50話 宿泊
さてさてやってまいりました王都編。
個人的にはさっさと胸糞悪い話を終わらせたいので、話のクオリティーに気を使いつつもテンポ良く逝きます。
王都ルエガの周りには高さ15mほどの石壁が泰然と何があっても全体に壊れることはないと言わんばかりの様子で立っており、さすが王都を守る防壁であると思えるほどのものだった。
キラの町から飛んできた者たちは『転移』でアルヒオール王国の王都まで一瞬の内に移動したわけなので一度は王都の様子を見たことがあるはずなのに、それでもなお圧倒されている様子の者も大勢居た。
もっともその中にはこのような光景を見慣れているのか何も反応がない『万色の集い』の面々のような反応をしている者もいて、その者たちは転移魔法使いに話しかけて国と国を繋ぐ転移魔法使いの居場所を確認していた。
そして聞かれた転移魔法使いはその聞いてきた者たちにまとめて説明するということを言って離れてもらうと、自分に『拡音』を発動させると、
「ご注目ください。これから各国への転移についての説明を開始します」
というと、王都の外壁から注意を転移魔法使いに戻す。
そしてその様子を見て説明を始めてもよさそうだと判断すると、
「まず我々がいる場所なのですが、ここは王都ルエガの南門付近となっております。他の4つの拠点から『転移』してきた者たちもここの周囲に飛んでくる手筈となっておりまして、一度この場所に今回の戦いに参加してくださった者たちが一同に集うこととなります。そして全ての参加者の皆様が揃い次第、あちらにいるギルドの職員がそれぞれの転移先の説明などを行い、ご希望の国へと案内する転移魔法使いの下へと移動していただき、『転移』をしていただくという流れとなっております。またこの際、各国への『転移』を希望されない方はすでにそれぞれの拠点にてギルドカードに依頼達成の旨を記入していますので、この説明に参加していただく必要はありません。」
ギルド職員を手で指し示す転移魔法使いはそう言って話を纏めた。
そうしてその言葉に従っておおよそ一割程度の者が王都へと入るための手続きをするために、身元の確認を行うための長い行列に並んでゆく。
その者達と同じく王都に用があるルートは、自分たちの『万色の集い』のクランの本拠点があるアガレア連邦の首都に帰ると言っていたマインたちに、
「ここでお別れだね。またいつか会いに行くよ」
と別れの挨拶をする。
そして同じく王都に用があるというエリュも、
「私も王都に用があるのでここでお別れです。また機会があればお会いしたいものです」
と最後まで堅苦しい調子で挨拶をする。
その二人の別れの挨拶に『万色の集い』の面々は、
「二人ともまたな。特にルート、今度もまた面白いことがあるのを期待してるぜ」
「またな、ルート、エリュ!今回は出来なかったが次は俺と模擬戦してくれ!」
「はぁ、全くレンは。お二人共。今回の戦いでは手を貸してくださり、ありがとうございました。またお会い出来る日を楽しみにしています。ルート君、槍の腕は落とさないでくださいね?」
「‥‥‥またな」
「ルート、エリュ、また。・・・ルート、また歌教えて」
「えっと、その、ま、また会いましょう!」
「「またね〜、二人とも!今度一緒に遊ぼー!」」
「アッハッハっ!また会おぜ!そん時までにはあたしと呑める位になっとけよ!」
「それは酷じゃろうて。まあ気持ちもわからんではないがの。お二人さんやい、また会った時は酒の一杯くらいは付き合ってくれや」
「全く貴方達は・・・はぁ。二人とも、また会いましょう。次は平和な時に出会えることを祈っています」
『万色の集い』の面々がそう言うのに対してそれぞれに言葉を返していると、最後にマインが一歩前に進み出てきて、
「お前達の目的が何なのかは知らねぇし聞かねぇが、また会いに来いよ。もしいつまで経っても来なかったらこっちから押しかけてやるからな?」
冗談めかした様子でそういうマインにルートとエリュは、
「あはは、そうだね。まあマインさんの突然の訪問は怖そうだからこっちから会いに行くよ」
「それは怖いです。こちらから会いに行くのでどうかそのままで」
「さっきから怖い怖いって酷くね!?」
そのやり取りにルートとエリュに『万色の集い』の面々がみんなして笑い、そして、
「それじゃあまたね!」
「いつか会える日を願っています」
そう言って笑って『万色の集い』の面々とは離れてゆき、王都へと入るための行列に並ぶ。
