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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
66/84

66話 勝者

シリーズ最長文字数!


エリュの心象が構成した世界でルートとエリュの戦いが始まり、その中で目まぐるしく入れ替わる攻防の果て、ルートがエリュを拘束したところで決着がついたかと思われたが、エリュの発動した『ウツロウセカイ』によってエリュは拘束から逃れ、ルートを吹き飛ばした。


その吹き飛ばされたルートはとっさに回避することが出来ず、まともに直撃を食らったことで一瞬意識が飛び、そして勢いよく周りを取り囲む石の柱に激突したことで意識を取り戻し、その衝撃でカハッと肺の中の空気をすべて吐き出す。


全てを吐き出したルートは無くなってしまった空気を求めて勢いよく空気を吸い、急激に取り込まれた空気のせいでゴホゴホと咳き込むようにして少し涙を滲ませて何とか呼吸を整える。


そして吹き飛ばした張本人のエリュを見ると杖を手に、ルートが地面に拘束する前に付けていたダダンに売ってもらった金属を変形させた重りをなんとか外そうと苦労していた。


ルートはその姿を見ながら、まだ少し揺れている脳の司令に従って石の柱を解除する。


ルートの耐久力程度では先ほどのエリュの一撃の威力で吹き飛ばされてしまえば、自分の設置した透明の糸にトコロテンのようにバラバラになってしまう可能性があったからである。


ルートはたった一撃で姿を消して施していた小細工の殆どが無に帰したことに対して少し思うところがない訳では無いが、その感情は今は必要ないとして割り切る。


そして、


「それって反則っぽくない?」


そう冗談めかせた調子で言ってみる。

それに対して自分に取り付けられた重りを外すのは諦めてルートを見ると、


「それって姿を消せるルートが言うこと?」


そう答える。


「いやいや、そのせいで僕の仕込んだ小細工をどれほど潰してくれたっていうのさ」

「戦いなんだし仕方ないでしょ?」

「それもそうなんだけどなんだか釈然としない!」


ルートはそう言って会話をしながらも頭の中では先程エリュが見せた『ウツロウセカイ』という転移魔法の弱点を探す。


そして、


「さっきの転移魔法も"祝福"?全然魔力を感じなかったから違う法則で動いているよね、それ」

「私もよくは知らないけど多少の集中力を要するということと、魔力を使うものでは無さそうという事くらいしかわかっていないの。何を消費しているのか、それとも何も消費していないのかもよく知らない。本当に"祝福"って何なんだろう」


ひとまずルートはエリュ本人から魔力を消費しないという発動の際の予兆のようなものが無いというルートにとっては悪い情報を一つ手に入れる。

それに加えて"祝福"ということ神に近しい力であると認めたことで、転移できる距離も極めて遠く、もしくは存在しないという可能性もあり、発動間隔についても同様に厄介以外の何ものでもない能力であるということを考慮に入れる。


