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真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
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52話 鍛冶屋


ルートは妙な視線の持ち主に困惑しながらも少しばかり得た手がかりを元に後で調べることを決意し、目的地であった鍛冶屋にたどり着いた。


その鍛冶屋があったのは一般的な家とは違って全ての家に煙突のようなものが立っているような、そこらじゅうの家からカンカンといった響くような金属を打つときの金槌の音や、弟子に向かってなのか怒鳴っていると言われても仕方の無いほどの音量で指示をする声があちらこちらから聞こえてくるという、いわゆる職人街の中にあった。


外装は石レンガをくみ上げて作ったようなのっぺりとした印象を持つ店名がどこにも書いていない一軒家で、実際その中からはカンカンと金属を打つような音が漏れてこなければ、そこが鍛冶屋だとは到底信じられないようなものであった。


ルートは一応地図でこの一軒家が老紳士の示す鍛冶屋で正解なのかを確かめてから店内へと入っていった。


地味に重たい石の扉を肩で押すようにして中に入ると、そこには簡単なカウンターだけがあって武器の一切が置いておらず、ルートはここで本当に武器を売ってくれるのかと疑問に思っていると、


「客か?」


店の奥からスキンヘッドの190cm前後の身長の威圧感がある鋭い目の無愛想な男が出てきた。


ルートは目の前の男の風貌に驚きながらも、


「武器が欲しい」


と言うと、その男がカウンターの脇を通ってルートの目の前まで来て、そして自然と見下ろすような形になりながらも、


「手」


と短くそう言った。


ルートはその言葉の意味も分からずに首を捻っていると、男のゴツゴツとしたルートの頭を鷲づかみにでも出来そうなほどの大きな手でルートの手を取る。

そして突然の男の行動にルートが困惑していながらも男はルートの手をじっくりと見たり、自分の手でルートの手の隅々まで触ったり握ったりをして、そして男の中で何かの結論に達したのかルートの手を離すと、


「槍?」


とまた短い言葉でそう言う男にルートは何が言いたいのかを先ほどの例からも少しは意図を汲み取って、


「確かに僕が手に持って使うのは槍だけど、僕が欲しいのは貫通力の高い武器だよ。具体的にはナイフとか」

「ナイフ。・・・付いて来い」


そう言うと男はまたカウンターの脇を通り抜けて奥へと進んでゆき、ルートは男が何をしたいのかは分からないもののとりあえず後についていくことにした。


男の後ろについて案内されたのは多くの武器が無造作に置かれている武器庫のような場所であった。


「待っていろ」


そう言うと男は武器庫の奥へと進んでゆき、ルートの要求した条件に沿うようなものを見繕って持ってくる。

そして持ってきたものをルートの目の前の床に置くと、


「どうだ?」


と尋ねる。

ルートはかがんでその持ってきた武器を一つ一つ見てゆく。

さすが鍛冶屋の見立てといったところで持ってきた全ての物はナイフのような形をしたものや釘のような形をしたものなどの刺すことに特化した形状をしており、ルートの要求を十分に満たすものであった。


その中でもルートのお眼鏡に叶ったのは、今までに使っていたサバイバルナイフのような切ることも刺すことも出来るような欲張りなものではなく、ただ純粋に刺突のみに特化したスティレットと呼ばれる形状の短剣で全長が30cm程度の刃の横断面が三角になっている刀身の細いものであった。


ルートは目の前の男にその短剣を手に取ってもいいか尋ね、こくりと頷いたことでそれを手に取り、色々な角度からそれを眺め、そしてこれが自分の求めている物だと確信すると手に持った短剣を差し出して、


「この短剣の形状で注文を出したいんだけど出来る?」


と尋ねる。

すると男は頷き、


「要望を聞こう」

「強度を最優先。そのためなら少しくらい刺突能力が落ちても問題ないよ。重量にもこだわらない。50本は欲しい。ちなみに50本をこの条件で仕上げるとなったらどれ位かかる?あ、金には糸目をつけないでいいよ」

