49話 別れ
すみませんが、王都編は次からと言うことになりました。
そしていろいろと表記を変更しました。
大きなものは「~。」と表記していたところを他の作者さんのように「~」というように最後の句読点をなくし、他にも細々と変わりましたが、話の流れそのものは変わっていないのでどうかこれからも「真実は迷宮の中」をよろしくお願いします。
ルートは背中に感じる固い感触で目を覚まし、ぼんやりとしか寝ぼけた頭が動かないままその感触の原因を思い出そうと自分の記憶を辿ってゆくと、突然その記憶が途切れいつの間にか寝てしまっていたということを理解し、周囲の状況を警戒することなく久しく深い眠りについていたことに気がつくと、自分自身のその行動に驚き、睡眠薬でも盛られたのではないかという疑問さえ浮かんできた。
その疑問を解消するために自分の体に意識を向けて自分自身の現在の状態を把握すると、いつも感じていた体の奥の方にあるしこりのようなものが少し減っていることに気がついた。
決して今まで増えることはあっても減ることが無かったその正体の分からないしこりが減っているという事実は自分にとっても衝撃で、すぐにルートの頭が完全に覚醒する。
そしてしっかりと定まった視界で周囲を見回すと、そこらには死屍累々と言った様子で仰向けに倒れこんでいる者や壁に全身の力が抜けたように寄りかかっている者もおり、その光景に対して現状は危険地帯だという認識を持ち警戒しながら即座に動き出そうとすると、ふと耳と鼻に何かが入ってくる。
ルートはこの現状を作り出した者の足音や毒の匂いなのではないかとその何かを分析した結果、あちらこちらから聞こえてくる鼾や嗅いだだけでも酔いそうなほどの強烈なアルコール臭であることに気がつき、ルートは警戒を最低限にする。
そうして今の自分を取り巻く状況が、酔って潰れるまで酒を呑んだ者たちがあちらこちらで寝ていて、そして自分もその空気の中で酒を呑んで寝てしまったというものだと理解した。
そうして冷静になったせいか自分の喉がカラカラだということに気がつき、酒以外のなにか喉を潤すものでも探そうかと立ち上がろうとしたとき、ふと自分の膝の上に何かが乗っていることに気がついた。
ルートは自分の先ほど辿った記憶の中には自分の膝の上に何かが乗ったという場面が無く、どうせ近くで酔い潰れた者の足でも乗っているのだろうと考えながらその何かを見てみると、
「んんっ」
喉の奥で鳴るような小さな声を出していたエリュが自分の膝を枕にして寝ていた。
ルートは想像もしていなかった状況なだけに完全に頭も体も動きが止まり思考が真っ白になり、一分ほどが経過すると少しは状況が飲み込めたのか自分の見たものが本物なのかを確認するために自分の目を擦り、そして自分の魔力の流れを確かめる。
そして何も問題の無いことを理解すると尚更現状が分からずに混乱する。
エリュは背中をルートに向け、膝を抱えて体を小さくして顔だけをルートに預けて目を閉じており、透き通るような翡翠色の髪が端整な顔とルートの膝頭に掛かっていて、ルートは無意識に掛かる髪にさっと触れて端整な顔が見えるようにする。
そして自分のその無意識に動いた手に驚いたのかその手をじっと見つめるものの、エリュの顔を見ているとそんなことはどうでもいいかと思い、深い眠りに入っている様子のエリュを起こさないようになるべく振動を与えないように最小限の動きで腰袋にその勝手に動いた手を入れ、中の物を取り出して手持ちの消耗品の確認を行う。
使わなかったガラス管に入ったポーションや透明な糸の糸巻きなどやロープ、それに爆弾などは取り出さずに使った鉄球とナイフを取り出すと、結局回収できたのは鉄球が3個にナイフが6本だけでルートのいつもの戦い方をするには少し心もとなく、自分の目的を果たすためにもどこかで補給しなければならないなと考えながら、ナイフの歪みや欠けについて確かめてゆく。
そうして問題が無いことを確認して腰袋にしまうとまた喉の渇きを覚え、ルートは自分でも結構動揺していたことに気がつき、苦笑を浮かべつつ顔のすぐ正面に一口大の『創水』を浮かべて口に含んで飲み干す。
そうして喉を潤して手持ち無沙汰になったルートは、
