61話 闇魔法
王都編も終盤に近づいて参りました。
王城でルートの家族を殺すように依頼したブラウ・ホルン侯爵についての話がメインになったものであったが、ルートとしては自分の故郷であるセルファ領に関しては宰相直々に守るという誓ってもらい、王からは辺境伯という貴族位の扱いを一任された形になって落ち着いた。
ルートが王城を出たときには夕暮れ時といったところで、オレンジの光が城下町に降り注いでおり、振り返ってみると白亜の城がオレンジの光を全身に浴びており、昼の輝く白亜の城とはまた違った趣の幻想的な城で、ルートはなんとなく王城に対して感じていた重苦しさというものが少し軽減されているように感じた。
そしてその日は何処かに寄ることなく"悠遠亭"に帰ってお馴染みの老紳士に挨拶をして部屋の中に入ると、装備も外さずにそのままベッドに倒れこむと、ルートは王城で無意識に緊張していたのかプツンと意識が切れるように現実から眠りの世界へと落ちていった。
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(ああ、これは夢だね)
ルートがそう判断したのも簡単な話で、一点を除いてどこを向いてもただひたすらにすべての光を吸収しつくしてしまいそうな漆黒が壁のようになっているのか、それとも無限に広がっているのかは定かではないが存在していた。
床も天井も壁も何も分からない、そんな異質な空間にポツンとルートが一人。
この漆黒の異質な空間の中の特異点たるルートは、もう一つの特異点たるものに対して視線を向ける。
それは簡単に言えば蒼の鎖が適当に仕舞っておいたイヤホンのケーブル同士のように複雑に絡まり直径1mほどの球状になっていた。
ルートはそれを見て、
(うわあ、もしかしなくてもあの鎖だよね?やっぱり闇魔法が使われたものなんてろくなものじゃないよ。まあ闇魔法を使う身としてはそうはいってられないんだけどね)
などと考えていた。
闇魔法はさも魔法の一種であるというように表現されているものの成り立ちが違う。
普通の火、水、風、土、光魔法が神が作り出した超常の力だとすれば、闇魔法は人が作り出した異常の力である。
闇魔法は不完全の塊である人が作り出したという成り立ちのせいもあって、副作用が必ずと言ってもいいほどに発現する。
ルートの例でいうと『影部屋』は魔力の最大値を削って空間を構成する。
そして何よりも闇魔法を語る上で欠かせないのが"呪い"である。
"呪い"は自分にしか発動できないというデメリットがすでに存在しているが、多くのメリットを与え、それにふさわしいだけのデメリットがある。
ルートにかかっている"呪い"のうちの一つにルートの無尽蔵ともいえる魔力の保有量の原因があり、それはメリットとしては魔物の体内に生成されたり、地中に鉱物として埋まっている魔石を体内に取り込むことによって魔力量を増強させると言うものであり、デメリットとしてはその魔力の保有量に多少の補正が掛かるものの、その補正の最大限まで使用したところで体内に更に魔石を取り込んでしまうと体内の内側から爆発して死ぬ。
たまたまルートはその最大値にまで到達していないからこそまだ生きているわけで、そのほかのデメリットは本来、人の体には自分の最大魔力量まで魔力が充填されていた場合には意識せずともそれ以上の魔力の供給を弾くことができるのだが、その"呪い"を発動させたことでその無意識での魔力の供給を抑える働きがなくなり、こちらも一定量を超えた時点で同じく爆発して死ぬ。
他にも魔力量が一定を下回ってしまった場合には他の人の十倍近くの疲労感や痛みを感じることになるといったさまざまなデメリットがある。
閑話休題
そんな"呪い"を使うことのできる闇魔法を使う者が作ったという魔道具は、当然のことながらまともなものではない事など容易に想像でき、
(こういう『影部屋』のような性質を持たせた空間に所有者を引きずり込む程度の事は簡単だよね。実際僕にも出来るだろうし)
ルートはこの空間については理解が及んだものの、実際に目の前に放置されている鎖についての対処法については一切思い浮かばなかった。
それでもこの空間を脱出するにも、さすがにあの鎖を破壊してしまっては壊れてしまうこともあり得る上にそもそも破壊すれば出られるという保証もなく、とりあえずはあの鎖に近付いてみるしかないかと近づいてゆく。
(にしてもやっぱりこれってサイズ感がおかしいよね。僕が持っているのは精々1m程度の長さしかないからこんなに複雑に絡み合う事も出来ないしここまで大きくはならない。それじゃああの鎖も何らかの方法でこれくらい大きくなるのかな?)
