40話 作戦
ルートとエリュは近くにいた戦闘者のパーティーだと思われる集団に混ざって食事をしながら気になることや作戦を練り、食事を終え自分達なりの作戦がまとまったところでブラハがそれぞれ食事も終わり討論の時間に完全に移行している様子を見てそろそろ話を進めようと、
「そこまでにしよう。それでは全体での話の時間といこうじゃないか」
その言葉にどこからも文句が出ないようなのでブラハは安心して話を先に進めることにして、まず始めに樹海に実際に赴いて戦闘者の強襲部隊が気になったところを挙手制で聞き、その情報を自分のパーティーメンバーに指示してまとめさせながら話がどんどんと進んで行き、そして一通り出たところで作戦についての話に移り、先に群青騎士団の参謀が平原まで出てきたアーミー・エイプの対応策について説明を始めた。
参謀が説明する騎士団の考えた策は非常に簡単なものでキラの樹海が上部にあるとしたときに丁度「V」の字になるようないわゆる鶴翼の陣で出てきたアーミー・エイプを中央に誘い込み、アーミー・エイプの全員が見事に飛び込んできたところで「○」のような形になるように移動、そして逃げ道をなくしたところで魔法などを中央にどんどん放ち、一匹残らず殲滅しようというものであった。
その作戦を聞いたところでルートとエリュは周りに聞こえないように小さな声で、
「エリュはどう思う?」
「作戦自体は悪くは無いけどうまくいくかは戦力次第かな。どう考えても包囲するっていうのにはいくら援軍の予定があるとは言っても頭数が足りないし、それを補えるだけの戦力が集まってくるかというと難しいところじゃない?」
「僕もそう思う。それにアーミー・エイプが大量に集まったら組織だった動きをするっていうこと忘れてないかな?相手の指揮次第じゃそもそも陣の中に飛び込んでこない可能性だってあるからね」
そんな二人の懸念を他所にブラハは次々とそれぞれが立てた作戦について聞いていき、その中にはルートたちが考えたやマインたち『万色の集い』が考えた作戦もあった。
そして一通り聞き終わったところで、
「一応これで全部出揃ったみたいだ。これからどの作戦を決行するか決めていくとして順番にその作戦の穴などを考察していこうか」
そういって一つ一つの作戦についてじっくりと議論を深めていく。
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一つ一つの作戦を吟味して最終的には群青騎士団の作戦に決定したのだが幾つか作戦に加えられたものがあった。
そしてその加えられたもののうち一番肝となるものが、土魔法を使って退路を防ぐというものであった。
その作戦の理想な流れは、まずアーミー・エイプを8000体ほど誘い出し、樹海の外の平原へと誘導、その際に罠を仕掛けておいてある程度の数を減らしておき、キラの町の戦力となる面々は鶴翼の陣、両翼には特別な役割のない戦闘者を配置してその根元には群青騎士団を置く形で出てきたアーミー・エイプの大群と対峙する。
ここでアーミー・エイプが積極的にその陣の中に入ってきてくれるならそのまま数を減らし、そして素直に入ってこないときには後ろから追い立てるように襲撃して追い込んでから集中攻撃をして、残った大群が「V」の字の上部から樹海に逃げようとするところで土魔法を六角形の上部分の形に壁を作って退路を塞ぎ、そこで混乱しているところで全軍突撃、一気に殲滅というのが基本の流れとなっている。
この作戦通りにアーミー・エイプを綺麗に嵌めるためには、まず陣の中に入ってこないときには逃げ出さないようにうまく誘導する必要があるということ、そして次にアーミー・エイプ達が逃げ出そうと思うほどにダメージを与え、そしてそれまでに陣を突破されないように持ちこたえるということ、そして最後の肝心な土魔法の形成は全員で発動のタイミングを合わせて穴となる部分が出来ないように、そして一気に壁を作り上げなければならない。
