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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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62話 正装


王国臣下統一会議が行われるという当日、ルートはいつも通りの時間に起きて、いつも通りに体を解し、いつも通りに魔力を操作して、いつも通りに『影箱シャドウボックス』に魔力を充填する。


ルートは毎朝の日課を終えると、部屋の備え付けのシャワーでさっと汗を流し体を洗い終わると、体を戦闘装束を身に纏ってゆく。

ルートは今回の王国臣下統一会議に辺境伯のルート・セルファとして出る訳で、このままのいつでも戦闘態勢に入れるような格好で会議に出席をするわけにはいかないが、万が一道中で何かあってはいけないということで万全の格好をしておく。


そうしてルートは部屋で出来る準備をすべて終えると、部屋の明かりをすべて消して部屋を出て受付へと向かう。


部屋の鍵を受付に返却する際にいつも通りい受付でピシッと立っている老紳士と少しばかりの話をしていると、老紳士は長年の勘なのか、それともルートの行動に違和感を持たれたのかは分からないが、老紳士がルートに向かって、


「…私ども"悠遠亭"の職員一同は、ご宿泊いただいているお客様に最高の安らぎの一時と部屋を提供することを最上としております。ルート様のお帰りを心よりお待ちしております」


その言葉にルートは表面上は上手く取り繕えていると思っていたものの、この老紳士にはその表面の様子の違和感も感じ取られてしまったようであり、自分の思っている以上に隠しきれてないのかもしれないと考えてしまっていた。


「…絶対に帰ってきますよ」

「お待ちしております」


そう言って二人とも微笑んで言葉を交わすと、ルートは"悠遠亭"を出てゆく。


空はあいにくの曇天、ネズミ色の雲が分厚く青空を覆い隠しており、雨が降る前の独特な匂いもしており、一雨ありそうな雰囲気が漂っていた。


ルートは幸先の悪そうな空を見上げると、その空の様子からなんとなく今日の出来事は簡単に終わりそうに無いという何処か確信めいた感覚を覚えた。


そんな空の下、"悠遠亭"は大通りに面しているため、王城までは一本道であり、ルートはそのまま大通りを進みながら、戦いになったときに動きが鈍らない程度の、量を控えめにした食べ物を露店で購入してそれを腹に収めながら王城へと進んでゆく。


ルートが王城の前に着いたときには朝早い時間ということもあり、そこまで多くの者たちが集まっているということは無かったが、それでも数台の馬車が王城へと繋がる橋の前で数多く動員されている兵士たちに入城の手続きを行っていた。


ルートはとりあえずその馬車の群れの後ろに並びながら、"悠遠亭"の受付に届けられていた誰が手配したのかは分からないが、入城を許可されているということを示すための盾、弓、槍、剣の順に重なり合うセルファ家を示す紋章が刻まれている金属製のバッジを腰袋から取り出して、それの表面をそっと親指の腹で愛おし気になぞる。


しばらくそうしてバッジの表面をなぞっていると前の馬車が動き出して王城へと続く橋を渡ってゆき、次はルートの番ということでその手に持っているバッジを自分の周りを取り囲む兵士に渡す。


ルートの格好は少なくとも会議に出るようなものでものではなく、兵士たちはルートのことを誰かの護衛だと言う言葉を使って王城に忍び込もうとしている輩だと判断したのだが、そのルートから渡されたバッジを調べると、刻まれた紋章には見覚えの無いものの侯爵と同格と認めるという印もあった。


兵士たちは、ルートの外見からはとてもではないがそのバッジが渡されるような年齢でもなければ格好をしているわけでもないために疑わしいと思いながらも、バッジが示す通りの身分の者であればこちらの判断で入城を断ることは出来ないと考えると、「少々お待ちください」と言って王城に連絡を入れてすぐさまその紋章と持ち主の照会を行う。


