43話 戦場
シークの名演技もあってか呆気にとられて動けないアーミー・エイプに対して最初に攻撃を加えたのはやはり遠距離からの弓や魔法といったもので少数ながら仕留めた個体もいれば傷を負わせただけの個体もいるが少なくとも呆気にとられて動けないという状況から気がつけば囲まれていて驚いて動けないという具合に変化し、突撃する戦闘者や騎士団の面々が近距離で攻撃を加えるまでの余裕は十分にあり、そして自分の持つ武器の攻撃範囲に入ると挨拶代わりの一発というように続々と攻撃を加えて、もっとも挨拶にしては過剰な威力を出しているものもいるのだが、先手を反撃の一発も食らわずにとった人側は完全に勢い付き流れが完全に人側に傾いている。
そして二撃目を加えようとするとさすがにそこまで甘くは無いようで近距離で攻撃を食らい命の危険を身近に感じたアーミー・エイプは咄嗟に反撃、それが出来なさそうなものに関しては回避を選ぶ。
さすがに咄嗟の反撃程度は回避してもう一度攻撃を加えようとしたところでアーミー・エイプはすでに先ほどまでの間抜けさはどこへ行ったのやら、完全に戦闘態勢に入った姿は第二級特殊危険指定種に選ばれるだけあって見るからに攻撃し放題だった隙が消え、それを見た者たちは一度距離をとって隙を窺う。
そして畳み掛けるような戦闘者や騎士団の攻撃で完全にこちらに傾いていた流れを示す天秤はアーミー・エイプが戦闘態勢を整えたことによって少し傾きが甘くなり、それを再び完全に自分たちの有利に傾けるように相手の集団の中心に魔法を打ち込こむ。
「『火球』」
それを放ったのはリズでその背筋を伸ばし杖を片手に持って堂々とした様は普段は恥ずかしがり屋などと言われてもまったく説得力の無いほどのものであり、実際のところ彼女は魔法に関わることとなるとこのように普段の姿からは想像出来ないほど立派な立ち振る舞いとなり、そして自分が魔物に向けて放つとなると、
「アハハ、魔法っていいですよね!ほら!その身の全身で味わってくださいよ!『火球』!」
このように嗜虐的というか少し、・・・大分と残念な口調になってしまうという所があるどこと無く残念な人物なのだがそれでも優秀な魔法使いでこういった状況では先ほどのように大活躍する。
具体的には、先ほどから放っている『火球』ですでに十数匹を屠ってその倍以上に火傷などを負わせている。
そして高笑いを上げそうな調子で機嫌よく『火球』を打ち込んでいるリズのローブをクイックイッと引っ張って気が付いてもらうとしているのはピナで、そのことに気が付いたリズは申し訳なさそうな顔になるとピナに『拡音』をかける。
ピナは魔法がかかっていることを確認するように「あ。あ。あ。」と声を出して頷くと天使が持っているようなハープを構えて弾き始める。
彼女の小さい指が弦にやさしく触れてポロンポロンという余韻を残す軽い音を組み合わせてここが戦場だと忘れてしまうような優しい曲調で奏で、そして歌いだす。
ルートにとっては聞いたことのある、というよりも自分がピナに教えたセルファの歌で一度聞いたことのある歌であったが、前に歌っていた時とは受け取り方が違うというか耳から入った声が自分の中にあるものを刺激して活性化されるような感覚があり、気分が高揚し不安の一切が消えてなくなり、普段よりも戦いに集中できるという万能感ともいえるようなものが戦闘者や騎士団の面々は自分の中に芽吹いたことを自覚し、そしてアーミー・エイプは何も感じていないようであった。
これがピナの持つ特殊魔法、歌唱魔法で魔力の乗った声で歌うことで友好的な感情を持っているものに対して使えば気分を高揚させたり感覚が鋭くなったりとその他もろもろの効果を与えることが出来る魔法であり、また敵対的な感情を持っているものに対して使えば不安を増幅させたり感覚が鈍くなったりといった効果を与えることが出来る魔法である。
そしてそのピナの歌唱魔法の力だけではなくそれ以外の感情もあって気分が高揚してきたレンは手甲同士をガチンと叩き合わせると捕食者らしく好戦的な笑みを浮かべて長い犬歯をむき出しにしてアーミー・エイプを見ると少し怯え、それを好機と見たレンが一気に距離を詰め、慌てて突き出した迎撃のための拳を避けて自分の拳をアーミー・エイプの腹にめがけて振り抜くと、何かを砕いたような感触と潰したような感触が返ってきてその感触から相手を絶命させたことを悟る。
