表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
47/84

47話 終結


戦闘者と騎士団の合計約600名と総指揮個体率いるアーミー・エイプの軍隊4000体との前面衝突が始まる。

マインやリズ、ルートにエリュという者たちによって行われた派手な攻撃は怪我人を回収したという単純な合図だけではなく、ルシトの拠点の者たちにとっては反撃の狼煙、キラの拠点からの援軍にとってはその攻撃を行った者たちからの大きな激励だと捉えて士気が上がってゆく。


その勢いに飲まれたのか一瞬たじろいだものの仮にも総指揮個体ということもあってすぐに建て直し、次々と部下に異形の橋を渡らせたり、最初と同じように空中に放り投げたりと指示を出して行く。


『万色の集い』のメンバーたちはそれぞれ自分たちで役割分担を行って、マイン、ギルバート、ミツナ、タタラ、シン、レンは異形の橋を渡ってくるアーミー・エイプを相手にし、ルナ、シーク、リズ、ルイ、ライ、イーサが飛んでくるアーミー・エイプを担当し、そしてピナがそれぞれを援護するという形で分かれた。


ルートとエリュについては先ほどの戦いを見て独立して動くことを許されたので、ルートは腰袋から残っていたナイフと鉄球から作ったナイフを地面にばら撒いてから槍を構えて、エリュは杖を構えて、


「『磁力の手(マグネットハンド)』」

「『活性化アクティベーション』」


そうして準備を終えると地面を強く踏み込み、一気にその力を解放して矢のような速度で飛び出し近くにいるアーミー・エイプをすれ違いざまに刺殺、撲殺して異形の橋に向かって駆けてゆく。


人側の異形の橋の付近では援軍が来る前にアーミー・エイプによって確保されていたようで500体ほどの個体が大量にいて、それらをマインを始めとした者たちによって奪還している最中であった。

先ほどの戦場であるならマインのガントレットの一撃で吹き飛ばせばよかったのだが、目の前には川が流れているせいで下手に吹き飛ばしてしまうとその流れに乗って逃げられてしまう可能性があるために簡単に奪還は出来ず、チクチクと数を減らしていくしかないという状況であった。

この制限は他の戦闘者にとっても攻撃の加減を考えなければならないという意味で戦闘が長引く原因でもあるのだが、それでもなお戦闘者のほうが強いのか少しずつではあるが数を減らしてゆく。


マインの一撃がアーミー・エイプをバタバタとなぎ倒して行き、レンが素早い動きで一匹一匹の息の根を止め、そしてその二人の後に続いて二人が倒しそこなったアーミー・エイプにトドメを刺し、そしてその後ろで自分よりも後ろには行かせないというようにギルバートが構え、ミツナとタタラが二人そろって気の赴くままにそこら中にいるアーミー・エイプを潰していく。

そしてそこに他の戦闘者、それに加えてルートとエリュという規格外が加わってしまい、川を渡ってきたアーミー・エイプ500体はそこらに亡骸として無造作に転がることになった。


そして橋を渡ってこようとするアーミー・エイプを始末し、そしてその橋を壊して向こうから渡ってくる方法の一つを失わせるとそれを見て、総指揮個体はイラついたようで足元に落ちていた石を拾い上げると大きく振りかぶって投擲、ルート目掛けて一直線に飛んでくる。


「『岩壁ロックウォール』」


それを川岸に大きな岩の壁を作る土魔法、『岩壁ロックウォール』を発動して高さ10mほどのものを作り上げて防ぐ。


周りに居た多くの者は貧弱な攻撃に対してあまりにも巨大な防壁を作り上げたことに驚くが、その意図を理解した者たちはルートの後ろへと移動し、ルートがその出来上がった壁に手をつけると、グニャリと脈を打つように折れ曲がって向こう岸へと倒れこむ。

そして倒れた壁の先端はどうやら硬かったらしく倒れた先にいたアーミー・エイプを何匹か巻き込んで質量で押し潰し土砂を巻き上げる。


ルートは舞い上がった土煙で視界が制限されている今がチャンスだとその向こう岸へと渡した岩の壁の上を走って向こう岸へと移動し土煙の中に姿を消し、その後ろにエリュを始めとした者たちが次々とそれを渡ってゆき、時折土煙の中に現れる影に攻撃を加えてゆく。


総指揮個体は目の前に広がる土煙を鬱陶しく感じながらそれが晴れるのを待っており、それが晴れた瞬間に目に飛び込んできたのは思った以上に自分の近くまで先ほどまではこちらが一方的に攻撃を加えていた者たちが迫ってきていたことであり、思わずザザッという音を立てて後ずさりをしてしまう。

