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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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58話 王


『無限』で手に入れた柘榴石を証明に使って王城へと入城を果たしたルートは、見るからにこちらを見下した態度をとる兵士に案内されてある部屋にまで案内され、その部屋の主が思わず立ち上がって言った、


「お、おまえは!生きておったのか!」


という言葉に部屋の中にいた者は面識があったのかと驚く。

その中でも驚いていなかったのはルートだけで、というのも、


「宰相様、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりでございます。5年前の私が王城に招かれた時以来でしょうか」


ルートが宰相様と呼ぶ人物は5年前に王城に召還されて'あの日'の出来事について話を聞いていた者のうちの一人で記憶の中に彼の姿が存在していたからであった。

それに、ルートに対してお前が死んでいないのはお前が仕組んだからではないのかというようなルートが何らかの手段で家族を殺害したのではないか、なにか恨みを買った覚えはないかというような質問を多くしていたために非常に印象深いものとしてルートの脳裏に刻まれていた。


5年振りに見る宰相は加齢のせいか全体的に少しやせ細ったように見え、頬もこけているような気もした。

それでも以前の面影を一切残していないという訳でもなく、ルートに対して質問をしていたときの鋭い眼光は今もなお健在のようであった。


ルートが再会の挨拶を終え、宰相に対してそんなことを考えていると、宰相も少し落ち着いたのか持ち上げた腰を下ろして、執務机に肘を突いて頭を抱えながら少しばかりその鋭い目に悲痛な色を込めてルートを見ると、


「・・・よく来た。まあ座れ」


そう言ってルートに席を勧め、その言葉に従ってルートは三人掛けのソファーの真ん中に腰を下ろす。

宰相はルートが席に座ったのを見ると、一旦ルートから目線を外して下を向いて誰にも見えないように小さく息を吐いて目を瞑る。


そして再び宰相が顔を上げた時にはその鋭い目に先ほどまでの悲痛な色などどこにも無く、一国の宰相という役職を務めるのにふさわしい威厳を身に纏ってルートをじっくりと観察するように見詰めていた。


そして、


「今はおまえのことを連絡のあった通り、新たな柘榴石を持っている者としてのルートとして見ることにする。よいな?」

「はい」


宰相はルートをルート・セルファというセルファ家の生き残りとしての応対ではなく、一個人としての新たな柘榴石を持ってきたルートとして応対をするので、セルファ家の生き残りとしての対応は取らないということを前提に話を進めるということをあらかじめ宣言し、それをルートも承諾した。


「それではお主の持ってきた情報に価値をつけよう。情報の内容と対価としての要求は?」


おまえと呼んでいたところをお主という呼称に変えることによって差別化を図る宰相にルートは、


「五年前の真実を。要求はその五年前の件に関わった者の死刑、または私の手による私刑の許可です」


宰相はルートが自分で五年前の真実を持ってきたということに驚きはしたものの、それ以上に死刑や私刑といった単語を発するときに忌避感などがどこにもなく息をするように自然に言ったということに何よりも驚き、


「お主の要求は情報次第では叶えられんかもしれん。ただ、なるべくお主の要求に沿うようにしよう。それで良いか?」

「…納得出来ない」


ルートはギっと歯を強く食いしばって捻り出すようにそう答えた。

そのルートに対して宰相は内心で卑怯な手を使うとルートに詫びながらも、この国の宰相として、


「お主に我慢してもらえるのであればお主の故郷を儂の、いや国王様に掛け合ってでも全ての力を使って守ってゆく事を誓おう」

「!?」


セルファ家が一番大切にしているセルファの住民を取引の材料として使った。


ルートは自分の復讐と小さい頃から教えられてきたセルファの住民を天秤にかけて、時間を使って自分の中で折り合いをつけて何とか結論を導き出すと、苦々しい表情を宰相に向けて、


「…我慢…します」

「…すまぬ。全ての力を使ってお主の故郷を守ることを他ならぬお主の家族に誓わせてもらう」


宰相はルートに頭を下げてそう誓った。

それに対してルートと宰相のやり取りを周りで見ていた兵士達が「宰相様がこんな者に頭を下げるなど!」「そこのルートとやら!お前は宰相様が頭を下げているのになんだその態度は!」などと騒ぎ立て、ルートに向かって剣を抜き突き付けていると、


