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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
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39話 似たもの同士


路地裏の影と『影部屋シャドウルーム』を繋いだ入り口からいつの間にか入って来ていたエリュを見るとルートは腰袋から白い槍を素早く引き抜くと、その穂先を彼女に向けたルートは彼女が知っているルートでは無く一切の表情というものが抜け落ちた表情で、


「どうしてここに?」


妙に平坦な声で言う彼に驚きながらもエリュは冷静にその空っぽな目を見返して、


「ルートの様子が変だったから気になって」

「つけてきたと?」

「うん」


空虚な目でエリュの些細な動作も見逃さないといわんばかりに見ていたルートはその言葉に嘘が無いという事を彼女の動作から読み取って理解すると彼女に対する警戒を一段階下げる。

ところが、


「ルート、これって闇魔法だよね?」


その言葉にルートは警戒を最大限まで引き上げると一瞬で近づき喉元に穂先を触れさせる。

普通の人なら気絶してしまうような状況ではあるがエリュはよほどの胆力でも持っているのか動揺の一切も無くただルートの目だけを見ている。

そのエリュの視線はどこか居心地の悪く目を逸らしたくなる気持ちもあったが、それを押し殺してただただ非情になるように自己催眠を掛けながら、


「・・・だったら?」


明言を避けながらも相手の対応を見ようとルートは短いながら肝心な言葉をエリュに投げかける。

そしてその投げられた言葉に対してエリュは、


「え?別に何も?」


逆に不思議そうな顔をしてあっけらかんと言葉を投げ返すエリュにルートは呆気に取られ、そして探るような目で彼女を窺うとそれに気が付いた彼女は、


「私だって闇魔法を使えるということがどんな目で見られるかは知ってるよ。だけどねルート。私はもうそんなことには一切興味が無い。魔法の種類も種族の違いも神の存在も正直どうだっていい。」


その言葉を紡いでいくに合わせてエリュの目がどんどんと空っぽになり続け顔からも彼女の柔らかな表情も消え去り、そしてついにはルートが同じような存在が他にもいたと安心してしまうほどの目がルートの空虚な目と合う。

そしてその似たような目同士の視線が交差したところでエリュが再び口を開いて、


「これが私よ、ルート。そしてあなたも私と同じ」


そして言葉でルートは自分が槍を向けているのにも関わらず冷静で動揺すらしていない理由に気が付いた。

これは決して彼女の胆力がどうというわけでは無く、自分の命に対して何の思いも持っていないからこそ動揺も無いのだということに気が付いたからで、そしてその思いというのは確かに自分にも存在していると知っているからこそ彼女が何もすることが無いということを理解したルートは槍を彼女の喉元から離して腰袋にしまう。

それを見てエリュは少し戻ってきた感情を覗かせ、不思議そうに彼を見て、


「それでいいの?」

「ああ、いや、うん。なんとなく十分に分かったからね」

「そう、いや、うん。そっか、それで私を追い出す?」

「分かってるくせにそんなこと言って!解除っと」

「フフッ。まあね?」


ルートとエリュは会話を続けていくごとに色の抜け落ちた絵に再び色をつけていくように感情が戻ってくるといつかの夜の会話のようにお互いに軽口が叩き合う。


彼女が『影部屋シャドウルーム』に入ってきたところからここまでをもし二人を知る第三者が見ていたとすれば、まずルートのスイッチが切り替わるように身に纏う空気が変わり一切の躊躇無く槍を突きつけたことに驚き、そしてエリュの動揺の無さと表情の抜け落ちるさまにまた驚き、そしてその二人が少し会話をしただけでいつもと変わらない様子に戻っていくことに対して得体の知れない恐怖を感じ、そして二人が人として壊れているということに気が付いたことだろう。

