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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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69話 破壊


ホルン侯爵の戯言に耳を貸した貴族に王は王たる様を見せ、ルートは復讐相手の一人であるホルン侯爵に"呪い"を掛けると、もう一つの復讐相手の『朱月』の本拠地へと襲撃を掛けようと向かっていたところ、途中で出会った女性から警告を受け、自分の身分を証明した。

すると、その女性はどうやらセルファ領の出身の者であったらしく、ルートは彼女としばらく交流を深め話にひと段落をつけると再び『朱月』の本拠地へと強襲を掛けようとしていた。


そうしてその本拠地へと乗り込もうとしていたルートとエリュの二人の姿はというと、なぜか『朱月』の本拠地と思われる場所を遠目から見守れる位置に設置されている戦闘者と騎士団や宮廷魔道士の本部にあった。


本部はそこそこ高い位置にある見晴らしのいい建物の最上階で、そこはこの辺りを管轄している序列三位の騎士団の本部の建物であった。

今回の作戦の本部として使われている部屋はというと、中央に陸上競技につかうトラック状の机が鎮座しており、今はその上にこの辺りの地図がデカデカと広げられており、その一部に大きな赤い丸印が付けられており、その場所は今回の作戦も目標の『朱月』の本拠地であった。


そしてその周りにはルートやエリュのほかに数名の男女がそのテーブルを囲うように立っており、その地図にそれぞれの色を塗った石をその地図の上において、ああだこうだと言って作戦を話し合っていった。


ルートは指揮を任せたということも独立して動いていいという宰相の許可もあって参加するつもりも無かったのだが、今ここにいるという理由というのも、


「あなたはどうして真正面から二人ぽっちで突撃しようとしていたのかしら?」


というありがたい意見によって強襲を押しとどめられていた。


正直ルートの心情からすれば並大抵の者であれば蹴散らしていこうと思っていたのだが、それを止めたのは、


「…いくら有名な暗殺者集団が相手であっても、わざわざギルドマスターが出向く案件でもないと思うけど?」


ギルドマスターのアレンシアであって、今はともかく、ルートの所属している団体の支部長が出てこられてしまってはルートとしても止まらざるを得なかった。


ルートとしては彼女が出てきたことによって、非常に面倒なことになってしまったわけであるが、実際、ギルドマスターと呼ばれるものがこういった場に出てくるというのは本来ありえないことであった。

万が一彼女の身に何かあれば、それはこのアルヒオール王国の戦闘者にとって多大な影響を与えることになる。

しかもその相手が暗殺を生業としている集団ということは、対人戦闘のプロフェッショナルということもあって、一部の例外を除いて魔物討伐に加わるのとは訳が違う。


ルートはそこらへんの事情を含めて質問すると、


「確かに今回のような事情に私のようなギルドマスターが介入してくるというのはおかしな話でしょうけど、今回はあなたが関わってくるということで参加することにしたわ。もちろん例の件の真相を確かめるという意味で、ね?」


アレンシアはそう言ってルートを見定めるような顔で見る。


虹蛇の討伐という例の件を起こしたルートとしては納得できない話では無かったため、その言葉に納得すると「はあ」と一つため息をこぼすと、


「…ギルドマスターだけじゃなくてここにいる全員に言っておくけど、僕の戦いに巻き込まれないでね。死ぬよ」


純然たる事実としてそう告げるルートにアレンシアは非常に楽しそうな表情を浮かべると、


「つまりは本気ということね?」


そう聞いてルートを見ると、


「本気というよりも僕の持つ力の全てで潰すというだけだよ」


非常に薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けてそう言った。


その笑顔がアレンシア、それにこの部屋中にいた者たちが身構えさせる。


ルートはその警戒など気にせずにそのままの表情でアレンシアに、


「ところで包囲網が完成するのはいつ?」


そう尋ねると、アレンシアは背中に浮かんだ汗が流れる感覚を覚えながら、表面上は普段どおりを取り繕って、


「…そうね、戦闘者のほうは全て配置に付いている。後は騎士団と宮廷魔道士が到着し次第完了よ」

「分かった。一番やりは僕が貰うから周りは固めさせておいてね。逃がしたらこの辺一帯が大変なことになるからね」


ルートは一度暗殺者たちとの戦闘が始まってしまっては、完全に理性が飛ぶことになると確信しているため、逃がしたりしたら自分がそれを追いかけてそこらの地形を変えてしまうことになりかねないからこそのその言葉なのであるが、


