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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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67話 変身


ルートは『無限』で戦った虹蛇に変身すると言う闇魔法を発動して、転移魔法や強力な身体強化の魔法を発動しているエリュに対抗していたのだが、両者ともに一歩も引かぬ攻防の末に互いに体力も魔力も付き、最後に肉弾戦になったところでエリュが勝ったようにも見えたが、ルートのどこから取り出したのかが分からない鎖がエリュの全身を拘束する。


突然現れた鎖に驚いていたエリュであるが、激しくもがきその拘束から逃れようと試みたが、もがく度により締まっていくことに気が付くと、少しは精神力も回復していたようで目を閉じて集中すると、


「『ウツロウセカイ』!…発動できない?!どうして?!」


発動する様子もないといういままで一度も起こったことのない事態に驚き、何かの回答を求めるように叫ぶ。


その叫びに対して、ルートは上手く行ってよかったと言うように、


「ふう。…上手くいってよかったよ」


自分自身としても確証は無かったからこそ無意識に溜まっていた緊張を解きほぐすように一つ息を吐き出して完全に体から力を抜きエリュの隣に寝転がる。


エリュはその完全に消耗しきっている様子のルートに、


「…何をしたの?」

「"祝福"と"呪い"は対存在だっていうことが分かっただけだよ」

「つまりこの鎖が"呪い"?」

「そういうこと。その鎖には解けることのない拘束の"呪い"に、魔力を吸収する"呪い"とか魔法の発動を妨げる"呪い"といった"呪い"をこれでもかというほどに詰め込んでいるんだよね。僕も良く分からないけど、多分魔法の発動を妨げる"呪い"が"祝福"にも働いているのかも「それって本当?!」…近いよ?」


ルートは自分の推論を話していると、突然エリュが声を張り上げて鎖にまるで簀巻きにでもされているように包まれている中で、体重移動をしてゴロゴロとルートと顔と顔がくっつくほどの距離まで転がって近寄ってくると、


「本当に"祝福"を消すことが出来るの?!」


鬼気迫った様子で芋虫のようにウニョウニョと体を動かしてルートの上に圧し掛かってそう言った。


ルートはその真に迫ったエリュの様子に、


「あくまで推論だけどね。"祝福"は"呪い"で打ち消すことが出来るかもしれない。抑制かもしれないから検証が必要だけどね」


ルートも真剣な目でそう答えた。


するとエリュはルートに、


「私の体を貫いて!今すぐ!」


今は鎖で隠れているとはいえ、戦っていたことで扇情的なドレス姿になっている故に、受け取り方によっては大変なことになってしまいそうな言葉を放つが、


「どの辺り?」


そもそもそう言った事柄に疎いルートは勘違いすることなくエリュの言葉の本来の意味を正しく捉える。

そして、


「何処でもいい!"祝福"が今どうなっているのか知りたいの!」

「はあ、分かったよ」


ルートは虹蛇に変身する際に仕舞っておいた短剣を取り出すと、


「少し我慢してね!」


ルートはエリュを自分の上から下ろし、鎖の拘束からエリュの手を取って右手だけ解放すると、その手のひらをチクッと先端で皮膚を破り、滲むように血が出るとそれらが集合して小さな血の雫が現れる。


そしてその血の雫をルートが腰袋から取り出した布で拭い、その周辺をルートがつまむと、


「やった!やったよルート!」


再び血が滲むように出血したのを見て大興奮といった様子で、更にはルートにそれを見せつけるように目の前までその手を持って見せつける。


そして強引にルートの手から布をひったくるように奪い、その布で血を拭って自分の手のひらを窄めるようにすることで出血を促し、血が出てきたことを確認するとまた喜ぶ。


傍から見るとまるで頭の狂ったような行動を繰り返すエリュは、何度かそれを行って自分の傷が治らないことを確信するとルートを見て、


「"祝福"が消えてる!」


そう言って喜んだ。


その姿を見てルートは、彼女が長年思い詰めていた"祝福"が"呪い"で打ち消せるということが分かって喜ぶという事に対しては同じく喜びを覚えたものの、自分が教えてしまった"呪い"が"祝福"を消すことが出来るという事実がそう遠くない未来に彼女の生涯に終わりを齎すような気がして素直に喜ぶことが出来ないという苦い感情がルートにしこりを残す。