そのあたりに注意を払わなければならないがそれでも十分に勝算が見込めるということでこの作戦を決行することとなり、引き続き作戦下における役割分担が始まりそこまで揉めることなくすんなりと決定した。
今回の作戦でルートが果たすべき役割は簡単で、『万色の集い』の臨時メンバーとして基本的に共に行動し、もしアーミー・エイプが陣の中に入ってこなかった場合はブラハのパーティーと連携を取って追い込む役割を請負い、そして土魔法使いとして最後の壁の作成時のリーダーに指名され土魔法で壁を構築するときに音頭を取らなければならないというものであったが、特にその役割に文句も無く自分が散々土魔法を使ってきた結果だと思ってルートはすんなりと受け入れた。
そして『万色の集い』の臨時メンバーとしてのルートは戦闘時には基本的に『万色の集い』と共に行動するのだが、マインは前に決めてあった通りの配置で良いと言い放ち、唯一の変更点としてルートには遊撃が遊撃に回るということで決着が付くと先ほどの食事では量が足りなかったのかルナに食料を出してもらって食べていた。
ルートはそんなこんなでさっさとパーティー内での役割を把握すると、実際に作戦の成功と失敗に分水嶺となるであろう土魔法を使うものたちを召集して、誰がどれだけどの場所に壁を作るのか、そしてその壁をいつ発動するのかというようなことを決めていくが、実際にこの場にいる者たちだけでは壁を作り上げることができないということで今日中に来る予定の援軍の中から土魔法使いを募ることにして、それでも補えない場所は自分が担当するということで明日の作戦決行前にもう一度自分の役割を確認する場を設けることを宣言して土魔法使いとしてのルートの仕事も終わった。
そしてどのパーティーも、どの役割を持った者たちもそれぞれの会議も終わり、後はこの作戦を実際に決行してアーミー・エイプを殲滅するんだと大広間にいる多くの人からいかにも気合が入っていますと考えていることが見て分かるほどの雰囲気が漏れ出しており、一種の興奮状態になっていることが見て取れた。
室温が1,2度ほどあがったのではないかと思うほどの興奮することによって漏れ出た熱気が大広間に充満し、ルートは少し暑苦しいと感じて手を団扇代わりにしてパタパタと顔に向かって扇いでいると、二階で情報整理をしていたセアラが降りてきておなじみの手をパンパンと打ち鳴らして自分に注目を集めると、
「つい先ほどギルドから連絡が入りました。追加の援軍が南門にそろそろ転移してくるようなので私と一緒に戦闘者代表としてブラハさんには付いて来てもらいます。それと群青騎士団からも誰か着ていただけませんか?」
「それでは私が団長の代理に参りましょう」
「ありがとうございます。それでは早速参りましょう。他の皆さんは模擬戦などはせずに大人しく待っていて下さいね?」
セアラはルートを見ながら笑ってそう言うと大広間にいる人たちも笑い、そしてブラハと騎士団の参謀の人と共に拠点を出て行った。
セアラたちが出て行った後も少しの間その笑いが続いて、多くの人からの視線を集めたルートはばつの悪そうな顔をしていた。
新たな援軍が来るまではそれぞれパーティーメンバーと話をしたりして時間を潰していたが、ルートが場所を移動するたびにその会話をやめ目を向けるという状況にルートは居心地が悪くなりながらもそもそもこんな扱いになった原因のギルバートを見るとサッと顔を逸らして口元を隠すように手を当てると肩を震わせたためルートがギルバートに突撃するという一幕もあり、セアラ達が追加の援軍を後ろに連れて拠点まで帰ってきた時にはルートがギルバートの背中に取り付きその頭を両手で持ってグワングワンと揺らしていて、模擬戦さえしていなかったものの結局騒ぎを起こしている様子を見てセアラはため息をついた。