それでも彼と彼女にとっては大してなにか思うことも無く、ただお互いにそうである人だという程度の印象しか持つことの出来ないものであった。


「でもまさかエリュも似たもの同士だったなんてね。全然分からなかったよ」

「それはお互い様よ」

「そうだね。まあ何もないところ・・・とは言わないけど適当に寛いでて良いよ。他に何か用事でもあるなら外と繋ぐけど?」

「何も無いから大丈夫よ。ルートはこれから何するの?」

「僕は"身体強化"の練習だよ。イーサさんに良いことを聞いたからね」

「へえ。けど別にそれを覚えなくてもその魔力があれば十分じゃない?」

「使える手はいくつあっても損はないからね」

「確かにそうね」

「エリュはどうする?さすがにこの空間じゃ暇だと思うけど」

「・・・あのさ?ここって魔力を解放してもいい?」

「この空間は僕の全魔力を使って強度を重視したものだから大丈夫。ああ、そういうことね」

「あ、ルートも分かる?」

「エリュも僕が闇魔法を使えるっていったから分かってたでしょう?」

「いや、ルートの魔力の色基本的に黄色だから。じゃあやるよ」


その言葉の後、エリュを中心に魔力が爆発的に吹き出し始める。

その魔力は一切の色が混ざることなく、この世に存在する何よりも純粋で圧倒的なまでに澄み切った白で、その白が『影部屋シャドウルーム』内を満たしきる。


「ん~、爽快!この町に来てからアーミー・エイプを刺激するかもしれないから魔力を解放できなくて辛かったよ。あ~、爽快爽快」

「これが噂の"祝福"ってやつ?」

「私にとっては呪いだけどね。年がら年中一日たりとも欠かさずに休むことなく行住坐臥、食べるときも誰かと話しているときも、町にいても山にいても森にいてもどこにいても、どんな心情だろうと構わず"祝福"が働き続け空気中から魔力を集めて私の体に供給し続ける。まったくやってられないわ!」

「溜まってるなあ。まあ僕も似たようなものだけどね」

「そうよそれよ!どうしてルートは馬鹿げた魔力を持っているのに私みたいに持て余したりしてないの!理不尽よ!」

「まあまあ落ち着いて落ち着いて」

「落ち着いてられないわ!教えなさい!私にその方法を教えなさい!」

「はあ。まあ僕のは正真正銘の"呪い"だからね。魔力を溜めておく器ごと拡張し続けているから限界は無いって訳だよ」

「なにそれ!私は日々どうにか魔力を消費しているのに苦労しているのに!」


宥めるルートに騒ぐエリュ、所々で自分の特異性を告白しているのだがお互いにそんなことはどうでも良く、自分と相手の本質はまるで鏡写しのようだと心の深いところで感じているからこそ周囲に隠していることも簡単に話せているのだろう。


砂時計の砂がすべて落ちきったことにも気が付かずに二人はお互いの特異性も気にせず話をした。

ただその話の中身について言えることはある一点、二人の互いの空虚な目の理由については何も語らず、語らせず、それに関わることには一切触れることは無かったということだけだ。

それがどちらにとっても触れられたくないからこそなのか、それともまだ時期尚早と考えた結果であるのかは二人以外に知るものはいない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


"身体強化"を練習しないままエリュと話をし続けていたルートはふと思い出して砂時計を見てみると当然砂は落ちきっており、ひっくり返そうと思って手に持ったところで、


「エリュ?僕達ってどれくらい話してた?」

「ん?よく分からないけど、多分二時間は話してるよ」


スッとルートの背筋に冷たいものが走り少し固まると強張った笑みを浮かべてルートはエリュを見ると、その話の流れから察したのか同じように強張った笑みを浮かべてルートを見返す。

そしてエリュが魔力の解放を収めると同時にルートは外の影と『影部屋シャドウルーム』を繋げて一気に飛び出し、続けてエリュも飛び出す。

そして時間も惜しいというようにルートは走りながら『影部屋シャドウルーム』と影の繋がりを断ち切り拠点に向かってエリュと共に走り出す。


走っている途中で鐘が鳴るもののいつの時間の鐘かも分からずに、ただいずれにしても今この瞬間にも時間は刻一刻と流れているというだけは嫌でも理解できた。

そしてさほど距離があるわけでも無かった拠点に着くと二人揃って一つ深呼吸をすると顔を見合わせて中へと入っていく。


そこには大勢の人が集まっておりすでに多くの人の前には食事が並んでいて早いものはもう食べ始めているところであり、当然のことながら全員揃っているという前提でいる大広場にいる者たちにとって当然のことながらその中に勢いよく入ってきた二人は注目が集め、話をしていた者たちは静かに話を止めてその二人をみる。


