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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
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45話 包囲


ブラハの『拡音スピーカー』で大きくなった声が戦場に響き渡り、その言葉にあった土魔法使いたちはそれぞれ自分の戦場にキリを付けるとパーティーメンバーに一言言い、彼らも自分に課せられた任務の重要性を理解しているようで魔法を使って遠距離から攻撃するために普段は使う頻度の少ない足を一生懸命に動かして所定の位置へと進んでいきながらあらかじめ決められたことを思い出して走っていた。


戦闘者と騎士団の人側とアーミー・エイプの集団の魔物側が戦い続けておそらく1時間ほど経過した頃だろうか、戦場はマインの参戦によって大きく流れが変わってアーミー・エイプの中でも人側が優勢になることを感じ取ったのか徐々にこの場から逃げ出したいと考える個体も増え始めた。

そしてその予兆はアーミー・エイプの積極性の減少に現れ、前までは積極的に攻撃を仕掛けてきたものの今では待ちの姿勢どころか少しずつ後ずさって距離を取っているという状況がその証明であった。


そしてその思考が次々と伝播しやがてアーミー・エイプ全体の思考へと変わって一斉に逃走となる前に退路を塞ぐための土魔法による壁の建設はというと、明らかに前もって決めていた魔法使いの数に一目見ただけでもわかるほどに少なく、全員集まっていないという可能性を考慮したうえでもなおこの戦場でどれほどの命が失われたのかということが見て取れた。


もちろんこの人数が足りなくなるということは大規模戦闘になるということで十分に理解していて、その不足分に対する対応策も最初から考えの内に入っており、その対応策の一つとして足りない部分をルートが補えるようにと現場に到着したものから順に並ばせるというものがある。

そしてそれに加えてこの土魔法を使うものたちは生きてこの壁建設に関らせるために最低でも"青"が一人は所属しているパーティーから選出しているものの、それでもなお後衛を担当しているはずの魔法使いがここに来ないということは前衛の被害は自ずと理解できる。


アーミー・エイプは戦いながら命令と自分の命を天秤に掛けていて、そしてついに限界を迎えた個体が完全に自分の命に振り切って戦場から一匹のアーミー・エイプが明らかに怯えた声を出して樹海へと走り出し、それを見た他の同じように限界に達しかけていた個体も天秤を振り切って同じように逃げ出す。

たった一匹の逃走がきっかけとなり、同じような感情でいたほかの個体の崩壊寸前のところで保っていた総指揮個体への恐怖に対して止めを刺し、その体を樹海の方へと向かせて足を必死に動かし始める。

その光景は天秤が揺らいでいたアーミー・エイプの逃走したいという欲求を爆発させてしまうのに十分で、その欲求の発露に対する忌避感をも壊し、その結果アーミー・エイプの大半がその戦場から逃げ出していく。


いち早くその場から逃げ出したいと疲労などを度外視してでも走っている個体にとって、樹海という自分たちアーミー・エイプが一番強いという事実がある絶対的な安全が保障されている場所に早く帰りたいという体の制御をほとんど本能に任せているアーミー・エイプにとって目の前に妙な並び方をしてその樹海への最短コースを塞いでる者たちの存在など認識の外側に置いていた。

そしてその体の制御のほとんどを本能に任せたアーミー・エイプであるが、ほんの微かに残っている理性がその目の前に並んでいる者たちは自分たちがこうして逃げ出そうと考える原因となった者の一員だということを必死に叫んでいるのだが、もちろん聞こえることもなくひたすらその樹海への最短コースをなぞって走る。


それを見て筋書き通りの行動を取っているアーミー・エイプを見て壁建設班の者たちはうまくいっていると喜ぶ気持ちも持ちながら、この状態で不測の事態が起こらないようにと祈る気持ちとで一杯一杯になりながらもはやる気持ちを抑えてなるべく引き付ける。

そしてついに樹海との距離が10mを切ったところでルートが右手を上げると、


「「「『岩壁ロックウォール』」」」


その言葉と同時に横幅が5mの高さが6mほどある壁が地面から生えるように突き出ると隣り合った壁同士が接合され六角形の上半分状の壁が出来上がる。


いきなり目の前に出現した壁に驚くという機能すら今は失われているアーミー・エイプは反射的にその足を止めようとするものの、それが出来るだけの距離的な余裕もなくスピードは落ちたがそのまま壁に顔から衝突する。