相手を倒したという事実でさらに気分が高揚したレンはすぐ近くにいた別のアーミー・エイプに殴りかかり、死角を狙って背後から寄ってきたアーミー・エイプに対して後ろ蹴りで対処する。
そして次々と敵の集団の中に切り込んでいくレンを見てシンはどうしようもないなというようにため息を一つ付くと、
「『水の従者』」
その言葉とともにシンの周りに不定形な水の塊が中に浮かび上がってレンの後を追うシンを取り囲むようにともに移動してゆき、シンに向かって襲い掛かってきたアーミー・エイプの拳を絡めとり動けなくなったアーミー・エイプの胸に向かってそれは見事な一閃で槍を突き出して心臓を貫き素早く抜き取ると少し目を離した隙にまた一段と遠くなっていたレンにまたため息を付くと再び追いかけていった。
それを見て、
「まったく。あいつらはまだまだ若いな」
「それはいいことじゃないか?」
アーミー・エイプを前にそんな暢気とも取れる会話をしていたのは敵の突破を防ぐために盾を使って前線を支えているギルバートとイーサで、適度な数の敵を抱えながら時折見せる隙をすかさずギルバートは盾を分解して殴りつけ、イーサはもう一方の剣で斬りつけてその命を絶っていく。
その二人は同じような圧を放っていてその正体は、
「にしても魔力の少ない俺にはコレはあまり多用できない技なんだよな」
「きれいな"身体強化"だな。ギルバート殿も使えたのか」
「まあな。というか俺はギルでいいぜ、イーサ」
「そうか。ならそう呼ばせてもらう、ギル」
戦闘中でも暢気な会話を続けているこの二人に対して対照的な二人はというと、
「アッハッハッ!おいおい、楽しいな!そう思わんか?ジジイ!」
「まったくじゃ!年甲斐も無く暴れたくなりよるわ!バ「それ以上言うか?」・・・まったくおっかない女じゃて」
「暴れたくなるもなにも十分に暴れているだろ!」
「それもそうかじゃの!ハッハッハッ!」
大剣と一対のハンマーで圧倒的な質量でアーミー・エイプを叩き潰すように豪快に殲滅しているのはミツナとタタラの酒飲み二人組で大きな声で笑いながら目の前に現れた敵を叩き潰すという非常に単純な戦いを繰り返していた。
どうにもこの二人はよほど馬が合うのか酒豪から豪快な戦い方まで非常に似ており、ある意味でアクの強い二人なのであるが組ませて見るとこれはもう二人仲良く真正面から突っ込み、そして傷だらけになりながら肩を組んで帰って来るとすぐに酒盛りを始めるという困った二人なのであるが、そしてさらに困ったことにこれでいて戦果は見事に挙げて帰ってくるから何も言えず尚更たちが悪い。
そしてこの二人以上に相性のいい二人は同じ武器を持って互いが違うアーミー・エイプを攻撃していたかと思えば次の瞬間に何の合図の無く一方のアーミー・エイプを先に処理して残ったほうの敵も処理するというまさに変幻自在の以心伝心な二人が前衛を抜けてきたアーミー・エイプを踊るように始末していく。
「やったね、ライ!」「やったね、ルイ!」
「「私たちってやっぱり最高だね!」」
「またお客さんだね、私右」「そうだね。私左」
「わりぃ!抜けた!」というギルバートの声に反応して向かってきたアーミー・エイプに対してこちらから駆けて行き、自分の目当てのアーミー・エイプに薙刀を振るって迎撃していく。
そんな二人の連携を見て恐れをなしたのか後ずさりながらこの場を去ろうとしているアーミー・エイプの脳天を一本の矢が貫通する。
そしてその矢が飛んできた先にはすでに次の矢を番えた弓を構えたルナがいて、ピュゥと放たれた矢は前衛を抜けようとしていたアーミー・エイプの脳天を貫き、次々と矢を番え一撃必殺の正確無比な一射を放っていく。
「ふう。さすがに数が多いですね」
そういうものの何一つ疲れた様子など見せずにまた放った一射でアーミー・エイプの脳天に貫通していき、そして面倒になったのか番える矢の本数を増やして射掛けるとどういうわけかそれもすべて脳天に直撃していく。