ルートとエリュはその大広間の様子を見て、これはやってしまったと思いながらも意を決して、


「「遅れてしまいましたか?」」


合わせるつもりも無かったものの自然と声が重なり静かな大広間にその声が響き、誰が答えるのかとボソボソと話し合い、少しざわめき始めたところで、


「少しな。お前達情報は見たか?」


そういうブラハの声が聞こえ、ルートとエリュは目を合わせて会話したところで、


「「まだ見てません」」


とまた声が揃い、そのせいかあちらこちらからクックックッとかみ殺すような笑い声が聞こえてくる。

ブラハはフードの中に隠れた顔からため息を吐くと、


「急いで見て来い。その代わりしっかり働いてもらう。仲良しお二人さん」


少しからかうような口調でそういうブラハの声にしたがってそそくさと二階へと二人をからかうような声を無視しながら上がっていった。

そして階段を上がったところでお互いに顔を見合わせるとどちらも少し顔が赤く、その赤は注目を集めたことによってのものなのかそれとも恥ずかしさの赤なのかは定かではないが、なんとなく顔を背けると、


「私は右から」

「僕は左からね」


その言葉だけでお互いの言いたい事がわかったようですぐに二手に分かれてホワイトボードのようなものに書かれている文字を読んで頭の中で整理していく。

そしてどちらも同じホワイトボードのようなものの前に来てその内容を理解するとすぐに下りの階段に向かって歩きながら、


「私達以外の4つの拠点が打ち出した方針はアレンジが加えられているもののどれも土台は同じで森からおびき出して平原で殲滅。そしてそのおびき出す担当のもの同士で連携を取りたいらしい。そっちは?」

「ここにくる援軍は"紫"が新たに三人とそのパーティーが目立ってた。"藍"は10人くらい。クランが2でそれぞれ"紫"と"藍"をマスターに30と20。僕達が抱えるのは理想は大体8000、他の拠点には"黒"が二人でそこも8000。残りは2つで等分。その等分のところが僕達の両隣」

「援軍要請の可能性も?」

「あると考えた方が良いかも。そこの戦力は正直心もとなさそう」


簡単にそれぞれが見た内容を要約して相手に伝えながら階段を降りていくと、二人を待っていたのか下にいた集団の視線が一気に集まり少し驚いたものの特に気圧されることなく最後の段を降りるとブラハが、


「情報は確認したな?なら適当に残ってるものでも取ってさっさと座れ」


と話しかけてくるので、バイキング形式で置かれた食事を急いで器に盛って適当な場所に腰を下ろす。

それを確認したブラハは二人に向けていた目を全員を見渡すように目を向けていくと、


「食事をしながらでいい。近くの奴らと気が付いたことや自分の考えた作戦などを話し合え。食事が終わったらいろいろと決めていこう。それでは食事を楽しもう」


それだけ言うとブラハは自分の手元にあった黒いパンに力を込めて千切ってスープに浸して口に運んだ。

そしてまだ食事に口をつけていなかったものはそれを見て食べて良いんだと解釈すると一斉に食事を始めた。


ルートとエリュも自分で選んだ品を食べ始めると、そこで近くにいた見たことはあるが話したことはない戦闘者に声を掛けられてパーティーメンバーなのか7人で構成されたグループに入れてもらい一緒に話をすることになり、そのうちの誰かが考えた作戦について存在していた作戦の穴を埋め、時には大幅に変更したりと様々な考察を重ねるという事を違う作戦についても行っていく。


そうした議論の末に導き出したのがマインが打ち出した方針と同じで樹海の中で罠を仕掛けて数を減らし、そしてそれらを抜けてきたアーミー・エイプに対してパーティー単位で前衛と後衛、そして遊撃を決めることによって大きな一つのパーティーとして動くことが良いのではないかという結論に至った。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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