表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実は迷宮の中  作者: Luce
第3章 王都
51/84

51話 鎖


"悠遠亭"に部屋を確保したルートは自分の使うことになる部屋の様子を見るために階段を上がっていた。


そして階段を上がった先にあったのは一直線に伸びた通路で、それぞれ一定間隔に通路を挟んで向かい合うような部屋の扉がいくつも並んでおり、そしてルートの部屋である201号室はその通路の最奥、突き当たりにあった。


ルートは寝泊りなら『影部屋シャドウルーム』という手もあるにはあったのだが、闇魔法が使えるということは切り札と言う面から隠しており、そして闇魔法が使えると知られたときの面倒ごとを回避してしまうという面でもそれを避けておくに越したことはなかった。

またエリュが入ってきたときのように、『影部屋シャドウルーム』の中に入っているものを取り出す際にもこうして誰にも見られることの無い部屋で繋げたほうが安全だという面においても、部屋を確保して置いたほうがいいと判断したためにこうして部屋を借りたわけである。


そしてその廊下の突き当たりにある部屋の前まで歩いてゆき、そしてその鍵穴に先ほど老紳士から受け取った鍵を差し込んで回すとカチャッという音がなり、ルートは鍵を引き抜くと目の前の扉を奥に押して中に入る。


押し開けた扉の向こうは全体的に少し薄暗く、そこまで広くない廊下が部屋の奥まで続き、その先には部屋が扉などで隔てられることなく直接繋がっていて丁度正面に窓があって向こうの建物の壁が見えた。

ルートは中に入って扉を閉め、鍵を掛けると入ってすぐのところにあった接触パネルに触れて魔力を流すと、一瞬過去の記憶がフラッシュバックして呼吸が荒くなり、明かりが付いてもなお接触パネルをじっくりと見ていた。

そこには当然血がべったりと付いているわけもなく、ルートはそのことに安堵して呼吸を整える。

そして自分がまだ'あの日'の記憶が薄れることなく、むしろ心の根底にトラウマとして刻み込まれているということに気が付いて苦笑いを浮かべた。


そして少し精神を消耗したもののルートは気を取り直して明かりがついた廊下を歩いてゆき、その途中にある扉に気が付いて中を覗いてみると、その中には水分を良く吸う色とりどりの素材のタイルが天井や床に壁に綺麗な配置に敷き詰められており、最初に目に付いたのは綺麗な石で出来た浴槽にシャワーヘッドで、そしてそれらを遮ることが出来るようにと半透明なシャワーカーテンが端のほうで折りたたまれるように吊り下げられていた。

そしてルートが他に視線を移すと、同じ空間に洗面台とトイレが設置されており、俗に言う3点ユニットバスの条件がそろっていて、それに加えて服を置けるような棚なども設置され、そこには白い清潔なタオルが置かれていたりとさすが高級宿といったもので、自分の過去に泊まった"宿"とは雲泥の差がある設備に驚きながらも感心した。


ルートはその設備に感心しながらもまだ全ての部屋の様子を見ていないと少し楽しみになりつつも、とりあえずその扉を閉めて、おそらくリビング兼ベッドルームになっていると思われる部屋に向かう。

そうしてルートが足を踏み入れた部屋は予想していた通り、ベッドにテーブルや椅子などが存在しており、ルートの考えていた通りリビング兼ベッドルームといったもので、他にも宿泊客を暇にさせないようにか、比較的高価な本もあったり、ギルバートが鎧姿のままで開けようとした保冷の魔道具もあった。

設備のしっかりしている部屋にルートは満足していながらも、少し気になったところがあり、


「どうして二つもベッドがあるんだろう?」


何故か二つ設置されていたベッドの存在に戸惑うルート。


実際二階はこのルートの泊まる予定の201号室以外は設備はほとんど同じでありながらも全体的に少しずつ狭く、ベッドも一つしかない。

そもそも受付の老紳士もルートの態度が貴族自体のものでなければそちらに泊めさせていたのだが、ルートの応対から老紳士はルートを変わり者の貴族の子供と判断して、しかるべき応対を行っただけのことであった。

それにルートの見た目の年齢から察して色事の類を行う可能性もあると判断してルートを201号室に通したという背景があった。


そんなことなど露知らずルートは二つあるベッドの存在に少し悩みながらも、別に使わなければいいやという結論に至ると自分の近くにあったベッドに飛び込む。


ポフッという音と共に体を優しく受け止めるベッドの感覚にルートは心地よさを感じてしばらくの間その感覚に酔いしれ、その感覚を十分に堪能したところで思考を切り替え、これから自分がしなければならないことを整理する。