そして導き出された結論は、


「…うわあ」


その引いた調子で言った言葉に全てが集約されていた。


その引いたようなルートにエリュは、


「私だってルートを殺したい訳じゃないからここで引いてくれない?用が済めばアレはルートに引き渡すから」


本心から言っているようで、ルートに向かって頼むような声色でそう言う。


その言葉に対して、ルートは独白するような様子で下を向きながら、


「確かにそうすればエリュも僕も目的は果たされることになる。これ以上戦って無駄に体力を使うよりも余程建設的なものだろうね。普通なら諸手を挙げて賛成するよ」


そこまで言い終えるとルートは顔を上げて、本心からの満面の笑みをエリュに向けると、


「けどね、そんな合理的な意見なんて今はいらない。今はエリュと戦うことだけでいい。今この瞬間が、僕に生きているという実感を与えている」

「私もそう。そんな感覚とうの昔に捨て去っていたものだと思っていたのに」

「僕も君も目的があるからね。大切なもの以外は捨てておかないと鈍ってしまうから」

「マインさんに「目的を果たすまではそういうことが考えられないから」と言っていた人と同じ人物だとは信じられないでしょうね、今のルートは」

「あはは、で、エリュはどうする?そこまで楽しそうに笑って杖を持ち上げていらっしゃいますけど?」


ルートはエリュが本心からの満面の笑みで杖を構えているということを指摘する。

するとエリュは可愛らしく唇を尖らせて、


「…そういうことは言わないで察してよ」

「あはは、そうだね。それじゃあやろうか!」

「私の方が有利だけど大丈夫?」

「大丈夫」


ルートは腰を落として『影部屋シャドウルーム』を自分の影繋げると手を突っ込み、


「コレがあるから」


自分の影から取り出した極彩色の5cmほどの透明な結晶体を取り出して金色の空に翳す。


そして続けてコツコツ貯めた『影箱シャドウボックス』を二つ解放して、魔力を全回復させると、


「いただきます」


それを舌に置いて噛み砕かないように口の奥のほうまで持っていくと、それをゴクリとのどを鳴らして飲み込む。


そして無尽蔵な魔力を解き放ち、


「死なないでね。『変身メタモルフォーゼ』」


その口決に従うようにそれがぐにゃりと蠢く。


蠢いたそれは、長く大きい形に自らの形状を変化させ始める。

半透明だった何かを形どっているようにも見える魔力は頭部から順に色付いてゆき、その表面が濡れたようにぬらりと光る目に優しくない極彩色に変わり、やがて確かな質感をその身に纏う。


そうしてその色が尾まで完全に体表が極彩色の鱗で覆われゆき、出来上がったその姿はルートが『無限』で戦った虹蛇と酷似おり、完全に変身を終えたことを示すためなのか、口を開けて舌を出し、チロチロと揺らした。


完全に虹蛇の体が出来上がったところで、ルートの頭の中に虹蛇の特性や性能といった情報が流れ込み、ルートはそれについての理解を深める。


その情報を理解していく過程で、ルートが始めて虹蛇がいる部屋に入ったときに見せられた幻想的な光景は虹蛇が作り出したということで、光魔法を使うことの出来るという特性を持っていたのであるが、どうもルートの持っている闇魔法と反発してしまっているようで、ルートには使用できないようであった。


その事実にルートは少し残念に思っていたが、気を取り直してエリュを見ると、


「どう?」


虹蛇の口からルートの声が今の自分の姿についての感想を求める。


エリュは変身するまでの過程を見ていたからこそ、ルートが結晶体を飲み込んだということまでは理解が及んでいたのだが、魔力を回復させるのだろうと予想していたため、魔力が全身を包んで姿を変えるというところまではさすがに予想も付かず、


「…うわあ」


どこかで聞いたような引いたような声をもらした。


その反応に、


「僕もその反応をしておいてなんだけど、なかなか辛いものがあるね」

「…ごめん」

「謝らないでもらえる?!」


ルートは大きな声を出してエリュに文句をつける。


そして、


「準備は終わり?」

「始めようか」


お互いに早く戦いたいという衝動に駆られてか、端的に言葉を交わすと、


「『氷雨アイスレイン』『光雨シャイニングレイン』」


戦闘再開の合図も無く、エリュは広範囲にわたって攻撃の出来る魔法を選択して発動し、物理的な攻撃と非物質的な攻撃とを同時に放つ。


エリュは体の大きい変身したルートのなるべく広範囲にわたって攻撃を仕掛けたかったということが最大の目的で、どちらのほうがより効果的かを判断するという小さな魂胆もあってその魔法を選択したわけであった。


その自身に向かって飛んでくる魔法を前にルートは自分の耐久力を抜けるほども威力を持ったものでは無いと判断し、さらに少し考えるところもあったために敢えて何も行動を起こさずにそれを受ける。


体表の極彩色の鱗にエリュの目論見が込められたそれらの魔法の一発一発が雨霰といわんばかりに着弾するものの、結果少々鱗にひびが入った程度の無視できる範囲内の傷であった。