何とかその壁に衝突することなく足を止める事が出来たアーミー・エイプはその壁を登ろうと試みたり、すばやく周りを見てこの壁の途切れる場所に向かって走り出したりとさまざまな行動を取り始める。


だが、それを逃がすまいとその2500体ほどの集団を中心に据えたまま戦闘者集団が取り囲むようにしながら併走してゆき、その壁から逃れようと外側を目指して走り出した個体も逃げ出さないように移動して攻撃してその行く手を阻み、その様子を見れば六角形の残りの下半分を戦闘者集団が担当しているように見えただろう。

また群青騎士団の方はというと、まだ好戦的な意識を持ってその場に戦っている残り800体ほどの個体を相手にすることになり、すでに二桁に上る死者を含めた戦闘続行が不可能と思われる騎士もいたのだが、その程度の被害でこの王国の騎士団の中でも序列第二位である彼らの連携は崩れず、騎士たちもこの程度の数であれば群青騎士団だけで殲滅できると思いながら剣を振るっていた。


戦闘者はついにアーミー・エイプを六角形の中に包囲して閉じ込めるような形に持ち込み、アーミー・エイプが逃走本能に支配されている今を逃さずに一気に攻勢に出て数を削っていく。

数を削られている中で最初の方は完全に逃走することしか頭になかったアーミー・エイプたちは壁も戦闘者もただの障害物として捉え、それゆえに自衛もしないからこそ狩りやすくその数を大幅に削っていると、そのうち理性が戻ってきたのか現状が理解する。

明らかに逃走経路を読んで囲うように設置された壁とじりじりと包囲網を狭めてくる面々の姿を見て、アーミー・エイプは自分たちの行動が読まれていたと悟り、なんとか現状の打破を試みようと思考をめぐらせるが確実な方法など思い浮かばず、真っ当な方法での解決をあきらめた。


そしてアーミー・エイプはそれぞれ敵味方の区別なく無差別に殺気をこめた威圧感を放ち始め、自分たちの中で弱い個体をあぶりだす。

これまで一切放つことのなかったその敵味方関係ないむき出しの殺意というものに取り囲んでいた戦闘者たちは手負いの獣が手ごわいと知っており、ここは時間をかけてもいいから確実に仕留めるという認識を持って次の行動を待つ。


一方あぶりだされた弱い個体は強者の個体によってあっさりと捨て駒に使われることとなった。

というのも、


「な!あいつら仲間をこっちに向かって投げてきやがる!?」

「おい!こっちに向かってくるぞ!?守りを固めろ!抜かれるぞ!」


強い個体は弱い個体に囮役を押し付けて敵陣に投げ込むことで極限状態になって生き残るために必死に暴れまわることを狙い、さらにそれで注意をその投げ込まれた個体にはもちろん払わなければならなくなったところで包囲の内側から一点突破を狙う。


さすがの戦闘者もこの仲間を仲間とも思わない扱いをするアーミー・エイプに対しては驚きを隠せず、そのまま近くに落ちてきた個体を殺しておこうと思い、剣を振り上げたところで膝に拳を食らい思わずその場に蹲る。

するとちょうどその先に着地のために体勢を低くしたアーミー・エイプの手があって体が沈みこんだ瞬間に自分の喉がそれが少し触れると次の瞬間にとてつもない握力で握り締められて潰されて死んだ。

そしてそれを見たパーティーメンバーたちはその者の元へと名前を呼びながら駆け寄り、そして警戒を途切れさせてしまったのか、体勢を低くしていたアーミー・エイプがタックルを仕掛けて適当な一人を地面に押し倒すとその上に馬乗りになってその拳を顔面に叩き込もうとして腕を引くと、スパンという音とともにアーミー・エイプの首が宙に舞う。

それをしたのは近くに居た別のパーティーの剣を使う者で、「大丈夫か!」と声を掛けて顔面を魔物特有の青い血で汚しながらも自由に動く手を上げて答える。


アーミー・エイプの正気とは到底思えない方法で先ほどのパーティーメンバーの様に被害を受けたパーティーが多く、その動揺と援護のせいで浮き足立っている隙を突くように包囲の内側から突破を試みる相手に翻弄され、手が足りない状況で均衡状態とは言えず、なんとか突破を防いで時間稼ぎを行っていると、