ルートはある程度鎖の挙動に警戒しながら鎖の球の様子を伺う。
距離を詰めれば何らかのアクションがあると予想していたが、それは全くの期待ハズレなようで何もなく、これは鎖に触れろという遠回りな指示だと解釈すると手でピタリと鎖に触れる。
すると、
(ハッハッハッ!!)
何者かの笑い声が聞こえてきた。
ルートは同じ闇魔法使いとしてどこかオカシイ挙動が入ったところで驚くことも無く、そっとため息を吐く。
(ハッハッんな?…こういう時って普通驚いたりするもんじゃないか?)
「闇魔法使いに何を求めているのさ、はあ」
(まあ、それも道理か。ハッハッハッ!!)
「…で、あなたは一体どちら様でしょうか?」
(当ててみろってんだよ)
ルートは非常に楽しそうに笑う声と一々面倒臭い言葉に普段なら青筋を立てたものだろうが、王城での事もあり今ひとつ感情が昂ることはなく、
「前の持ち主かその鎖を作った者、あとはその鎖に宿った説明役や自由意思のどれか」
(答えは絞れよ!)
「…人の眠りを妨げておいてよく言うよ」
(そっちこそよく言うぜ!俺だって出るタイミングを選べるわけじゃねーんだよ!…まあ俺が出てくるのは所有者が疲れて眠り込んだ時っていう条件があるんだがな)
「…全くもって碌でもない」
謎の声の主の言葉や態度から察するに、主はこの鎖を作った者が作り出した説明役のようなもので、ルートはこの鎖を作った者の性格の悪さを認識し、さすが闇魔法を使うだけのことがあると変に納得していた。
(まあそう言うなって。疲れたところに出てきたお詫びっつう体でこの鎖の機能について少し位説明してやっから)
「体とか言っちゃうの?」
(まあそこは流してくれ。んじゃまず分かってると思うが、この鎖は闇魔法を使える者しか扱えない。んでこの鎖にはなんと驚け!自動で宙に浮くことが出来る!)
「うわ、被った。次」
ルートは反射的にその不必要な機能にそう言ってしまった。
(なんだその反応、初めてだぞ。まあ他には相手に向かって飛んでいって捕縛したりとか)
「んー、微妙。次」
(お前さっきから何なの!?)
「そっちこそもっと目新しいもの持ってきてよ」
(聞いて驚け!)
「さっきは驚かなかったんだけどね」
(やかましい!聞いて驚け!これは創造主が試行錯誤を繰り返して到達した最高地点!なんとこの闇魔法を使って作られた鎖なのに他の属性は勿論、光魔法ですら纏わせることが出来る!燃え上がる鎖に切り裂く鎖と水の中では随一の速さを誇る鎖、それに光り輝く癒しの鎖!)
「土魔法は?」
(…なんか硬くなります)
「つっっかえないね!」
(お前こそ土魔法なんて地味な魔法使うな!)
「…鋳潰すよ?」
(申し訳ありません)
鎖が持っている機能のどれもこれもが不要な機能ということに加えて、その鎖に宿る意思自体がめんどくさいということからルートは相当イライラしていた。
「他は?」
(大きなとこはそんくらいだな。他は縛っている対象の魔力を吸収したり魔法の発動を妨げたりというどこにでもあるような機能しかないからなあ)
「そっちの方がいいよ!」
(納得いかねぇ!)
説明役がルートの反応に対して叫び声をあげる。
「で、そろそろ現実世界に帰してくれない?鎖の使い方はこっちで勝手に確かめるよ」
(いきなり冷めやがったな。まあ一応説明しておかなければならないことは説明し終えたからな、いいぜ)
「それじゃあ宜しく」
(おう)
瞬間、鎖がジャラジャラという音を立てて漆黒の世界に翼を広げるように解けるとルートを優しく包んでゆく。
そして、
(あともう少しで現実世界へとおかえり頂くわけだが、創造主からの伝言だ。「今こいつが話した機能以外にも3つ程能力があるから自分で探してみろ」だとさ)
「またか…」
(そんでこっからは説明役としての俺の話だが、この鎖を持ったものは総じて否応なしに様々な出来事に巻き込まれる。それがこの鎖を持ったからなのか、この鎖を持てるという闇魔法を持っていたかというところは定かじゃないがな。もう会うことは無いだろうが笑って死ねよ)
「最後の言葉が死ねって酷いね。まあ具合が悪かったら鋳潰すからその時には出てくるんじゃない?」
(お前も俺に死ねって言ってるよな!?喧嘩なら買うぞコラ!)