「・・・ところでギルさん、あなたはどうしてそれほどまでにニヤニヤして、ずっと僕達を見ているのでしょうか?」
腰袋の中の物を点検しているときから、二人の近くで床に寝転がっていたギルバートが体を起こしてこちらをそれはそれはいい表情で様子を伺っており、自分の今の状況を分かっているルートはそれに触れたらお仕舞いだと思ってずっと触れてこなかったのだが、さすがにルートの顔をニヤニヤと覗き込むような距離まで静かに近づいてこられたために触れざるを得なかった。
ルートの言葉にまた一段とニヤニヤとした顔を作ったギルバートは、
「べつにい、なんでもないですよお。ただですねえ、ルートさんの先ほどからの行動を見ているとねえ?」
「・・・僕の膝を勝手に使われているだけだよ」
「そうですかあ?それでは先ほどの掛かった髪をエリュさんの顔が見えるように触った後のあの表情はなんでしょうかねえ?」
「なっ!み、見てたの!?」
なるべく小声でギルバートに怒鳴るルートなどどこ吹く風、ギルバートは非常にニヤニヤした表情でルートを見ており、そして「あっ」と何かを思い出したかのような声を出し、
「そういえばルートが彼女が自分の膝に乗っているのを見て驚いているところからなんだか面白くなりそうな雰囲気だったから周りの奴らを起こしておいたぜ!」
キラッと効果音が出そうなほどのいい笑顔でグットサインを突き出してくるギルバートに、ルートは嫌な汗が背筋を使う感覚を感じながらも、ギギギと音が鳴りそうなほどにぎこちない動きで辺りを見てみると、『万色の集い』のメンバーといつの間に現れたのか近くにはいなかったはずのセアラが床に寝転びながらも目はパッチリと空けてルートの方を見ていた。
そしてそれぞれの顔はギルバートと同じようなニヤニヤとした表情や、微笑ましいものを見るような表情、暖かな目で見守っているような慈愛に満ちた表情やルートには読み取れない表情を浮かべていたりとさまざな感情を表していた。
ルートはそれぞれの顔を見て、その顔が作っている表情の意味を悟ると、次の瞬間に頭の処理能力を完全に振り切り、口を大きく開けて呆け面を晒す。
そのルートの様子を見て周りで見ていた面々はさすがにやりすぎたかと考えているところで、
「ふああ。って、あれ?みなさん、どうしました?」
ルートの膝から頭を上げたエリュが片手で口元を隠しながら小さくあくびをしながら目を開けて周囲の視線が自分に集まっていることに気がつき、そんな質問をした。
正確には視線はエリュとルートの二人に向けられた視線であるのだが、そんなことなど知らないエリュに見ていた者たちはエリュの後ろに向けて指を向ける。
その行為の意味は分からないまま自分の後ろを見ると、魂ここにあらずといった様子のルートがいて、驚きながらもその肩を揺さぶり、
「ルート!?大丈夫!?」
と激しく呼びかけて揺らすと、ルートはハッと目を見開くと、
「なんだかとても居心地の悪い気分を味わった気がする!!」
と叫び、肩を揺さぶっていたエリュがビクッとする。
そしてその声に目を覚ましたのか周りで泥酔して眠っていた者たちが頭を抑えながら続々と起きはじめる。
そして、
「『風操作』」
その魔法と共に室内の空気の流れが急に変わり、大広間の隅々にまで充満していた酒臭い空気が一気に拠点の外に向かって出て行き、それと同時に新鮮な朝の空気が大広間に入ってくる。
そしてそれを使った者-ブラハはめんどくさそうに、
「大分と人情味あふれる目覚めの鐘だな。いったいそいつは何時の鐘だ?」
そんな皮肉を言う。
そうして期せずして叫び声を上げてしまったルートは時計など持っていないためにうろたえていると、
「朝の8時と少しですね」
とルナがどこからか出した懐中時計を見てそう言う。
それを聞いたブラハは、
「8時か。あと一時間足らずでさまざまな町の門が開き始める時間か」
と呟く。
そして、
「私達は午前9時になれば王都へと帰還します」
と朝早い時間でありながら身だしなみをきちんと整え、群青色の鎧を纏った群青騎士団の団長のショルツが階段を下りてきてそう言った。
そしてセアラは、