目の前の自分の部下が抵抗らしい抵抗も出来ずに殺されていっているという実力不足に苛立ちを覚え、しかしこの総指揮個体の性根にある臆病さが怒りのままにその者たちに向かって突撃という行動を押し留める。


そしてその苛立ちも部下の数が一定数減るまでは募っていくばかりだったが、ついに残りのアーミー・エイプの数が2000体を割ったところでこのままでは自分を守る部下がいなくなってしまって自分も他の個体と同じように殺されてしまうのではないかという焦りを覚え、これから自分がすることは逃走ではなく戦略的撤退なのだと自分に言い聞かせて静かに逃走の時を見計らい始める。

そして逸る気持ちと震える体を抑え、額に冷や汗を浮かべながら絶好の時を待っていると、背後から季節や場所特有のものではない冷気を感じそっと振り返る。


そこには決してお前を逃がさないというように聳え立つ岩の壁の前に立つ二人、ルートとエリュの姿があり、所々にエリュが作り出した『氷槍アイスランス』が地面から生えるように乱立していたり、ほかに『氷山アイスバーグ』という氷山を作り出して内部に敵を閉じ込め、周りにいる敵を凍り付けにしたり寒さによって行動を遅くしたりとする効果を持った魔法を使い、その影響で周囲には霜が降りていたりとしてそれらが冷気を放ち、それらが総指揮個体の後ろに存在していたアーミー・エイプの多くの命を奪っていた。

ルートは壁を作り上げた後、自分の周りに浮かぶナイフの全てをあらゆる方向に解き放ち損害を与えたり、エリュの攻撃が当たりやすいように地面の性質を変えたりといった行動を取っていた。


そして二人は他のアーミー・エイプよりも一回り大きい総指揮個体を見ると、何を感じ取ったのか総指揮個体は体を震えさせて尻尾を体に巻きつける。

その様子に他の戦闘者や騎士団の者なら何に怯えているのかということを警戒してなかなか攻撃を加えないはずの動作を行っているのであるが、この二人にとってそれはまったく無意味で、


「『石弾ストーンバースト』」

「『氷弾アイスバースト』」


容赦なくその二つの素材で出来た礫というには大きい砲弾くらいの大きさの弾を打ち出す魔法を総指揮個体に放ち、その後ろを付いて武器を構えながら駆けてゆく。


その二つの弾は互いに衝突することなく、そして総指揮個体の両脇を抜けてゆく軌道を描いて飛んでゆき、まがいなりにも昔話にでも出てくる第二級特別(・・)危険指定種に認定されている魔物なだけあって、怯えながらもその魔法の軌道は読めていたようであり、自分の後ろには先ほどから部下をほとんど抵抗なく殺してゆく者たちがいるため下がることも出来ず、その場から動かずに後に続いてくる二人に対して集中する。


二人は一瞬空虚な目と目を合わせて意思疎通を行うとルートが先に前に出て大きく胸の位置を払うような攻撃を放つ。


その攻撃は体を上半身と下半身に分けるほどの威力は無いにせよあたればそれなりに出血する程度には鋭いもので、総指揮個体はさまざまな事柄に対して怯えたままではすぐに死ぬと判断して恐怖を取り払うとその場にサッとしゃがんで攻撃を回避する。


ルートはその槍の慣性に逆らわずにその流れてゆくままの方向に自分の体を運びその位置を空けると、杖を上段に構えたエリュがその位置に入れ替わるように入ってしゃがんでいる総指揮個体に向かって振り下ろす。


またもや食らえば命が危ない攻撃が自分の頭を目掛けて振り下ろされてはかなわないとルートとは反対方向に転がるように避け、


「『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』」


持ち上げた顔が高速で飛来した何かによって潰されて命を落とした。


ルートは右手に魔力を大量に石突きに取り付けられている結晶体に流し込んだ槍を持ったまま、左手を総指揮個体に向けて軽く張り手を突き出すようにしたままの体勢で少しの間固まり、槍に流れた魔力が無くなると同時に体から力を抜き、エリュは勢いよく振り下ろした杖を途中で止め、横薙ぎの軌道に変えて顔を狙っていたところで視界の端に捉えていた総指揮個体の頭が四散したのを見たためにその動きを止めた。


頭部を失った総指揮個体の体は今にでも動き出しそうな体勢を少しの間維持していたが、その姿勢を維持する機能を持った頭部を失ったために膝に置いた手がズルッと滑り前のめりに地面に倒れこんだ。