更には、


シュゥゥウウ


白煙を立てて、そのひびすら消えてしまう。


ルートはその光景を見せ付けるように尻尾をその部分を示すように操ると、


「これって僕が元の姿に戻っても発動するみたい。で、"祝福"がどうしたの?」


蛇の顔を上手く操って少しあくどいような表情にも見えるが、笑みの形に変えてそうおどけるように言った。


それを聞いたエリュはルートの言いたいことを瞬時に理解すると、


「…そう」


顔を背けて少し突き放すように言う。


ルートはそのエリュを虹蛇の体に備わっているピット器官で見てみると、全身の体温が上昇しているようで、ほんのかすかに心臓の体温が周りよりも高いようであった。


その体温を見たルートは顔を逸らしてしまって表情が見えないものの、その表情を想像することはそう難しくない。

ルートはその表情を見たいという本能的な欲求に駆られてしまうが、なんとかなけなしの理性でそれを押しとどめ、大人しく金色の空に顔を向けた。


そしてしばらくすると、大きく深呼吸したエリュがルートに向き直り、


「『氷槌アイスハンマー』『光槌シャイニングハンマー』!!」


照れ隠しにしては過剰すぎるといってもいいほどに魔力を込めた魔法を放つ。


その魔法はルートの虹蛇の姿と比べることが出来るほど巨大なそれぞれの材料で出来た槌が、そのもの自体の持つ質量と十分な初速度で、ルートの体を打ちつけようと振り下ろされる。


ルートはその魔法に対して、氷の槌のほうは丸太よりも太い尻尾で弾き、光の槌のほうは虹蛇の体になったことで出力があがった『岩壁ロックウォール』で防ぐことで対処する。


その間もルートはエリュの所在をピット器官で捕捉し続けていたお陰で、エリュが最高速度で向かってきているということもそう難しくは無かった。


ルートはなるべく転移魔法を使われると対処が一気に難しくなるため、今のように走って近寄ろうとしているエリュにギリギリまで気が付いていませんでしたという演技をするために顔をキョロキョロと振り、彼女が近くに寄ってきた瞬間に尻尾を彼女に突き出す。


彼女は自分の体よりもふた回り太い尻尾を、手に持っている杖と超人的な膂力で弾く事は叶わないが、どうにかいなすことに成功する。


そしてその尻尾が再び自分に襲い掛かってこないうちに懐、といってもどこにあるのかは分からないが、とにかく胴体部分まで接近すると、彼女は杖を大きく振りかぶってゴウッという風切り音を響かせながら振り下ろす。


彼女の杖が直撃した場所は大きく陥没し、体表を覆っていた鱗がポロポロと剥がれ落ちる。


ルートはエリュの攻撃が思った以上に被害を受けたことで、次の攻撃を回避する為に大きく身を引くが、その速度も彼女の速度に勝るということも無くさらに追撃を加える。


そうしてどんどんと着実にダメージを与えていくエリュの攻撃に対して、ルートは尻尾や土魔法を使って妨害を試みるが基本的なスピードが違うために全てが妨害としての意味を成していなかった。


しかしエリュが今見せている手札ではルートを行動不能にするだけの威力を出せるものは無く、唯一虹蛇と化しているルートに対して効果があると思われる『霧の国(ニブルヘイム)』も予兆が分かれば避けることも出来るため、そこまで障害にはならない。


それを見切ったルートは被弾を覚悟して、膨大な魔力を練り上げて虹蛇の持つ優秀な魔力の増幅機能を使って、


「『死の砂漠(デス・デザート)』」


エリュの心象世界が生み出した花畑をルートの無慈悲な無尽蔵な魔力が強引に塗り替え、一面見渡すかぎりの黄金の砂砂漠に変化した。


そしてルートは続けて、


「『砂嵐サンドストーム』」


大きく渦巻く金色の嵐が姿を現し、砂漠の砂を巻き上げる。


砂嵐サンドストーム』は砂を巻き上げながら高速で回転していることで、当然砂も高速で回っており、それに近づくということは目の粗いサンドペーパーで体を高速で削られているのと同じことである。