そして王城からの返答は、


「どうぞお通りください。ルート・セルファ辺境伯閣下」


ルートの身分を保証するというものであった。


入城を許可されたルートは橋を渡って王城の中へと足を進めると、


「お待ちしておりました、セルファ辺境伯閣下。王からのご命令でお召し物をご用意致しましたので、私に付いて来て頂けませんか?」


執事服の男が流れるような一礼を行うと続けてそう言った。

それに対してルートは頷くことで答えると、執事服の男は「それでは私の後ろに付いて来て下さい」と言って歩き出すとルートもその後ろに付いて歩いてゆく。


そうして二人が王城のエントランスから移動し、階段を3回上り、入り組んだ廊下を歩き続けて案内されたところはある扉の前で止まり、執事服の男がその扉を手で指し示すと、


「こちらでお着替えいただけますか。お召し物については中にいる者と相談してお決めください。私は外で待っておりますので」


そう言うと執事服の男は扉をコンコンコンと三回ノックしてから引いて開け、ルートは執事服の男に礼を言うと中に入ってゆく。


ルートが入った部屋の中には二人の男がいて、周りにはタキシードに似た貴族の正装がところ狭しと並んでいた。

そしてその男のうちの一人が、


「セルファ辺境伯閣下、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


と声をかけてくる。

ルートはその声にしたがって部屋の中心に行くと、男たち二人が一礼すると、


「私どもは閣下が王国臣下統一会議に出席されると聞いておりますが、間違いありませんか?」

「うん」

「かしこまりました。それではその方向性で進めさせていただきます。閣下は色や服装に関してご要望はございますか?」


ルートは服装に対しての要望を頭の中でまとめると、


「そうだね、服飾は最低限で動きやすさを重視してほしいのを頼みたい。色に関しては黒の配分を多めにお願い」

「かしこまりました。それではお召し物を見繕わせていただきますので少しだけお待ちください」


そう言って周りにある正装をさっさと選んでいく男たちを見ながら、ルートはもう少しで邂逅を果たすはずの仇のことについて思いをはせていると、


「お待たせいたしました。閣下のご要望どおりに数点ほど選ばせていただきましたが、いかがでしょうか。お召し物のサイズは自動調整の機能が付いておりますのでお気になさらずに」


そう言って男二人合わせて4着の正装をルートに向ける。

どれもルートの要望どおり黒を基調としたものであったが、タキシード風のものと軍服風の二通りのものがあった。


通常この国の貴族の礼装はその家の成り立ちで規定されており、武勲で貴族位を手に入れた家は軍服風の装いで、文勲で貴族位を手に入れた家はタキシード風と決まっていたものの、新たな地を開墾して貴族位を手に入れた家はどちらでもいいことになっている。


ルートは自分自身の動きやすさや自分の父様が着ていた服を参考にして、


「それではこちらの軍服のほうをお願いします」


そちらを選んだ。


「かしこまりました。それではお着替えのほうをお手伝いいたします」

「軍服の方だけ手伝ってもらえるかな?」

「かしこまりました」


ルートは自分の着ている服を素早く脱ぎ、三箇所に取り付けた腰袋を外して、その中に脱いだ服を仕舞う。


ルートのそれに驚いていた男たちもすぐさま立て直して、ルートに軍服を着せてゆく。


軍服自体は軍属でもなく服役をした経歴も無いために胸元につける勲章もなく、肩から伸ばした飾り紐の飾緒もなく、マントもない非常にシンプルなものとなっていた。


しかし、ルートは『無限』から出てきたことで食事の制限と言うものもなくなり、まだ若いということもあってすぐに肉が付いたことでこけた頬や大きな目の下の隈も無くなり、純白の髪も男たちの手によってピッシリと整えられたことで、全体的に染み付いていた不気味さが消え、その代わりに元のそれなりに整った顔が前面に出てきて、さらにルートの5年間が積み上げた経験が形となった風格とでも言うものを身に纏っていることで、その軍服姿と相まって、端的に表現するならば「化けた」とでも表現してしまえるほどになっていた。


その結果出来上がったルートの姿はコーディネートした男たちでも驚く出来上がりであり、強いて欠点を探すのであればその低身長くらいのものであった。


そうして驚いている男をよそにルートは近くにあった大きな鏡を見て、こんなものかと興味がなさげに自分の姿を確認するとすぐに興味を失ったようにその視線を切った。

そしてルートは床に置いていたバッジを胸元に輝かせると腰袋をジャケットの内側に隠すように取り付ける。


そしてルートはオールバックにされた髪を気にしながら、


「これで終わりですか?」

「あ、はい。そうです。よくお似合いです」

「それはどうも」


ルートはお世辞だと思って軽く流すとこしょこしょと話し声の聞こえるのを後ろに感じながら扉を開いて部屋を出て行った。


そうして出てきたルートを出迎えたのは先ほどの執事服の男で、ルートの姿を捉えると一瞬その姿に驚きながらも、


「良くお似合いです。それでは案内するように頼まれている宰相様の部屋へと移動して頂きたいのですがいかがでしょうか?」

「ありがとう。それではお願いします」

「承知致しました」


執事服の男の後ろに付いて歩くルートは階段を二回下り、三日前に妙に絡んでくる騎士に案内されたのと同じ道を辿って宰相に会った部屋へと案内されると、扉をコンコンコンと三回ノックしてルートを案内してきた旨を告げ、中からの返事を待ってから入室する。