そして二人がその総指揮個体の一応の死亡確認を行って死んでいることを確認すると、その後ろに半分以上埋まっている黒い、というよりも黒を基調とした液体の青と固体の濁った青のグラデーションがアクセントとなった球体を見つめる。


ルートは腰袋を経由した『影部屋シャドウルーム』から適当な布を選んで取り出して、戦いが一区切り付いたと考えて普段の人格が顔をのぞかせ、少し嫌そうな顔をしながらもその球状の物体を地面から取り出して周りに付いたグラデーションを落としてゆく。


そして一見綺麗に見えるように手入れをすると、残りは完全に戦いが終わってから手入れをしようと思って腰袋に収納し、まだ戦っている者たちの姿を見てみるとアーミー・エイプがいた側の川岸にルートに続いて人側の者たちが乗り込んできたせいで向こう岸に仲間を投げるという作業も出来なくなったようで、投げ込まれたアーミー・エイプの処理をしていた者たちも合流したというところを見て、行く必要がないと判断すると完全に普段の人格に戻す。


そして槍に付いたいろいろなものを手に持った布で拭って綺麗にして腰袋にしまうと、ググッと両手の拳を握り上に大きく突き出して伸びをし、急に脱力すると力を失った手が行き場を失いパタンという音と共に服の上から太ももを叩いて停止する。


エリュはそんなルートを空虚な目で見つめ、そして何かを逡巡した様子で言葉を漏らす。


「・・・ルート、私達は果たして生きている?」


昨日の夜の拠点での最後と同じ言葉のはずなのに、普段の彼女でも、感情を失ったような顔になる彼女のどちらからも聞いたことの無いような彼女の弱気なその言葉にルートは、今度は感情の色を込めた普段どおりの自分で、


「あはは、まだかな!けど、少なくとも生きていると思えるまでの距離は縮まったと思うよ。」


お互いに触れることの無かった暗い過去、それでもお互いが何かの過去によって死んでしまったものが自分にあるということに気が付いているからの昨日の最後の一言に、ルートは今回のマインたちとの出会いや同じ戦場に立って戦ったという経験がその死んでしまった何かに作用しているということを確かに実感したからこその一言であった。


そしてその答えに満足したのかエリュも完全に普段の人格に戻ると、ルートの方を見て、


「・・・確かにそうかもしれないね。うん。っと、さすがに少し疲れたかも」

「っ!だ、だよね。僕の魔力も大分と持っていかれたよ」

「ル、ルートもかあ。私もルートも魔力量が多いのにここまで減るなんて想定外も想定外だよ」


エリュの本物の笑みが少し含まれた笑顔に少し落ち着かないような気分になりながら、ルートもその調子に合わせて笑みを浮かべて会話をしていると、エリュは少し言葉に詰まりながらも同じように話を続けてゆく。


その会話している様子からは想像出来ないほどの容赦ない戦闘を行った二人は、その結果できたこの血なまぐさい場所で立って会話をしながら最後のアーミー・エイプが倒されるのを見ていた。

そして最後にトドメを刺した者が手に持った剣を天高く掲げ声を上げると、その声の十倍、いや百倍という大きな歓喜や達成感という感情の込められた声が周囲に響き渡り、地面を揺らす。


ルートとエリュはその様子を見たままお互いに横に拳を突き出してコツンとしようとすると、


スカッ。


「「・・・・・・」」

「「位置が高い(低い)」」


ルートは悲しくもエリュよりも身長が5cmほど低く、互いに自分の体に対しての拳を差し出す位置は同じなのに根本的な身長の違いによってすれ違った。

せっかくかっこよく決まるというところでなんとも締まらない感じになり、両者共に顔を少し染めて前を向いたまま文句を言う。

そして、


「「ぷっ、あはははははっ!」」


お互いに笑い合う。


そうしてしばらく笑っていると、少し離れた位置からマインがこちらに手を振りながら大きな声で、


「ルート!エリュ!集合だ!笑ってねえでこっち来い!」


というので、お互いに顔を見合わせて、


「「いこう(か)」」


そう言って走りだす。


空は快晴、太陽は高く位置している。

吸い込まれそうなほどの深い青の空は今日も手が届かぬほど遠く。

だけど何故か今日はいつもより心なしか近くなったような気がした。



長かったこの章も次で戦後処理を済ませて、その次はついに'あの日'に関する章に入ります。


それでは次回もお楽しみに。


P.S. ルートとエリュの絡みは書いていて楽しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