46話 総指揮個体
アーミー・エイプは戦闘者や騎士団の攻撃によってその数を減らしてゆき、そしてその最後の一匹もそれぞれマインとショルツの両名によって討ち取られ、キラ方面の戦いは人側の勝利に終わった。
ブラハは足の速い無事な者を3名ほどキラの町に報告に向かわせ、そして戦闘者と騎士団の怪我人に優先順位をつけさせて軽度の者にはポーションを与え、重傷の者にはエリュを含めた光魔法の回復を使える者たちに任せる。
今回の戦いで戦闘者と騎士団からの死者はおよそ2割、そして今後の人生に関わるほどの大怪我を追ったものはおよそ1割ほどで、更に今まさに生死の狭間を彷徨っている者たちはおおよそ1割と、どれほどの激闘が起こったのかというのも想像に難くない。
戦いの中でその命を散らした者たちを集めてきて、その者のギルド発行のその持ち主の身元を証明するカード-通称ギルドカードを回収し、新たな疫病の感染源になる可能性もあるため、その場でブラハの魔力をこめた『創火』を放って着火し、メラメラと燃え上がっていく最後まで戦い抜いた勇敢な者たちに手を合わせて祈る。
鎮魂の炎は次第に大きくなってゆき、それを横目に見ながらアーミー・エイプの死体を一箇所に集めて、なにかの素材となるものを回収した後に適当に燃やしてゆく。
今回のような大量発生したものに対するギルドの依頼については討伐証明を行いその分のお金を貰うという正規の流れとは違い、ランクごとに一律の報酬が固定されていてさらにその場の高ランクの戦闘者がそれぞれ優秀だったと思われる者の名前を挙げ、その者の報酬に特別報酬という形で金額が上乗せされるという仕組みである。
このような依頼では自分たちが倒した魔物についての所有権を主張できるが、特に必要としない魔物については他の低ランクの者に譲るという暗黙の了解もあって、今回の件に関しては高ランクの戦闘者は自分たちに必要な最低限の個体の素材だけ回収すると、他は適当に魔物を集めて次々と燃やしていった。
ちなみに騎士団の方も同じようにある程度のアーミー・エイプの死体からどのような用途があるのかは分からないが、体内に生成される魔石という魔物の魔力が結晶化して出来た物体を回収していた。
彼らが戦後処理を行いながらも少なくともこの近辺での危険は去ったと肩の力を抜いていた中、一人の戦闘者が何かに気がついたように動きを止めて視線をキラの町のほうへと向ける。
その様子を見て何かがあるのかと思って戦闘者や騎士団の者たちもその戦闘者の視線を同じ方向を見ると、こちらに向かってくる人を乗せた二匹の馬の姿が見えてきた。
そしてある程度まで近づいてくると乗っている者が先ほどキラの町へとブラハが送った戦闘者のうちの二人であることに気がつき、どこか焦っているように見える彼らを見てブラハはおそらく自分に用があるのだろうと検討をつけると、その馬の予想進路上に立つ。
彼らもブラハの姿を確認したのか視線を彷徨わせるようなことを止め、一直線にその元へと馬を走らせる。
そしてすぐ近くまで馬を歩かせて下り手綱を握ると、
「緊急事態です!ルシトの町の拠点からの戦力が危険な状態のようで5割のものが戦闘不能になっているそうです!他の拠点にも援軍の派遣の要請はされているようですが、この町が一番近いということでセアラさんが援軍にいけるのであれば言ってほしいとのことです!」
その言葉に周りでアーミー・エイプの解体や焼却を行っていた者たちが驚き、近くに居たもの同士で話を始める。
そしてそれを聞いたブラハは、
「分かった。報告は分かった。結論が出るまで待ってろ。そしてギルドに決定したことを伝えてくれ」
「分かりました!」
「『拡音』、全員手を止めて聞いてくれ。ルシトの拠点から援軍要請だ。戦力が5割削られた。何か問題がない限りは参加してほしい。参加のする意思のあるものは私のところまで来てくれ。以上だ」
ルシトの町にはそこまで多くの戦闘者が配置されているわけでもなく、今回の戦いに参加している二人の"黒"ランクの者も配置されておらず、そのためその拠点が抱えるアーミー・エイプの数も少なくなっているはずなのだが、それでもなお押し切られたということになる。
それを聞いたルートは町にいたときに見た時のエリュとの会話を思い出して押し切られたという状況にも納得した。