ルートは喜んでいるエリュの顔を非常に曖昧な表情を浮かべながら、


「おめでとう」


と自分でも分かるほどに空っぽな言葉を送る。


しかしそのルートの反応も今のエリュは全く気が付かず、額面通りの言葉の意味を受け取って、


「ルートのお陰だよ!ありがとう!」


ルートはエリュのその感謝の言葉に、まだ説明できそうも無いような感情が小さく反発しているのを感じた。


喜びを全身を使って表現しているエリュと、複雑な顔でそのエリュを見るルートの2人は暫くその微妙な温度差でいると、エリュもある程度その感情にケリがついたようで、


「あ、あはは。取り乱したみたい。ごめんね?」


少し恥ずかしそうに自由な右手を紅く染まった頬を隠すように当ててそう言った。


そして全身が鎖に包まれていることでしまりがつかない様子ではあるが、エリュは真剣な顔になって、


「私の負けです。参りました」


そう言って頭を下げた。


そのエリュに対して勝者たるルートは、


「僕の勝ちだね」


そう言って笑うと、エリュの拘束していた鎖に触れて1mの鎖に戻す。


そしてルートはその拘束が解けていく鎖の隙間からチラッと見えた肌色から目を逸らして、ついでに染まった頬を見られないようにという意味合いも含めて、立ち上がって決着の時に放り投げたジャケットを拾ってくるとなるべくそちらを見ないように肩に羽織らせる。


その行動の意味が分からないエリュはルートにその意味を尋ねようとしたところ、どうにもルートと目が合いそうになく、不思議に思いながら、羽織らせられたジャケットを袖を手に取って、


「寒くはないけど?」


と言って見る。


するとルートは目を逸らしたまま、


「それ着て前を閉じてもらえないかな?その…目のやり場に困る」


なるべく声が上擦らないように気を付けてそう言った。


エリュはその言葉に従って前を閉じようとする際に、ルートに腹を貫かれたときに空いた大穴や色々と破れたり切れたりとしているのを見て、その言葉の意味を理解すると素早くジャケットを着てボタンをすべて閉じる。


そして、


「着たよ」


短くそう言うとルートがエリュの方を見て、


「違和感が無い」


ルートは一切の悪気も無くエリュの体のある1点を見てそう言った。


彼女はその言葉の意味を向けられた視線から理解すると、それはもう100点満点の笑顔で、わざわざ回復したばかりの魔力を使って、『活性化アクティベーション』を発動した上でルートの足のつま先を思いっきり踏みつけた。


「っわ!ビックリした!」

「煩い」

「理不尽!?」

「乙女の権利」

「なんと暴力的な権利!」


グニッグニッ


「せめて無言はやめて!?」


2人は暫くそうしてじゃれ合っていた。


暫くそうしていると、ルートが突然自分の体を叩いて、


「あ、そろそろかな?ちょっとエリュ、後ろ向いててくれる?」

「分かった」


エリュがくるっと後ろを向くと、ルートは服を脱いでゆく。


そうしてルートが生まれたての姿になると、


「身長が伸びればいいな!」


そう言って自分の頭に軽く短剣の先端をプッと刺してやると、


ピリッ


薄っぺらい紙が破れるような音がして、ルートの顔にヒビが入る。


ルートはそのヒビに手を差し込むと、


ビリビリビリビリ


そうして頭の部分から肩まで大きくそれを裂くと、全身タイツを脱ぐように左手、右手を順にそれから引き抜いて、両足を引き抜く。


そうしてルートはそれから全身を出したところで先ほど脱いだ服を着ると、その服のサイズなどを確認してから、大きく息を吸い込むと、


「やっぱり伸びてない!いや、知ってたけどね!」


そう叫んだ。


そうして自分が脱いだそれ、簡単に言えばルートの姿を忠実に再現した全身タイツのようなカサカサな皮を見ると、


「…なんだろう、この見たくない感じ」


そう言うと目を逸らして、取り敢えずルートの脱皮した皮をどう処分したものかと悩んでいると、


「うわあ、ルートが2人、っていうかルートの肌すべすべ!」


本物のルートの両肩に手を置いて肩越しに地面に横たわった裏返しに脱ぎ捨てられた皮を見てそう言って、エリュはたまたま触れたルートの肌がすべすべとしていることに気がついた。


