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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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53話 図書館


半ば強引気味にダダンに金貨を渡したルートは空を見上げて大体の日の位置から現在の時間を大体午後3時を過ぎたところと推測すると、次は何をするかと悩んだ末に、


「さっきの紋章がどこの家の物か調べておこうかな」


武器屋を目指して歩いている途中で感じた正体不明の視線の主に繋がる唯一の手がかりを調べておいた方がいいと結論づける。

ルートはあの視線に込められた感情が何を意味しているのかが分からないからこそ、その視線の主が自分に対して敵意を持っていた場合は然るべき対応を取れるように相手の情報を得ておきたいという自己防衛というには少々過激な考えを持っていた。


その情報を得るのであれば一番確実なのは貴族に尋ねるか王城で貴族の紋章を管理している書物を見るのが妥当な手段なのだが、元貴族とは言え基本的には辺境のセルファ領から滅多に出て来ず、更にそのセルファ家も無くなってしまった今ではルートに頼れる貴族などへの縁などどこにも無かった。

正確にはルートにはそれを可能とする手段を持ち合わせてはいるのであるが、その手段を取ってしまうと相手に警戒される危険があるためにそれを行使するには時期尚早とその手段を見送ることにした。


となれば、今は一平民でしかないルートが取れる手段はというと、


「図書館が一番手っ取り早いかな」


そう呟くとルートはひとまず職人街という人通りが少ないところから移動することに決めて歩き出した。


このセルディアにおいて紙の種類というものは少ない。

使われているのは専らパピルス紙や和紙のような植物由来と羊皮紙のように動物由来の物ばかりで、いわゆる洋紙の類は未だ作られていない。

もし洋紙のように安価で書きやすい紙が製造され、その製造方法が完全に確立され量産が可能な体制を作り上げることができれば、恐らくギルド所属であれば生産において"黒"は難く、その利便性が世に知れ渡れば"白"も夢では無いだろう。


いくら魔法がある世界だからといって紙の製造には時間や手間がかかり、大量生産というところまではまだ辿り着いていないこの世界では紙は貴重だということである。


そんな高価な紙を使ってでも本というものは一般に対しても広く開かれるべきだと主張し、私財を投じて図書館を作った者の流れを汲んでか、時代が流れるにつれて各地に図書館というものが建設されてゆき、その存在が身近になってたくさんの本が収められるようになった。


そして図書館が一般的になり庶民の間でも身近な存在になり始めると、貴族同士の夜会で自慢をしたいが為に図書館に自分の名前と紋章入りで本を寄贈するというきっかけから貴族は図書館に本を寄贈するべしという風潮が生まれ、今では業突く張りの貴族以外はほとんどが図書館に本を寄贈している。


閑話休題


ルートも実家がセルファにある図書館にセルファの名前で本を寄贈していたことを覚えており、もしかするとその紋章の主ももしやと思って図書館へと足を運んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ルートは出会った人に声を掛けて図書館の場所を教わり、その通りに道を進んでゆくと、そこには木造の高さがおおよそ15mほどの建物で敷地面積が二万平方メートルという巨大な円柱状の建物が立っており、その敷地面積のほとんどがその図書館であった。


その巨大な建物には特にここが図書館だと主張するような一切が無いが、それだけが周りの建物と比べるにはあまりに大きく、少なくとも図書館に入りたいと思ってこの近辺まで来た場合には他の建物と迷うことはまず無いだろうということが容易に予想できた。


兎にも角にもルートの目的である鷲と剣の紋章についての情報を集めるためにもここで時間をいつまでも潰しているわけにもいかず、ルートは猫の額程度にしか残らなかった土地を整備して作ったと思われる褐色のレンガを敷き詰めて作られた道の上を歩いて質素な分厚い扉を手前に引いて開ける。


