63話 ホルン侯爵
笑顔の男、ブラウ・ホルン侯爵を今まではブラウ侯爵と呼んでおりましたが、ホルン侯爵と呼ぶことになりました。
本文は修正済みですので、関係の無い読者様は本編へどうぞ
「それではこれより王国臣下統一会議を始める」
王のその言葉によって十年に一度の国中のすべての貴族が集まる王国臣下統一会議が始まる。
王国臣下統一会議の会場は日本の衆議院議場に似た形をしており、議長席に王、事務総長席に宰相、事務局席に王城で重役を務めている者たちが座り、議席にはそれぞれの家名が書かれている席に貴族が座っていた。
ただ、会場の衆議院議場と違う点は、一つ目に速記者席がないという点、そして演壇が議長席に背を向けるような形で置かれている衆議院議場に対して、王国臣下統一会議の会場の演壇は議席に背を向けるような形で設置されていた。
王国臣下統一会議の会場となる場所には多くの貴族がおり、それぞれ色とりどりの男性はタキシードや軍服、女性はイブニングドレスや軍服を着ていたりと思い思いの正装をして円形の座っていた。
また、数名の貴族を除いて、それぞれの隣には1,2名の同伴者がおり、それぞれの服装や装備から察すると、それぞれ自分の身を守らせるための護衛としてつれてきていたり、資料を手に持った秘書としてつれてきていたりとしていた。
宰相の進行にしたがって領地を持っている貴族-封地貴族が演壇に上がり、自分が治めている領地の異常や、懸念事項などを報告する。
それに対して王が指示を出し、更に重大な問題に関しては後の貴族全体で物事を考えるという場において議題として取り上げることにする。
そうして一通りの領地持ちの貴族からの報告が終わり、通常ならば次は先ほど後回しにした議題についての話が始まるところなのであるが、王が宰相に合図を送る。
宰相はそれを受け取ると、
「次の議題に移る前に王から話があるようじゃ」
と言って王に主導権を譲る。
その場に集まっている貴族たちは王からの言葉と言うことで視線を王に向けると、その王は視線を受けながら、
「ホルン侯爵、前へ」
静かにそう告げた。
王がわざわざ名指しで名を呼んだことで騒がしくなる会場に、ホルン侯爵は柘榴石に移っていた笑顔がどこへ行ったのかが分からないほど真面目な顔をして演壇に立つ。
すると王は、
「何か名を呼ばれる心当たりは?」
「ございません」
ホルン侯爵は演技なのか本当に心当たりがないといった様子で答える。
そのホルン侯爵に王は、
「そうか。…実はおぬしにはある嫌疑がかけられておる。その嫌疑とは一度捕らえれた咎人が再び別の場所で罪を犯していたというものであるが、どうだ?」
「その事でございますか。…実は過去に咎人を連行する際に逃げられたことがありまして、そのことを王がお聞きになったということかと思われます。これは私の失態ですので報告をあげることを故意に怠ってしまいました。領地では内々にそのものたちを確保するために私兵を動かしております。この失態についての処分は王の裁定に真摯に従う所存にございます」
「ほう。それでは相応の裁定を行うことにする」
「随意に」
ホルン侯爵は非常に申し訳なさそうに王の目を見てそう言うと、最後には体を腰から折り目を瞑って王に対して頭を下げる。
それを周りで見ていた貴族たちは、ホルン侯爵がそんなミスを犯したということに驚いている様子やざまあ見ろというように蔑みの目を向けている者とさまざまであったが、多くは爵位が下がるだろうと予想すると、伯爵位の中でも有力な貴族たちはにんまりと口角を持ち上げ、ホルン侯爵の領地の近くの領地の持ちの貴族や領地を持っていない貴族-法衣貴族は封地貴族の一員になることが出来るかもしれないということでこちらも口角を持ち上げていた。
それを他所に王ははっとした表情を作ると、
「ああ、すまぬ。余としたことが失敗をした。嫌疑と言ってしまったな、あれは間違いだ。正しくはおぬしを処分するための理由である。もう裏は取れておる」
王はホルン侯爵に冷酷な目をしてそう告げた。
それに対してホルン侯爵は、
「どういうことでしょうか」
「余が言ったとおりのことだ。すでに先ほど余が嫌疑と言った内容は真実だということが分かっておる。余が放った密偵の持ち帰った情報だ。おぬしはそれを疑うか?」
王はホルン侯爵を厳しい目で見てそう尋ねた。
それに対してホルン侯爵は動揺もせずに、
「疑うなど滅相もございません。しかし、私にはまったく見に覚えのないことでして、よろしければその情報を私に教えては頂けませんか?」
そういってのけた。
それに対して王は、
「…よかろう。それではおぬしの語った事を基に余が持っている情報と統合して語ってゆこうぞ。まず、連行途中に逃げられたことがあるかどうかという事の真偽は分からぬが、一度捕らえれた咎人が再び別の場所で罪を犯していたという事については事実であるということは分かっている。余の放った密偵の情報では一度重い罪を犯したものが処刑場に運ばれたところ、中から処刑した死体ではなく兵士が出てきたと。その兵士の後を追うと、どういうわけかその兵士が再び罪を犯しているところを目撃したとのことだ」