室内にはもちろんのことながら宰相が執務机の向こう側の椅子に座っており、更に三日前のルートの柘榴石の情報に関する会議を行っていたときに王の命に答えて貴族の血の塊を宙に浮かべていた女性が入ってすぐの三人がけのソファーに座っていた。


室内にいた二人は案内してきたというルートに対して目を向け、その姿を見て少なからず驚き、


「これは化けたのお」

「わお」


そんな反応をする。

そして執事服の男が宰相の仕草を見ると一礼をして部屋を出て行き、室内には三人だけになった。

すると、


「良く来たな。とりあえずそこのソファーにでも座ってくれ。いろいろ話をしておきたいからの」

「それでは失礼して」


そう言ってルートは宰相が手で指し示している一人がけのソファーに腰を下ろした。

ルートの着席を確認した宰相は、


「ルートにはまずそこに座っている者を紹介しておこう。宮廷魔道士長、リリーシア・フォル・ツィーナだ」

「やっほ~」


脱力系美人の金髪の彼女-リリーシアはソファーに背を預けながら手をヒラヒラとルートに向かって振ってそう言った。

ルートはその名前を聞いて思い当たることがあったのか、


「もしかしてギルドマスターの?」

「あったり~」

「…なんというか全然タイプが違いますね」

「そうかな~?」

「ホホホ、確かにな。ギルドマスター殿はしっかりとしているのに、この者は非常にまったりとしているというかなんというかのお」

「ひどくな~い?」


ゆったりとした声でその言葉は心外だと告げるリリーシアを見て、ルートは名前だけで判断したものの、その情報が無ければ良く見ればギルドマスターとの共通点があるとはいえ気が付くことは無かったのかもしれないと思っていた。


そうして宰相は、


「とりあえずこの者は放っておくとして、ルート、お前にはいくつか注意をしておく」


そう言ってルートを見ると、続いて、


「お前の会議への参加は一通りの議題が出尽くした後で王からホルン侯爵についての話が始まってからだ。そのタイミングは先ほどこの部屋まで一緒に来た男に案内させるから安心しておいてくれ。お前はその会議に参加することになったら儂らに見せたものと同じものを流してくれ。それからのホルン侯爵の拘束は王からも何も無ければお前に一任するとのことじゃ。なるべく被害を出さないようにして欲しいものの、直せないほどの怪我でないなら今回は目を瞑るということだの。くれぐれも殺さないでくれ」


宰相はルートを見てそう言った。

そして、


「ホルン侯爵が確保され次第、序列三位までの騎士団と宮廷魔道士とギルドに見繕ってもらった戦闘者たちにお前を加えたすべての戦力を以って『朱月』の本拠地を襲撃する。その際の指揮は執りたいかの?」

「任せますよ」

「それではこちらで指揮は執る事にして、お前は一人独立して動いてもいいぞ」

「それは助かります」


ルートは纏まって動くことを強制された場合には自分を抑えれる自信がなく、単独行動を認めてくれたということに対して助かると言った。


宰相はその言葉を聞いてから、苦渋の表情を浮かべると、


「…お前には本当に申し訳ないことをしておるの。儂らの監督不足のせいでお前から家族を奪ってしまった。そしてお前が5年も命も何もかもを懸けて持ってきた情報に頼りっぱなし。本当に申し訳ない」


そう言ってルートに向かって深々と頭を下げる。

それに対してルートは、


「…三日前に王にも言いましたが、僕の家族を奪った一因となったあなた方を許すということは出来ませんが、その言葉だけは受け取っておきますよ。まあその言葉よりはセルファに対して何かしてくれるほうが僕らセルファ家にとっては嬉しいものですがね」


そう言って少しだけ笑う。


それを見た宰相は、


「任せておいて欲しい。儂の全力でセルファを守るからの。それに今回の貴族が一気に集まる場ということで一気にこの国の貴族に対して警告を行う。その警告を破った者には王の名の下に粛清を行う」


強い意志を込めた目でルートを見てそう言った。

ルートはその視線を受けて「期待していますよ」と答えると、宰相が笑った。


そうして宰相に万が一の時のために『朱月』の本拠地を伝え、リリーシアを加えて色々な話をしていると、扉をノックする音が聞こえて宰相がその声に答えると、


「宰相様、お時間です」


王国臣下統一会議の開会の時間がもうすぐだということで迎えに来たという言葉が聞こえた。



王国臣下統一会議が始まり、ルートが仇と邂逅するのはそう遠くないところ、そうしてこれからのルートらの明暗を分ける時もすぐそこまで迫ってきていた。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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