怪我が異常に治るのが早いという"祝福"を持っておりいくら傷が治るとはいえ、エリュはわざわざ傷つきたいという欲求があるわけでもなく、それなりに痛みを伴うということでそれを一瞥すると、そのルートの巨体のせいで押し込まれないように注意を払う。


ルートは周囲が砂漠になったということで完全に地の利を得たルートは、


「『砂人形サンドゴーレム』」


その言葉に砂から『砂人形サンドゴーレム』たちが次々と生えるように増えてゆき、不定形なためにさらさらと形を崩しながらも直立し、


「これで決めるよ!」


そのルートの号令におびただしいほどの数の『砂人形サンドゴーレム』の中でエリュに近いものは近づいてゆき、残りのものには転移を警戒させる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そしてエリュが転移を繰り返し、水魔法で『砂人形サンドゴーレム』やルートに対して攻撃を加え、光魔法で自身の身体能力を活性化させ続けて、ついに、


「「はあはあはあ」」


激しく攻防の入れ替わる戦闘が止まった。


こうなっているのも、エリュは砂漠の見渡す限りに存在していた『砂人形サンドゴーレム』の全てを破壊し、見たところ、そこまで傷が無いように見えるルートの虹蛇形態の鱗を何度も砕き、何度も剥ぎ、何度も貫いた。

ルートもそのエリュからの攻撃に対処したり、その行動に対して牽制していたり、はたまた攻撃を加えていた。


そう言う理由もあってお互いに魔力も消耗し、体力も消費し尽くしていた。


するとルートの虹蛇状態がまるで映像が乱れたテレビのようにジジッとぶれると、『変身メタモルフォーゼ』を維持するだけの魔力が無くなり、その全身が黒いもやもやになって弾けると、その虹蛇の姿があった中心部分にルートが立っていた。


そしてルートは近くに落ちている最初のほうに脱ぎ捨てた奇跡的に糸が解れて砂にまみれただけのジャケットをパンパンと軽く叩いて拾い上げて、肩に担ぐとエリュに向き直って、


「こ、これで最後かな?」


少し呼吸を整えて腰袋から槍を引き抜いて構えながらそう言った。

それに対して、


「…確かに。次が最後ね」


そう言って手に持った杖を構えてそう答えた。


そしてルートは手に持ったジャケットをバッと上に投げ、それが砂の上にパサッと落ちた瞬間に、


「「はぁぁあああ!!」」


お互いに強化も何もしていない素の状態で相手に向かって切り結ぶように袈裟斬りを放ち、ギリギリと音を立てて拮抗する。


「「ぉぉおおお!!」」


喉が枯れるほどに叫ぶ二人。


もはや気合の比べあいにしかなっていない中、突然膝から崩れ落ちるエリュ。


ルートはそうしてエリュの杖を押し込み、


「はあああ!!」


自分の体重ごと乗せてエリュに倒れこむ。


膝から崩れ落ちたエリュに抵抗する力など残っていない。


それでもなお諦めないエリュはルートが倒れこんでくる。

それと同時にその勢いを保持したまま二人そろってゴロゴロと砂の上を転がる。


そうしてその回転が止まった時、


「はあはあはあ、私の勝ちかしら?」


エリュがルートの上に馬乗りになって首に貫手を突きつける。


それに対してルートは、


「ああ。…ごめんね、僕の勝ちだよ」


ルートがそう言うと、馬乗りになっているエリュの体にガッチリと蒼い鎖が絡みついて、エリュの手足の自由を奪う。


そして、


「できれば実力で決着を付けたかったよ」


少し申し訳なさそうな困ったような顔でそう言った。


なぜか途中で糖度が増しました。

あれ?シリアス路線のつもりだったんだけど?


けど、糖度が高めの話って書いていて楽しいから、止められない、止まらない、ふっふ ふふふん♪

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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