そうして何だかんだで隣にいるエリュに笑って、
「いい人たちだったね」
と話しかけ、エリュも笑って、
「確かにね。少し騒がしかったけど楽しかった」
と答える。
そして行列が流れるのに合わせて前に進みながら色々な話をしていると、ついにルートとエリュの番になり、二人の門番に身分証を提示するように言われたので、腰袋からギルドカードを取り出して提出する。
そしてそのギルドカードを隅々まで調べると王都に来た目的などを質問をされ、王都で活動するためと答えると、ルートに対応していた門番は「頑張れよ」と言ってギルドカードを返却する。
それを受け取り門番の人に一礼すると外壁の中へと入っていく。
外壁の中には門から一直線に灰色の石畳が敷かれた大通りが伸び、その大通りの真ん中を馬車が二台ほどすれ違えるほどの広さの道があり、その両脇に一段高くなった石畳が敷かれている歩道では多くの人が歩いている。
またその歩道の馬車道側には様々な露店が並んでおり、歩いている人が足を止めて何かを買い求めているという光景も目に入り、そして歩道の露店とは反対側には多くの建物が並んでおり、商会と思われる大きな建物の前の道には馬車が直接店の前まで入ってこれるように馬車の道と同じ高さにしているといった工夫がされているところもあった。
往来の激しい王都の光景に、どこかの農村から来たと思われる程よく筋肉の付いた布の服を着ている少年はポカンと口を開けて人の多さや活力に圧倒されている様子であった。
そしてそんな大通りをずっと辿っていった果てには、このアルヒオール王国の王が住まう純白の曲線的な外見が特徴的な王城が城下を見下ろすように構え、王都中の建物のどれよりも大きく、そしてどっしりと揺らぐことの無い王の権威というものをあらわしているように存在していた。
その王城を怒り、失望、蔑みといった負の方向の感情が混ざり合った目で一瞬睨みつけたルートはすぐに下を向き、自分が『無限』を攻略することで得た情報を思い出してその暗い感情を落ち着かせる。
そして隣にいるエリュにルートは、
「エリュはこれからどうするの?僕は宿を探しに行くけど」
と尋ねると、
「私は泊まる場所に宛てがあるからそこに身を寄せるつもり」
というのでルートはここが分かれ道だと判断して、
「そうなると僕達もここでお別れかな」
「そうだね。・・・ルート」
エリュが真剣な顔をして、いつか見た空虚な目でルートを見据えると、
「私達の進もうとしている道は正しいものではない。そして誰かに理解されるようなものでもない。そのことを私達は知っている。だからこそ間違った道を歩いている者同士ということで私達は親近感を覚えている」
淡々と語るエリュにルートも同じような空虚な目になってその話の続きを待つ。
「だからこそ私は宣言する。私はルートが目の前に立ちふさがったのであれば私が嫌う"祝福"の力をも含めた私の全身全霊を以って相手をすると」
一片の揺らぎも無い口調で言うからこそ、その言葉にはエリュの揺らぎの無い本気と目的を果たすためであれば親しみを覚えているルートでさえも力でねじ伏せるという意思がこれでもかというほどに詰まっていた。
そしてその言葉を聞いたルートは、
「僕も同じだ。エリュが目の前に立ちふさがったのであれば僕の嫌う"呪い"の力も含めた僕の全身全霊を以って相手をする」
同じ言葉でエリュに対して宣言を行う。
そしてその言葉を聞いてエリュは何を思ったのか少しの本心を覗かせた笑顔を浮かべると、
「それじゃあね、ルート。出来れば会いたくないよ」
そのような言葉をかけられたルートも少し本心を乗せた笑顔を浮かべると、
「またね、エリュ。僕も出来ることなら会いたくないね」
その言葉が転機となったのかルートは大通りを進んでゆき、エリュは薄暗い小道に足を進めてゆき、互いに一度も振り返ることは無かった。
先ほどの二人の言葉は何かの予感を互いに感じているからこその願いの発露であるのか、それとも本心からの言葉通りのものであるのかということは二人の間にだけ存在する何かだけが知っていた。
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「さて、エリュとも分かれたことだし、さっき言ったとおりに宿でも探そうかな。といっても僕もあまり宿に泊まるような生活なんてしてこなかったからね。どこがいいかもさっぱりだ。まあお金も使うことが無かったからそこそこ持ってるし。なんだったら今回の報奨金もあるから目に付いた宿でいいや」