怪我や武器が破損していない者たちが続々とブラハの元に集まるのを見て、いつも使っているナイフが5本しか回収出来ず心許ないルートも腰袋に入れているもので対応可能だろうと結論付け、その者たちの後ろについて歩いてゆく。
そうしてルートはブラハの元へと辿り着き、集まった者達の姿を見ると、疲労が隠しきれていないものの目に強い意志を宿した者やアーミー・エイプの攻撃を受けたのか少し腹部を庇った動きをしている者と、自分の体に多少の無理を通してでも援軍に駆けつけようという者達が集まっていた。
その中には砂や血で体を汚しながらも傷は負っていない様子の者たちもいて、ルートはその者たちに近づいて、
「マインさんも行くんだね?」
「ハハッ、この程度で根を上げるようなら"紫"ランクになんてなれやしねぇよ」
『万色の集い』のメンバーはその当然とばかりに言うマインの言葉に同意するように首を縦に振り、そしてその中からギルバートが出てきて、
「にしてもルート、そんでエリュちゃんもだけど何だあれ?強すぎねぇ?」
その言葉に同意するように『万色の集い』のメンバーも、そして魔力操作で気配を消しながら近づいてきた『熊樫の森』のメンバーも全員頷いていたため、
「アハハ。魔力量だけはあるからね。でもエリュの強さには僕も驚いたよ?」
ルートはエリュの強さに驚いたという嘘を含めて当たり障りのない答えを返す。
その様子に納得はしないものの答えずらい事なのかと察すると話の主題を逸らして、
「本人が回復と防御は任せて下さいっていうのは何だったんだろうな?いや、確かに間違ってはないんだけどよ?回復もしてくれたし要所要所で防御もしてくれたからな。ただあんな風に最前線でバンバン攻撃してるの見てたらなあ?」
「言いたいことは分かるよ。エリュには勝てる気がしないね、僕は」
「私もあなたもそう変わらないでしょう?」
ギルバートとルートの会話に突然入ってくるエリュ。
近付いてきていたのはどちらも把握していたが、ルートは何かを思ったようでエリュを見て、
「怪我人はどうしたの?」
「私以外に治せそうにない人だけ治してきた。それに回復出来る人がいた方が便利でしょ?」
「そうだね」
ここに残っている者に回復を施すと言えば戦いの現場に行かず済んだだろうに、エリュは危険なところへの同行を希望し、ルートはその理由も分かっているため反対はしない。
二人の内心は露知らず、エリュの同行を聞いた人たちはこれで回復面に関しては問題がなくなるだろうと安心し、表に出るほどのものではないが、それでも存在している疲労によってパフォーマンスが少なからず落ちてしまうことを自覚している面々は素直に喜んだ。
そして喜んでいたところでブラハのパーティーメンバーによる援軍希望者のパーティー名と人数が数え終わり、ブラハは先に集まった人数をギルドに伝えるようにと馬に乗ってきた戦闘者に指示すると、その者たちは素早く馬に乗り足を使って指示を出すとすぐさまキラの町の方へと駆け出していった。
それを見送るとブラハは集まった者たちを見て、
「よく集まってくれた。援軍には戦闘者と騎士団の合計342名で向かう。当然向こうでは厳しい戦いが繰り広げられているから絶対に油断はするな。それでは行くぞ!」
「「「おお!!!」」」
ブラハの言葉に多くの者が声を上げ、戦闘者と騎士団の援軍はルシトの町へと進軍を開始した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルートたち援軍がそのルシトの拠点に集まった戦力が戦うと聞いていた場所までたどり着いたときにはとっくの昔に指揮系統など崩壊しているのがすぐに見て取れるほどに混乱した状態であった。
元々ルシトの拠点の戦力は樹海から流れ出てくるそこそこの深さのある川を挟んでアーミー・エイプをおびき出し、そこに魔法や弓といった遠距離攻撃で一気に数を減らしてしまおうという流れを思い描いており、そこまでは狙い通りに進んでいた。
そしてその次の流れとして、一方的に攻撃されているということに気がついたアーミー・エイプが泳いで渡ってくるところを前衛が川岸で仕留め、それと同時にその死体を土嚢に見立てて積み上げ上陸しようとするアーミー・エイプの進行を阻止する防壁にしようと考えており、そしてそれは最初は上手くいっていた。