そうして少しの間その場から動かずに思考を巡らせた結果、まずは『無限』での虹蛇、キラの樹海でのクレイジー・ボア、アーミー・エイプといった魔物との度重なる戦闘の結果失ったナイフや鉄球の調達を行うことが始めにしなければならないことだと決断すると、名残惜しさが後を引く魔性のベッドからなんとか体を起こして部屋を出る。


そして部屋を出る直前にある緑色の水晶球のような形をした物体に気が付くと、


「これって、防音の魔道具だよね?どういう意味だろう?」


とその用途に首を傾げながら接触パネルにもう一度手を触れて魔力を流して部屋の明かりを消すと、軽く自分の装備を確認すると部屋を出て、カチャンと鍵を掛けて静かに歩き出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


受付にいた先ほどの老紳士に鍵を預け、ついでに武器屋の場所について尋ねる。すると「少々お待ち下さいませ」と言って受付の下から皮紙を取り出すと、サラサラと簡単な地図を書き上げる。

そしてその地図をこちらに見せて、武器屋と欲するものが無ければと鍛冶屋の場所も付け加えた場所を印を付けるとそれを渡してくる。

それをルートはありがたく受け取って感謝の言葉を述べて外へと出た。


外は入る前と変わらず人通りも多く賑わっていて、ルートは適当に露店の売ってるものでも眺めながら地図に書き込まれた武器屋を目指して歩く。

露店には肉の串焼きや簡単な木の底の深い皿に入れられたスープといったものからエールや果実水といった飲み物まで沢山の種類の食べ物を売っている露店が多くあり、ルートは適当に食べ物を買って空いたお腹に詰め込むように食べながら歩いていた。


そして老紳士が教えてくれた武器屋に着くと何のためらいもなくさっさと店の中に入ってゆく。


「らっしゃい」


そんなやる気のない声に迎え入れられた店の中には様々な種類の武器が壁にかけられていたり、棚に並べられてあったり、また数打ち物なのか適当な酒樽に槍や剣を突っ込んでいる物も見受けられた。

しかし良く見ると、全てが高品質な物であることに気が付くと、店員に難はあるが売ってある品には期待できそうだと思って使えそうなものがあるかと物色し始めた。


ルートは『磁力の手(マグネットハンド)』の制御上、大振りの武器を操るのには脳に負担がかかり、近距離戦闘になると中途半端な動きになるためなるべく小振りでいながら簡単に手に入る貫通力の高いナイフを愛用していた。


ルートはその制約の中でなるべく貫通力の高そうなものを探していたもののルートの使用方法に合うようなものが一つもなく内心落胆していたが、それなら他に何かないかと店内をキョロキョロと見回しているとふと目に入ったのは隅の方でポツリと巻かれて置いてあった一本の1mほどのルートの目と同じ蒼の鎖であった。


ルートはそれに吸い寄せられるように近づいて手を伸ばそうとすると、


「下手に触んなよ」


その声に鎖に触れる直前でピタッと手を止めたルート。

そして、


「どうして?」


と警告を発した者に向かって問いかける。

問いかけられたいかにもやる気のなさそうなボサボサの髪の男は頭をガシガシと欠きながら、


「そいつは呪われてんのさ」

「呪われてる?」

「いつもご機嫌斜めに触れた者には指先を痺れさせてくれる素敵な鎖なんだよ。いつからあるかも分かんねえから適当な奴を呼んで調べさせたらあら不思議。ご機嫌斜めっていうモンでもなくただの呪いだとさ」

「"呪い"ね」

「お、おい!」


そう呟いて鎖に手を伸ばすルートに制止の声を上げる男。

そしてルートの指先が触れた瞬間に、


バチバチ!


小さい雷鳴のような音を立ててルートの指の接触を拒否する。


「あ〜あ、だから言ったろ?っておい!何してんだ!」


男は呆れながらルートがその鎖の拒絶反応に怯えてすぐに手を引くと思っていると、


バチバチバチ!