「1日20本。特殊な金属を使うとして1本銀貨20枚、合計金貨10枚」

「それじゃあそれで。それとその金属って土魔法で加工できる?」

「出来るが魔力が大量に必要」

「それなら問題ない。その金属自体を売ってくれたりしない?」

「構わないがどうしてだ?」

「うーんと」


ルートは短剣を持ったのと反対側の手で腰袋から残り一つとなった鉄球を取り出すと、


「あっ、ちょっと魔法使ってもいい?この鉄球にしか使わないから」


そのルートの問いかけに頷くことで答えとし、肯定の意を受け取ったルートは、


「『変形メイク』」


その言葉をきっかけに鉄球がうにょうにょと形を変え、ルートがもう片方の手に持った短剣と同様の形状をした短剣を構成した。


男はそれを見て確かに自分の作り出したものと同じ物をすぐに作られたことに驚いたものの、鍛冶屋を営んできた経験をもとにかルートの作り出した短剣の問題点を発見し、


「脆い」

「うん、そうなんだよ。『変形メイク』で作った武器は強度が落ちるけど、まあそういう物だと割り切ってしまえばそれなりに使える。けどこれまでも同じ様に変形させて使ってきたりしたけど回収ができなかったんだよね。けど元の金属自体が硬ければ少し強度が落ちたところで再利用も出来そうだと思ったんだよね。自由に変形できる武器っていうのはそれだけでも十分強力な手札になる訳だから」


ちなみにルートがアーミー・エイプの総指揮個体の頭部を吹き飛ばしたのは、この鉄球を『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』で十分な勢いをつけさせてから叩きつけるという、銃口を頭に突きつけたままに引き金を引くのと同じような状態になるように使ったために強度云々は関係が無かったのだが、わざわざそれを説明する必要性も感じられなかった為に男に説明するのは避けた。


そしてルートの行ったものを見ていた男は、


「少し待ってろ」


と言うと武器庫から出て行き、そうして1分ほどで手に紫色の金属を持って帰ってきて、


「やってみろ」


とその金属を投げ渡す。

ルートは即座に自分の腰袋に両手に持っていたものをしまって、その金属を両手で受け止めると見た目から想像していたよりも重いという重量にも驚き、そして男の意図していることを読み取ると、


「『変形メイク』」


鉄球に込めていた魔力量ではうんともすんとも言わない金属に、抵抗力が高いのだろうなと思いながら、『変形メイク』に魔力を鉄球の何倍という単位で込めてゆき、3倍程度の魔力量を込めてもうんともすんとも言わない手に持った金属にルートもなんだか楽しくなってくると調子に乗ってバンバンと魔力を込めてゆく。

そして鉄球に込めた魔力の8倍程度のところで金属がピクリと動き、9倍程度で金属がうにうにと妙に震え始めた。

そして10倍程度の魔力を込めて、


「『変形メイク』」


すると鉄球の時に見たようなうにょうにょと動いて、先ほどのルートが持っていた短剣の形をとる。

そして出来上がったものを男に渡すと、それを色々な角度から眺めたり、軽く先端部分に手を当ててみたりとしてゆく。


男はその短剣の出来を見て、その金属で成形されたものならメインウェポンにするには少し不意の事故が怖いものの、サブウェポンになら十分なり得ると判断すると、


「よく分かった。どれくらい欲しい?」

「少なくともさっきの鉄球位のサイズで5つは欲しいね。どれ位なら売れる?」

「10個。1個銀貨10枚。短剣50本と合わせて合計金貨11枚」

「買った!」


ルートはそう言うと腰袋から金貨を11枚取り出して男の手に置く。

男は手に置かれた金貨を揺らして枚数を確かめると、


「いいのか?」

「持ち逃げの話?」


ルートの言葉に頷く男にルートは、


「僕だってこれだけの金額を出しても懐が全く痛まないってわけじゃないけど、少なくとも僕はこの短剣と金属、そしてあなたの腕にそれだけの金額を出しても惜しくないって思っただけだよ。…それだけの武器が必要になる相手もいるだろうからね」


最後の言葉は聞こえなかったものの笑ってそう言うルートに、男は無愛想な顔からよく見なければわからない程度に表情を緩めると金貨をポケットに乱暴にしまって手を差し出して、


「ダダン」

「ダダンさんね。僕はルート。宜しくね」


その手を握り返すルート。

そして互いに確かな関係が生まれたことを実感すると手を離して、


「付いて来い」


そう言うとダダンは武器庫から出てゆき、ルートもその後に付いてゆく。


二人は武器庫から出ると鍛冶場に移動し、そしてダダンは鍛冶場の隅のほうでかがんで床に手を着き魔力を流す。

すると始めからそこには床など無かったというように忽然と消えうせ、その代わりに人一人が通ることの出る程度の渦巻くような下り階段が姿を現した。


ダダンはその下り階段を早速下って行き、ルートもその先にダダンが見せたいものがあるのだろうと思い、その後ろに階段を下り、歩くたびに次々と明かりが灯ってゆく。


そうしてダダンが地面に降り立つと地下空間の全てを照らすように一気に明かりがともり、ルートはその明かりによって全貌が明らかになった地下空間に存在しているものを見て圧倒され、目を奪われていた。