そしてその作戦はおそらく普通のアーミー・エイプの集団であったのならそこそこの成果を残せたであろうが、唯一の不運な誤算がその作戦を壊した。
樹海の中で十分に挑発を行った後にこのルシトに誘導してきたアーミー・エイプの集団の中に総指揮個体が混ざって指揮を執っていたというたった一つの誤算。
総指揮個体はあの挑発を受けた後、自分はその襲撃を加えてきた存在の中で一番魔力が少なかったルシトの方へと向かう存在を追う集団に混ざった、というのもこの個体は自分の力で群れを従え、そして全てを暴力で解決するという性格の威張り散らすタイプの個体のように振舞っているのだが、本性は臆病者であり、大きな魔力を持つものが向かう方へと向かうことをせず、一番小さい魔力であったルシトの方面へと混ざっていたというわけだ。
そこでその総指揮個体がどう影響したのかというと実に単純で実に不愉快極まりないもので、次々と飛んでくる矢や魔法に対して部下を投げつけて即席の盾として活用するといったもので、そしてその仲間を仲間とも思っていない総指揮個体の見せ掛けの虚勢がとった行動に動揺した戦闘者や騎士団員は体を固まらせ、その隙を突いた総指揮個体が部下を次々と対岸にいる者たちの下へと投げ込ませて暴れまわらせるという行動で、その方法自体はキラの拠点でも見た光景であったが、総指揮個体はそもそもそこまで自分が追い込まれているという場面でもないのにその手を迷うことなく選択した。
もちろんそれを黙ってみているだけではない戦闘者と騎士団はそれを空中で打ち落としたり、着地の態勢で硬直しているところにトドメを刺したりと何とか迎撃を図り一時は均衡が保たれていたのだが、それが川に落ちて底に溜まってゆくのを見た総指揮個体は近くにいる部下を殺してその死体を川に投げ込んでいった。
そしてどんどんと死体が川底を厚くしてゆき、水面に顔を見せ向こう岸と繋がった途端にニヤリと口角を上げて突撃命令を出した。
アーミー・エイプが投擲されてくるだけでも手が一杯だった戦闘者や騎士団の者たちに既に大勢で自分の仲間で作り上げられた異形の橋を渡って来るアーミー・エイプの対応など出来ずに戦況は一変、一気に魔物側の優勢が決まり、一方的に蹂躙されるというのが今ルートたち援軍の前に広がっている光景の背景であった。
そしてその様子を見て刹那さえ惜しいというように次々と威圧するように大きな声を上げながらそのアーミー・エイプの群れに向かって走ってゆき、そのまま攻撃を加えてゆく。
警戒していなかったところからの攻撃に少し驚きながらもその集団がやって来た方向へと総指揮個体は目を向けるが、見たところ小数であったところと奇襲のチャンスに声を出してしまったということがにそこまでの問題ではないと思ったのか、その集団から顔を背けて部下に向かって、「脅威に値せず、同じく倒せ。」という指示を出してその光景を満足げに見て頷いた。
そしてその援軍としてやって来た者たちの多くは、奇襲のチャンスにわざと場合によっては迷惑にしかならない声を上げながら向かうことで自分たちに注目を集め、そして少人数でそこいらに転がっている怪我人たちに回復をして回り、軽度の者には再び戦闘に参加させるという方法を取っていた。
もちろん重症者にはすぐに死なないだけの処置を施すと安全な所へと移動させていった。
そしてその少人数に配置されていた『万色の集い』のメンバーたちは、そこらに転がっていた怪我人をあらかた回収すると残りの回復をエリュのほかについて来たものに任せて、戦闘真っ只中という賑わいを見せている状況に介入することで懸念していた怪我人の回収が終わったということを証明するために、
「ぶっ飛べ!!」
「『火球』」
「『石槍』」
「『氷槍』」
マイン、リズ、ルート、エリュの派手な攻撃を行い、その行動がきっかけとなりそれぞれ自分に掛けていた激しく動き回って怪我人にトドメを刺さないようにしていた制限を解除すると、それまでの守勢だった戦い方から攻勢に出始め、ルシトの戦力とキラの戦力を連合と総指揮個体が率いるアーミー・エイプの集団の戦いが激化してゆく。