ルートはセアラが帰ってきたことに気が付くとギルバートの頭から両手を離して背中からはがれるように離れると何事も無かったかのようにすまし顔を顔に貼り付けるのを見て、今更そんな顔をしても無かったことにはならないぞと内心でツッコミを入れたものの話が進まなくなりそうだと思って誰も声に出すことはなかった。
セアラも先ほどの状況を華麗にスルーして援軍に対して幾つか拠点についての説明や追加の援軍集団に五階を使うように説明すると後はブラハに任せると言い一礼をすると二階へと上がっていった。
そして後を任されたブラハは先ほど決定した作戦を中心に幾つかの説明や重要な情報の共有などを済ませるとお互いに実力者が自己紹介をし始め、なにかあったらこいつらを頼れとブラハが言うと一斉に全員が頷く。
そして一通りの説明を行い互いに情報を共有するとブラハの質問があるかという言葉にルートは手を上げて一歩前に出ると、
「さっきもブラハさんが説明していた作戦の中にも出てきたけど土魔法が使える者には逃走を防ぐ壁を作る必要があるけどまだ人手が足りてない。だから土魔法が使える人を集めているので使える人は僕、ルートのところまで来てください。以上だよ」
そう言って土魔法が使える者を募集する旨を伝えると一歩下がったが、新たな援軍は見るからに不健康そうな頬のこけ具合や全身が黒い服を着ているところなどを見て不気味に思ったり、はたまたルートの小柄なところを見て侮ったりと様々であったが、ルートはそれらの感情を込めた目を向けられても何一つ動じることなく何処吹く風とばかりに気にすることは無かった。
その様子を見たマインは内心で、
(確かにルートは見た目じゃ判断できないところがあるが、ルートが今出している小さな殺気に気が付かないところを見るにそんな目を向けている奴はそこまで腕利きというわけでは無さそうだな。そして気が付いている奴はそこそこ警戒を滲ませているな。まあルートも絶妙な殺気を出しているな。大体"青"と"藍"の間というところだな、基準は)
と思っており、それはルートの実力を知って、なおかつルートの殺気に気が付いたものたちの共通認識でもあった。
そんな共通認識を持っているうちの一人であるブラハはルートが侮られているあまりに土魔法が使えるものの指示に従うことが無さそうな面々を見て、戦闘者代表として協力するようにと釘を刺したもののルートの殺気に気が付かない時点であまり期待出来なさそうだななどと思っていた。
新たな援軍連中は荷物を置くために一旦五階に移動し、そして彼らが降りてきたときにはすでに夕食時になっており炊事兵による食事を大広間で味わい、それぞれ交友を深める。
そして食事の時間が終わり談笑の時間に入ると、元々有名なクラン『万色の集い』のリーダーで"豪腕"のマインに多くの人が集まって武勇伝を聞いていた。
そんな時間もブラハの明日に備えて就寝しろという宣言によって程なくして終わり、それぞれ自分の部屋に戻り始める。
なんとなく最後まで残っていたルートも他の人と同じように自分も部屋に戻ろうとしたところで、
「ルート」
と自分の部屋の扉の前に立っているエリュが声を掛けてきた。
この二人が最後のようで周りには誰もおらず二人だけの時間が流れる。
そしてその赤い緋色の目から感情の色が消えルートを見て、
「私達は果たして生きている?」
と冷たい声で言うとルートも同じく感情の色が消えた蒼い目で、
「それが明日分かる」
とだけ言うと自分の部屋に戻る。
そして丁度扉を空けようとした瞬間に、
「おやすみなさい、ルート」
先ほどの冷たい声とは違って温かみのある声に反応してルートが首だけ後ろに向けると、エリュがこれまでに見たことの無いほどその綺麗な顔を朗らかな笑みの形にしていた。
ルートはその笑顔を見てまだどこか曇りがあるもののそれでも現状精一杯の心からの笑みだと気がつくと、
「おやすみ、エリュ」
ルートも今出来る限りの最大の朗らかな笑みをエリュに向けた。
その様子にどちらも小さな笑い声を漏らすとお互いに扉を開けて中に入っていった。