「既に今回の働きについては昨晩ギルドカードに記録しておきましたのでいつでも出発していただけますよ。またギルドから9時になれば転移魔法使いが派遣されます。そして希望者は王都に転移していただけます。また王都から全ての国とはいえませんが、ある程度の国の都市への転移は今回の戦いに参加していただけたということでギルドカードを見せていただければ利用できます」
と言う。
転移をしてもらえるということは昨晩も説明されていたのだが、改めて聞くと衝撃が凄く戦闘者たちは歓声を上げる。
転移を使える魔法使いは少なく、さらに国と国を繋ぐ転移魔法は優れた魔法使いと魔力を大量に回復させることが出来るポーションを用意できる潤沢な資金が必要で、今回の件のような国家の危機や各国の代表者が集まる会議くらいのときくらいにしか使われることが無いために普通には体験できない。
貴重な体験が出来るということで戦闘者たちは沸き、そして今回は転移先を自分で選ぶことが出来るということで今まではさまざまな理由で行くことができなかった国にも一瞬で行くことができるということで更に沸く。
その中で、マインは少し口の端をひくつかせて、
「る、ルート。お、お前はどうするんだ?俺達はクランの拠点に戻るんだが。ククク。」
「どうしてそんなに笑っているの?まあ僕は王都に行くよ」
「そ、そうか。ククク。エリュは?」
「私も王都です。少し用事があるので」
「そうか。なら王都で俺達とは別れるわけか」
ルートと話すときには先ほどの様子が脳裏をよぎるのか笑いを堪えた様子になり、エリュとは普通に会話するマインではあるが、最後の言葉には感情が篭っていた。
その様子に、
「またいつか顔を見せるよ」
「私も近くに行くことがあれば挨拶に伺います」
「そうか!待ってるぜ!」
そうして『万色の集い』の面々とさまざまな話、マインがクランの本拠地のあるアガレア連邦の美味しいものや名物などを楽しく話してルートが絶対に食べに行くと宣言し、ルートがセルファでの話をすると『万色の集い』の面々だけでなく、周りで話を聞いていた戦闘者や騎士団の面々が想像以上の内容に引くということもあったり、準備してきた自分の荷物を纏めたりとしていた。
そして楽しい時間と言うのはすぐに過ぎるもので、
「ギルドより派遣されました転移魔法使いです。転移を希望する者は私が王都までご案内します」
大広間に入ってきた男がそう言ってすぐに出てゆき、その男の後ろに大広間に居た者たち全員が付いてゆき、そして自分達が守った町並みを誇らしげに見て長い大通りを歩いて南門へとたどり着き、町の外に出るとそこには大勢の人がいて、次々とお礼の言葉を伝える。
そしてセアラが住民を代表して、
「長く話をすると後の転移などに響きますので簡潔に。今回は私たちの町を守っていただき感謝いたします。みなさんの活躍をこのキラの町で聞く日を楽しみにしております。私達キラの町の住民は皆さんの再訪を楽しみにしております。それではありがとうございました」
セアラが頭を下げるとそれに倣ってその後ろのキラの町の住民も一緒に頭を下げる。
それを見てブラハが、
「気にするな。私たちは依頼を果たしただけだ。・・・まあそちらも体には気をつけろよ」
最後の言葉は後ろを向きながら言ったところで周りの者たちから笑いが起こり、そして転移を希望する者たちの中心にいる転移魔法使いの男は大量の魔力を放ってその者たちをドーム状に覆うと、
「『転移』」
その言葉と共にその魔力に黒い色が付いてゆき、光も通さぬと思われるほどの黒になると、その魔力のドームが一瞬にして消えた。
そしてその場には誰もいなくなり、冬になりつつある秋の風がサッと吹き、背の低い草をさわさわと揺らした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
周囲に転移魔法使いの魔力が周囲に満ちてドーム状になると、色が濃くなって向こうの景色が見えなくなった次の瞬間、今度はどんどんとその色が薄くなってゆくと、そのドームの向こうには先ほどのキラの町とその住民達ではなく、今度は大きなセルファと同じくらいの高さの15mほどの石壁が目に飛び込んできた。
そしてその景色に圧倒されているものが多くいる中、ルートは表面上では冷静に、そして内心では煮えたぎるような激情が暴れ狂うのを感じながら、
「久しぶりだね、王都は。さて、奴はいるのかな?」
と恐ろしく低い声でそう呟いた。