「オラァ!!」


マインがアーミー・エイプの集団の側面にいつか見た強力な一撃を放つ。

その一撃で二桁単位のアーミー・エイプが死に、三桁単位のアーミー・エイプが宙に舞う。

そしてそのマインが空けた穴に『万色の集い』の前衛を担当しているレン、シン、ミツナ、タタラが突っ込んで次々とアーミー・エイプを拳で、槍で、大剣で、二本のハンマーで吹き荒ぶ嵐のように次々と命を絶っていく。

それを歌唱魔法で援護するピナにそれはもう楽しそうに魔法を放つリズとひたすらにアーミー・エイプの脳天に矢を射るルナに、先ほどまでよりも前衛よりな位置で戦っているルイとライが薙刀を振るい、積極的に攻撃を加えていくギルバートとイーサがいて、現れては攻撃を加え、そして消えていくシークがアーミー・エイプの動揺を誘う。


大立ち回りを演じている『万色の集い』を筆頭に、同じく"紫"ランクを要するパーティーが次々と数を減らしていき、『熊樫の森』のメンバーも奮闘して数を減らしていく。

その攻撃を受けながらもアーミー・エイプたちは包囲を食い破ろうと必死に目の前にいる者たちをなぎ倒していき、


「『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』」


その言葉とともに放たれた鉄球から作り出した大型のナイフに直線状にいる10体程度の頭部が吹き飛んで地に伏す。

貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』を放ったのはもちろん体の回りにナイフを浮かべたルートで、その包囲を食い破ろうとしていたアーミー・エイプたちの前に無感情に思える顔で立ちふさがった。


仲間の命を一瞬で奪い、目の前に現れた存在にアーミー・エイプは危険だと判断したものの他の場所から逃げようとしたところでこの存在が逃がしてくれるはずもないということを感じ取った。

それならばと弱い個体を次々とその存在に向かって投げつけ、それを相手しているうちに走り抜けようと頭の中で考えると、近くに居た弱い個体をどんどんと投げつけると、


「『氷盾アイスシールド』『氷槍アイスランス』」


宙に突然出現した氷の盾に遮られ一体もその存在に届くことはなく、勢いを失いその下に作られた氷の槍で一匹残らず貫き、役割が終わったというようにどちらも消えうせる。


それを見たアーミー・エイプは自分の目論見が外れたことで次の方法を探し始め、食い破られるのを必死に食い止めていた戦闘者はそれを行ったナイフを宙に浮かべている少年の隣に立っている少女の技量を悟り、「助かった。」と礼を言った。

エリュはその魔法を放って一時的にアーミー・エイプの進行を抑えると、


「『彼の者に救いの手を』」


自分の周りに光球を浮かべて杖を横一線に振るうと光球がふわふわと揺れながら怪我人に近づいてゆき患部に触れるとその傷口を光で覆い、そしてその光が消えると傷口がきれいさっぱりなくなる。


そして自分の仕事を終わらせたエリュは目線をアーミー・エイプに戻し、隣で魔力を練っているルートに合わせるように魔力を練り上げ、


「『岩雨ロックレイン』」

「『氷雨アイスレイン』」


二人の声と共に放たれた石と氷の礫が広範囲に広がりアーミー・エイプに襲い掛かり、次々と体に穴を空けて絶命したアーミー・エイプの骸を踏みつけながら二人はそれぞれの槍と杖を構えながら突っ込む。


そしてルートは攻撃範囲に入った戸惑っているアーミー・エイプに容赦なく槍を突き出して絶命させると、その体に刺さったまま手の中で滑らせるように持つ位置を穂先の付近に変えると力任せに引き抜き両手で持ち、そこを基点に槍を縦回転させて石突きを地面に叩きつけてその勢いのままに跳躍する。

そして空中に躍り出た地上からの視線を集めながらルートは着地点に『岩雨ロックレイン』を放ってスペースを確保して降り立ち、次の瞬間に全方位に向かって『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』を周りに鉄球から作ったナイフだけを残して全てを射出する。

そしてその直線状にいる個体を全て葬ると次の瞬間、後方に『岩壁ロックウォール』を展開する。


すると作り出した壁に大きな氷塊が衝突して間にいたアーミー・エイプをミンチに変えるが、氷塊が飛んできたことにも、アーミー・エイプが衝突してグラム幾らの肉になったことも気にせずに目の前にいるアーミー・エイプに槍を突き出してその命を奪うことを繰り返していった。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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