ルートはそういうと大通りを周りをキョロキョロと見回しながら宿の看板を探していると、
「あれ?確かあの店ってキラの町でマインさんが泊まってた宿と同じじゃない?」
ルートの目線の先には大きささえ違うものの、外装の様子や高級感の漂う雰囲気などからそう判断し、そしてその建物を目指して歩いていくと確かにその建物の左右対称な年輪が特徴的な木の扉に金属のプレートが貼り付けてあり、そこには洒落た飾り文字で"悠遠亭"と彫られていた。
それを見て確かにルートはキラの町でマインたちが泊まっていた宿と同じ名前だということを確信すると、その木の扉を中に押して入る。
中には前にも見たことのある大きなシャンデリアがルートを出迎え、そしてルートは受付まで一直線に敷かれた赤いカーペットの上を歩いてゆくと、そこには執事服をきっちりと着こなした初老に差し掛かったかという位の男が受付に立っており、ルートの姿を見るなり優雅に一礼すると、
「"悠遠亭"へようこそ。恐れ入りますがご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
やわらかな物腰でそう言う老紳士にルートはこの相手には自分の普段の態度ではなく、昔の態度で接したほうが自分にとって有利な展開になりそうだと直感的に感じると、頭の中の意識をガラッと変えて佇まいなども昔のものに戻すと、
「宿泊を頼みたい。宿泊期間は5日ほどを予定している」
そのルートの様子の変化に一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたものの、さすがはプロといったところかすぐさま表情を戻すと、
「かしこまりました。部屋にも空きがございますので5日以上の滞在も可能となっておりますので、ご要望の際には受付までご連絡ください」
「分かった」
「それではお客様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「今はルートと名乗っている」
「かしこまりました。ルート様でございますね。それでは当宿についてのご説明に入らせていただきたいのですがよろしいですか?」
「問題ない」
「さようでございますか。こちらの宿ではお食事もご用意も行っているのですが、ルート様のお姿から想像しまして毎食後用意させていただくと料金が高くなってしまいますので、お食事をご所望の際にはルート様から見て右手にございます食堂に移動していただいて、そこで一律銀貨一枚のお食事を注文していただく形式の方をお勧めさせていただきますがいかがでしょうか?」
「その形式で頼む」
「かしこまりました。それではお部屋はいかがなさいましょうか。もしルート様が睡眠を取るためだけの部屋をご所望でしたらこの一泊銀貨三枚のお部屋をお勧めいたします」
「それでかまわない」
「それではそのようにさせていただきます。それでは料金になりますが、先にお支払いいただくか後でお支払いいただくかを選んでいただきます。先にお支払いいただくのであれば部屋の宿泊料金だけを先にお支払いいただき、食堂のほうでお食事を取られた際にはその場でお支払いいただくことになります。また、後でお支払いいただくのであれば部屋の宿泊料金、そしてお食事の料金を合計したものをこの宿から出て行かれる際にまとめてお支払いいただきます」
「まとめて支払うことにする」
「ルート様にも決まりですので説明しておきますと、もし料金を支払われずに一ヶ月以上失踪されますとギルドに依頼を出しまして、荷物を差し押さえ、お支払いいただかなければならない料金と迷惑の度合いによって変化します料金をお支払いいただくことになりますがよろしいですか?」
「ああ」
「さようでございますか。それではお部屋をご用意させていただきます。こちらがご案内させていただく鍵となりまして、お出かけの際にはこの鍵を受付にお預けください。ルート様のお部屋は201号室ということで、ルート様から見て左手にあります階段を一つ上っていただいて一番奥の突き当たりの部屋となっております。幸い周囲の部屋にはご宿泊のお客様もいらっしゃいませんのでごゆっくりとお寛ぎいただけると思います」
そう言って鍵を差し出す老紳士からそれを受け取ると、ルートは小さく老紳士に「お気遣い感謝する」と小さい声で言うと、老紳士は「よい休息を」と言ってニコリと微笑んで一礼した。