「あはは」
別れのものとは思えない言葉の応酬を交わしていると視界の一切が蒼で埋め尽くされたところで意識が落ちた。
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ルートは目を覚ますと身体を起こし、窓の外を見る。
窓の外はまだ暗く、ルートは体内時計からいつも通りの時間に目が覚めたということを確認すると、『影部屋』に適当に作った影から入ると体の柔軟を行うと"身体強化"の練習に移る。
今は限界量の98%程度まで体内の魔力量を増やすことができ、"身体強化"の発動が目の前に見えてきた。
そして『影箱』に保有する魔力の半分を使って魔力を充填させると、
「まあ出すしかないよね」
腰袋に手を突っ込んで1m程の蒼い鎖を取り出す。
ジャラジャラという音を立てる鎖を手に持ったままルートは、
「そういえば宙に浮くとかいう機能はどうやって使うのかな?ついつい流しちゃったから分からないね」
そう言って困った顔をする。
すると何処かからまたあの笑い声が聞こえてきたような気がして、ルートは何だかんだあったものの十分に眠れたお陰で回復した爽快さが少し削られる。
ルートは取り敢えず素の魔力を流してみると、鎖が金属同士が擦れ合うような音を出さずにスーと宙に浮かぶ。
そしてその鎖が空中で円になる状態を想像すると、実際の鎖も円状になる。
それを見てルートは一度手元に来るように想像して近くに来た鎖を手に掴んで『磁力の手』を発動して鎖の動作の差異を確認してみた結果、
「全く使い心地が変わらない」
ナイフを宙に浮かべていた時と同じ感覚で操ることが出来ると判断すると、ナイフなどと共に浮かべる時は『磁力の手』で操作し、単体の時は魔力を流して操ることにする。
そしてルートは説明役の声が言っていた通りのことを一通り試して、ついでに少しルートが考えたことを実践してみると工夫次第では相当化ける物だいうことが分かり、満足していた。
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そうして2日後に開催される全ての貴族が集まるという王国臣下統一会議で議題に挙げられるホルン・ホルン侯爵との対面に備えてルートは色々と準備を行った。
具体的にはルートが夢から覚めたその日は、様々な機能を持っているということがわかった鎖の扱いの習熟の為にギルドで短期で終わる依頼を受けた。
また、いざと言う時のための手札として"身体強化"を完成させ、限界量の99.2%の魔力を体内に留めることができるようになって普段の約7倍程度の出力を出せるようにもなった。
また次の日にはダダンから注文していた50本の短剣と注文していないのにも関わらず鍛えたという槍を無理矢理渡されて受け取って簡単な手入れの仕方を教わると、バレないように『磁力の手』を使って金貨3枚をカウンターの上に置いて店を出てきた。
同じく消耗品として虹蛇と戦った時に一気に消費したポーションを大枚を叩いて効果の高いものを買い求め、ついでに防具の整備を頼んだりもした。
沢山の出費によって懐が本格的に氷河期を迎えたものの、全て必要なものであるということで納得し、自分の現在出来る最高の装備を整えた。
そうして全ての準備を終え、短剣や鉄球、鎖といった多くの武器を浮かべながら槍を手に戦うという独特な戦い方の最終調整を終えると、ルートは明日が正念場になると決壊しそうなほどの感情を何とか抑え込み、それを解放するのはそう遠くないと口角を上げて嗤うと静かにベッドに寝転んで目を閉じた。
王都編の最終話をもって一区切りとして、もう一つの連載作品「辻ヒーラーさんは今日も歩く」を更新していこうと思うので、こちらは毎日更新という訳には行きませんが、細々とは更新していくつもりですのでもう一つの作品共々楽しんでいただければ幸いです。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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