毒薬を注射器のようなものでルートの体に流し込んだ。
ルートの体に刺さったストロー状のものから赤い血が流れ出てゆき、黒ひげも真っ青なほどにあらゆるところに武器が刺さったところからも赤い血が流れ出てゆき、さらにルートはゴボッと大量に吐血する。
そうしてルートは震えながらも暗殺者たちの顔を強い憎悪を込めた目で見ていたわけであるが、ふっと体から力が抜けてゆき、地面に倒れこむ。
その際に体の下敷きになった刺さったものたちがより一層ルートの体にささり、貫くものもあったが、その痛みなどルートはすでに感じておらず、ただ唯一動く顔を暗殺者たちに向けてにらみつけ、そしてルートの体からじわじわと熱が抜けてゆき、持ち上げていた顔がコクンと完全に脱力して折れ、少しの間プラプラと揺れていた。
そして暗殺者の内の一人は残っていたナイフを遠くから投擲してルートの体に突き刺したが、ピクリとも反応しなかったことで完全に絶命したものと判断した。
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ルートの勝利を信じていたエリュは目の前で起こっている状況が理解できずに、
「…え?」
と呆然と呟く。
そして、
「え?嘘でしょ?」
彼女自身が驚くほどに平坦な声でそう言って部屋の中に入ってルートの傍まで歩いてゆき、ルートの体に触れると、触れた部分から伝わってくる体温が抜け落ちていくのを感じた。
その二人にさすがの暗殺者も邪魔をすることはためらわれたのか、周囲を囲いいつでも始末できるような体制だけは整えながらもそれ以上の手出しはしないようであった。
そして彼女は震える手をルートにかざして、
「『彼の者に救いの手を』」
回復を試みるものの、
ブンッ
その光はルートを覆うことなく消えてなくなる。
それは光魔法による回復が出来ない、すなわち死んでしまっているということをあらわしていた。
暗殺者たちもその光魔法を見たときにはいつでも始末できるようにそれぞれの武器を構えていたが、それを見たことで完全にルートが死んだということを理解してその武器を下ろした。
エリュはそれでも何度も『彼の者に救いの手を』を発動してみるが、何度やっても同じく光は消えてなくなってしまう。
彼女はそうして完全にルートの命が失われたことを理解すると、その場にペタンとお尻を落とし、ルートの手を握る。
そして、
「あ、ああ、ああああああああああ!!」
慟哭、燃えるような紅い緋色の目から似合わない涙が流れる。
確かにルートとはまだ知り合って一週間程度しか立っていないが、同じ復讐を誓う者であり、その身に自分が望んだものかどうかはさておき同じような人の身には余る力を得てしまっていた。
そういう共通点もあり、エリュはある意味で自分の半身であるようにも感じており、それがこうして失われたということは自分の半身がもがれたように感じるのも道理といったもので、エリュは自分が復讐を決心したきっかけと同じくらい、いや、それ以上の喪失感というものを感じた。
大人びた外見の彼女は今は幼子のように泣き叫び、ルートの手を両手で包むようにして額に当てて、その手が動いてくれることを期待してそれにすがりつく。
暗殺者たちはそれをしばらく見ていたのだが、そろそろと言うようにエリュの後ろに立って大きくナイフを振りかぶると、
バンッ!
はじけるようにルートの体から膨大な黄色の魔力が流れ出す。
その魔力に驚いたエリュにナイフを突きつけようとしていた暗殺者、ならびにそれを見守っていた暗殺者たちは一気にその場を飛びのく。
そうして暗殺者たちが遠巻きにその魔力に警戒していたが、その魔力がルートの体を纏うように変形すると体に刺さっていたさまざまな武器の金属部が形を変えてゆき、やがて一つの大きな金属塊になって宙に浮かんだ。
やがてその金属塊がうねうねと変形してゆき、一つの大きな鎌の形に変わり、漆黒の刃の部分の先端がルートの心臓に刺さる。
そしてその刺さったところから膨大な漆黒のドロッとした魔力があふれ出すと、その魔力自体が禍々しい模様の刻まれた高さ5mほどの両開きの扉を形取ると、その扉がゴゴゴと音を立てて開くと黒いもやがあふれ出して部屋中を覆う。
そしてその扉の向こうから現れた異形と表現するより他無い黒よりも黒い人型のものがルートの体の体に触れ、トプンと体の中に手と思われる部分を入れて何かを弄るような素振りを見せる。
そして何かが終わったのかその手を引っこ抜いて、更に先ほどの大鎌をルートの体から引っこ抜いて肩に担ぐとその扉の向こうに黒いもやとともに帰っていった。
その扉は黒いもやの最後のひとかけらが向こうへと消えてゆくと扉を閉め、地面に吸い込まれて消えていった。
そしてその理解不能の現象が終わると、その部屋にいた全ての者たちは等しく滝のような汗を流し、いつの間にか止まっていた息を吐き出し、激しく乱した呼吸を整える。
そして自分が呼吸を整える間も手を握っていたエリュが最初に気が付き、
「久しぶりの体だね。やっぱり死ぬのって良くないよ」
その言葉を聞いて初めて暗殺者たちもルートが話しているということに気が付いた。
そして、
「ただいま、エリュ。心配掛けた?っていうか掛けたみたいだね。ごめん」
ルートはエリュの顔を見てそう言ってもう片方の手でエリュの頭を撫でる。
そしてその手を動かしながら、ルートは暗殺者たちのほうを強い目で見ると、
「おまえたちの椅子は地獄に用意してきたからいつでも行っていいよ」
狂った笑顔を今だに固まっている暗殺者たちに向けてそう言った。
~簡単な展開~
『朱月』の本拠地に攻め入ったルートとエリュは襲い掛かってくる暗殺者たちを始末してゆき、どうにも怪しい部屋にたどり着くと、そこには先ほどから襲ってきた暗殺者たちとは桁の違う腕の暗殺者たちがおり、ルートはその者たちと戦うが暗殺者集団の戦い方によって完全に封殺され、死ぬ。
エリュはそれを見ており、ルートに光魔法が効かないということから彼の死を悟り、泣いているとルートの体から膨大な魔力があふれ出し、刺さった武器が一つの金属塊になり大鎌になり、また別の魔力が扉になり、その中から出てきたものの手によってルートが生き返った。