「お前達は黙っておれ!不愉快だ!出て行け!」


宰相が騒ぎ立てる兵士達に向かって怒鳴りつけた。

兵士達は今まで一度も宰相がこうして怒りをあらわにしている様子を見たことがなく、そしてその剣幕にひどく驚き気圧されながらも「で、ですが!」「わ、私共は宰相の身の安全を」などと狼狽えてそう言う。


「儂の言うことが聞こえんのか!さっさと出て行け!」


宰相に2度も出て行けと言われてしまっては兵士達はそれに従うことしか出来ず、渋々と部屋を出ていく。

そして最後の一人が部屋を出てゆき、扉がバタンと音を立ててしまったのを確認すると、宰相は再び「すまぬ」と言って頭を下げた。


ルートはその宰相に、


「セルファが守られるのであればどうとでも。…もし先程の誓いが守られる事が無い分かれば、私も全ての力を使ってこの国に害をなします」

「肝に銘じておこう」


そう言い放ち、宰相もそれに応え、


「一つ聞いても良いか?」

「何でしょう」

「五年前の真実に貴族が関わっておるか?」

「はい」

「そうか…。ルート、おまえには悪いがこれから王を始めとした役職を持っている者たちの集まる前でその情報を開示してもらいたいのだが構わんか?」

「はい」

「それでは少し付いてきてくれ」


宰相はそう言ってルートに許可を取ると立ち上がって、自らルートの案内を始めた。


宰相の案内に従って王城内を移動し、宰相というだけあって顔は知られているようですれ違う者達に挨拶をされ、そしてその後ろに付いて歩いているルートを見て少し首を傾げるものの誰もその事について触れることは無かった。


そうして階段を2回ほど登ってまた訳の分からないままに廊下を歩かされて着いたのは、宰相が意図したものであるのかは分からないものの過去のルートが王城にいた時に一番使われた部屋であった。


「少しここで待っていてくれ」


そう言って部屋を出ていった宰相にルートはまたこの部屋かとその部屋の中を見回す。


「U」の形に設置された長いシックなテーブルと、それと調和するようなデザインの椅子が並んでおり、その「U」の字の中心には五年前のルートのように何かしらの理由で招かれた者がそこにポツリと置かれた椅子になっている。

当時のものとなんら変わりのない中心に座っている者に圧迫感を与えるその配置も記憶にある通りのものであった。


当時10歳だったルートはそこに長時間座らされて'あの日'に起こった状況を何度も話し、周りに座っている者たちから様々な答えづらいものも含めた質問をされ続け、そしてそれが三日間にも渡って続けられた。

その記憶がフラッシュバックして、既に割り切った過去とはいえ現在のルートにも少しばかり影響を与えて吐き気を覚えた。


ルートはその吐き気を堪えるようにして待っていると、自分の後方にあった扉が開いて一人、二人とちょろちょろと中に入ってきて、席に座ってゆく。

入って来た者たちは自分達が集められている原因は聞いていたのか、入り口付近で軽く拳を握り締めているルートの姿を捉えると、その中には少しばかり涙目になっているような者や悔恨の表情を見せている者たちもおり、その者たちはルートに向けて悪感情を向けてはいない。


ルートはそう言った視線を向けてきている者たちを見ると当時の記憶がフラッシュバックしたのを感じると、大人しく目を閉じて話が始まるまではそのままでいることにした。

そして目を閉じたことによって聴覚が研ぎ澄まされ、後ろの扉が開く音や部屋の中を歩く足音などが聞こえてくると、今度は目蓋の裏側に当時の自分が見た光景が投影され始める。


ルートは拳を握り締めることで湧き上がってくる吐き気を押さえつけていると、後ろの扉が開き、一斉に部屋の中にいた者たちが立ち上がる音が聞こえた。

その扉から入ってきた者の足音はドン、ドン、ドンとゆっくりと歩き、そしてその足音が止むと、


「座れ」


威厳のある良く通る低い声が部屋中に響き、端的な命令を聞いた者たちがそれぞれ椅子に座る音がした。

その声に聞き覚えのあったルートは強く瞑っていた目を開くと、少し白い光景の中にいつか見たときよりも少し老けた30代前半の精悍な面構えの短く切られた赤い髪が特徴的な男が正面の椅子に座っていた。