なお強引に鎖に手を伸ばして鎖の一部をガッチリと掴んだルートを見て、心底焦ったような声を出す。


ルートはその男の声など既に聞いてなどおらず、思考、意識の全ては目の前で物騒な音を立てている鎖に注がれており、掴んでいる手から周囲にバレないように小さな闇の魔力を流す。


すると激しい抵抗を見せていた鎖が発する抵抗が雷鳴にも似た音と共に小さくなり、そしてついには静かにルートの手の中にすんなりと納まった。


それを見ていた男は自分がその鎖を発見して10年ほどが既に経過しているものの誰もその鎖に触れることすら叶わず、ましてや触れても抵抗することが無いという光景に、目の前で起こったことがまったく信じられずにポカンと口を開け、そして再起動したのか体を大きく震わせると、


「お!お前!どうやってその鎖を!というか何なんだその鎖は!」


などと言ってだんだんヒートアップしていったのか、鎖とルートについての質問の形式を則っただけのただの絶叫を繰り返し、そして、


「落ち着いた?」

「・・・まあ、言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが衝動は収まったな。で、俺の疑問には答えてくれんのか?」


落ち着いたのか額に汗を浮かべて、呼吸を落ち着かせた男はそう言ってルートにそう尋ねた。

その質問に、


「どうだろうね。けど多分この鎖の抵抗に耐え切ることが必要なんじゃないかな?僕以外にここまで持った人っていた?」

「・・・いねえな。確かに指先が触れて痺れが走った瞬間にそいつからは離れたやつらばっかだったな」

「その痺れに耐え切ることがこの鎖の所有者になるのに必要だったんじゃないかな?」

「確かに呪われてるってんならそういう品だっていうのも頷けるか。で、お前それどうする?あの痺れに耐え切ってまで手に取ったんだから意思は固まってるもんだと思うが」


すっかり落ち着いた様子でそう言う男にルートは、


「うん、考えている通りだよ。僕にこれを売ってくれないかな?」


ルートは自分の持っている鎖をジャラジャラという音を立てて持ち上げて男に見せながらそう言うと、


「・・・まあ確かに誰にも使われることのねえもんならここでこの鎖を持つことの出来たお前に売るのも天命ってやつなのかもしんねえな。よし、お前さんに売った。キリ良く銀貨5枚ってところでどうだ?」

「じゃあこれで」


そう言ってルートは腰袋から銀貨を五枚取り出して男の手の上に乗せる。


「確かに受け取った。これでそのよくわかんねえ鎖はお前のもんだ」

「いい買い物になるといいんだけどね」


ぼさぼさの髪の上から頭を掻きながらそう言うと、ルートは少し苦笑しながらその鎖を見てそう言った。


そうしてルートは手に持って歩くには少し邪魔な鎖を腰袋にしまって礼を言うとぼさぼさ頭の男の武器屋を出る。


武器屋の外に出たルートは思わぬものに出会ったものの本来の目的である貫通力がありそうな武器は手に入らなかったために、貰った地図を見て紹介された鍛冶屋を目指して歩き出す。


そしてその鍛冶屋に向かって歩いている途中にルートは、


(にしてもあの鎖は誰が作ったんだろうね。あの場では僕もああ言って誤魔化したけど、実際には闇魔法の魔力が必要だったから、あれを作ったのは僕以外の闇魔法が使える魔道具職人ってところだろうけど。あの鎖の特性はまだ何一つ分からないけど、少なくとも僕にはあの程度の"呪い"なら呑み込んでしまえるから使う分には問題ない。出来れば僕の戦い方に合うようなものになってくれればいいんだけどね。)


などと考えながら歩いていると、不意に視線を感じた。


ルートはその視線に悪意といったものが無く、むしろ疑問といった種類の感情を読み取ると困惑しながらも、今のところ自分の害になりそうな雰囲気は無いために放置することにした。

といってもその視線の主がどういう人物かは変わらないために警戒はしておくに越したことは無いなと考えると、周囲に気づかれない程度の魔力を放出して"探知"を行ってその主のおおまかな特徴と現在位置を探る。


一瞬にして広がるルートの知覚範囲が大通りを歩いている人々の多さと大体の特徴や露店で売っているものの大まかな種類なども把握してゆき、まだ狭い範囲でありながらもさすが王都といったところか、その情報量の多さに少し頭が熱を持っているような感覚を覚えるが、それに構うことなく視線の主の情報を探る。


そうしてルートは視線の方向を元に考えると、おおよそ50mほどの位置を走っていた馬車の中から視線を感じ、ルートは腰袋から銅貨を落としてそれを拾う素振りをして、その馬車の様子を伺う。


どうにもその馬車はこちらからは中が伺えないようになっているのか、どう見ているのかは分からないものの、


(鷲と剣?貴族か?)


馬車にデカデカと刻まれた紋章がルートにその人物に繋がる手がかりとして覚えた。


そうしているうちにその馬車は走り去って行き、ルートは後でその紋章の持ち主を調べることを決めると、再び鍛冶屋に向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