「…」
「さらにおぬしが直々に捕らえろと命令した盗賊の一味の処刑のために処刑場に運ばれたものの、中からはちょうどその盗賊の一味と同数の兵士が中から出てきたとか。そしてその兵士たちを追いかけたところ、同じく罪を犯しているところを見たそうだ。これをおぬしはどう考える?」
「私の部下が命じたか、兵士の暴走のどちらかかと。領地に戻り次第、その事柄について明らかに致します」
そう平然と言ってのけるホルン侯爵。
その様子を見守っていた貴族たちは失態を追求するために王がホルン侯爵の名前を呼んだのだと思っていたが、今では完全に風向きが変わってきたことを感じると、王とホルン侯爵のやり取りを静観し始める。
そのホルン侯爵に対して王は、
「さきほどおぬしが言った確保するために私兵とやらについてはどうやら余の密偵を以ってしても見つけられなかったらしい。なんとも優秀な私兵だな。余に譲ってはくれまいか?」
「領地に帰り次第、今の王のお言葉を伝えましょう。その後は彼らの意思に任せます」
「そうか。その私兵とやらはおぬしの屋敷で働いておるのか?余の優秀な密偵が持ち帰ってきた情報によると、おぬしの屋敷から休暇をとった者が処刑場から逃げ出した者たちの元へと接触しているらしいぞ?それと逃げ出した者たちと接触を図っている者のすべてはおぬしの屋敷で働いている者たちの顔とまったく一致しているようであるが。それについては魔力の反応で裏も取れておる」
「…」
「ああ、その私兵とやらの来歴も調べてくれたようだ。その情報によると全員が奴隷であるそうではないか、それも一度罪を犯した者たちだとか。それにおぬしの屋敷に出入りしている奴隷を売っているという者たちに余は許可を出した覚えがないのだが、これについてはどう思う?まさか知らないなどとは言わせぬぞ。おぬしの許可なしに屋敷に来客を許可するはずがないのだからな」
「…」
「さすがにその売られてきた者たちの犯した罪までは分からなかったが、その奴隷を売っている者が他国からやってきたこと、その奴隷たちがみな一様に気配を消したりという技術が高水準にあるということは掴んでおる」
次々と王は黙り込んでしまったホルン侯爵の逃げ道を潰してゆく。
周りでそれを見ていた貴族たちは先ほどから王とホルン侯爵の間で交わされている会話を聞きながら、その王の持つ情報の詳細さなどや圧倒的なまでの量に驚き、後ろ暗いことをしている自覚のある貴族たちは顔を真っ青にして決して寒さのせいなどではない内側からの感情に体を震わせる。
そのほかの貴族たちはホルン侯爵の行っている所業に対して繭を潜め、中には立ち上がってホルン侯爵を糾弾するものや、信じられないという様子でホルン侯爵をただ見つめている者もいた。
その中でホルン侯爵は、
「なるほど、王の密偵は優秀でいらっしゃる。それが本当に私が行ったことであればこの首はすぐさま切り落とされてしまうほどのものですね。いやあ、本当に恐れ入りますよ」
そういって柘榴石が映し出したのと同じような笑顔を浮かべ始めた。
王や宰相と言った三日前のルートの柘榴石が映し出したものを見ていたものたちは、ルートの持ってきた柘榴石が本物かどうかを疑っていた者たちも含めて、その表情を見るとその柘榴石の情報が本物だということをこれ以上無いほどに明確に悟った。
そうしてその表情を維持したまま、
「それでは王よ。それが私が命じたということを示すものはどこにあるのでしょうか。王の密偵がその情報を掴んでいたのにも関わらず今日まで何も行動を起こさなかったということは明確な証拠が無かったからではないですか?だからこそ今日この多くの貴族が集まる場で大勢を味方に付けて私を処刑するつもりであったのではないですか?」
そう言ってのけた。
確かに最初は王たちにもそういう魂胆もあった。
というよりも、ルートが来なかったとしてもこの場でホルン侯爵に同じく証拠を突きつけて処刑する予定であったということは事実であった。
そのために先ほど王が語った情報を集めるために王の密偵を年単位で派遣していたのだ。
それほどの証拠を集めてからでないと、王が疑いを持った時点で処刑されてしまうという評判が立ってしまい、最悪この王国すべてを巻き込んだ内乱が起こる可能性もあった。
そういう観点から慎重になっていた王たちではあるが、
「十分に先ほどまでの情報でもおぬしが関与しているかは不明であっても処刑するだけの説得力があったものであると思うが、おぬしの言うことももっともである。よって、正真正銘の嫌疑、そしてそれが真実だという証拠とともにおぬしに突きつけてやろう。入ってまいれ!」
王がそう大声で指示した。
すると、この部屋に続く唯一の扉が、
バンッ!