その男はルートの目が開いたことを確認すると、


「良く生きていたな、ルートよ」


そう言って少し笑った。

ルートはその男に対して、同格の者に対して行う貴族の礼をして、


「まだ私は死ぬわけには参りませんので」


と答えた。


明らかにルートが行った礼は一国の王に対するものでは無いその行動に口を開こうとした者は、自分達に向けられた王の手を横に伸ばすという仕草を見て口を噤む。

そして、


「その行動の意味は良く分かった。この国の一員として働くことはないということだな?」

「私たちセルファ家は民と共にあることを目的としてこの国に所属した者の血族、その国が信じられないものならばセルファの名も返上し、再び私たちが愛する民に紛れて溶けて消えるしか無いでしょう」


ルートがそう言いきり、ルートの言葉の貴族の名を捨てるといったところに唖然としている過去のトラウマたちの姿を見回して、


「そして私が今ここにいる理由は、セルファの名を捨てたルートとしての家族と私たちの家で一生懸命に働いてくれていた者たちを殺した者への復讐、ただそれだけです」


断言した。


先ほどルートの礼儀について意見しようと思った者たちもそのルートの断言した言葉の内容と迫力に口を開くことも出来ず、そして5年前のルートを知っている者たちは顔を伏せ、テーブルの上に置いた拳を強く握り締めて、顔には悔恨や後悔といった表情が浮かんでいた。


その中、王はというとその顔を伏せている者たちと同じように拳は血が出るほどに強く握り締められているものの、顔を伏せることなくルートを見ていた。

そして、


「・・・それは余らの責任である。すまなかった」


一際上等な椅子から立ち上がって王はルートに対して深々と頭を下げてそう言った。


王のその様子にルートを知らない者たちは口々に「王が頭を下げてはなりません!」「おい!貴様!そもそも貴様はなんなのだ!」と王に対する言葉やルートに対する罵声を放ち、ルートのことを知っている者たちは王と同じく立ち上がってルートに対して頭を下げた。

その様子を見ていたルートを知らない者たちの中でも、ルートの言葉の中に出てきたセルファという言葉とそのルートが持ってきたという新たな柘榴石、それに自分の王の謝罪や、そしてその頭を下げている面々の共通点が線と線で繋がり、その意味を悟った者たちは同じくルートに向かって頭を下げた。


部屋の中にいる者たちの反応が綺麗に二分化されているところで、片方の頭を下げていない者たちの中で少々頭の回るものが、


「王よ!その小僧はあのセルファの生き残りでしょう!所詮は成り上がりの平民、祖が祖ならあの小僧も小僧です!民と共にあるなど笑止千万!民などを守るために貴族になったなどという者たちなど死んで当然でしょう!」


その言葉にもう片方の頭を下げていた王を始めとした者たちが烈火の如くその貴族に鋭い視線を向け、全力で魔力を解放し怒鳴りつけようとしていたところで、


「は?」


その酷く冷たい声は死んで当然といった者のすぐ目の前から聞こえてきて、いつの間にか突きつけられた短剣の先端が首に食い込み、そこから血がツーっと首筋を流れる。


その貴族は首に軽く食い込んだ冷たさを感じると叫び声を上げながら大きくのけぞり、後ろの椅子と共に後ろに倒れこみ、すぐさまで首に手を当ててすぐに離し、そしてその手を見て、赤いべったりとしたものが付着しているのを理解すると、叫び声をもう一度上げようとしたところで、


ボフッ!!


踏まれた腹部への圧力で一瞬息がとまり、その叫び声があがることは無かった。


その腹部への圧力を与えた犯人、ルートは空気を吸い込もうとして大きく咽こんでいる貴族を冷たく見下ろして、


「お前が死ね」


と先端が血で濡れている短剣を振り下ろした。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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