「もちろんよ。暗殺者を逃がしたらこの辺り一帯が混乱するでしょうからね。しかしあなたが一番やりでいいの?」

「僕の実力を見たいんでしょ?むしろそっちのほうがいいんじゃない?…というか邪魔は許さないよ」


前半はともかく、後半部の言葉は温度を感じさせない非常に平坦な声で言ったことでルートの本気度が伝わり、


「わ、分かったわ」

「お願いね。別に突入は僕と彼女だけで事足りるから囲っているだけでもいいから」


アレンシアを少々怯えさせながらもその言葉を了承し、ルートは笑顔でそう一方的に告げると部屋を出てゆく。


それに付いてエリュが部屋を出て行ったところで、その部屋にいた者たちは「ふう~」と長く息を吐き出し、思い出したかのように今頃額に浮かんできた汗をハンカチや服の袖などでぬぐいとる。


そして弛緩した空気の中でアレンシアは、


「あなたはいったいナニなの?」


自然とそんな言葉が口から漏れ、その言葉は誰に届くわけでもなく、空気に溶けて消えた。


そうしてルートとエリュの二人と入れ替わるように新しく入室してきた群青色の全身鎧を身に纏ったものが入室してくると、


「失礼します!黄金騎士団ならびに群青騎士団、ただいま到着いたしました!」


作戦が開始される準備が整ったことを告げる報告が、精神的に疲労している者たちが集まるこの部屋に届けられた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「"変質探知"、『大地の変貌(アースメイク)』」


普通の"探知"は空気中を進んでゆき、物体にあたって反射した魔力を再び受け取ることによって周囲の状況を探る技術なのだが、"変質探知"は水中や地中といった空気中ではない状況でも使えるように編み出された技法のひとつで、魔力の波長や性質を変化させなければならないという厄介な性質を持つものの、それさえ出来ればほとんどの環境において状況を探ることが出来る。


そして地下に張り巡らされた構造物の位置を把握し、『朱月』の本拠地から延びる全てのものを土を変形させて強引に捻じ曲げ、強固に固定した。


「これで地下通路を封じた。逃げ場は無いよ」


ルートはそう呟いて口角を吊り上げて嗤う。


そして所定の位置に全員がついたという報告を受けると堂々と正面から本拠地へと足を踏み入れる。


するとその建物の中は"悠遠亭"の食堂と同じような構造で、


「いらっしゃいませ、二名様でよろしいですか?」


そういうウェイターの格好をしている笑顔で男がそう話しかけてきた。


その立ち振る舞いや言葉遣い、そして雰囲気のどれもが目の前にいる男がただのウェイターであると思わされるものなのだが、ルートは舌を出してチロチロとさせると、


「残念ながらそれは通らないよ。確かに料理の臭いはさせているし、表にも看板が立っていても隠しきれてないよ。取り繕うならこの鉄臭い匂いを消しておくべきだったね」


蛇の持つヤコブソン器官と呼ばれる匂いや味を感じることの出来る鋭敏な感覚器官がルートの体内には生成されており、その感覚器官が目の前にいる男から、そしてこの建物の中に染み付いている血の臭いを感じ取った。


ルートの指摘に対してその男は笑顔で、


「ああ、お客様は鼻が鋭敏なのですね。当店ではこの場で食肉を解体していますのでその臭いが染み付いているのです」

「…」


ブンッ!!


ルートは素早く腰袋に手を落として槍を引っこ抜くと目の前のウェイターを目掛けて一薙ぎ、しかしそれも空振りに終わった。


ルートの突然の行動にその男は、


「いきなり何をなさいますか!店内では暴れないでください!」


そう言って抗議の声を上げるが、


「…」


ルートは再び腰袋から取り出した短剣を四箇所に投げつける。


そしてそれらが木製の床にサクッと突き刺さり、


「…もうさすがに分かったよね?」


無表情でそう言うルートに、


「…」


ウェイター姿の男は素早く懐からナイフを抜くとルートに向かって投擲する。


ルートはそれをエリュとの戦いを経験し、虹蛇の適応進化がエリュの『異常活性化ブレイクアクティベーション』発動時の動きを見切れるだけの動体視力を得させ、それを活用してそのナイフの柄を掴んで自分に向かって地を這うように近づいてきていた者に投げつける。


さらにルートは"身体強化"を発動し、槍を素早く背後に突き出して石突きで忍び寄ってきていた者を吹き飛ばし、腰袋から取り出したソフトボール大の金属球に『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』を掛けて投擲して完全に頭部を吹き飛ばす。


ウェイター姿の男がナイフを投擲してからわずか2秒程度で自分たちの仲間が一人殺されたということにルートを取り囲んでいる暗殺者たちは、殺された男の敵を討とうという殊勝な気持ちは持っておらず、その死をもルートの戦闘能力を確かめる為の試金石とし、その能力が尋常なものではないと理解すると、


ガリッ!!