と大きな音を立てて開く。
王や宰相といった面々、それに加えて貴族が、そしてホルン侯爵を加えた全員の視線が開け放たれた扉に集まる。
コツコツ
その視線を一身に浴びている一人の白髪の少年は、その視線に驚くことも無く、足音を響かせながらゆっくりと歩き、貴族たちが座っている席の間の通路を歩き、演壇を追い越して王の隣にまで移動すると、くるっと体を反転させて貴族たちの方向を向く。
そして、
「ルート、復讐者だ」
とルートにとってはわずかな魔力、一般人にとっては一瞬動きが止まってしまうほどの魔力を解き放った。
そういった魔力に耐性の無いものは一瞬動きを止めてルートを恐れるような目を向け、戦闘の心得を持っている貴族や護衛の者たち、それにルートの戦闘力の片鱗ほどは見た三日前の場にいた者も同じく武器を抜き放ち、自分も魔力を放出する。
その状況に対して、
「静まれぇぇえええええ!!!」
王が叫ぶ。
その声を聞いた者たちは戦闘態勢を維持したまま王を見る。
すると、
「この者は敵ではない。王命だ、武器を下ろせ。ルート、おぬしも収めてくれ」
と告げた。
王命とまで言われては武器を下ろさないわけにはいかず、それぞれ武器をしまうがいつでも対応できるように立ったままの態勢で固まった。
ルートも王の言葉を聞いて魔力を収めると、
「この者の名前は先ほど聞いたとおりで、おぬしらにも聞き覚えのある名前で言うと、この者はルート・セルファ辺境伯。セルファ家の生き残りだ」
その王の言葉で室内が大きなざわめきに包まれる。
ルートの名前にピンと来ていなかったものも、セルファという名前を聞いた途端に多くの貴族が思わず声を上げ、セルファ家の末路を知っている少数の者が驚きの声を上げ、このタイミングでセルファの名を持つ者が現れたということを悟ったわずかな者たちはホルン侯爵の末路を悟った。
王はそのざわめきが少し収まった瞬間を見計らって、
「この者は正真正銘のセルファ家の生き残りの者で間違いない。この者の身元については余や宰相のほかにも5年前から変わっていない大臣が証人である。この者が今ここにいる理由はこの者の持つ柘榴石が語ってくれる。ルート、頼む」
「はい」
ルートはジャケットのポケットから柘榴石を取り出すと、
「"起動"」
その言葉を起点に内部の白い光が赤い石の内部で前号左右に揺れ動き始める。
「"再生"」
頭の中で'あの日'を演出した黒幕の存在を再生するように念じると、光が柘榴石から抜け出し、部屋の入口付近に浮いてベタリと広がって白いスクリーンが出来上がり、次々と色付いてゆき薄暗い室内かスクリーンに浮かび上がった。
そうして三日前に王らに見せたのと同じ映像が映り、ホルン侯爵らの三人の姿が現れる。
映像が進んでゆくにつれてホルン侯爵への疑いが強まってゆき、多くのものがホルン侯爵の有罪を確信してゆく中、ホルン侯爵がその映像に映るままの表情を浮かべて、非常に楽しそうに見ているという様子に、王や宰相たちは狂気を感じた。