そしていつの間に復活した、いや参加していたのかシークも腰のナイフを両手に持って気配を自由自在に操ってアーミー・エイプを次々と屠っていく。
そして他のパーティーを見てみるとブラハは大規模魔法を準備していて、そして準備が終わったのか、
「『嵐』」
その言葉を切っ掛けに大群の中に恐らくキラの町からでも見えたほどの大きな風だけを擬似的に再現した嵐が発生してその範囲内にいた三桁単位のアーミー・エイプを吹き飛ばし、また巻き込んで舞い上げ自由落下に任せて地面の染みになるというものもいた。
馬鹿の集まった『熊樫の森』は危なげなく戦っており、余裕の立ち回りで派手に蹴散らすというようなものではないものの確実に仕留めていく見ていてハラハラしない戦いをしており、ここまで出来る腕を持っているのにあんな面倒な事態を呼び寄せようとしていたのかがまったくもって分からないほどのものであって、さらにどうしてあんなポンコツだった『熊樫の森』がどうして今では他のパーティーを颯爽と助ける側に回っているのかが分からないが、非常に不可解なことながらそれが現実らしい。
また群青騎士団はというと団長のショルツが自ら先頭に立って日々汗と血と涙を流した訓練の成果が見える連携と役割分担が秀逸で、その面に関しては『万色の集い』にも劣らないほどの錬度でアーミー・エイプを次々と屠っていく。
そして新たな援軍はというとさすが"紫"が三人に"藍"が十人もいることもあってかそれらのメンバーがいるところに関しては問題なく殲滅していており押されることも無さそうだった。
ただそれ以外のパーティーはなかなか苦戦しているようで自分のパーティーメンバーと同数のアーミー・エイプを抱えるというのも出来ているパーティーと出来ていないパーティーが大体6:4ほどの割合で居てかろうじて出来ているパーティーの方が多いということに喜んだほうがいいのか迷ってしまうほどであった。
ルートはある程度のスペースが空くまで無尽蔵な魔力に任せて土魔法を使って遠距離から攻撃を加えながら戦場の様子を眺めていた。
というのも、
「ルート、俺の準備が整うまで『万色の集い』の連中を頼む。こいつがご機嫌になるには少し時間が必要なんだ」
そのマインの言葉を聞いて臨時メンバーとしてはマインという旗印がきちんと機能しなければ『万色の集い』だけでなくこの戦場自体に影響を与えてしまうということを薄々感じ取っていたルートは自分の発揮できる状況になるまでにはまだ少し時間がかかるから丁度いいとも思って大人しくしていた。
そして自分はチマチマと遠方から土魔法を打ち込んでいたのだがなぜか、
「ところでどうしてここにいるのかな、エリュ?」
ルートの隣にはエリュが自分と同じように攻撃のために魔法を使っていたり、防御のために魔法を使っていたりと回復のために魔法を使っていたのだがすべてルートの隣から遠方に向かって魔法を飛ばしており離れる気配が無かった。
時間がたてばいつか離れていくだろうと思って今の今まで黙っていたルートもさすがに気になってしまってそう尋ねるとエリュがニッコリと笑顔を作ってルートのほうを見ると、
「私の、あなたの状態を確認するため」
よく見ると空虚な目でそういうエリュの言葉に昨日の夜の言葉かと思い至ると、確かにそういう理由なら自分の周りに居るということに納得も出来るということで、それでもなお言いたい事もあるがやめておくことにした。
そして、
「ハハッ、待たせたな。一足遅れてようやく俺も祭りに参加できるということだ」
その声とともにルートとエリュの後ろからマインが進み出てそう言う。
そしてルートもそろそろ自分が戦いやすいスペースが出来てきたことを確認すると自分も行く準備をということで腰袋からすべてのナイフと前もって鉄球を変形させておいたナイフを地面にばら撒く。
そしてルートが最前線に出ることを悟ったのかエリュは魔法の準備をすると、
「『一騎当千』」
「『磁力の手』」
「『活性化』」
ついにこの三人が戦場に出ることになった。
一応全員の活躍シーンをどうぞ。