それにルートは「そういえば」と、


「それも『変身メタモルフォーゼ』の影響みたい。『変身メタモルフォーゼ』は変身した魔物の姿を完全に再現できるけど、元の姿に戻ったときにその魔物の特性を得るみたい」

「へえ、そういう訳ですべすべしてるのね」

「どうして鱗もないのにこんな肌になっているのかは分からないけどね。まあ他にもちょっとずつ変わってるみたい」

「確かに少し瞳が縦長になっているような気もするね」


エリュはルートの前に出て目を覗き込むようにしてそんなことを言ったため、ルートはどうにも居心地が悪くなって、


「そ、そういえば!これをここにおいていくっていうのは?」

「無しに決まっているでしょう」

「ですよねー。どうしようかな?」

「一番いいのは燃やしてしまうことだけど」

「何となく見たくないよね」

「かといって誰かに頼むっているのも、ものがものだけに任せられない」


そういってルートの脱皮したあとの皮についての処分を考えた結果、


「とりあえず処理の目処がつくまでは僕の『影部屋シャドウルーム』に死蔵かな?」

「それがいいんじゃない?」


そういってルートは自分の影に『影部屋シャドウルーム』を繋げて、そこに転がっているかさかさの皮をまるで汚いものを触るかのように人差し指と親指で摘んで放り込む。


そして、


「よし、準備は完了。体の傷も虹蛇の再生能力で元通り!魔力は『影箱シャドウボックス』で回復っと。服は…どうでもいいや」

「私も傷は治ったし、魔力も必要最低限は回復した。足りないとしてもどうせ回復していくだろうからこれで大丈夫。服は…うん」


二人共準備を終わらせ、エリュは自分の服装について何か言いたいことがあるようだが、言っても詮無きことと諦める。


という訳で、


「帰りますか。さあ、精々ホルン侯爵には絶望を見てもらおう」


ルートは口角を持ち上げて、しかし冷たい目をしてそう言った。


その隣に立っているエリュはそのルートの手をとると、


「私の欲しがっている情報も吐くくらいには絶望させてよ?」


非常にイイ笑顔でルートに向かってそう言った。


「ほんといい性格してるよ…」

「女ですもの。じゃあいくよ、『カワルセカイ』」


ルートの呆れたような顔とエリュの悪戯っぽい笑みを浮かべた顔を最後に、エリュの口決に二人の姿を眩い光が包み、その光が消えると同時にその姿も共に消えてなくなった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


エリュの心象世界から消えた二人の姿は、現在転移前の王国臣下統一会議を行っていた会議室に現れていた。


そして、


「「まあそうなるよねー」」


二人は周りを取り囲んだ者たちに武器を突きつけられた状態でそう呟いた。


もちろんこのような状況になっているのにも理由が当然あった。


王などの重要人物がいる室内で一騒動あったばかりで、さらに突然光の塊が現れたのだ。

警戒するのも当然な話で、この室内ではあらゆる魔法が阻害される効果を持つ結界が展開されており、魔法を使えるのは王の護衛くらいであり、その魔法を使える面々はすべて室内にいる。

それに加えてその光の塊に見覚えがあり、それが騒動の中心にいた者をさらっていたものが使っていたものと同じものであるならば対応も決まってくるというものであろう。


そのような理由から武器を突きつけられている二人であるが、ルートはきょろきょろと辺りを見渡し、目的の人物を発見するとニンマリと嫌らしい笑みを浮かべて、


「おやおや、そこに居られるのはホルン侯爵ではないですか?先ほどまでとは打って変わって随分と人気者になられたようですが、お変わりありませんか?」


そういって5人の男に囲まれ、武器を向けられて椅子に座らせられているホルン侯爵を哀れなものを見るような目を向ける。


その視線に対してホルン侯爵はあちらこちらに肌が見えるような衣服の解れはあるものの、そこから覗く肌には一切の傷を負っていないルートが立っていることと、その隣に静々と立っているエリュを見て勝敗を悟ると、


「私の持つ手札ではあなたの復讐は止められなかったということですか…」


そう呟いて天を仰いだ。

そして消え入りそうな声で、


「ああ、私の完敗です。しかし、」


自らの敗北を認め、天を仰いだままのホルン侯爵はそこで一度言葉を区切ると、次の瞬間にルートを血走った目で鬼の如き形相を浮かべ、激しく椅子を後ろに倒して立ち上がり、意外にも俊敏な動きでルートに向かって走り出す。


そのホルン侯爵の行動を彼を囲んでいたものたちは当然その行動を許すはずが無く、すぐさま足を引っ掛け、ホルン侯爵の上に乗るような形で地面に倒し、五本の剣が彼の顔に向ける。


しかしこれ以上迂闊な行動を取れば、すぐさまその剣で身を貫かれてもおかしくは無い状況で、地面にその身を縫い付けられていながらもその目はルートを睨み付け、


「私から!この私から家族を奪った貴様が生きているということがどうしても許せん!!誰でもいい!!そやつを殺せ!!お前たちの目の前にいるそやつは復讐のためにこの場まで乗り込んできたのだぞ!?そやつの憎しみがこの国全てに向かないとも限らん!!主らはそのときになれば大人しくその首を差し出すのか!?今が!今が唯一無二のチャンスだ!!今すぐそやつを殺せ!!」


今まで一度も出したことのない憎悪しか篭っていない声でそう叫んだ。



ちなみにルート君がホルン侯爵が復讐を誓っておきながら怒りをあらわにすることが無いのはホルン侯爵の心を折ることを目的としているのと、怒りのままに暴れることが出来る相手は別にいるからです。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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