硬質な物を噛み砕いたような小さな音を口の中で鳴らすと、彼らの目が一気に充血し、自分の動きを制限するような邪魔な気配を消す効果を持った黒いローブを脱ぎ捨てると、贅肉の一切が見られない見事な体をさらし、しなやかだった筋肉が膨張してゆく。


暗殺者たちが口の中に仕込んでいたのは興奮効果と身体能力を爆発的に上昇させる効果を持ったもので、一定時間が経過後すみやかに死ぬという暗殺に失敗した暗殺者が姿をさらして戦うのには最高な薬品であった。


それを服用してでもルートを殺そうと決断したのだが、その薬品を噛み砕く一瞬にルートは腰袋から短剣を大量に取り出して、


「『磁力の手(マグネットハンド)』」


宙に浮かべて完全な戦闘態勢を整えた。


そしてルートに対して向かってきた暗殺者たちであるが、


ザクッ、ドスッ、ザンッ、メキメキッ


どれもこれもエリュの『異常活性化ブレイクアクティベーション』発動時の動きに追いつくものでもなく、槍による刺突に、周りに浮かべたナイフに『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』を発動して貫き、槍の穂先の刃で切り裂き、柄で薙ぎ払い、次々と暗殺者たちを赤く染め上げてゆく。


そうして暗殺者全員の息の根を確実に止めたルートは、最後に仕留めた暗殺者の体から穂先を一気に引き抜き、支えを失った骸が床にドシャリと倒れこんだ。


ルートはそのときに撥ねた血が頬に付着したことにも反応せず、しばらく顔を伏せてその場に立っていた。


そしてガバッと顔を勢いよく跳ね上げると、


「…は、あはは、アハハハハハ!全員残らず殺してやる!」


嗤っているような怒っているような、はたまた泣いているようにも苦しんでいるようにも見える表情をルートは浮かべ、狂った笑い声と強い怒気を含んだ腹の底から出しているような声で叫ぶ。


ルートの感情は完全に振り切れているようだが行動自体は冷静そのもので、"探知"を発動すると、


「魔力コーティングって!いちいちめんどくさい!」


魔力コーティングという"探知"を遮断する効果を持った扉がこの『朱月』の本拠地には点在しており、全体で何人いるのかも分からないという状況になってしまっており、ルートは苛立ちから叫ぶ。


しかもルートは知っているのだがなによりも面倒なのは、"変質探知"で調べた結果、地下部分は地上三階部分よりも広くおおよそ倍近くの大きさを誇るということであった。


ルートはすでに感情が振り切っているということもあり膨大な魔力を練り上げ、槍の石突きの結晶で魔力を増幅させると、


「吹っ飛べ!『創土アース』『変形メイク』『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』!!」


創土アース』という魔力から土を生み出す魔法を発動、それを『変形メイク』で大砲の玉サイズに変形させてある程度の強度を持たせ、更にそれを『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』で勢いよく全方位に射出する。


木製の床を砕き、壁を貫き、扉を破壊し、天井を削り取る。


それを10分ほど続け、射出した数が100を超えたところでルートはその射出を止めると、ありとあらゆるところに穴が開いて風通しが良くなり、一気に廃墟というのにふさわしい有様になっていた。


一応ルートは建物の壁と天井を貫いて周囲に被害を与えないように気をつけていたものの、この有様ではどこまでそれが守られたかも不明であるが、ルートの目的である魔力コーディングがかかった場所に風穴を開けることでそこから魔力を進入させようという目論みは"探知"で確認したことで大方達成されたということは分かった。


ルートはその自分が起こしたこの有様については何も言うことなく、また満足そうな表情をすることも無く、ただひたすらにさまざまな感情が入り混じって訳の分からなくなった顔で、


「あの一角だけ頑丈だね。怪しい」


そう言ってボロボロの所々地面が見えてしまっている床の上をミシミシという音を立てながらその場所へと歩いていった。


ちなみにルートが廃墟を作り上げたのとまったく同じ魔法を発動しようと思えば、宮廷魔道士長のリリーシアの魔力の三倍以上必要になります。


そのリリーシアの魔力の保有量は一般人を1とすれば20は優にあります。


インフレが止まらないッ!

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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