分厚い扉を開いて最初にルートが感じたのは圧迫感であった。


そうルートが思うのも当然で、この図書館は円柱状の形状をしており、本がぎっしりと詰まった本棚が円の中心に向かうようにまるでパイナップルを中心をくり貫いて輪切りにしたときの繊維の流れのように並べられており、中心部に近いところではすれ違うだけでも一苦労というほどの狭さであり、そしてくり貫かれた部分は四階建てのこの図書館を上から下に貫くように吹き抜けになっており、その階層同士を繋ぐ螺旋階段が中心に位置していた。

そしてなによりもルートの感じた圧迫感の正体は入り口から5mも離れていない位置に既にその本棚が配置されているからで、そしてその入り口から本棚の間にこの図書館で働く者が待機しているカウンターが強引に押し込むように設置されているからであった。


ルートはその圧迫感に少し慣れると中に入ろうと扉を開けた瞬間からずっとこちらを見ている女性の職員の元へと足を運んだ。


そうしてその職員の前までルートが足を運んでそのカウンターの前で足を止めると、


「王立ルエガ図書館へようこそ」


と本を読んでいるものに対する配慮か小さな声でそう言った。

そして、


「この図書館の利用が初めてですか?」


と聞かれたのでセルファの図書館なら使ったことがあるものの王都の図書館など使う機会すらなかったルートは首を横に振ることで答えとする。


その動作を見た職員は「それでは諸注意等を行います」といい、


「まず最初にこの図書館をご利用いただくには銀貨3枚が必要となり、その金額と引き換えに割符をお渡しいたします。そして本の破損などの問題を起こさずに図書館から出られる際にはこの場所まで戻ってきていただいて割符を返却いただき、銀貨2枚を返却いただきます。この割符を紛失されてしまった場合には申し訳ありませんが返金は出来ません。それとこの差額の銀貨1枚については新たな本の購入資金として活用いたしますのでご理解とご協力の程をお願い申し上げます。また、本の破損をしてしまった場合にはその本の代金全額と一定期間内の図書館の利用禁止という処分がなされます。また本の持ち出し等は行っておりません。もし勝手に持ち出そうとなされた場合にはしかるべき手段に訴えかけますのでくれぐれもそういった行為はしないようにお願いいたします。以上でこちらからの説明は終わりとなりますが、何か質問はありますか?」


そういって諸注意を行った職員の最後の言葉にルートは、


「貴族の方から寄贈された本ってどこにあるのかな?」


そう尋ねると職員は、


「そうですね。貴族の方々から寄贈していただいた本でしたら4階に収められております。寄贈していただいた本が収められている本棚には細工が施されておりますのですぐに分かると思います」

「うん、分かった。ありがとうね」


職員に礼を言い、ルートは腰袋から銀貨を3枚取り出して渡して、それを受け取った職員が割符を準備している姿を見ながら、自分の手持ちもまだ底を突くほどではないが出費をそろそろ考えていかなければならないくらいのものになってきているなと考えていると割符の準備が出来たようで、それをルートに渡すと、


「それではごゆっくりどうぞ」


と静かに言った。


その言葉にルートもその声の大きさに合わせるように「ありがとう」と呟くと中心に行くにつれて狭くなってゆく通路を進み、本を読んでいた人の後ろをなんとか通り抜けて螺旋階段を上がってゆく。

螺旋階段を上がっている途中にもキョロキョロと視線をどこへ向けても本、本、本と本好きにはたまらない空間に仕上がっており、本を読むことが嫌いではないルートは全てにけりをつけた後はこのような場所で本でも読んでゆっくりとした時間を過ごすのも悪くはないんじゃないかという思いが浮かぶが、既に正道とは離れてしまっている自分にそういった安らぎの時間が来ることは果たしてあるのだろうかという悩みも同時に浮かび上がってきていた。


そうして自分の目的が終わったらなどという優しい未来に思いを馳せているといつの間にか螺旋階段の最後の段を上りきっていた。


目的の4階に到着したルートはぐるっとその場で一周して職員の言っていた細工が施された本棚を探し、そして、


「あれかな?」


おそらくその職員が言っていた本棚のようではあるのだが、ルートが思わず首を傾げてしまったのはイメージしていたようないかにもという細工ではなかったからで、それに驚きながらもその本棚に近寄ってゆく。