そこには色とりどりの金属が地上のダダンの敷地を埋め尽くすほどの広さの空間ですら足りないと床に無造作に置かれ、所によっては同種の金属同士でまとめて積み上げられており、それぞれが自身の輝きを誇るように煌いて自分の存在を強烈に主張してる金属の品評会の会場のような空間であった。


そしてダダンはその光景も見慣れたものであるからなのか、その無造作に置かれた金属を踏まないように両手を広げてバランスを取りながら目的の金属の場所へと向かって歩いてゆく。


ルートはその金属の煌きが支配する空間にダダンという異物が入り込んだことを認識すると、どこかへ旅立ってしまっていた精神が帰ってきて、残りの階段を下るとダダンの元へと向かう。


そうしてダダン越しにも見えるほどに高く積み上げられた紫色の金属の前で厳しい目で何かを見定めている様子のダダンの元へとたどり着いたルートは、今ダダンが触っているのは先ほどのルートが『変形メイク』を使って形を変えた金属だとその金属の正体に検討をつけていた。

そしてその金属を見定めていたダダンがついに金属に手を伸ばし始めると振り返らずにルートに向かって、


「渡していくものをしまっていけ。その腰袋は収納の魔道具だろ」


そう言うとルートに向かって次々とその金属を後ろにいるルートに向かって放り投げ、ルートは突然の行動に驚きながらもおそらくこれが先ほどの金属そのものを譲渡するという作業なのだろうとダダンの言うとおりにその金属を次々と受け止めてしまってゆく。

そしてルートに向かって投げ渡された金属の数が20を超えたところで、ルートは初めて今乱暴に受け渡されているのが短剣の刀身部分に使われる金属も一緒に投げ渡されていることに気が付き、そうしてそれでも自分の武器を作ってもらうわけだからと思って次々と飛んでくる金属を受け取って腰袋の中にしまってゆき、金属の塊のパスを80以上受け止めたところでダダンは金属を放り投げるのをやめた。

そうしてダダンは何も言わずにその場で反転して階段の方へと向かうのを見てこれで終わりかと一安心していると、ダダンはその階段への道のりの途中にあった床に置かれた金属の一つを手にとって、


「やる」


と大きく放物線を描くようにその金属を投げ渡す。

ルートはその金属を両手で受け止めて良く見てみると、


「なにこれ?」


良く分からない見たことのない30cm程度の大きさの黒い金属を見てそう言うルートにダダンが、


「知らん」

「え!?」

「良く分からんがとりあえず硬い。最大火力の炉に入れても変形しなかった金属だ。『変形メイク』で形を変えてみようと試したこともあったが魔力を最大限に注いでもなんとも無かった。けどお前になら出来るかもしれん。少ないが数はあるから持っていけ。お前は手の感じからして戦闘者だろ?金属に詳しそうなやつあったらそれが何か聞いて正体がわかったら俺にも教えてくれ。それはその代金だ」


そう言って階段を上がっていくダダンにルートは彼なりの信頼に応えた結果なのかと考えて、不器用な優しさに少し笑ってここで魔力を使うと何かに影響を与えてしまうかもしれないという考えからその金属を手に持ったままその後ろを追って階段を上がってゆく。


そしてルートが階段を上がって鍛冶場に戻ってきたところでダダンが階段の一番上の段に触れて魔力を流して手を引き抜いた瞬間に周りに同化するような床が一瞬で出来上がる。

そしてダダンがその出来上がった床を指差して、


「あの上に60個ほど出してくれ。残りは持ってけ」


と言うので貰いすぎだと思ったルートは遠慮するもののダダンも引かずに最終的に、


「はあ、分かったよ」


そう言って腰袋から紫色の金属を60個ほどその床の上に出してカウンターまで戻ってくると、


「それじゃあ僕は帰るね。また三日後に来るよ」


そう言ってとぼとぼと歩いていくのをダダンが見ていると、ルートは扉の前で立ち止まって右手で腰袋からダダンに最初に見せてもらった量産を依頼した短剣と紫色の金属でルートが模造して作った短剣の二本を取り出してダダンに見せ付けると、


「これ貰うね。じゃあこれが代金ということでまたね!」


左手で腰袋から取り出した金貨をダダンへの意趣返しか一枚放り投げるとそのまま店を出て行った。


それを受け取ったダダンはあまり動かない表情をしてやられたというようなものに変え、そしてほんの少し口角を上げて笑うと少し機嫌がよさそうに店の奥へと消えていった。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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