ルートの偏見が全面に入ったイメージでは、本棚に金が散りばめられていたりという細工とも呼べないような贅を凝らした庶民の目からしてみれば悪趣味としか思えないようなものを思い描いていたのであるが、実際の本棚はというと薄く表面に下品にならない程度にさまざまな模様があしらわれており、その表面も触るだけで指や手が吸い付いてしまいそうなほどに磨き上げられたもので、周りの本棚に埋没してしまうようなデザインでありながらも静かな高級感を漂わせている本棚であった。


ルートはその本棚に驚きながらも貴族の紋章入りの本を探し出そうとすると、不意にその本棚の細工の中のいくつかが目に入る。

その細工は鷲と剣、ルートが探していた紋章に使われているものであり、ルートはその紋章からこの本棚をこの図書館に置いたのはその貴族なのではないかと思い、そのまた一つ増えた疑問の答えを探すようにその本棚に収められた本に刻まれた紋章と名前を確認してゆく。


そうしてその本棚に収められた本のおおよそ4割を確認していたところで、


「!見つけた」


ルートが見た鷲と剣の紋章の入った本が見つかった。

そしてその本に書かれていた寄贈者の名前を見てみると、「キッド・マーディライト」と書いてあった。


この世界では最初に名前、その次に家名という順番になるため、


「あの紋章はマーディライト家の紋章ということか。・・・ん?マーディライト?もしかしてあの公爵家・・・?・・・そういえば鷲が使えるのは王に連なるものだけに許されたものだったっけ?だとしたら尚更分からないね。僕が柘榴石で見た中には公爵家は一切関係が無かった。それに僕は一切公爵家の人とは面識が無い。どうして僕に視線を向けた?心当たりがあるとするなら'あの日'のことについて王城に呼ばれたときくらいか?いや、けどあの場にいた人の中にはマーディライトと名乗る人はいなかった。どういうこと?」


ルートは紋章の正体を突き止めてそれがこの国の公爵であるが判明したが、自分と面識の無いものが視線を向けていたということがどうにも意味が分からず、ルートは更に謎が深まったということを感じると、この先の自分の行動にもしかすれば公爵というこの国の中で有数の権力者が介入してくることもあるかもしれないと自分を取り巻く環境が面倒なものになったと感じていた。


そしてその紋章の持ち主が分かったことでこの図書館に用のなくなったルートは手に持っている本を元の場所に戻して螺旋階段を視線をどこかへ向けることなく下っていった。


そうしてルートは入り口付近のカウンターまで戻ってきて、先ほどとは違う本を読んでいた男性の職員に割符を渡すと本を置き、手元で何かを操作して確認を行い問題が無かったようで、近くの金庫に魔力を流して中から銀貨を二枚取り出してそれをルートに渡すと何も無かったように自分の読みかけていた本を再び読み始めた。


図書館で行わなければならないことを終え、結局分かったことは不安要素が増えたというありがたくもなんとも無いものだけで、色々と準備を済ませて着々と目的完遂のために十分すぎるほどに手筈を整えているのであるが、ルートは自分の目的完遂が一筋縄ではいかないという予感を感じており、そしてそう遠くない未来で自分が経験してきた膨大な戦いの中でもトップクラスのものを行わなければならないような予感もまた感じていた。


ルートはそのいやな予感を振り払うように空を見上げると、図書館での紋章探しが時間を食っていたようで既に日が沈みかけており、考えていた予定を全て切り上げて"悠遠亭"への帰ることにしてそろそろ夕食時ということで活気立つ露店で食料を買って食べながらその道を歩いてゆく。


そうして"悠遠亭"についたルートは受付にいたあの老紳士に話しかけて武器屋と鍛冶屋を紹介してくれたことに対して礼を述べて部屋の鍵を受け取り、「お休みなさいませ」という老紳士の言葉に軽く手を振り返して階段を上って部屋に戻ると、部屋にあった風呂でさっぱりと汚れを落として昔使っていた寝巻きを身に纏うとベッドに飛び込んでそのまま夢の世界へと旅立っていった。



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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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